怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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114話

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七英雄所属規定に対する追及を私用と言われたのはイラついたが、頭を冷やせというのは分かる。アタイは少し熱くなり過ぎていた。

それに黙っていれば少しは周りが見えるようになった。

ここは敵の本拠地でゼギウスは戦争を起こさないためにここに来ている。それはアタイも同じつもりだったが、アタイは寧ろ刺激していた。敵地で相手を刺激しても余計に強気に出られるだけ。ましてや相手はあのガルドス、1歩間違えれば戦争になりかねない。

そんな中、微妙な立場のアタイが口を挟むことはマイナスにしかならない。

やっと今の危機的状況が分かってきたかと思えばレイブンが来た。おまけに魔導馬車で待機しているはずの闇商人たちまで居る。ガルドスに気づかれたらどうするつもりなのさ。

いや、それよりもレイブンがここに来た事実の方が不味い。レイブンは帝国内でガルドスの次に力を持っている。その力の大きさはガルドスにタメ口を利くことを許されているほどで、七英雄以外でガルドスにタメ口を利いている者などレイブン以外には見たことがない。

「邪魔するよ」

「余は今忙しい。用があるなら後にしろ」

「ガルドスにも用はあるけど、目当てはゼギウスの方かな」

最悪だ。レイブンが闇商人を連れて来たということはララとルルのことにも気づいている。それを脅しに使ってゼギウスと何か交渉するつもりだろう。それを分かってかゼギウスは露骨に面倒くさそうな顔をしていた。

「それで、今の状況は?」

「先日の柱の進攻の際の責を問うているところだ」

「マルスとグラが戦死したらしいね。でも、あの時ゼギウスは七英雄じゃないからシアン辺りが斬首かな?メナドールも重症みたいだからね」

何でレイブンがマルスの死を知っているのさ。グラもメナドールも戦場は魔界だったが、激しく戦っていたからレイブンなら知っていてもおかしくない。だけど、マルスは違う。柱の進攻時は後方支援に徹し、その後でゼギウスと庭で戦っていた。

だから知ろうと思ったらドラルの城に監視をつけているか、皇国での話を聞いたかだ。

でも、後者はあり得ない。メナのような超遠距離かつ広角な視野を持っている人が居なければ皇国での話をアタイたちよりも速く伝える術がない。かと言って前者でもゼギウスやアタイが気づくはずだ。

もしかして、あり得ないとは思うけど、ゼギウスがマルスを殺したことを知っている?そうなれば最悪だ。

「部外者は黙ってろ」

「部外者って冷たいねぇ。これでも私はゼギウスには随分と贔屓してきたつもりだけど?」

「私情は挟まねぇ主義なんだよ」

「よく言うね。私はゼギウスほど私情を挟む人間を見たことないよ。そうじゃなきゃメナドールをあそこまで庇わない」

そうレイブンの目つきが下種なものに変わった。やっぱりレイブンはゼギウスがマルスを殺したことを知っている。これは暗にそれを言っているのだ。

「アホか、別に庇ってねぇよ」

不味い。ゼギウスはそのことに気づいていない。もしガルドスの前で言われたら交渉何てあったもんじゃない。ガルドスの要求は全て通り、かつ皇国との戦争開始なんてことになりかねない。

「へぇ、そんなこと言えるんだ。私の前で」

「今は七英雄の話をしてるんだから口を挟むんじゃないさ」

話しを逸らすためにも割って入るとレイブンの雰囲気が変わる。

「七英雄がそんなに偉いのかい?私には分からないね。人間同士の争いに参加しないって言って魔物とのお遊びに逃げてるだけだろ?」

「ふざ……」

そこまで言って言葉を呑み込む。また同じ過ちを繰り返すところだった。

「静まれ。余の前で見苦しく揉めるでない」

そうガルドスが止める。その言葉にこの場に居る全員が黙った。

これでいい。この後、ガルドスが要求する内容は分かっている。

「余の前で揉めた時、どうするかは分かっているな?」

「戦って決めるんだろ?今の状況的に私とシアンかな?」

「アタイは別にいいよ」

狙い通り。これでレイブンが喋れなくなる程度に重傷を負わせればいい。いくらレイブンが強いと言えど所詮はその他の中、七英雄と比べればその差は大きい。

だけど、気掛かりなのはわざわざレイブンが負ける勝負を挑むような人間ではないということ。何か狙いがある。

帝城の外、闘技場に場所を移してレイブンと向かい合う。

戦いのルールは至ってシンプルだ。首に魔道具の水晶をつけ先に相手の水晶を割った方の勝ち。武器やスキルを使っての攻撃、防御は何でも有りだ。

もしかしてレイブンはこの水晶に細工を?

そう水晶に目を向けるとレイブンにすれ違いざまに声を掛けられる。

「私はそんなつまらないことしないよ。シアンになら勝てると思って挑んだだけ」

「アタイもなめられたもんだね」

互いに距離を取り開戦の合図を待つ。

ゴーン!

低く鈍い音の銅鑼が鳴り響くと戦いは始まった。

腰から短剣を抜いて出方を窺うが、レイブンに動く気配はない。不意打ちの奇策無しでアタイに勝てると思っているようだ。どこまでなめてるのさ。

その思い上がりを正そうと速攻を仕掛ける。

呪符を飛ばして《起爆》することで辺りを煙で包み込む。見えなくなる前にレイブンの居た場所の右側に短剣を投げる。更に《隠密》を使って気配を悟られないようにしてレイブンに接近していく。

どうやらアタイの投げた短剣を誘導だと思ったようで、より右側に回避している。そこへ不意を衝く様に短剣で斬りつけた。

キーンッ!

その音と共にアタイの短剣はレイブンのパイプに弾かれた。

「見えないとでも思っているのかい?別に煙があろうと気配を消そうと私には見えてるよ」

嫌な予感がして距離を取ろうとすると、煙越しに何かが光ったのが見えた。それは高さ的に顔の部分、眼帯か。

しかし、気づいた時にはもう遅く体が動かなくなる。だけど、まだ負けた訳じゃない。

「《強奪》」

咄嗟にスキルを唱えレイブンにも同じスキルをかけようとするが、奪えた手応えがない。その様子を見てかレイブンは笑っている。

「ふふふ、やっぱり弱いね」

そうレイブンは近づいてくるとアタイの水晶にパイプを当てる。もう勝った気でいるようだ。

しかし、水晶は魔力で覆っている。その魔力量も並大抵の攻撃なら通さない量だ。戦闘職ではないレイブンにこれを貫けるとは思えない。

「この程度で勝ったつもり?」

「勝とうと思えばね。だけど、こんな煙の中で止めを刺してもつまらないだろう?だから煙を晴らしてから止めを刺そうかね」

レイブンが服で軽く扇ぐと煙が晴れていく。そのまま止めを刺すかと思えばアタイに背を向けて開始位置に戻る。それから振り返って眼帯から光が消えると体は動くようになった。

完全に見下されている。アタイを、七英雄をなめ過ぎだ。

今度は距離を詰めながら短剣やナイフを投げて《起爆》する。短剣の爆発でナイフの軌道を変えて水晶を狙うが、読まれているように躱された。

しかし、体勢は崩せた。そこへ畳みかけるように短剣をしっかりと握って水晶を狙う。連続技で首を狙うが、体勢が崩れているのにもかかわらず全て躱された。

「はぁ…冷静さを失っている相手程、容易く倒せる相手はいないよ」

そう呆れるようにレイブンは呟くと最短距離でパイプをアタイの水晶目掛けて伸ばしてくる。そんなフェイントも何もない攻撃を躱せない訳がない。どこまでなめているのさ。

腹が立ちながらもレイブンなら何か仕掛けてくると全体に視野を広げた。

しかし、その様子もなく引きつけて《軽業》で躱してカウンターを決めて終わらせようとする。が、まるで時が止まったようにアタイの体は動かずパイプだけが伸びてくるとアタイの水晶は砕け散った。
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