怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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131話

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靄を出ると広い空間に出る。遮蔽物が特にない拓けた場所だ。それをレイブンも見渡しながら確認している。

「って、何でレイブンがついてきたのさ」

「あれだけの覚悟を見せられたら、任せるしかないからね」

よくここまで本心と逆のことを言えるものだ。その気遣いのような煽りに腹が立つ。

「アンタはそんな奴じゃないだろ」

「ならハッキリ言わせてもらうけど、勝つための戦略として当然だね。寧ろゼギウスがその判断を下せて安心したよ。それを見損なったってシアンこそ何様のつもりだい?全てはシアンの未熟さが招いたことだろう?」

「そこまで言えとは言ってないさ。でも、だから見損なったんだよ。アタイの失態なんだからアタイに責任を取らせて1人で戦わせるべきだった。これじゃカイゼルはただの生贄さ」

「そんなガキみたいなこと言うならちゃんと仕事をするんだね。さっさとケリをつければ間に合うかもしれないよ」

相変わらず人を煽ることしかしない奴だ。それでも実力は認める部分がある。結局、今日まで1回も勝てなかった。それがゼギウスに不十分と判断された要因だろう。

「ん~、美味そうな相手だなぁ。これならゼギウスの前の前菜に丁度よさそうだ」

そう暴風が吹いているような勢いで鼻から息を吸う。声もおっとりとしたような雰囲気をしていて、巨大で丸い体も合わさってどことなくグラに似ている。それにしてもデカい、体はアタイの3倍以上の大きさだ。

コイツがグラトニー…コイツに勝ってグラの役割を果たしてその後、カイゼルを助けに行ってアタイの役割を果たす。

「そんな気負ってたんじゃ勝てるものも勝てないね。2人掛かりでも勝てるか分からない相手だってこと忘れたのかい?」

そうレイブンに肩を叩かれる。その手は力強く緊張しているのが伝わってきた。

そうだ、先ずは目先の相手に集中する。それを疎かにして勝てるような相手じゃない。また冷静さを失いかけていた。

「ありがと。これでアタイは冷静に戦える」

「じゃあ私は後方支援をするから好きに戦っていいよ。どうせシアンは致命的なミスをするだろうからね」

「一言余計さ」

レイブンがパイプを吸って紫煙を吐き出すのに合わせて仕掛ける。

まずはどういう相手か探る……ってそうじゃない!最初から取りに行く!

そう接近しながら腰からクナイを取り出す。これはレイブンが作った魔道具で今までの物とは比べ物にならないくらい魔力を込めても壊れない。だから不要な加減をせずに魔力を込めてグラトニーに向かって投げる。

だが、それに対してグラトニーが反応する様子はない。爆発範囲内に入っても反応しないままだ。そこに疑念を抱きながらも何もしない手はなく《起爆》する。

それは今までの短剣で生み出していた爆発とは比べ物にならない威力で爆発した。込めた魔力は短剣の時の3倍くらいなのに爆発は5倍の規模で起こっている。

これがレイブンの作る魔道具…その威力に驚きながらも接近を続ける。

爆発の煙が晴れる頃、アタイの接近戦の領域に入り込み、とっておきのスキルを使おうとする。が___

「シアン!全力で回避しな!」

レイブンの声に反応して《軽業》を連続で使って横方向に回避する。その直後、さっきまでアタイの居た場所を爆心地にアタイの投げたクナイと同規模の爆発が起こった。

「な…何が起こったのさ…」

詠唱も予備動作も何もなかった。それでいてこの威力…

「不味い飯はいらないなぁ。返したけど不味いでしょ?」

よく分からない感性だ。でも、そこもグラに似ている。それが暴食の性なのだろうか?でも、暴食を持っているアタイにも理解できない。

「アタイに言われても味は分からないさ。だから食べさせてもらうよ。《強食・序・狐火》」

そうスキルを唱えて体の周りに青白い火の玉を幾つも生成する。それらは体の周りで揺らめきゆっくりとグラトニーへと向かっていく。

「む、美味そうなつまみだな」

グラトニーは手を伸ばして狐火を掴んで食べようとする。が、狐火はグラトニーの手をすり抜けて、そのままグラトニーの近くを揺らめきながら纏わり続ける。グラトニーの大きさも相まって蚊が飛んでいるようにしか見えない。

「ん~鬱陶しいなぁ。《消えろ》」

そう唱えられると狐火は消えた。まさか、たった1回のスキルで打ち消されるとは想定外だ。流石は庭といったところか。

「我輩の魔力を食べたな……許さん」

アタイのスキルの効果に気づかれた?それよりもグラトニーの雰囲気が変わった。声も体も引き締まり丸かった体は筋肉の塊のように変わる。

「《グラトニー》」

そう低い声で唱えられるとブタが召喚された。それがただのブタではないのは当然のこと、速いっ。

召喚された直後、一瞬にして距離を詰められる。突進で懐まで潜り込まれ、その勢いのまま頭を振り上げられた。

辛うじて反応が間に合い《軽業》を使うが回避し切れない。そう思っていたが、一瞬、ブタの動きが止まる。そのおかげで回避が間に合った。

レイブンの着けているメデュの眼の効果だろう。だけど、効果が一瞬しか続かないとなると他の魔道具も効力が弱くなると考えた方がいい。そうなるとレイブンは本当に後方支援くらいしかできないだろう。

「我輩が何もしないと思ったのか?《グランドスフィア》」

直後、この空間から光が消えた。正確には薄っすらと輪のような光が見えるが大部分の光は失われた。どうやら巨大な魔力の塊に空を覆われたようだ。

「《暴食》」

直撃したらひとたまりもないと、まずブタを手で食べる。その後、両手を天に掲げ魔力の塊を食らう。

大量の魔力が手を通じてアタイの体に流れ込んでくるが、一向に終わりが見えない。《暴食》は体とは別に魔力を保存できるが、その許容量を超えても減っている気がしない。

何て魔力量だ。魔力量だけならゼギウスよりも多い。

「そうか、貴様も暴食を持っているのだったな。だが、それもいつまでもつか」

「おや、シアンにばかり目がいって油断し過ぎじゃないかい?《七芒星陣・大罪》」

今まで後方でおとなしくしていたレイブンが急に目の前に現れたかと思ったらグラトニーを七芒星の形をした光の柱で捕らえた。

「それだけの魔力を使ったら逃げられないだろう?」

突如、現れたレイブンにも驚いたが、まさかこんな隠し球があるとは…それよりもそんな余裕があるなら助けてもらいたいが、また煽られそうで自力で堪えようとする。

それでも限界は近く、体が悲鳴を上げ始めた。これ以上は___

そう思っているとレイブンが振り返る。

「そろそろシアンも限界みたいだね」

パイプを魔力の塊に向かって投げる。すると、魔力の塊は霧散して雨のように小粒の欠片が降り注ぐ。

「なっ、最初からできるなら何でやらなかったのさ!」

「あの魔力の塊は中心に核があってこの空間の魔力を吸い続ける。だから、《暴食》で吸収しても無駄ってそんなことにも気づかなかったのかい?てっきり道化のふりでもしてるのか魔力を回復してるのかと思ってたよ」

「悪かったね。そんなことも気づけなくてさ」

だれだけ言われても腹は立つが驚くべき洞察力だ。アタイはその魔力量に焦ってそこまで周りを見る余裕がなかった。

「まぁ、真面目な話をするなら、庭と言えど私の情報はない。だから油断を誘ってそこを衝いた。それだけのことだよ」

レイブンは落ちてくるパイプをキャッチして紫煙を吐く。まさか庭相手にも平然とやってのけるとは肝が据わっている。

そこまで上手くいくのか疑いたくなるが、現にグラトニーが光の柱から出てくる気配はない。

「それでここからどうするのさ。捕らえただけじゃ勝てないだろ?」

「そろそろ止めの刺し頃だね。《七芒星陣・光滅》」

レイブンがそう唱えると光の柱は収縮していき、1本の柱になると光は消えた。

「終わった…?」

あまりにもあっさりとした結末に疑問が残る。だが、相手の虚を衝くというのはこういうことなのかもしれない。

「それじゃあ次の戦場に行こうか。今ならまだカイゼルの所も間に合うだろうからね」

ここへ転移した靄の方へ歩いて行こうとすると声が聞こえてきた。

「この程度で終わったと思っているのか?」
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