怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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124話

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ゼギウスに言われたのは癪だけど、言っていることは尤もだった。これ以上ないくらいに有難い状況を自ら放棄するだけでなく、あまつさえ憧れの人を侮辱してしまった。

だから許してくれて挽回の機会を与えてくれたことに感謝しながら全力で戦う。

「私は準備できたよ」

「私もできてるわよ」

そうゼギウスに伝える。さっきまでのカイゼルとの戦いは真継承を活かすのと庭の攻撃に耐えられる基本的な防御方法を習得するための運動という感じだった。

だから私にとっても真継承をした後の初めての実戦でもある。持っている力を全て出してメナドールさんに認めてもらい、ゼギウスも見返す。ゼギウスは私のことをそこら辺に居る冒険者だと思っている節があるから、私の力を見せつけてやる。

「《障壁》も張ったしお互い本気でやっていいぞ」

そうゼギウスが空に向かって魔力を放って爆発させる。それを開始に合図に《魔球演舞》で火、水、風、土、氷、雷、毒の7属性の魔力球を2つずつ生成する。

これは真継承の恩恵だ。魔力量が増えたことで温存しながらここまで生成できるようになった。ただ、14個の魔力球を同時に扱うのはまだ無理だ。

だから私の周囲を決まった軌道、速度で動かしながら一部を変則的な動きに変える。現状、同時に自由自在に操るのは7個が限界だ。

それでも7個の魔力球の残魔力を気にせず操り、消滅したら手元に残っている魔力球を前面に送る。その間に手元に再び魔力球を生成するというサイクルができるからこれで良いのかもしれない。

その戦い方でいこうとすると、メナドールさんは魔力体を14体、生成していた。魔力体はそれぞれ剣や槍、斧、弓といった違う武器を持っていて、まるで冒険者のパーティーのようだ。

同じ数。これは私の魔力球とメナドールさんの魔力体、どちらの方が強いかの戦いだ。負ける訳にはいかない。ここで勝って認めてもらう…いや、超える。

そのくらいの気持ちでいかないと勝負が始まる前から負けてしまう。

「悪いけど、エストちゃんの弱点はもう分かってるよ」

そうメナドールさんは魔力体を同時に14体、動かす。それぞれの武器の適正距離に配置して一気に仕掛けてくる。

どうやら私の同時に操れる数を見極められているようだ。それでも、戦い方はある。

魔力体は魔力球と違って無茶な動かし方ができない。人体に沿った動かし方しかできず、高い操作精度が求められる。

その点、魔力球は無茶な動かし方ができる。その代わり、発進急停止、直角の動きをする時に無駄が生まれる。

だけど、このケースに置いては無駄があってもいい。そこまで人並外れた動きができる訳ではなさそうだし、1つの魔力球で2体ずつ倒せばいいと考えれば何とかなる。

そう近い魔力体から順に魔力球をぶつけていく。顔くらいの大きさの魔力球は次々に魔力体の左胸、心臓の部分を貫いていった。

やけにあっさりと全ての魔力体を貫き、一気に仕掛けようと魔力球を操る。が、すぐに向かわせた魔力球の7つをメナドールに向けて放って切り捨てて、手元に置いていた魔力球に操作を切り替えた。

そうしたのも、メナドールさんの近くには王国の1個師団、約1万体もの魔力体が《色鮮やかな筆》で描かれただろう鎧を着て武器を構え立っていたのだ。

「ごめんね。この戦い方が庭に通じるとは思わないけど、ゼギくんに肩慣らしって言われたからね。本気で勝たせてもらよ」

これがメナドールさんの本気…でも、負ける訳にはいかない。

すぐさま手元に追加で魔力球を生成する。同時に接近してくる騎馬部隊に魔力球を盾にして防ごうとするが、軽く千を超えるその突進は防ぎきれない。前線に魔力球を置いたまま壁として置き、手元の魔力球で突破してきた騎馬部隊を蹴散らす。

それでも全てを防ぐことはできず距離を取ろうとすると、逃げようとした方向に矢の雨が降り注ぐ。すぐさま逃げる方向を変えると、そこには蠍の絡繰り人形が回り込んでいた。

この絡繰り人形は他の魔力体と格が違う。だから倒すのに時間がかかるが、ここで時間を取られると一気に囲まれて為す術もなく負ける。

1万の兵に囲まれては流石に勝ち目がない。だから出し惜しみはしない。

「《彩槍・レイン》」

そう唱えて槍を生成する。アイリス戦で顕現した槍を再現しようと特訓していたら習得できたものだ。メナドールさんへの憧れが表れたのか、槍は筆のような形で捻じれの入っている透明度の高いガラスのような形をしている。

その槍で蠍の胴体を突く。それで貫けはしないが突いたところに赤色の点がつく。

反撃にでる絡繰り人形の尻尾を槍で受け流してさっきと同じ所を突く。すると、今度は青色の点がついた。更に突いて緑、茶色と点をつけると、その点は混ざり合い黒色に変わる。

これで準備は整った。

その黒い点を槍で突き、槍伝いに魔力を流し込む。すると、点を中心に絡繰り人形の体に亀裂が入る。その亀裂は赤、青、緑、茶色、と別々の色のヒビで尻尾の先まで広がっていた。

そこへもう1度、全力で突くと絡繰り人形の体は砕け、中から毒の液体が溢れてくる。ぶちまけた水のように広がる毒を躱そうとするが、完璧には躱し切れず左腕と左腿に毒が付着した。

しかし、それを治療も応急処置もする間もなくここを脱しなければならない。敵兵は私を取り囲もうと広がっているのがもう見えている。

まだ囲みが追いついていない方へ走ろうとすると、真逆の発想が生まれた。

敢えて正面から突っ込み、突破する。このまま逃げながら戦うにしても毒を受けてしまった以上、じり貧だ。どこかで仕掛けないと勝利はない。

健闘ではなく勝ちに行くなら仕掛けるタイミングはここしかない。

そう反転して敵軍正面へと突っ込んでいく。今の貫通力に魔力球を再生成すれば私1人が突破するくらいのことはできるはずだ。それに魔力体には弱点がある。

魔力球を再生成して前後左右に1個ずつ、それと正面に3つ三角形を描く様に配置して敵軍の中へ突っ込んでいった。

これだけの数を動かしている弊害か、メナドールさんはまだ対応はし切れていないように見える。兵の反応は鈍く一方的に突破していく。そのまま減速せずに中央辺りまで来ると魔力球の魔力が尽きた。

ここからが大事だ。消費の少なかった後方の魔力球を正面に回し、あとは槍で突いて突破しようとする。

魔力球の力押しに槍で的確に核を突くしかない。それで今までのスピードをできるだけ維持してメナドールさんに肉薄して、この槍で倒す。

そう魔力体の心臓を槍で突いて進もうとするが、魔力体は消滅しない。

核の場所がズレている?そんな…だって最初の戦闘でどの魔力体も心臓の場所を貫いたら消滅したのに……もしかして、私を嵌めるための罠!?

そう思い至った時にはもう遅かった。

敵兵に囲まれ魔力球で粘ろうにもこの数を前には無力で一方的に蹂躙された。

これが私とメナドールさんとの力の差。いや、経験の差か…何気ない所に相手が気づく程度の仕掛けをする。毒を受けていたのもあり短期決戦に切り替えるしかなかった時点で私の負けは決まっていた。

能力ではなく、この戦闘の展望をどう描いていたかの差。おそらく能力が入れ替わってもこの結果は変わらない。

真継承を経てからのこの数日、少しは差が縮まったと思っていたが、変わっていなかった。それどころか寧ろ差は広がったかもしれない。そう思えるほどの圧倒的な敗北…

どこか仕方がない、当然だ、と思っていた自分を恥じようと天を仰ぎながら意識を変えようとするが、その気持ちは消えず、どこか嬉しさが勝っていた。
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