怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

文字の大きさ
119 / 185

117話

しおりを挟む
ドラルの城に着くなり自室に戻ってベッドに倒れ込む。皇国のシアンさんの故郷に行くまでは楽しい旅だったが、それ以降は息が詰まるような旅だった。

帰ってきてもそれは変わらずご主人様はレイブンさんと表で話をしていてシアンさんはどこかに行った。ドゴン!ドゴン!と爆発するような音が鳴り響いている辺りまだ冷静にはなれていないようだ。

それだけ庭との戦いが近づいているということなのだろう。皇国も帝国との戦争前は同じようにピリつき尖っていた。

ここまで来ると私たちにできることは普段の生活を如何にストレスなく支えるかを心掛けるだけだ。その程度のことしかできない。

だからこそできることを全力でやる。そのできることの内の1つをやろうと体を起こす。

「ルルはどうするつもりなのですか?」

そう私と同じようにベッドに倒れ込んでいたルルに声を掛けると、ルルは体を起こす。

どうなろうと1週間後には帝国と皇国を交えた七英雄主導の会議が行われる。何の力も持たない私はその場に立ち会うことはできないだろう。だからルルの答えに迷いを無くしご主人様や他の七英雄の方々に少しでも心労をかけないようにする。

「分からない。今は状況が複雑」

ルルはこう言っているが自分の中では答えが出ているように見える。それは魔導馬車の中での反応でも分かっていた。

でも、ゼギウスに迷惑が掛かるから遠慮しているようだ。

以前のルルならそんな遠慮もしなかっただろうに、それだけ心にゆとりができたのだろう。あと、あの件のことを反省しているようだ。

でも、ご主人様が言うようにこんな機会は2度とない。ご主人様も断らなかったということは気にしなくていいということ。私にできるのは結論の出ているルルを後押しすることだ。

「確かに状況は複雑ですが、そこまで考えなくてもいいと思います。ご主人様は暇な時でも面倒事を嫌います。それが有事となれば尚更です」

「確かに」

これで少しはルルから無駄な考慮は省けたと思うが、ご主人様も酷い思われようだ。流石に王国については思うところもあるだろうからルルが王国再興を目論めば協力は惜しまないだろう。

その結果、どうなるかは分からない。もしかしたらご主人様への負担が増えるかもしれないし減るかもしれない。それは王国再興以外に来るだろうガルドスの要求を予測して天秤に掛けてみないと分からない。

だけど、それができるのはガルドスに直接触れて知っているご主人様たちの考えることで、見たり噂を聞いたりする程度しか知らない私たちがどれだけ考えてもご主人様たち以上の答えは導き出せない。

ただ、ご主人様たち以上に分かっていることもある。

それは、ご主人様が王国再興に協力するということは王国民もついて行くだろうということだ。少なくともドラルの進攻を目の当たりにしたフロンの街近辺はそうするだろう。いや、貴族やギルド内部を除けば大半があの時のご主人様の行動を支持している。

それは闇商人さんの元に居た時に聞こえてきた王国民の声からも間違いない。あの時はルルが居たこともあり半信半疑ではあったが、今ならその人気も分かる。ご主人様が居なければ数十万は出ていただろう一般市民の被害を0にしたのだから当然だ。

それは王国民の行動からも明らかだった。

だからご主人様がお金を貰ったことがないと言った時は驚いた。王国ギルドにはお布施のようにご主人様への依頼が相次いでいたそうだ。ご主人様は金銭に興味がないから放置しているようだが、それではいけない。

それはあの時の感謝を込めて王国民が行っている善意、それをご主人様がどう使おうと勝手だ。

しかし、それはご主人様が受け取ってから判断すること。1度もご主人様の手に渡らず知らないところで使われていいお金ではない。

もしかしたらご主人様が受け取りに行っていないだけかもしれないが、おそらく王国ギルドが着服している。渡す気があるならご主人様が王国ギルドを追放された時に渡しているはずだ。その不正を正すにもいい機会になる。

「ララはどうする?ララもミレーネ様に生存報告はしているから継ぐ気があるなら継げるはず」

「勘当してきたのでそれはないと思います。それに王国とは事情が違うので急に私が現れて跡を継ぐと言っても民が納得しません。公務も何もしていないので母が皇のままで居るのが民のためです」

私の場合はルルと事情が違う。王国は滅び、その一族もルルしか生きていない。対して私は母が生きていて民からの信頼も厚い。そこへ死んだと思われている私が急に出てきて跡を継ぐなど今までの皇族の積み上げてきた信頼を無に帰しかねない。それは最もやってはいけないことだ。

「やっぱりララは王に相応しい。民のことを最優先で考えられる。それに七英雄にも物怖じしない」

レイブンさんに聞いた時のことを言っているのだろう。あの時は勝手に口が動いていただけだ。

「ルルも同じです。ただ、自分のためだと思っている時は言えないだけです」

「じゃあレイブンに言えたのはゼギウスへの想いから?」

そう茶化すようにルルに言われた。今のさっきで恥ずかしくて顔が赤くなる。

でも、気分を変えるためにもたまにはこういう話もいいかもしれない。それにルルに相談してみるのも良いアドバイスが貰えるかもしれない。

「ですが、ご主人様は私に興味がなさそうです…周りには魅力的な方が多いですし…」

「ララも負けてない」

ルルの性格だからお世辞ではなく本心で言っているのだろう。それは伝わってくるが、周りの人を見ると自信を無くす。

「ですが、メナドールさんは勿論、アルメシアさんや闇商人さん、シアンさんも…スーちゃんも侮れません。それにレイブンさんもご主人様を狙っている気があります」

「それ、ほとんど全員。そんなにゼギウスを狙っている人はいない」

「じゃあ誰がご主人様を狙っていると思いますか?」

自分では見えていない部分も多いだろうからそう尋ねる。

「メナドールはライバルになると思う。気持ちも自覚しているしストレートにアピールしている。アルメシアは好きだと思うけどまだその気持ちを自覚していない。闇商人はレイブンの店で言っていたように1歩引いて見ているから少なくとも今は脅威にならない。スーはペットが主人に懐くような好きで恋愛感情とは違う。シアンはそもそもゼギウスに恋愛感情を抱いていないと思う。レイブンはララをからかっていただけ。でも、油断はできない」

何とも冷静な分析だ。もしかしたらルルにはそういう才能があるのかもしれない。

「では、エストさんやカイゼルさんはどう思いますか?」

「エストはメナドールのことが好き。だけど、ゼギウスの天然誑しにかかれば危ないかもしれない。カイゼルは闇商人と同じような感じだけどカイゼルには恋愛感情がない」

なるほど。そうなると当面のライバルはメナドールさんだけ…でも、油断しているとアルメシアさんたちも危ない。メモメモ…

「だけど、相手はそれだけじゃない」

「え?」

思い当たる人の名前は全員挙げたと思う。もしかして王国に居た時に恋人や婚約者がいた?そういう人をルルが知っていてもおかしくはない。

そう思っていると予想外の名前が挙げられた。

「1番危ないのはナナシ」

「ですが、ナナシさんはご主人様の一部ですよ?」

「それは外面的な事実。最もゼギウスと長い時間を過ごし互いのことを1番理解している。正しく一心同体。それにここで暮らすようになってからは完全に雌」

雌って……最初に会った時は遊びたい盛りの妹という感じだったけど今はすっかり甘えん坊だ。どちらかと言うと幼児化している?だけど、侮れないというのも事実。

あ、ナナシさんが妹ということはナナシさんに気に入られればご主人様の中の私の株も上がる?これからはナナシさんじゃなくてナナシちゃんでいきましょう。ご主人様のようなタイプは外堀から埋めて逃げ場を無くせば諦めるはずです。

「また変なこと考えてる。何を考えているかは分からないけど、ララはまずご主人様呼びを止めるべき。それだといつまで経っても従者」

「ですが、もう癖に___」

「そんなのだからいつまで経っても……」

そうルルから耳が痛くなる説教のようなアドバイスを貰っていると気づけば食事を作る時間になっていて解放された。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...