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150話
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プライドとの戦闘が終わり庭の屋敷のある場所に戻ってきていた。
グラトニーとプライド、流石に2戦もこなすと体力も魔力もほとんど残っていない。だが、靄の先でみんなが戦っているのにアタイだけ休む訳にはいかない。
「でも、どこに行けばいいのさ…」
黄色い靄から戻ってきて、その前は緑色の靄に居た。その2つを除いてもまだ4つの靄が残っている。
アタイはカイゼルの次に靄に入ったから誰がどこに入ったかはハッキリとは分からない。予定通りにいったならメナドールとエストが菫色の靄、ナナシとゲンが青色の靄、アルメシアとドラゴンが橙色の靄、そしてゼギウスが赤色の靄に入ったはずだ。
そうなると赤色の靄以外に行くべきだ。アタイがグラトニーとの戦闘から戻ってきた時にはここに戦闘痕があった。だからゼギウスは今頃、3体目と戦っているのだろう。アタイが2体と戦ったことを考えればあり得る話だ。
え…?じゃあ誰が負けたのさ…
カイゼルの所に行く前のことを思い出す。ここの戦闘痕はカイゼルが負けたからではなかった。
残っている靄は菫、青、橙…誰が負けた可能性も考えたくはないがナナシとゲンなら…。そう考えてしまう。
2人はその中だとどこよりも安定していてどこよりも強い。だからあの2人が負けるのは考えにくい。だけど、あの2人が負けたとしても死にはしない。それに魔力体が無力化される何かがあったなら…
そう仲間の誰かが居なくなる可能性を頭から遠ざける。メナドールにエスト、アルメシア、誰が居なくなる可能性も考えたくはない。
「シアンか」
「何でこんな所で立ち止まってるの?」
嫌な予感がしながらも声のした方に顔を向けると緑色の靄からナナシとゲンが出てきた。
「な、何でアタイの居た靄から出てきたのさ…」
2人の不幸を考えてしまったことに加え、遠ざけようとした可能性が現実味を帯び動揺を隠せない。
「持ち場の戦闘が終わったから他の場所に行っていただけだ。その様子を見るにシアンも同じようだな。レイブンとは別行動をしているのか?」
「アタイの方が軽傷だったから先に違う戦場に行ったんだけど、そっちに居なかった?」
「誰もいなかったよ」
2人が見ていないならもう違う靄の先へ行ったのだろう。だが、あの傷で庭を相手に戦えるのだろうか。いや、レイブンなら何とかしそうだ。アタイがこんなこと考えていると知ったら「人のこと考えてる余裕があるなら違う戦場に行ったらどうだい?」とでも言われる気がする。
っていうか、何でこんなにレイブンのこと考えてるのさ…共闘したせいで仲間意識でも生まれてしまったようだ。気持ち悪い。
「さっきまでアタイが黄色の靄に居てゼギウスも心配ないだろうから行くなら菫か橙だと思うけど二手に分かれる?」
「いや、同じ場所に行った方がいいだろう。無駄に戦力を分散して両方で負ける可能性を生むより1ヶ所に集めて確実に勝利を掴む方がいい。それに今の儂等は大した戦力にはなれない」
言われてみれば2人の体から感じる魔力が弱い。それだけ出し切って戦ったのだろう。アタイも万全とは程遠い。
それを考えるにゲンの提案に乗った方がいい。だが、1ヶ所を捨てるというような言い方が引っ掛かる。それにアタイが神経質になっているのかカイゼルのことを触れてこないのも興味が無いように見えた。
「カイゼルのこと聞かないんだね。気を遣ってるなら必要ないさ」
「別に気を遣っているつもりはない。ここに居ないということはそういうことなのだろう。靄の選択肢を聞けば分かる話だ。それに想定の範囲内だからな」
「どういうことさ」
「結果以外、どうでもいいってこと。別にカイゼルが負けるのは1人を選んだ時点で分かってたでしょ。その分かってた結果にいちいち反応するだけ時間の無駄で感傷に浸るのは全部終わってから。戦場が残ってるのにこうやって話してる時間も無駄って意味だよ」
その言葉に頭の中で何かがプチンと切れる。言っていることはまだ理解できるがこの言い方は見過ごせない。
「その言い方は何さ!」
気づけばナナシの胸座を掴んでいた。ナナシの小さな体は簡単に持ち上がる。
「離してよ。じゃないと消すよ?」
「止めんか」
そうゲンが間に入ろうとするが止まれない。さっきの言葉は看過できない。
「アンタ、ゼギウスが同じ状況でも同じこと言えるの?」
「そもそも前提としてゼギウスは負けないけど、言えるよ。っていうか、全員が生きて帰れると思ってたの?それなら庭をなめ過ぎだよ。当然の出来事に対して一喜一憂するほど暇じゃないの」
「喧嘩売ってるなら買うよ」
「私は事実を言ってるだけ。いい加減、離してよ。《滅炎》」
胸座を掴んでいるアタイの手をナナシは炎を纏った手で掴む。が、その炎を《暴食》で吸収する。吸収したというのに手は熱くなり思わず離してしまう。
ナナシの追撃に備えて少し距離を取り腰からクナイを取り出して構える。
「やるなら始めから言うべき、さ!」
そうクナイを投げようとすると、ゲンにクナイを持った手を上から押さえられ止められる。
「いい加減にしろ。ナナシも無駄に魔力を使うな」
「私に命令するな!《滅水》《滅風》《滅土》《滅氷》《滅雷》」
上から言われたことに腹を立てたのか怒り狂ったかのようにスキルを連発してくる。それを《軽業》を使ってゲンよりも前に出て《暴食》で吸収した。
やはりナナシは只者ではない。これだけ魔力が少ないというのに《暴食》で吸収した手が震えている。本能があのスキルに怯えているのだ。
「ナナシ!場を弁えろ!」
「私に命令するな!次、私に命令したらゲンも消すよ」
とても一緒に戦ったとは思えないような緊迫した空気になる。
「ナナシ、少し仕置きが必要か?」
「あのさぁ、今まではゼギウスの一部だから大目に見てたけど調子に乗らない方がいいよ。私はゼギウスの命令には従うけど、他に命令されるのは不愉快だから」
戦闘が始まると思い身構えようとすると、ナナシは反転して橙色の靄に入って行った。
「後を追うか?」
「勘違いしないでほしいけど、アンタも同じさ」
自分は怒りの対象に含まれていないと思っているゲンに釘を刺す。元を正せばこの状況を作ったのはゲンだ。
「はぁ…青いな。儂はいつから子守りを任されるようになったのだ…」
「喧嘩売ってるなら買うよ」
「事実を言っているだけだ。庭という強敵を相手に全員が生存するのは困難だというのは始めから分かっていた。それなのに仲間の死にいちいち動揺していては敵に対して隙を作るだけだ。それは生きている仲間の犠牲を増やす。だから感情を吐き出すのは全てが終わってからだ」
ゲンもナナシと同じことを言う。きっと、ナナシもゲンも言っていることは正しい。乱れた精神を立て直すのが難しければ、そんな状態で戦うのは以ての外だ。だから精神を乱さないようにする。
だけど、それを目の当たりにして想いを受け取ったアタイがそれを肯定しちゃいけない。それは受け取った想いを糧に戦ってきたアタイ自身も想いを託してくれた人たちのことも否定することになる。
「アタイには理解できないね。でも、それと合理的な判断をするかどうかは別さ」
そうナナシの入って行った橙色の靄ではなく菫色の靄に入って行く。
橙色の靄の先にはゼギウスかレイブンのどちらかががいるだろうと目の前の確かな情報ではなく不確かな憶測に身を委ねる。ゼギウスもレイブンもこの先に居るかもしれないのに、その可能性からは目を背けていた…
グラトニーとプライド、流石に2戦もこなすと体力も魔力もほとんど残っていない。だが、靄の先でみんなが戦っているのにアタイだけ休む訳にはいかない。
「でも、どこに行けばいいのさ…」
黄色い靄から戻ってきて、その前は緑色の靄に居た。その2つを除いてもまだ4つの靄が残っている。
アタイはカイゼルの次に靄に入ったから誰がどこに入ったかはハッキリとは分からない。予定通りにいったならメナドールとエストが菫色の靄、ナナシとゲンが青色の靄、アルメシアとドラゴンが橙色の靄、そしてゼギウスが赤色の靄に入ったはずだ。
そうなると赤色の靄以外に行くべきだ。アタイがグラトニーとの戦闘から戻ってきた時にはここに戦闘痕があった。だからゼギウスは今頃、3体目と戦っているのだろう。アタイが2体と戦ったことを考えればあり得る話だ。
え…?じゃあ誰が負けたのさ…
カイゼルの所に行く前のことを思い出す。ここの戦闘痕はカイゼルが負けたからではなかった。
残っている靄は菫、青、橙…誰が負けた可能性も考えたくはないがナナシとゲンなら…。そう考えてしまう。
2人はその中だとどこよりも安定していてどこよりも強い。だからあの2人が負けるのは考えにくい。だけど、あの2人が負けたとしても死にはしない。それに魔力体が無力化される何かがあったなら…
そう仲間の誰かが居なくなる可能性を頭から遠ざける。メナドールにエスト、アルメシア、誰が居なくなる可能性も考えたくはない。
「シアンか」
「何でこんな所で立ち止まってるの?」
嫌な予感がしながらも声のした方に顔を向けると緑色の靄からナナシとゲンが出てきた。
「な、何でアタイの居た靄から出てきたのさ…」
2人の不幸を考えてしまったことに加え、遠ざけようとした可能性が現実味を帯び動揺を隠せない。
「持ち場の戦闘が終わったから他の場所に行っていただけだ。その様子を見るにシアンも同じようだな。レイブンとは別行動をしているのか?」
「アタイの方が軽傷だったから先に違う戦場に行ったんだけど、そっちに居なかった?」
「誰もいなかったよ」
2人が見ていないならもう違う靄の先へ行ったのだろう。だが、あの傷で庭を相手に戦えるのだろうか。いや、レイブンなら何とかしそうだ。アタイがこんなこと考えていると知ったら「人のこと考えてる余裕があるなら違う戦場に行ったらどうだい?」とでも言われる気がする。
っていうか、何でこんなにレイブンのこと考えてるのさ…共闘したせいで仲間意識でも生まれてしまったようだ。気持ち悪い。
「さっきまでアタイが黄色の靄に居てゼギウスも心配ないだろうから行くなら菫か橙だと思うけど二手に分かれる?」
「いや、同じ場所に行った方がいいだろう。無駄に戦力を分散して両方で負ける可能性を生むより1ヶ所に集めて確実に勝利を掴む方がいい。それに今の儂等は大した戦力にはなれない」
言われてみれば2人の体から感じる魔力が弱い。それだけ出し切って戦ったのだろう。アタイも万全とは程遠い。
それを考えるにゲンの提案に乗った方がいい。だが、1ヶ所を捨てるというような言い方が引っ掛かる。それにアタイが神経質になっているのかカイゼルのことを触れてこないのも興味が無いように見えた。
「カイゼルのこと聞かないんだね。気を遣ってるなら必要ないさ」
「別に気を遣っているつもりはない。ここに居ないということはそういうことなのだろう。靄の選択肢を聞けば分かる話だ。それに想定の範囲内だからな」
「どういうことさ」
「結果以外、どうでもいいってこと。別にカイゼルが負けるのは1人を選んだ時点で分かってたでしょ。その分かってた結果にいちいち反応するだけ時間の無駄で感傷に浸るのは全部終わってから。戦場が残ってるのにこうやって話してる時間も無駄って意味だよ」
その言葉に頭の中で何かがプチンと切れる。言っていることはまだ理解できるがこの言い方は見過ごせない。
「その言い方は何さ!」
気づけばナナシの胸座を掴んでいた。ナナシの小さな体は簡単に持ち上がる。
「離してよ。じゃないと消すよ?」
「止めんか」
そうゲンが間に入ろうとするが止まれない。さっきの言葉は看過できない。
「アンタ、ゼギウスが同じ状況でも同じこと言えるの?」
「そもそも前提としてゼギウスは負けないけど、言えるよ。っていうか、全員が生きて帰れると思ってたの?それなら庭をなめ過ぎだよ。当然の出来事に対して一喜一憂するほど暇じゃないの」
「喧嘩売ってるなら買うよ」
「私は事実を言ってるだけ。いい加減、離してよ。《滅炎》」
胸座を掴んでいるアタイの手をナナシは炎を纏った手で掴む。が、その炎を《暴食》で吸収する。吸収したというのに手は熱くなり思わず離してしまう。
ナナシの追撃に備えて少し距離を取り腰からクナイを取り出して構える。
「やるなら始めから言うべき、さ!」
そうクナイを投げようとすると、ゲンにクナイを持った手を上から押さえられ止められる。
「いい加減にしろ。ナナシも無駄に魔力を使うな」
「私に命令するな!《滅水》《滅風》《滅土》《滅氷》《滅雷》」
上から言われたことに腹を立てたのか怒り狂ったかのようにスキルを連発してくる。それを《軽業》を使ってゲンよりも前に出て《暴食》で吸収した。
やはりナナシは只者ではない。これだけ魔力が少ないというのに《暴食》で吸収した手が震えている。本能があのスキルに怯えているのだ。
「ナナシ!場を弁えろ!」
「私に命令するな!次、私に命令したらゲンも消すよ」
とても一緒に戦ったとは思えないような緊迫した空気になる。
「ナナシ、少し仕置きが必要か?」
「あのさぁ、今まではゼギウスの一部だから大目に見てたけど調子に乗らない方がいいよ。私はゼギウスの命令には従うけど、他に命令されるのは不愉快だから」
戦闘が始まると思い身構えようとすると、ナナシは反転して橙色の靄に入って行った。
「後を追うか?」
「勘違いしないでほしいけど、アンタも同じさ」
自分は怒りの対象に含まれていないと思っているゲンに釘を刺す。元を正せばこの状況を作ったのはゲンだ。
「はぁ…青いな。儂はいつから子守りを任されるようになったのだ…」
「喧嘩売ってるなら買うよ」
「事実を言っているだけだ。庭という強敵を相手に全員が生存するのは困難だというのは始めから分かっていた。それなのに仲間の死にいちいち動揺していては敵に対して隙を作るだけだ。それは生きている仲間の犠牲を増やす。だから感情を吐き出すのは全てが終わってからだ」
ゲンもナナシと同じことを言う。きっと、ナナシもゲンも言っていることは正しい。乱れた精神を立て直すのが難しければ、そんな状態で戦うのは以ての外だ。だから精神を乱さないようにする。
だけど、それを目の当たりにして想いを受け取ったアタイがそれを肯定しちゃいけない。それは受け取った想いを糧に戦ってきたアタイ自身も想いを託してくれた人たちのことも否定することになる。
「アタイには理解できないね。でも、それと合理的な判断をするかどうかは別さ」
そうナナシの入って行った橙色の靄ではなく菫色の靄に入って行く。
橙色の靄の先にはゼギウスかレイブンのどちらかががいるだろうと目の前の確かな情報ではなく不確かな憶測に身を委ねる。ゼギウスもレイブンもこの先に居るかもしれないのに、その可能性からは目を背けていた…
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