怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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148話

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少し離れた場所で《龍装》を完全なものにするべく自然の魔力を取り込んでいると、視界の先でドラゴンの体が貫かれていた。

そのドラゴンの体を貫いただろう球体は勢いそのままに我の方に向かってくると、目の前で消滅する。そこでようやく球体の存在に気づいた。

な、何が起こったのじゃ?今の球体は何じゃ?それよりも、ドラゴンがやられた…?

あまりにも一瞬の出来事に状況が呑み込めぬ。というのも、ドラゴンの背中越しだったのに加え自然の魔力を取り込むのに集中していたこともあり何が起こったのかは全く分からなかったのだ。

我とは比べ物にならないほど強固な《龍装》が貫かれた。その事実に驚きを隠せぬ。その動揺で《龍装》に綻びが生じる。

「これで終わりね。《風雷》」

貫通したドラゴンの体越しに《風雷》が向かってきた。

ドラゴンの体が貫かれたという衝撃にグリードはドラゴンの体を挟んだ奥に居るという油断、その2つが重なって《風雷》への反応が遅れる。

慌てて《龍装》を修復しようとするが、間に合わない。少しでも傷を浅くしようと体を動かそうとするが、それも間に合いそうもない。

絶望的な状況だったが、《風雷》が我の体に届くことはなかった。

「この程度で我を倒せたと思ったのか?」

そうドラゴンの声が聞こえてくる。《風雷》はドラゴンの体に空いた穴を通過すると、ドラゴンの尻尾に弾かれたのだ。

「まだ動けるとは思わなかったわ。魂魄はかなり削ったはずよ?」

「貴様等が思う程やわではないということだ」

「…死にぞこないの癖に言ってくれるのね」

「その死にぞこないすらも倒せぬ貴様は何になるのだろうな」

表で声に出して話しながら、ドラゴンは念話で我の内側にも話しかけてくる。

(弱き者、我のこの体も長くはもたぬ)

(なっ、それではどうするのじゃ?)

(取り乱すでない。この体と言っただろう。我自身は滅びぬ)

(そういうことは早く言わぬか!)

もう助からぬと思ったではないか!ゼギウスもそうだが、この者も言葉が足りぬ。今は戦闘の最中だから仕方ない一面もあるが、それでも言葉が足りぬ。

(だが、状況が芳しくのは確かだ。今の体が消え、弱き者の体に戻るのをあの者は見逃してはくれないだろう)

だからといって、我が回収に行くのを許してくれるような敵でもない。《龍装》の乱れた今、それを試みるのは自殺行為に他ならぬ。

(では、どうするのじゃ?)

(使いたくはなかったが、奥の手を使う)

(そんなものがあるなら早く言わぬか!)

言葉が足りないどころか隠し球まであるとはどこまで秘密主義なのじゃ。

(弱き者が1人で倒せればこのような事態にはならなかったのだがな…)

そう言われると返す言葉もない。事実、ドラゴンから学んだものを何1つ出し切れておらぬ。

(まぁ、良い。我が真名を弱き者に教えてやろう)

(今更そんなことを聞いて何になるのじゃ?)

今更、ドラゴンの名を聞いたところで何かが変わるとは思えぬ。だが、この状況とはいえ諦めるとも思えぬ。

(言ったであろう、我等ドラゴンにとって名は重いと。我等ドラゴンが真名を教えるのはその者への服従を意味する。ドラゴンはより強い者の一部となることで、より強い個体を生み出してきた。それを今ここで行う)

この者がやむを得ぬ状況とはいえ我に服従する?何かの聞き間違いだろうか?そんなものドラゴンという種族に誇りをもっているこの者が提案するとは思えぬ。

(今、何て言ったのじゃ?)

(頭が弱いとは思っていたが、ここまでとはな…。我の真名を弱き者に教え服従することで力を与えると言ったのだ)

聞き間違いではなかった。まさか、この者がそこまでこの戦いに懸けていようとは思いもしなかった。

(お主はそれでよいのか?何度も服従先を変えられる訳でもなかろう)

(だから使いたくなかったと言ったであろう。だが、ドラゴンの最後の生き残りとしてここで負ける汚名は残せぬ)

種族の誇りが故の提案だったか。この者らしいな。それなら我が断る理由はない。

(うむ、分かったのじゃ)

(我が真名を唱えよ。我が名はドラグニル、最強のドラゴン也)

そこで念話が終わりドラグニルの方へ目を向けると、グリードの上空には巨大な魔力の球体ができていた。

「《九魂》」「《ドラグニル》」

グリードがスキルを唱えるのと同時にドラグニルの名を唱える。

魔力の球体が小さくなり一瞬にしてドラグニルの体を貫く。だが、ドラグニルの体は光に変わり我の体を覆った。

どうやら間に合ったようじゃ。

光は我の体を覆うと《龍装》を修復しただけでなくより強固なものに変え姿も一回り大きくなっていた。変化はそれだけでなくこの空間に溢れる魔力が可視化される。

「雰囲気が変わったわね」

「んなことどうでもいいだろ。試しゃ全て分かる」

つり目が単独で正面から突っ込んでくる。その対処に体が自然と動いた。

「《龍王の咆哮》」

迎え撃つように《龍王の咆哮》を放つが、今までのそれとは違った。

溜めが無く魔力も抑えめで撃ったにもかかわらず、威力は1番高い。それは自身の魔力だけでなくこの空間の魔力が取り込まれたのと今まで色んな人に指摘された無駄が無くなったからだろう。

放たれた《龍王の咆哮》はつり目に躱す間すら与えずに遥か奥まで地面と一緒に削っていくと、つり目の腕は跡形もなく消え体に大きな穴を空けていた。

これが本当のドラゴンの力…今までとは比べ物にならぬ。

これがゼギウスや七罪、庭の者たちと肩を並べるだろう力。その絶大な力に体が震える。

(この程度な訳がなかろう。これは力の片鱗に過ぎぬ)

よかったのじゃ。我の一部になったとはいえドラグニルの意識はハッキリとあるようだ。

「クソがっ!」

「貴方が油断するからでしょ?ここからは本気で行くわよ」

そう戻ってきたつり目を諭しながら垂れ目が撫でると傷は塞がった。

「チッ、仕方ねぇな」

つり目が納得すると、グリード9体が上空に魔力を集めていく。さっきドラグニルに止めを刺そうとしたスキルだろう。この姿で見るとその禍々しさが分かる。

(弱き者よ、あのスキルは危険だ。魔力の障壁をものともせぬ)

(それならどうするのじゃ?)

この力に心のゆとりができたのか焦りがない。ドラグニルなら対処法も見つけているだろう。

(防ぐ必要などない。攻めろ。あのスキルは魔力の内にあの者たちの魂が入っておる。魂は魔力の干渉を受けずその内に入り込み他の魔力の通り道を生み出す)

説明を受けても全く分からぬ。心にゆとりができたところで急に賢くはならないようじゃ。

(理解など求めておらぬ。重要なのはここからだ。あのスキルにあの者たちの魂が入っているということは本体の魂が減っているということだ。ここまで言えば分かるな)

(その隙に本体を叩くのじゃな)

(そういうことだ)

そうと決まれば下準備が必要だ。

「《この空間に溢れる魔力よ、我の前に障壁を築き、敵の攻撃を防ぎたまえ》」

ドラゴンのスキルを使いこの空間の魔力で目の前に土の障壁を築こうとする。これがあのスキルに通用しないのは百も承知、ただの目くらましだ。

「その程度の守りで防げると思っているの?」

「物事はやってみぬことには分からぬというからな、物は試しじゃ」

話している間に我とグリードの間には障壁は築かれていき、グリードの上空の魔力も大きくなっていく。そして、我の目の前の障壁が完成したのとほぼ同時にグリードの上空に集められた魔力の球体は小さくなる。

「《九魂》」

そうグリード全員が声を合わせてスキルを唱えるよりも先に横へ移動して《龍王の咆哮》を唱える。

だが、先に移動し始めたにもかかわらず、《九魂》を躱し切れずに肩付近を貫かれる。が、そこは《龍装》の部分で内側に我の体が無いことが幸いしてか痛みはない。

それと入れ替わるように放たれた《龍王の咆哮》は障壁をものともせず突き破るとグリードの本体と思わしき垂れ目の者の体を貫いた。
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