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140話
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「終わった…?」
グラトニーが倒れるなりシアンから安堵したような気の抜けた声が聞こえてくる。だが、まだ気を抜けるような状況じゃない。
「気を抜くにはまだ早いんじゃないかい?」
そうシアンの集中の糸を切れさせないように言葉をかけながら魔力で腕を生成する。義手とはいえ、失ったのは相当痛い。
応急処置として魔力で腕を生成したところで戦闘能力は著しく落ちる。強度が落ちるのは勿論のこと、魔力回路を乱されやすく干渉を受けやすい。ここからは私が戦闘に参加するだけ足を引っ張ることになりそうだね。
そんなことを考えながら生成した腕の固定と乱れた魔力回路の調整を兼ねてパイプを吸う。
「レイブンの方が気を抜いてるじゃないのさ」
「私はシアンと違って気を抜いてないよ。今は魔力回路の調整をしてるのが見て分からないのかい?」
「はいはい、アタイは気を抜いてました。これで満足?」
これは不味いね。シアンは達成感から気が抜けている。この解けた緊張の糸を張り直すのは難しい。それにさっきのはシアンにとって正真正銘、奥の手だった。
ここに居たところで緊張の糸が切れ奥の手も通じなかったシアンは使い物にならない。それどころか邪魔にしかならない。
「私はここで体を調整したら行くからシアンは先に他の戦場に行ったらどうだい?今ならまだカイゼルの所に間に合うかもしれないよ」
「分かった。それならアタイは先に行くよ」
そうシアンは靄の方へ走っていく。これで緊張の糸は張り直せただろう。
もし間に合えばシアンは最高潮に乗れる。ここでの勝利にカイゼルへの援助、二兎を追って二兎とも得られればシアンの自信になり一皮むける。
だが、もしカイゼルがもう負けていたらシアンは余計に戦意を喪失するかもしれない。怒り狂う可能性もあるが、冷静さを失って戦えるような相手じゃない。
それに行った時に丁度、ケリがついたら最悪だ。シアンはグラを思い出して壊れる。
だからこれは諸刃の剣だ。それでも、こうでもしないとどうにもならない。
シアンが靄に入って消えるのを待ってからもう1度、ゆっくりと紫煙を吐く。
「そろそろ起き上がってもいいんじゃないかい?邪魔者は消えたよ」
「我輩の生存に気づいていたか」
そうグラトニーは何事もなかったかのように起き上がる。だが、シアンのスキルが効いていない訳ではないだろう。
今の今まで治療をしなければならないほど致命傷を負っていた。それでもこの短時間での治療、表面は修復できても内側がズタボロなのは見え見えだ。
そもそもあのスキルは単発で高威力のスキルを扱うのに向かないシアンが高威力を出すために序破急の3段階に分けたもの。それも表面上は大した威力もなく、内側から破壊するスキルだ。
序で相手の魔力を吸収して、破で吸収した魔力に少し毒を入れて相手に取り込ませる。そして急でもう1度その毒を取り込ませて引き起こさせるアナフィラキシーのようなものだ。自分の魔力を取り込んだ分、その毒に気づきにくく、更に気づかせないために私も毒を使ってカモフラージュした。
アレは間違いなく完璧に決まっていた。そうでもなければ倒れる理由も倒したシアンを行かせる理由もない。
だからシアンと一気に叩きたいところだったが、あの気の抜けよう。少なくともこの場所ではもう使い物にならない。
「さてと、互いに重傷者同士で戦うとしようか」
「我輩の傷と貴様の傷、深さが違うぞ。そんな体で勝てると思っているのか?」
「どうだろうね。それは今から分かるんじゃないかい?」
喋っているだけグラトニーに回復する時間を与えるだけだ。だから会話を切り上げ私から仕掛ける。
パイプを吸って腕に紫煙を吹きかけ、その魔力を纏わせて接近する。
このデカい図体を相手に内側へダメージを与えなければならない。だが、魔力量も体格的にも劣っている私が正面からぶつかったところで不可能だ。それにグラトニーには《暴食》のようなスキルもある。
そうなると内側に入るしかなさそうだね。
だけど、直接狙ったところでそれを許すような相手じゃない。先ずは足元から崩そうかね。
パイプの横の部分から魔力を注ぐ。するとパイプは大きくなり両手で扱うのに丁度いい大きさになる。
「まだそんなものを隠していたのか。だが、所詮は道化の大道芸に過ぎぬ」
「その道化に踊らされたのは誰だったかな?」
「図に乗るなよ。我輩が不覚を取ったのは貴様にではない。貴様を倒しあの小娘も葬る」
そうグラトニーは拳を振り下ろす。
思っていたよりも状態は酷そうだ。内に割く魔力で手一杯で外に割く魔力はないみたいだね。それならやりようはいくらでもある。
グラトニーの拳を跳んで躱しパイプのボウルから魔力を放出する。それをグラトニーは取り込もうとせずに躱そうと動く。
これは嬉しい誤算だね。まさかスキルを取り込めないほど重症とは、それでよく立ち上がったものだ。だけど、致命的な弱点を抱えてどうにかなると思っているなら甘いね。
着地するなりパイプで足を払うように振る。それはグラトニーの左足を捉えて尻餅をつくように体勢を崩す。
「《雷槍》」
風雷の羽織を無しで雷の槍を生成する。風雷の羽織無しでは生成する速度、威力共に落ちるがそれでも構わない。それをグラトニーの顔に向けて放つ。
「道化が踊らされるのを見るのも悪くないな」
そうグラトニーは上体を起こして《雷槍》を取り込み、放出した。
まだ、取り込む余力があったのか。
予想外の行動に対応が遅れるが、一部を躱し一部をパイプのボウルで受け止める。だが、残りの《雷槍》が私の太腿を貫いた。
それでも何事もないように前進する。
一見、今の行動は私を手玉に取ったように見えるが、そうじゃない。今のはやせ我慢だ。終始見下していたグラトニーが私と同じ土俵に落ちてくることはない。
「かかったな。《風雷》」
《風雷》は私の足目掛けて飛んでくる。
狙いは私の減速かい?これで私を欺いたつもりなら闇商人をなめ過ぎだね。
相手を引きつけて罠にかける。それなのに使うスキルが既に見せた《風雷》。威力や速度を上げるなら分かるが、そういったこともない。それだと欺いた意味が半減だ。
欺いたならまだ見せていないスキルを使って相手の対応を少しでも遅らせる。それで反応が遅れたところに決定打を打つ。そこまでやらないと意味がない。
今、《風雷》を使ったのは手癖だ。咄嗟や無理をしている時に頼りたくなるのは使い慣れたいつものスキルで、それは追い込まれた状態なら庭だろうが誰だろうが関係ない。
だが、《風雷》を躱してはこの決定機を逃す。
グラトニーの狙い通り足で《風雷》を受け止める。足に穴が空くが、それでも足は止まらない。
そのまま接近して魔力を腕全体に集約して掌底の構えで振り抜く。
「貴様の読みは見事だ。だが、それでは届かない」
振り抜いた掌はグラトニーの体に取り込まれる。魔力だからスキルと同様に取り込まれたのだろう。
だが、狙い通りだ。
「《七芒星陣・大罪》」
取り込まれた腕を分散させて陣を描きそう唱える。すると、グラトニーの内側から七芒星の形をした光の柱が漏れ出して広がり、私ごと捕らえた。
これでゼギウスにはデカい借りができるね。尤も、その借りは返してもらえそうにはないけど…それでもゼギウスなら律儀に返すだろう。アイツはそういう奴だからね。
「《七芒星陣・光滅》」
柱の内側でそう唱えると、光は収縮していき1本の柱になると光と共に私とグラトニーの姿は消えた。
グラトニーが倒れるなりシアンから安堵したような気の抜けた声が聞こえてくる。だが、まだ気を抜けるような状況じゃない。
「気を抜くにはまだ早いんじゃないかい?」
そうシアンの集中の糸を切れさせないように言葉をかけながら魔力で腕を生成する。義手とはいえ、失ったのは相当痛い。
応急処置として魔力で腕を生成したところで戦闘能力は著しく落ちる。強度が落ちるのは勿論のこと、魔力回路を乱されやすく干渉を受けやすい。ここからは私が戦闘に参加するだけ足を引っ張ることになりそうだね。
そんなことを考えながら生成した腕の固定と乱れた魔力回路の調整を兼ねてパイプを吸う。
「レイブンの方が気を抜いてるじゃないのさ」
「私はシアンと違って気を抜いてないよ。今は魔力回路の調整をしてるのが見て分からないのかい?」
「はいはい、アタイは気を抜いてました。これで満足?」
これは不味いね。シアンは達成感から気が抜けている。この解けた緊張の糸を張り直すのは難しい。それにさっきのはシアンにとって正真正銘、奥の手だった。
ここに居たところで緊張の糸が切れ奥の手も通じなかったシアンは使い物にならない。それどころか邪魔にしかならない。
「私はここで体を調整したら行くからシアンは先に他の戦場に行ったらどうだい?今ならまだカイゼルの所に間に合うかもしれないよ」
「分かった。それならアタイは先に行くよ」
そうシアンは靄の方へ走っていく。これで緊張の糸は張り直せただろう。
もし間に合えばシアンは最高潮に乗れる。ここでの勝利にカイゼルへの援助、二兎を追って二兎とも得られればシアンの自信になり一皮むける。
だが、もしカイゼルがもう負けていたらシアンは余計に戦意を喪失するかもしれない。怒り狂う可能性もあるが、冷静さを失って戦えるような相手じゃない。
それに行った時に丁度、ケリがついたら最悪だ。シアンはグラを思い出して壊れる。
だからこれは諸刃の剣だ。それでも、こうでもしないとどうにもならない。
シアンが靄に入って消えるのを待ってからもう1度、ゆっくりと紫煙を吐く。
「そろそろ起き上がってもいいんじゃないかい?邪魔者は消えたよ」
「我輩の生存に気づいていたか」
そうグラトニーは何事もなかったかのように起き上がる。だが、シアンのスキルが効いていない訳ではないだろう。
今の今まで治療をしなければならないほど致命傷を負っていた。それでもこの短時間での治療、表面は修復できても内側がズタボロなのは見え見えだ。
そもそもあのスキルは単発で高威力のスキルを扱うのに向かないシアンが高威力を出すために序破急の3段階に分けたもの。それも表面上は大した威力もなく、内側から破壊するスキルだ。
序で相手の魔力を吸収して、破で吸収した魔力に少し毒を入れて相手に取り込ませる。そして急でもう1度その毒を取り込ませて引き起こさせるアナフィラキシーのようなものだ。自分の魔力を取り込んだ分、その毒に気づきにくく、更に気づかせないために私も毒を使ってカモフラージュした。
アレは間違いなく完璧に決まっていた。そうでもなければ倒れる理由も倒したシアンを行かせる理由もない。
だからシアンと一気に叩きたいところだったが、あの気の抜けよう。少なくともこの場所ではもう使い物にならない。
「さてと、互いに重傷者同士で戦うとしようか」
「我輩の傷と貴様の傷、深さが違うぞ。そんな体で勝てると思っているのか?」
「どうだろうね。それは今から分かるんじゃないかい?」
喋っているだけグラトニーに回復する時間を与えるだけだ。だから会話を切り上げ私から仕掛ける。
パイプを吸って腕に紫煙を吹きかけ、その魔力を纏わせて接近する。
このデカい図体を相手に内側へダメージを与えなければならない。だが、魔力量も体格的にも劣っている私が正面からぶつかったところで不可能だ。それにグラトニーには《暴食》のようなスキルもある。
そうなると内側に入るしかなさそうだね。
だけど、直接狙ったところでそれを許すような相手じゃない。先ずは足元から崩そうかね。
パイプの横の部分から魔力を注ぐ。するとパイプは大きくなり両手で扱うのに丁度いい大きさになる。
「まだそんなものを隠していたのか。だが、所詮は道化の大道芸に過ぎぬ」
「その道化に踊らされたのは誰だったかな?」
「図に乗るなよ。我輩が不覚を取ったのは貴様にではない。貴様を倒しあの小娘も葬る」
そうグラトニーは拳を振り下ろす。
思っていたよりも状態は酷そうだ。内に割く魔力で手一杯で外に割く魔力はないみたいだね。それならやりようはいくらでもある。
グラトニーの拳を跳んで躱しパイプのボウルから魔力を放出する。それをグラトニーは取り込もうとせずに躱そうと動く。
これは嬉しい誤算だね。まさかスキルを取り込めないほど重症とは、それでよく立ち上がったものだ。だけど、致命的な弱点を抱えてどうにかなると思っているなら甘いね。
着地するなりパイプで足を払うように振る。それはグラトニーの左足を捉えて尻餅をつくように体勢を崩す。
「《雷槍》」
風雷の羽織を無しで雷の槍を生成する。風雷の羽織無しでは生成する速度、威力共に落ちるがそれでも構わない。それをグラトニーの顔に向けて放つ。
「道化が踊らされるのを見るのも悪くないな」
そうグラトニーは上体を起こして《雷槍》を取り込み、放出した。
まだ、取り込む余力があったのか。
予想外の行動に対応が遅れるが、一部を躱し一部をパイプのボウルで受け止める。だが、残りの《雷槍》が私の太腿を貫いた。
それでも何事もないように前進する。
一見、今の行動は私を手玉に取ったように見えるが、そうじゃない。今のはやせ我慢だ。終始見下していたグラトニーが私と同じ土俵に落ちてくることはない。
「かかったな。《風雷》」
《風雷》は私の足目掛けて飛んでくる。
狙いは私の減速かい?これで私を欺いたつもりなら闇商人をなめ過ぎだね。
相手を引きつけて罠にかける。それなのに使うスキルが既に見せた《風雷》。威力や速度を上げるなら分かるが、そういったこともない。それだと欺いた意味が半減だ。
欺いたならまだ見せていないスキルを使って相手の対応を少しでも遅らせる。それで反応が遅れたところに決定打を打つ。そこまでやらないと意味がない。
今、《風雷》を使ったのは手癖だ。咄嗟や無理をしている時に頼りたくなるのは使い慣れたいつものスキルで、それは追い込まれた状態なら庭だろうが誰だろうが関係ない。
だが、《風雷》を躱してはこの決定機を逃す。
グラトニーの狙い通り足で《風雷》を受け止める。足に穴が空くが、それでも足は止まらない。
そのまま接近して魔力を腕全体に集約して掌底の構えで振り抜く。
「貴様の読みは見事だ。だが、それでは届かない」
振り抜いた掌はグラトニーの体に取り込まれる。魔力だからスキルと同様に取り込まれたのだろう。
だが、狙い通りだ。
「《七芒星陣・大罪》」
取り込まれた腕を分散させて陣を描きそう唱える。すると、グラトニーの内側から七芒星の形をした光の柱が漏れ出して広がり、私ごと捕らえた。
これでゼギウスにはデカい借りができるね。尤も、その借りは返してもらえそうにはないけど…それでもゼギウスなら律儀に返すだろう。アイツはそういう奴だからね。
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