怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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113話

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腐れたちと別行動を始めて帝城の中を歩いているが、シアンが一層ピリついている。大方、俺が引き抜かれていたという話に対してのことだろう。1歩違えば皇国が無くなっていたと思えばその気持ちも分からなくもないが、余裕がなさ過ぎる。

ただでさえガルドスが面倒くせぇのにこれ以上、面倒事を起こすなよ…まぁ、無理か。面倒事が小さく済みますように…

「ガルドス様、お客人をお連れしました」

先導していた兵士が扉の前でそう言うと内側から扉が開く。部屋の中は以前来た時にも増して金色に輝いている。

「おぉ~、ゼギウスではないか。久しいな、此度は何用だ?」

玉座から立ち上がり俺の方へ歩いてくる。相変わらずガルドスは下品なくらいに金銀輝く鎧に装飾を身に着けていて最早、顔以外に肌色が見えないくらいだ。

しかし、ただの金銀に目が眩んだ盲目爺という訳ではない。金銀財宝の奥には鍛え抜かれた肉体がある。何度か見たがその傷は数々の戦場を股にかけた歴戦の猛者を彷彿とさせていた。

「ガルドス、どういうつもりさ!」

近寄るガルドスを跳ね除けるようにシアンが大声を上げる。その声と同時に控えている兵士が一斉にシアンを拘束しようと動くが、ガルドスが手で制止した。

相変わらずの徹底された動きだ。軍隊だけで見れば帝国は数も質も頭1つ抜け出ている。

「ミレーネから一報は受け取っておるぞ。よく、余の前に姿を現せたな」

鋭い眼光でガルドスはシアンを睨む。まぁ、間違いなく俺が居なかったら処刑されていただろうな。だが、シアンも怯まない。

「今そんな話はしてない!ゼギウスを引き抜いて立ってどういうことさ!」

「ゼギウスが話したのか。それに何の問題がある。ここは帝国で余は帝王だ」

相変わらずとんだ暴論だ。そう言ったかと思えばガルドスはシアンを拘束しに来た兵士の腰から剣を抜き、シアンの首に当てる。シアンもそれに呼応するように腰から短剣を抜いた。

一触即発の空気。流石にガルドスもシアンもそこまで馬鹿なことはしないだろうが、話が進まなくなる。はぁ…面倒くせぇな。

「両方収めろ。シアン、今はその話をしに来た訳じゃねぇ、私用は後にしろ。ガルドスも収めろ」

「私用っ!?」

シアンは俺の言葉に納得できないように食いつく。だが、俺の言葉に納得できないのはシアンだけでなく兵士も同じようで今度は俺を拘束しようとする。それをガルドスは手で制止して抜いた剣を兵士の腰に戻すと玉座に戻った。それを見るとようやくシアンも短剣を腰に収める。

「ゼギウスに免じてひとまず許してやろう。それで、ゼギウスが来るとは何用だ?余の誘いを受ける気になったのか?」

「んな訳ねぇだろ。この前、旧王国領と皇国に柱の軍勢の進攻があったのは知ってるな?」

「あぁ、斥候部隊より報告は受けている。どちらも被害は軽微だったと聞いているが、その様子だと何かあったようだな」

ガルドスの顔つきが変わる。ここからが厄介だな。

「その時にグラとマルスが殉職した。それで《嫉妬》を俺が引き継ぎ、《暴食》は一時シアン預かり、メビスはその地位に相応しくないから更迭した」

「ほぉ、それは初耳だな。被害を抑えた代償と言ったところか。して、その損失の責は誰が取るのだ?確か、ゼギウスはその進攻時、七英雄ではなかったと記憶しているが?」

まぁ、この話にはなるよな。ミレーネはシアンに対して友好的だし帝国から皇国に戻ったこともあり責任を問いたくはなかっただろうが帝国は違う。

シアンは帝国から皇国に戻りメナも皇国所属だ。カイゼルやエスト、更迭されたメビスは新人ということもあり責任は問われない。皇国所属の七英雄の責任は皇国自体の責任にもなる。

だから帝国は責任の追及はするだけ得だ。これは場合によっては開戦の理由にもなり得る。

「どこまで自分勝手なのさ!」

こりゃシアンを連れて来たのは間違いだったな。帝国憎しで全てを混同している。

「自分勝手?何を言っておるのだ。帝国が帝国を守るのは当然のこと、各国の勢力均衡を保つために七英雄所属規定がある。その規定には魔物との戦闘時は国に関係なく七英雄は協力するが、場所によって主導、責任を負う者は変わるとある」

七英雄所属規定、また面倒なものを持ち出したな。シアンがキレてるのもその七英雄所属規定に関してだ。それを分かっていてガルドスは煽っている。

「今回の場合、戦闘場所は旧王国領と皇国、その場所で帝国所属の七英雄を失うことの意味を説いているのだ。直近での所属変更に称号の移動、そして帝国所属の七英雄の死、これは皇国からの宣戦布告と受け取ってもよいのだな?」

ガルドスの言っていることは当然と言えば当然だ。内情や七英雄同士の内決めがどうあれ表にはそう記載されているし、帝国からはそう受け取ることもできる。

「アンタはそうやって戦争したいだけだろ!先に規定を破ったのはそっちだ!」

もうシアンには冷静さの欠片も残っていないようで声を荒げる。先に破ったかどうかは問題でもなければその規定が破られた証拠はない。

だが、ガルドスの言葉は確かな被害の上で言っている。ガルドスがどういう人物であろうと、今、正論を言っているのはガルドスだ。

「シアン、冷静になれねぇなら黙ってろ」

「なっ、アタイは___」

「冷静に状況分析もできねぇから言ってるんだよ。頭冷やせ、アホ」

ここまで言うとようやくシアンは黙った。だが、まだ頭は冷静になっていないようだ。鬼のような形相で俺とガルドスを睨んでいる。それでも口を挟んでこなければいい。

「悪い、アホのせいで話が逸れたな」

「構わぬ。だが、責任は取ってもらうぞ。この件は軽くない」

これは相当怒ってるな。まぁ、それもそうか。ユーキにラクルの死、シアンの転属、そしてマルスの死、因縁を吹っ掛ける気がなくても疑いたくなることの連続だ。

庭が絡んでいることを考えれば被害は少ない方とも言えるが、マルスは庭のことを話していないだろう。そうなると対柱だけでこの被害、それだけでも不審なのにグラ以外は帝国所属の七英雄…これはある程度、要求を受け入れる必要があるな。

「要求は?」

「3年間、シアン、エスト、カイゼル、3名の皇国立ち入り禁止及びゼギウスの帝国所属の2つだ」

怠っ、帝国所属とかしたくねぇ。絶対クソ面倒な仕事が回ってくる。

だが、要求としては妥当だ。何なら控えめと言ってもいい。本来ならメナの立ち入りも禁止されて然るべきだが、連絡係ということを汲んでいる。

それだけにこの要求は蹴りにくい。もし蹴れば帝国と皇国間での開戦は免れないだろう。そうなれば庭と戦っている間に人類が滅びました、なんてことすらあり得る。庭が柱を始末しても魔物が消える訳ではない。寧ろ統率者を失った魔物たちは反人間感情で人間界に押し寄せる。

てっきり旧王国領の管理地域拡大や、皇国の軍縮、七英雄所属規定の破棄、辺りを要求してくると思っていた。あとは次の《暴食》と《憤怒》の決定権とかな。

その何れも、特に1つ目と3つ目は帝国が軍拡を行うのに3年程度、戦争をしないという実質的な約束にもなる。2つ目、軍縮も皇国が反故せざるを得ないほど帝国が軍拡して皇国が破るのを開戦の狼煙にするつもりだろう。軍拡も冒険者を中心に対魔物用と言えばどうとでもなる。いくら独裁を敷いている帝国であってもそれに2年はかかるだろう。

次の《暴食》と《憤怒》に関しても七英雄所属規定の破棄と併せて行えば効果的だが、単体でも絶大な効果を持つ。シアンから《暴食》が無くなることを考えればこれが1番痛手だ。

だからこの要求は不味くない。だが、蹴りてぇ。

俺の予定だと、ガルドスの馬鹿な要求を蹴って適当に何か1つ呑む。それでカイゼルとエストを帝国、俺とメナを王国、シアンを皇国所属にするつもりだったのに面倒なことをしてきやがる。

俺はこういう面倒な駆け引きは好きじゃねぇんだよな。面倒くせぇから。

「ガルドス様、お客人をお連れしました」

部屋の外から兵士の声が聞こえてくる。それをガルドスが許可して部屋に入って来たのはレイブン率いる腐れたちだった。

何でここに来てんだよ。おまけにレイブンって最悪だな…
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