怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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115話

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「やはり予想は当たっていたな」

シアンとレイブンの勝負が終わると客席から一緒に見ていたガルドスにそう声を掛けられる。

勝負が始まる前、ガルドスが賭けをしないかと提案してきていたのだが、俺もガルドスもレイブンに賭けようとしていたのだ。だから賭けは成立しなかったが、予想通りの結果にはなった。

別にシアンがレイブンに劣っていると思っている訳ではない。七英雄の称号を2つも持っていながら基礎能力で劣っているとなったら論外だ。

しかし、勝負は基礎能力で決まる訳ではない。勝負が始まる前、最中でも主導権は常にレイブンが握っていた。

特に勝負の最中はシアン自ら主導権をレイブンに渡していたようにも見えた。大方、シアンは自分の方が格上だと自惚れていたのだろう。庭という敵を相手に明らかな格下のレイブンに負けていられない。

その傲りで相手を見下して足をすくわれた。まぁ、それもレイブンの強さ、駆け引きの上手さとこの勝負に置ける戦い方の理解度があってのことだが。

それにしてもメデュの眼に風雷の羽織、他にも面白い魔道具を色々と着けてやがる。ここに来た時にはシアンとの勝負は計算済みだったな。そうなると気になるのはその目的、面倒な気しかしねぇ。

そんなことを考えながら帝城に戻ると、レイブンへの褒美の話になる。勝者に褒美が与えられるのは当然のこと、敗者には罰が与えられる。それは帝国所属だろうがそうではなかろうが帝国内なら関係ない。郷に入っては郷に従えと言うやつだ。

「レイブンよ、貴様は何を望む?」

「七英雄の空席の座、《憤怒》かな」

「な…」

驚きのあまりシアンは声が漏れるが、すぐに口を塞ぐ。敗者が口を開くことをガルドスは最も嫌う。

それにしても面倒くせぇ。何が狙いかは分からないが、レイブンは七英雄に目的がありながら俺に恩を売ろうとしている。

レイブンが七英雄に所属することで俺の帝国所属を断りやすくしながら《暴食》を要求しないことで内情は分かっているということを伝えてきている。これを断ればララとルル、若しくはマルスのことを報告して帝国と皇国の戦争を始めさせるつもりか。

だが、気になるのはその目的、レイブンは知っている限り誰よりも七英雄を嫌っている。そのレイブンが自らを七英雄になるということは七英雄にならないと果たせない目的があるということだ。元老院か?レイブンなら元老院の存在を知っていても不思議ではない。

「ゼギウスよ、実力は申し分ないと思うがどう考える?空席を埋めるのも大変であろう」

一見、聞いているようで聞いていない。ガルドスが相手の望む褒美を与えられないという事実を認める訳がない。だからこれは表上の形式作業だ。

そうなると求められるのはガルドスに免じて許すという形になる訳だが、面倒くさい。何でこんな内密な話まで体裁を気にするかね…

「シアンへの罰を無くすって条件なら呑んでもいいぞ」

「よかろう。では、これよりレイブンを七英雄、《憤怒》の座に着くことを帝国の王、ガルドス・エーデンガルドが許可する。帝国の名に泥を塗らぬよう七英雄での活躍を期待する」

「有難く」

そうレイブンが跪くとガルドスは腰の剣を抜き、レイブンの両肩をポン、ポンと剣で軽く叩く。これも表上の形式の一環だ。

「今は継承できねぇから後でな」

「分かってるよ」

「勝者への褒美も与え終わったところで、話を戻そう。責はどう取るつもりだ?」

「その時、七英雄じゃないゼギウスを巻き込むのもおかしな話。私が七英雄になって帝国に所属する訳だからエストとカイゼル、2名の帝国所属と私とゼギウス以外、皇国への立ち入り禁止ってところでいいんじゃないかい?」

そう紫煙を吐き出しながらレイブンが提案する。七英雄になったのだからこの話し合いに参加するのもおかしくはない。だが、ここまで露骨に俺の味方をする意味が分からない。

それにガルドスがこの提案を呑むとも思えない。

「それでは足りぬ」

やはりな。ガルドスからすればレイブンへの褒美は別だ。現職を退け座らせたならまだしも空席にレイブンを座らせ、俺にその許可を求めているのだから別件と捉えている。

しかし、そんなことはレイブンも分かっているはずだ。次の言葉を聞かなくても面倒な事が起こるのは分かり切っている。

「じゃあこうしようか。王国を再興させる。それで現状、1番危ぶまれる魔界に最も近いことからもゼギウスとメナドールを王国所属にして、さっきの提案通りエストとカイゼルは帝国所属にして私とゼギウス以外は皇国への立ち入り禁止でどうだい?」

予想の斜め上を行く提案だ。腐れたちを連れて来たのはこれが目的か。レイブンは始めからこれを狙っていた。

「それのどこに帝国の利があるのだ」

「まず、王国が復活したところで整うまでには時間がかかる。だから帝国と皇国、両国が支援する。帝国は軍事を、皇国は金銭をね。それに王国が復活するってことは帝国も皇国も魔界に割く意識を減らせるって訳だ。旧王国領って言っていつまでも不干渉地域にしておくのも限界がある。だから悪い提案じゃないと思うけど?」

一見、帝国に大して利がないように見えてその実、帝国のやりたい放題だ。

王国に軍を貸す、それは貸したところで帝国の支配下というのは変わらないから実質的に軍拡を容認するということ。それと同時に皇国を金銭的に苦しませることができる。おまけに貿易も盛んに行うことができるようになり、皇国近辺でしか採れない鉱石を王国経由の表ルートで大量に仕入れることも可能だ。

そして何より、場合によっては旧王国領を丸々呑み込むことができる。そうでなくとも帝国と旧王国領の二正面から皇国を攻めることも可能だ。

「ふむ、面白い提案ではあるな。だが、誰を王に据えるつもりだ?誰でもよいという訳ではあるまい」

「それなら相応しい人がここにいるよ。ねぇ、ルルちゃん」

レイブンがそう風雷の羽織で軽く扇ぐとルルの頭を覆う布が外れて顔が見えるようになる。王国再興の話が出た時点でこうなることは分かっていた。

だから念のためララの前にだけ《障壁》を張り間違っても顔が割れないようにしていたのだが、腐れの布も取れていない辺りレイブンはルルだけを狙っていたようだ。

ガルドスはルルの顔をじっくり見つめる。

「王国の3女か。消息不明と聞いていたが生きておったか。確か公正を望み民からの人気も厚い者だったな。若いが、それも余やミレーネが支えればよいというもの。貴様にその覚悟はあるか?」

その問いにルルは考えるように俯く。それから少しすると俺に向けて視線を送りどうするべきか判断を仰いでくる。

俺に視線を送るより前に考えたということはルルも少し思うところがあるということ。レイブンはそのことも見抜いている。というかここに来る前にそれを引き出した。

正直、王国が再興されようがされなかろうが、どっちでもいい。ただ、再興するとなれば滅ぼした張本人として手伝わなければならない、とは思う。

だが、それをこの場で決めさせるのは酷だし、その話し合いに皇国が居ないのも問題だ。そこまで計算済みか。つくづく食えねぇな。

「そんな重大なことをこの場で急に聞かされて決めさせるのは無理があるだろ。それに皇国が金銭援助をするなら皇国側も居る場で話すのが筋だ。違うか?」

「一理ある。では、少し考える時間をやろう。1週間後、王城にて皇国も交えて会議を行う。よいな?」

「分かった」

そう話が纏まるとレイブンも連れて帝城を出て魔導馬車に戻り、腐れの操縦で城へと帰った。
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