怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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138話

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グリードの《霊魂分離》によって弱き者の体から追い出された。

魂だけの状態で外に追い出されるが、即座に辺りの魔力を纏ってドラゴンの体を形成する。だが、《煉獄》の炎も取り込んだせいで魂が燃やされるような感覚だ。

あの者の狙いは始めから我だったようだが、弱き者だけでは取るに足りぬということか。弱き者もなめられているな。まぁ、実力相応ではあるが…

「ドラゴンよ、大丈夫なのか?」

「我の心配をする余裕があるなら己の心配をしろ。来てるぞ」

我の心配をして敵から目を切るとは愚かな。まだ、キツネの対処をした訳でもなかろうに。

だが、丁度いい。この炎を掻き消すついでに葬るとしよう。

「《この地に溢れる魔力よ、我が呼びかけに答え、炎を掻き消せ》」

この空間にありながら《煉獄》の炎とは違う魔力を集めて大気中の水素に合わせて水を生成する。こういった自然の摂理を無視したことは世界に悪影響を及ぼすため行いたくなかったが、この空間は世界とは隔絶した空間だ。多少の無視も問題なかろう。

生み出された水は《煉獄》の炎を呑むように広がり炎を掻き消す。その水はキツネも呑み込み消滅させると、波が引いていくようにどこかに消えていった。

そこで改めてドラゴンの体を形成し直す。《煉獄》の炎を体外に出しながらこの空間の魔力を取り込み、毒の無い体に作り変えた。

「弱き者、貴様は《龍装》を練り直せ。その間は我が戦おう」

「うむ、分かったのじゃ」

そう弱き者を離れた場所に退かしてグリードに向き合う。すると、姿はここに来た時と同じ穏やかなものに変わっていた。

「人間でも魔物でもない貴方がどうしてこの戦いに参戦したのか聞いてもいい?」

我にも弱き者と同じ手をつかうつもりか?いや、内側で揉めているから、その時間稼ぎか。それでもよかろう。こちらとて目的は同じだ。

「この戦いになど興味はない。我は世界に異を唱えているだけに過ぎぬ」

「貴方もゼギウスに惹かれたのね」

そうグリードは微笑みを浮かべる。ゼギウスに肩入れしているのか誇らしそうだ。

「何を言っておる?」

「だってそうでもなければこんな勝ち目のない戦いじゃなくて次の種を待てばいいでしょ?そうしないってことは目的が何であれゼギウスに惹かれたのよ」

ふ、惹かれたか。同じ志を持つ者が現れれば惹かれるのも当然だ。それはどれだけ先の種を待とうとも現れるとは限らぬ。そんな者が現れたのだ、心が躍らずにいられるものか。

「そうなのかもしれぬな。だが、この体になろうとも貴様如きの相手なら事足りる。この戦い、我とゼギウスだけで勝つことも不可能ではない」

「それは私たちを侮り過ぎよ。少しだけ本気を見せてあげる。《グリード》《霊魂分離》」

グリードは自分の尻尾を分け与えて8体のキツネを召喚し我を弱き者の体から追い出したスキルを使う。だが、《霊魂分離》は我にではなく、自分の胸に手を当てて使っていた。

すると、グリードの体からは8つの魂が飛び出し召喚されたキツネの体に入っていく。そのキツネたちは魂が入るとグリードと同じように人型に変わった。

これが本来の使い方のようだな。長き時を同じ体内で過ごしながら完全に混じるのを防ぐために己の体内にある魂を分離するためのものか。

「考え事なんてしてんじゃねぇよ!」

そう弱き者を一方的に攻撃していたつり目が同じように攻撃をしてくる。他は様子見に我の出方を窺っているといったところか。

「《この地に溢れる魔力よ、我が呼びかけに答え、雷鳴を轟かせたまえ》」

向かってくる蹴りを無視して詠唱をする。スキルを使ってもいない攻撃がドラゴンの鱗を貫ける訳もなく、つり目の蹴りは一切響かない。

このままでは無理と悟り、つり目は我から少し距離を取る。

「ちっ、スキルを使わねぇと無理か。《炎装・焔》」

そう足に炎を纏うと再び仕掛けてきた。

さっきと同じようにつり目が蹴りをしようとした時、天から雷鳴が轟く。その直後、雷が全グリードに向かって落ちる。我が先程、唱えたスキルだ。

つり目は足に纏った炎で防ぎ、他の個体も魔力を使って防いでいた。

我のスキルも分かっているということか。弱き者に教えるために見せ過ぎたな。

だが、これ以上のスキルを使うにはこの空間の魔力をもう少し知る必要がある。

「そろそろ私たちも動きましょうか」

「えー、面倒くさい」

「眠いからヤダ」

「そんなこと言わないの」

奥ではそんな会話が行われている。だが、1体だろうが9体だろうが関係ない。この体を貫ける高威力のスキルがなければ話にもならぬ。

面倒だの眠いだの言っていた2体を除き7体で同時に仕掛けてくる。我等のような即席の組み合わせではないだけあって視線を常に複数箇所に求められる動きをしてきた。

左右に分かれて1体、2体と飛だして仕掛けてきたかと思えば入れ替わるように違うグリードが飛び出してくる。そうやって視線を誘導して片方に対処する間にもう片方、或いは裏に控えている個体が攻撃するつもりだろう。

だが、その動きはあくまで攪乱であってこの戦闘の形勢を変えるには至らない。

《風》《雷》と2体のグリードが違うスキルを唱えて合わせる。他にも違う個体が《火》《氷》や《地》《雷》とスキルを唱えて合わせていた。

ほぉ、1個体ずつが1属性を唱えることで各属性の威力を上げたか。2属性のスキルは相手の対処が難しくなるが、威力自体は1属性よりも落ちる。

それに通常、別個体とのスキルを合わせようとすると、その過程で衝突して威力を損なう。それを元が同じ個体で同じ魔力を使っていることで衝突せずに1つのスキルに変えている。

これならば大幅に威力も貫通力も上がるだろう。

だが、所詮は1つの個体を分離して生み出したもの。我の鱗を貫くには至らぬ。

そのため特に何もすることなく体で受け止めようとすると、それらは連続で胸の同じ場所に当たった。

属性の違うスキルを1点に集めることで更に貫通力を高めようとしたようだが、無駄だ。我の体は魔力だけで構成されている。

魔力とは練る前から属性があり、それによって変換効率が変わる。だから得意なスキルの属性や系統が人それぞれ分かれているのだが、空間に溢れる魔力はそのバランスがいい。そうでなければ空間は維持できずに崩壊する。

そのため、我の体には各属性、基本4属性でバランスよく構成されている。だからスキルが直撃する時にそれに対応する属性へと変化させた。

基本4属性が合わさったものなら危なかったかもしれないが、魔力を司っていないこの者たちがそれをやっても威力が落ちるだけだ。

だが、この程度の攻撃が我に通じないのは分かっていただろう。そうなると狙いはそこに居るつり目か。

他の個体がスキルを唱える中、つり目はスキルを唱えずに正面から突っ込んできていた。それを尻尾で薙ぎ払おうとするが、飛び越えられ滑空するように蹴りが向かってくる。

だが、これだけの陽動をしてまで当てたい攻撃には見えぬ。さっきの攻撃と何も変わらない、ただ炎を纏っただけの蹴りだ。

それを受け止めながらカウンターを入れるように前足で引っ掻く。つり目の体を抉って深い傷を負わせるが我の体は鱗1つ剥がれ……ただと?

我の体から鱗が1枚剥がれ落ちた。

小細工ではなく単純な力で我の体を貫いたか。侮っていたというのは認めなければならぬな。

「痛ってぇな。この傷の対価が鱗1枚かよ」

「もう分かったでしょ?あれをやるしかないわ」

「仕方ねぇ。やるか」

到頭、奥の手を使う気になったようだな。それを打ち砕くくらいのことをしなければ弱き者はこの者に勝てなかろう。我の役目はそこまでだ。

グリードは9体が集まると空に魔力を集めて球を生成する。それは次第に大きくなっていくと、しばらくして拡大が止まった。

「《九魂》」

全員が同時にそう唱えると球は凝縮するように小さくなり、一瞬にして我の体を貫いた。
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