怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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132話

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消えたと思っていたら、さっきまで光の柱があった場所に靄が生み出されていた。どうやら一時的に転移して逃げていたようだ。

あそこまで上手くいくとは思っていなかったが、確かに捕らえた感触はあった。柱の中で魔力を吸収し続けて中に居たのも確認している。

それなのに無傷の姿で再び現れた。やはり侮れないね。想像の数段上をくる。

「貴様の情報がない。そう言ったな?」

「確かに言ったね。庭からこっちの、私たちの世界が見えるとはいえ、常に全ての場所を見られる訳じゃないし過去を見られる訳でもない。だから私の力は未知数かドラルの城での実力を基準に置いていると思っていたんだけど違うかい?」

「確かに過ぎた時は戻せない。だが、貴様の力があの程度ではないのは分かっている。だから言ったはずだ。前菜に丁度いいと」

てっきりシアンのことを言っていると思っていたが、私のことだったか。ここへ来る前から魔力は魔道具内に溜めて私自身の体内には普通の量しか残していない。それにここへ来てから緊張している素振りはしたし魔道具が100%の力では効かない演技もした。

シアンもそうだと思い込んでいたようだから騙せたと思っていたが、そこまで甘くはないか。だが、倒せないにしろ多少は傷を負わせられると思っていた。

それなら予定通りシアンに任せるのが最善かな。《暴食》で魔力は回復どころか貯蓄できた。それを活かさない手はない。

「シアン、私の計画は失敗したから任せたよ」

そうシアンの肩を叩いて下がる。

「元からそのつもりさ。《強食・破・焼き豚》」

豚の形をした炎がグラトニーへと向かっていく。それは「供物か?」と簡単に食べられた。

「我輩の魔力が含まれているな。くだらない小細工だ」

これで第二段階。最終段階までコイツが悠長に戦ってくれるかどうか。油断に賭けるしかないね。

いや、それなら私から仕掛けるか。こっちもそろそろ準備できたみたいだからね。

この空間に来てから風雷の羽織が吸収し続けた魔力を纏わせる。風の鎧に雷の矛、この攻防がどこまで通用するか。

そう一気に距離を詰める。だが、クナイの時と同様に反応する気配がない。単純に反応が鈍いようには見えないが、この行動に意味があるとも思えない。

それでも射程圏内に入ったなら撃たない手はない。背後に備える雷の槍を放つ。

「《雷槍》」

そこへ自らの魔力も加えて加速させる。これなら回避は間に合わない。どう動く?

しかし、直撃してもなお動く気配はなかった。

クナイの時も魔眼で見ていたが、煙の魔力に遮られている部分もあり気づけないだけで何かしていると思っていた。だが、今回は間違いなく何もしていない。それなのにクナイの時と同じように撃った攻撃と同じものが返ってきた。

それを躱して隙を生まないように風の鎧で受ける。威力も私の撃ったものと同じだ。

そうなると反射…1度受けたものを体内に取り込み、それを外へ放出する。《暴食》と同じ原理か。グラトニー、庭の七罪を担うだけあって七英雄と似た力を持っている。それはある程度、想定していたことだが、想定内過ぎて引っ掛かる。

「戦闘中に思考とは余裕だな。少し痛い目を見てもらおう。《風雷》」

風を纏った雷が一直線に向かってくる。それをパイプのボウル部分で受け止め火種に変え、それを吸って紫煙を吐く。

「所詮は小道具と思っていたが、存外武器になるようだな。相手の攻撃を受け止めその魔力を自身の肉体・魔力の回復へと繋げるとは差し詰め《暴食》の再現といったところか。その眼帯は《傲慢な禁止事項》…いや、《怠惰の砂時計》の応用か。他には何がある?」

庭に目をつけられて以降、何回か使っていたから見破られても仕方ないか。それにゼギウスに手伝ってもらって改良を重ねたからそれを見られていたのだろう。そうでもなければ《怠惰の砂時計》には辿り着けない。

風雷の羽織を脱ぎシャツも脱いでトレーニングウェアのような恰好になる。それにこの空間に溢れる魔力を吸わせていき、同時に眼帯に込める魔力量を増やす。

「食らえ、《グラトニー》」

そう唱えてグラトニーが召喚したのと同じブタを召喚する。そこへ紫煙を吹きかけると煙で姿が隠れた。

煙が晴れブタが姿を現すと関節部だけでなく全身に鎧を纏っていた。それを一気にグラトニーへと突っ込ませる。

「《強奪》に《色鮮やかな筆》…それに出ている瘴気は《怨嗟》か。道化としては面白いが、やり過ぎたな。我輩のスキルを真似るとは不愉快だ。《グラトニー》」

グラトニーが召喚したブタは今の感情を表すように荒れ狂い私の召喚したブタに突進してくる。

単純な魔力量の差による個体の能力差で少し押され気味な場所で激突する。単純な攻撃力の差に加え突進の速度でも劣った分、私のブタの方が大きく仰け反るが、ここからだ。

追撃に来たところにブタの目を光らせ、それを見たグラトニーのブタは動きが止まる。その横を通過してグラトニー本体へと突進していき、それに合わせて私自身もグラトニーに距離を詰めていく。

「その程度で封じたつもりか?」

私がグラトニーのブタを通過する瞬間、グラトニーのブタは動いた。止まる前の追撃を私に向けてやってくる。

これが狙いか。だけど、甘いね。

それを無視して突っ込んでいく。すると、衝突する瞬間、横から現れたシアンが《暴食》を使ってグラトニーのブタを食べた。

「合図がギリギリ過ぎるよ。アタイじゃなきゃ追いつけなかったさ」

「シアンの速度とブタの速度を計算して合図を送ってるに決まってるだろう?」

これで3対1、このためにわざわざ目立ってシアンから意識を剥がしたんだ。それにそろそろアレが効いてくる頃合いだからね。ここで決める。

突進していくブタの目を光らせる。魔道具を使っていない分、効果は弱いが注意を引くには十分だ。尤も今のところ懐に入るまでは何もしてこないからただの保険に過ぎないけどね。

「小細工が通用すると思っているとは、いよいよ道化だな」

向かっていくブタは掴まれると一飲みにされる。本当に動きが単純で助かるよ。

「《起爆》」

そうブタをグラトニーの内側から爆発させる。衝撃で鎧を拡散させ、パーツが体内に刺さっただろう。そこから漏れる瘴気を内側から吸収させる。

「毒か。その小細工も見飽きた。《グランドクロス》」

巨大な十字架が向かってくる。その巨大さから回避は間に合わない。だけど、この好機を逃す手はない。仕方ないか、片腕くらいくれてやる。

「シアン、そのまま後ろからついて来な」

全身の魔力を左手に集約してぶつける。だが、十字架に込められた魔力は私の全身の魔力量と比較しても比にならないくらい多い。

その衝撃で左腕は金属の部品を飛び散らせながら砕け散った。それでも十字架は残ったままだ。

左手をぶつけた場所と同じ場所に右手で挟んだパイプを当てる。すると、パイプに魔力が振れた場所から亀裂が入り、丁度、人1人分の穴が空いた。

そこを潜ると足を止める。右腕まで砕け散り金属部品が飛び散ったからだ。

チッ、右腕までおしゃかになっちゃったじゃないか。これじゃあ足手まといだね。

「お膳立ては十分だろう?」

「十分さ。《強食・急・狐豚》」

そうシアンが唱えるとキツネの尻尾が9つ生えたブタの体を持つ顔は半々の獣がグラトニーへと向かっていく。

「それが両腕の代償か?ただ我輩の前に食物を捧げているようにしか見えないな」

そうグラトニーは何の疑いもなくそれを手に取り食べる。その直後、グラトニーは倒れた。
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