怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

文字の大きさ
151 / 185

149話

しおりを挟む
弱き者にしては上手く虚を衝いたが、グリードの魔力が乱れていない。致命傷じゃないにしても深い傷を負った者は魔力に乱れが生じるのだが、今のグリードにその様子はない。

つり目の者は《グリード》とやらで召喚された魔力のキツネにグリードの魂を移したものだから核を破壊されない限りは乱れが生じないのも不思議ではないが、今、弱き者が貫いた垂れ目の者は違う。

あの者は召喚した側、つまり生身の体を持っている。それが胴体に穴を空けられて平然としているなどあり得ない。

「全く、やってらんねぇよな」

「勝手に動く奴が居るからこうなる」

「あ?喧嘩売ってんのか?」

「事実を言っているだけ」

そう内輪揉めが始まった。元から内々で意思統一はできていなかったから不思議ではないが、その言葉の節々からは弱き者に対しての余裕が感じられる。

だが、これは悪い状況ではない。向こうが揉めている間に《龍装》の修復をしてより強固なものに変えられる。

「こら、仲間同士で揉めないの」

傷をつり目の者の時と同じように今度は自身の塞ぐと垂れ目の者が会話に割って入る。

「うるせぇ。お前が出し惜しみするからこうなってんだろ」

「あら、そんなこと言うの。責任転嫁は良くないわよ」

「あー、怒らせた」

「どうでもいいけど早く終わらせてよ」

「そうね。もう終わらせましょうか」

色々な者が喋りながらも最後に垂れ目の者が締め括ると9体のグリードは垂れ目の者に吸収されるように1体に戻った。

(弱き者、警戒しろ!)

今の弱き者なら感じ取っているだろうが、グリードの魔力の変化を伝える。

ここに来た時とは魔力の形質が違う。落ち着いていたような魔力は纏まりがなく暴れている。姿も垂れ目の者が表から退いたのか幼いような顔立ちになり心なしか体も小さくなっていた。

「今度は私と遊ぼっか」

無邪気な笑顔に合った声からグリードは接近してくる。が、その速さに弱き者は対応できていない。

弱き者は一瞬にして懐まで潜り込まれ蹴り上げられる。我を取り込み《龍装》は強化されているというのに簡単に蹴り上げられた。

魔力量が増えた訳でも魔力を大量に使った力技という訳でもない。それなのにこの者はいとも簡単に弱き者を吹っ飛ばした。

所詮は自然の魔力を操れなくなり自己が生成した魔力しか使えない矮小な種だと思っていたが、体の主導権が変わるだけでここまで能力が変わるとは現行の種も面白いではないか。

弱き者も宙に飛ばされると瞬時に翼を広げ空中で体勢を整える。視界には捉えていないが、背後に回り込まれていることには気づいているようだ。

「そこじゃ!《龍槍》」

尻尾を槍で突くように背後に向かって伸ばす。

「遅いよ」

しかし、伸ばした尻尾はグリードに掴まれると地面に向かって投げられる。それは、多少違えどつり目の最初の攻撃をなぞっているようだ。

「なめ過ぎじゃ!《暴風龍》」

そのことに気づいていたのか弱き者は先読みして《暴風龍》を置く。翼で巻き起こされた風は龍の形をしていて虚空へと向かうと、その先にグリードが現れた。

「だーかーらー、遅いよ」

完璧に捉えたかと思われた《暴風龍》はすり抜けるように躱されグリードは弱き者の目の前に現れる。

「んー……こっちの方が面白そうだからこっちと戦おうっと。《霊魂転送》」

戦闘中にもかかわらず、弱き者の目の前で玩具を吟味するように見ていた。そのふざけた態度に弱き者が爪で引っ掻こうとするが、当たらない。

吟味を終えたグリードがスキルを唱えながら掌底を打ち込むと、弱き者は引っ掻いた直後というのもあり躱せなかった。

(おじさん、私と戦おうよ)

そう弱き者の内側からさっきまで表に居たグリードの声が聞こえてくる。どうやら今のスキルで強引に弱き者の内側に魂を送り込んできたようだ。

(弱き者、この者の相手は我がする。だから弱き者は外に集中しろ)

(分かったのじゃ)

俯瞰していた場所からただの白い空間、精神世界に移動する。そこへ移動すると魂しかなかった我に体が形成された。

ここは体の主導権を握る者を決めるための場所だ。

この空間では魔力量や肉体の強度といった全ての情報が宿主の能力を最大値にして己の精神力で決まる。故に戦い方には工夫が必要となる。

少し待つと、さっきまで表に居たのと変わらない幼い容姿のグリードが現れる。ただ、1つ違うのは9つあった尻尾が1つになっていた。

(始めるとするか)

(うん!)

返事をするなり速攻で仕掛けてくる。様子見かなめてかかって来たのか表で弱き者に対してやったのと同じような動きをしてきた。

懐まで潜り込まれ蹴り上げられるが、その瞬間に受ける場所を重く硬く作り変える。

(重っ…凄いね。じゃあ今度は、《暴風龍》)

バックステップで距離を取ると尻尾でいくつもの風を巻き起こし《暴風龍》を再現してきた。だが、所詮は再現、弱き者のスキルを再現したところで大したことはない。大量に現れた《暴風龍》を必要最小限だけ受け止める。

(ダメか…じゃあ今度はこっち!《炎装・焔》)

通用しないと悟るなり今度は炎を体に纏って接近戦に持ち込んできた。

前後左右、様々な場所な角度から攻撃を仕掛けてくる。だが、ただ炎を纏った程度の攻撃ではドラゴンの鱗は貫けない。

通用しない攻撃を最小限の防御で受け続ける。その無駄で小さな攻撃を受け続けるこの光景は師弟のような親子のような間柄に見えるのだろうとふと思った。

(おじさん強いね!何でこんな所にいるの?)

(この戦いに勝つためだ)

(ふーん。それならおじさんが主導権握った方が強そうなのに)

的確にいいところを衝いてくる。この者が言うように我が弱き者から体の主導権を奪えば事は簡単に進むだろう。だが、それでは意味がない。後に訪れる障害を弱き者が乗り越えられなくなる。

(強さ以外にも重要なものがあるということだ)

(そっか、じゃあ私と同じだね)

そう眩しい笑顔を浮かべると接近戦を再開する。だが、こんな茶番にこれ以上、付き合うつもりはない。

先読みして次の攻撃場所に向かって爪で引っ掻く。すると、爪が丁度グリードの顔の高さに到達したところでグリードが現れる。

完全に先読みしたつもりだったが、弱き者の《暴風龍》の時と同じようにすり抜けるように爪を掻い潜られた。

(おっとっと…危ない危ない。でも、やっとかかってくれたね。《炎狐》)

そうスキルを唱えるとグリードの体は炎に変わる。これを狙っていたようだが、狙っていたのは我とて同じことだ。

この者はこの空間での戦い方を、精神力が全てを決めるということの意味を分かっていない。

この空間内での全ての行動には精神を消費する。それは表では分けられていたエネルギーの消費が全て統一されるということだ。

だから表と同じように動けば瞬く間に精神は無くなりこの空間で体を保てなくなる。

それを分かっている我は特に変わったことをする訳でもなく防御に意識を集中してグリードの攻撃を受け止める。

だが、予想以上に威力が高く炎は我の体に穴を空けて通り過ぎていった。

しかし、その傷はすぐに塞がる。この空間内での敵への攻撃は精神をすり減らす1つの手段でしかない。

それを表すように炎から実体に戻ったグリードの体は魔力が薄くなっていた。弱き者の体の情報を知らずにスキルを多用したのだから当然だ。

そこへ両爪でグリードの体を引っ掻くとグリードは反応するのが精一杯で動くこともできずに体は脆く砕けていく。

(あれ、してやられちゃったな。でも、表では私勝ちだね)

そう言うとグリードは消えていった。消滅するギリギリのところでこの体から離脱したようだ。

だが、そんなことはいい。

最後の言葉が気になり表に目を向けると弱き者は倒れていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...