怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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136話

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不味いな。今の攻撃でナナシは手加減をしていた訳じゃない。それなのにスキルも使わずに簡単に止められた。

これは精神的にくるものがある。それにナナシが攻撃を仕掛けた時に手の内を明かさないのも厄介だ。ナナシを前面に出して向こうの手の内を探り手の内を明かしていない儂が効率よくエンヴィーを削るつもりだったが、それはできそうにない。

「心は折れてないだろうな?」

「バカにしてるの?」

「愚問だったか。だが、少し戦い方を変えるぞ」

今ので心が折れていないのは流石の戦闘経験だな。幼き頃からゼギウスとの戦闘で攻撃が通じないのは経験済みということか。

「しばらくはゲン主導でいいよ。私が後ろからサポートする」

「ほぉ、それなら任せたぞ」

偉く聞き訳がいい。こういった時はやけになって無謀に突っ込んで行くと思っていたが冷静だ。それなら儂が五分まで持ち込むか。

「《嫉妬の業火》」

マルスが継承してきたスキルを使う。辺りに火の海を生み出しこの空間全てを呑み込もうとする。

「マルスの持っていたスキルだね。あくまで君の手の内は明かさないつもりかな?僕もなめられたものだね」

「小僧、図に乗るなよ」

エンヴィーへと押し寄せる波の高さを上げる。これで躱せなかろう。さて、どう動く?

しかし、エンヴィーに動く気配はない。躱せないと判断して正面から対応するつもりか。

「《氷海》」

儂の《嫉妬の業火》に対応するようにエンヴィーは氷の海を生成する。2つの海の波が互いの正面で交わり衝突するかのように見えた。

しかし、《嫉妬の業火》は氷の海をすり抜けエンヴィーへと向かっていく。それは《氷海》も同じことで《嫉妬の業火》をすり抜ける。

だが、五分という訳ではない。《氷海》は儂の元に届く前に消え、その魔力を吸収するように《嫉妬の業火》の波が高くなる。

「なっ、マルスの使っていたものと違う…?」

やっと気づいたようだが、もう遅い。高くなり押し寄せる波にエンヴィーは為す術なく呑まれた。

あのスキルを誰が生み出したと思っている。今日まで継承されている七英雄のスキルの全ての基を生み出したのは儂だ。儂はその全ての真の力を知っている。

特に《嫉妬の業火》は儂が生み出したもので、そのまま継承されてきた。だから魔力が変わろうともその本当の力を引き出せる。

火の海はエンヴィーを呑み込むと、流れていかずにエンヴィーを中心に集まり球になる。その球は何度も何度も激流を生み出してはエンヴィーの体を削っていく。やがて火はエンヴィーの体を妬き焦がすと焦げ跡で呪印を描き消えた。

残ったエンヴィーは真っ黒に焦げた体でただ立ち尽くしている。

これで戦況は五分に戻せただろう。しかし、魔物の七罪も思っていたより頭が回らないようだ。

人間の力が継承と知っていて儂が初代七英雄と分かっているのに、儂がこのスキルを生み出したところまで辿り着けないとはな。ただ庭越しに見聞きした情報を口にしているだけに過ぎない愚か者だ。

だが、その愚かさによってエンヴィーに手の内を暴けなかった。懸念点はそこだ。

「へぇ、やればできるじゃん」

「年の功と言ったところだが、今のでかなりの魔力を使った。この後は厳しくなるぞ」

それでもここで戦況を五分に戻さなければならなかった。ここで流れを取り戻さなければ後々響いてくる。

この戦いは短期決戦に持ち込むのが理想だが、長くなるだろう。現状、互いに止めを刺すつもりがない。

それにエンヴィーはまだ何か隠している

その確信的な予想はすぐに現実になった。ただ立ち尽くしているように見えたエンヴィーの雰囲気が変わったのだ。

焦げた跡はエンヴィーの体内に吸い込まれるように消えていく。《嫉妬の業火》の呪いを浄化したようだ。

「やってくれたね。同じスキルに見せて無詠唱でスキルを使うなんて芸当もできるとは驚いたよ」

「何を勘違いしている?儂以降が未熟過ぎて使えなかっただけで今のが本来の《嫉妬の業火》だ。その可能性に気づかないとは庭とやらも存外頭が回らないようだな」

「その言葉は重いよ」

「敵を前に重いも軽いもあるか。そんなことだから未だに人間を滅ぼせないのだろう?」

これは以前から気になっていたことだ。到に人間を滅ぼせるだけの力をつけている庭が人間を放置している。ゼギウスは人間を管理するためと言っていたが、それも半信半疑だ。

それに、それならゼギウスを育てる意味が分からない。ゼギウスを七英雄に置いて人間の管理者にするつもりだったのか?

「勘違いしないでほしいな。君たちは先文明から何も学ばなかったのかい?先の種を滅ぼせば後の種に滅ぼされる。だから僕たちは人間を家畜にしてるんだよ」

「その家畜に滅ぼされようとしているとは滑稽だな」

やはりゼギウスを管理者に置くつもりだったようだ。そのために元老院から原初を連れ去ったのか。

だが、原初やゼギウスの方が1枚上手だったようだな。

「何を勘違いしているのかな?僕たちが滅ぼされようとしている?僕を含め七罪の誰も本気を出していないよ。僕たちにとってゼギウス以外は脅威足り得ない」

「そういうことは口じゃなく行動で示すことだな」

そう軽く挑発するとエンヴィーの姿が変わった。人型だった体は手足が消え頭の形もヘビに変わると一回りも二回りも大きくなる。

「その言葉、後悔するよ。《風雷》《火雷》《地雷》《水雷》」

立て続けにスキルを唱えられる。が、それを《絶》で打ち消す。

また厄介なことを。儂の魔力に制限があると分かっていて打ち消すのに魔力効率の悪い2属性以上のスキルを唱えてきている。それでいて片方の属性を統一することで雷に変換し続けて変換効率を上げているときた。

こうなると一気に長期戦は厳しくなる。そもそも向こうが悠長に戦っていたことの方が理解できないから当然か。ゼギウスをそれだけ脅威だと思っているのなら儂等を早く片付けて応援に駆け付けるのが普通だ。

それなのにそうしないということは、1人、若しくは2人以上を対ゼギウスで捨ててでも他と倒すタイミングを合わせてゼギウスを集で叩くつもりか。そのために相手の力量を測って機を窺っている。

そうなると2対1の状況ですらゼギウスを倒すのは厳しいと庭が判断しているということだが、いよいよ人間から生まれたバケモノだな。

だが、ゼギウスだけを見ると実情はそれほど芳しくない。ゼギウスは1対1でギリギリ勝てるような魔力しか体内に残していない。残りは儂とナナシに注いでここでの勝ちを確実に取りにいった。

しかし、だからこそ全体の戦況は有利に傾いている。向こうが倒すタイミングを揃えるということはそれだけゼギウスも1対1で戦う時間が長いということ。ゼギウスは自分以外の戦場でも勝つことを選んだ。

大した玉だ。全戦場での戦力の均衡化を図り対峙する前に敵を読み切った。

庭のことを知っているとはいえ、そこまで読み切れるか不安だったがこうなれば話が早い。他の戦場が負ける前に儂とナナシが他の戦場の応援に行き勝利を掴む。

ゼギウスの読みが当たっていると確信が持てるまでは様子見をするつもりだったが、もうその必要ない。

「ナナシ、終わらせるぞ」

「はいはい。私は最初からそれでよかったんだけどね」

「お前も最初は自力で戦いたいと言っていただろうが」

「お前じゃない、ナナシ」

そうエンヴィーを無視してナナシと向き合って話す。あとはこの釣りに引っ掛かるのを待つだけだ。

「戦いの最中に余所見とは僕も随分と下に見られたね。《エンヴィー》」

早くも挑発に乗ってエンヴィーは隙が微妙に長いヘビを召喚する。

これを待っていた。それを《絶》で打ち消してナナシと声を合わせる。

「「《絶滅》」」
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