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153話
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こっちが当たりだったか。
儂はシアンと同じ靄に入ったのだが、靄の先にはメナドールとエスト、そしてゼギウスが居た。どうやらナナシの狙いが嵌まったようだ。
儂とナナシが2人で緑の靄の先へ行っていた時は戦力の分散を考えていた。
というのも、屋敷の場所の戦闘跡に緑の靄が決着していたこと、それを考えるにゼギウスが最低1戦場、シアンが1戦場、そして儂等が1戦場を終わらせていることになり残り3戦場になる。その場合、儂とナナシを分散させれば高確率で片方はゼギウスと合流できた。
そこでゼギウスに力が余っていたら儂等の魔力体を再生成して違う戦場に行けばいい。そうすることで戦力の均衡化を図り残っている戦場全てで勝利を狙える。それか儂等をそのまま取り込みその戦場での勝利をより確実にする。
どちらにせよ儂等の残っている魔力量を考えれば集まったところで戦闘にならない。だから少しでも戦力をゼギウスの元へ戻し選択の幅を広げる。
そう考えていたのだが、屋敷の場所に戻りシアンと合流したことで考えが変わった。
カイゼルのことは残念だったが、カイゼルの戦場は片付いていたと知り戦場が1つ減った。
残り2戦場で儂とナナシとシアンの3人がいるのなら戦力を分散させるよりも集めた方がいい。
今、目の前に広がっている光景のように戦力が偏っていたとしても、その戦場での勝利の確率が上がり戦力を温存できる。仮にその間にもう片方の戦場の敵が流れてきても対応できると踏んだ。それが気に入らなければ勝てる戦力だけ残して余りはもう片方の戦場に送ればいい。
だが、逆に戦力を分散して残っている2戦場も戦力が均衡していた場合、どちらの戦場も負ける。或いは片方が勝ったとしても次戦を戦う余力がないという状況になりかねなかった。
だから避けたかったのだが、ナナシはそこに賭けた。というより、自らを犠牲にすることで選択の幅を広げた。
自分が寡兵の戦場に行き、そこで時間を稼ぐ。その間にもう片方の戦場の決着がつき応援が来るのを待つことでメナドールとシアン、アルメシア、全員の生存を狙う方に切り替えた。
その結果、自らが犠牲になるとしても…
だが、この策は保険が利いている。もし儂等の行った方の戦場が寡兵の側だった場合、ナナシだけ戻ってくることで3人が同じ靄に入った状況を作り出せる。そこで儂等が入った瞬間に決着でもついていない限りはナナシが戻ってくるまでの時間は稼げるからデメリットもほぼない。
しかし、これだけ上策であってもシアンが認める訳がない。戦力を分散する場合、儂とナナシがセットでシアンが1人の方を選ぶだろう。それではこの策は成り立たない。
それにシアンを説得する間にも状況が変わり間に合わなくなる可能性があった。だからナナシはシアンを煽ったのだろう。
煽ったと言っても元は揉める気すらなかっただろう。シアンが儂に食いつき、火種が起きそうなところで機転を利かせた。尤も、シアンの考えが甘いだけで儂もナナシも間違ったことは言っていない。少しだけシアンの気持ちを慮ることを止めただけだ。
その結果、シアンがそういった私情を挟み儂がシアンの方が使えると判断してシアンについて行くと分かっていたのだろう。そうでなかったら輪を乱したナナシの責任だ。
しかし、状況はナナシが狙っていたほど芳しくない。
メナドールは既に倒れていて戦っているゼギウスもエストも万全とは言えない。それどころかゼギウスもエストもかなり魔力量が少なく短期決戦に切り替えたのだろう。今の2人の位置関係はそういうものだ。
そこに儂等が来たことで1度、態勢を立て直す方へ考え直した。
シアンの《暴食》を考えれば妥当な判断と言えるが、少し気掛かりなことがある。
ゼギウスの魔力の半分以上、儂とナナシに割いたことを加味しても今のゼギウスは弱り過ぎている。
ゼギウスの策が嵌まったこともあり儂等の戦場はあっさり勝てたと思ったが、それも儂等への対策を捨てゼギウスへの対策に全てを注いでいたということか。それならエンヴィーの役割は儂等の魔力を削ることになり、それは結果として成功したと言える。
儂等は魔力の消費量より時間を優先した。
だが、こちらの計算が狂っている訳ではない。カイゼルの敗北は予め読めていてそこの補填はシアンが済ませた。本来ならゼギウスが済ませるはずの補填をシアンが済ませたという点ではかなり上振れしていると言ってもいい。
それでも尚、この戦況ということはそれだけ庭が強敵ということだ。儂等が対峙したエンヴィーを基準に考えると足をすくわれるな。
「儂がメナドールの容態を見る。シアンは加勢して来い」
「言われなくても分かってるさ」
そうシアンは飛び出していく。それから少し遅らせてメナドールの元へ駆け寄る。
「意識はあるか?」
「……」
問いかけるが返答はない。続いて触診に移ると簡易的に傷を塞いだ跡がある。
おそらくゼギウスが駆け付けた時には致命傷を負っていたのだろう。それをゼギウスは自らの身を代償に庇い助けたといったところか。それなら今のゼギウスの状態も頷けるが、甘すぎる。
この戦いに置ける自分の立ち位置を理解していない。
この短期間で鍛えられるだけ鍛えはしたが、それでも庭の方が格上だ。その中で唯一、ゼギウスだけは対等以上に渡り合える。その重要さを分かっていない。
向こうはたとえ1体になろうとゼギウスさえ戦闘不能に追い込んでいればどうとでも巻き返すことが可能だ。それだけの差が儂等と庭にはある。
それは上振れている現状でも同じことだ。
格下ながら格上を倒す。その過程でかなりの体力・魔力を消費している。そんな状態の者が何人いようと庭相手には渡り合えない。
それは今の儂等やシアンの状態を見れば明らかだ。
そう頭の整理をしながらメナドールの治療をするが、メナドールが眠っているのは肉体的な傷からではない。心が起きることを拒否している。
それはゼギウス以外からの呼び掛けに対しては答える気がないようにすら感じる。
だが、ただ起きるのを拒否している訳ではない。その分、体力・魔力の回復を早めている。それは敵を近くにしてできることではない。
しかし、メナドールはそれをやっている。それは一重にゼギウスへの絶対的な信頼の表れだろう。
これ以上、治療をしたところで無駄というのが分かりゼギウスたちの方へ全ての意識を向ける。すると、来た時とは逆にシアンとゼギウスが前面に立ちエストが後方に立っていた。
シアンが入ることでラストにスキルの使用を制限しながらラストの剣の間合いに入らないようにしている。それで互いに睨み合い膠着していた。
(この後はどうするつもりだ?)
そう念話でゼギウスに問いかける。この睨み合いは明らかにこちらが優位過ぎて長くは続かない。だから早い内に方針を聞いておく必要があった。
(他の戦場はどうなってる?)
(残っているのはこことアルメシアの所だけだ。儂とナナシとシアンは屋敷の場所で合流しナナシだけアルメシアの方へ行った。他は言わなくても分かるだろう)
ここまで言えばカイゼルとレイブンがどうなったかは分かるだろう。それが伝わったようでゼギウスは少し沈黙した。
(……そうか。ならメナ以外を連れてアルの方に行け)
「な…」
予想とは違い過ぎる返答に思わず声が漏れる。まさか、エストまでも連れていけと言うとは思わなかった。それはここを時間稼ぎにするということだ。
だが、それはナナシがやろうとしたのとは訳が違う。もし儂等が戻ってくるまでにゼギウスが死んでいたら終わりだ。そんな無謀なことを提案するとは思わなかった。
……いや、無謀ではないということか。ゼギウスにどんな策があるのかは分からないが、そうでもなければメナドールも連れていけと言うはずだ。無謀ならメナドールをただ犠牲にすることになる。
だが、ゼギウスは絶対にそんなことはしない。守らなければならないものを傍に置くことで儂等が戻ってくるまで生きて耐えるという確約のつもりか。
(分かった。ゼギウスに従おう)
儂はそう返答するが、向こうはそうもいかないようだ。シアンもエストも声を荒げて怒っている。
だが、その時間が無駄でしかない。
「だったらさっさと向こうを片付けて戻ってこい!」「シアン!今この間にも向こうが危機に曝されていると知れ!」
そうゼギウスのエストへ向けた言葉と儂のシアンへと向けた言葉が同時に放たれる。
それでもエストはメナドールをおいて行くことに納得がいかないようだったが、シアンが詰め寄りクナイで斬りつけると意識を失った。
シアンはそのままエストを引き摺り戻ってくると儂の前にエストを置く。
「納得した訳じゃない、ゼギウスの意思を尊重しただけさ」
そう吐き捨てて靄に入って行くシアンにエストを担いでついて行った。
儂はシアンと同じ靄に入ったのだが、靄の先にはメナドールとエスト、そしてゼギウスが居た。どうやらナナシの狙いが嵌まったようだ。
儂とナナシが2人で緑の靄の先へ行っていた時は戦力の分散を考えていた。
というのも、屋敷の場所の戦闘跡に緑の靄が決着していたこと、それを考えるにゼギウスが最低1戦場、シアンが1戦場、そして儂等が1戦場を終わらせていることになり残り3戦場になる。その場合、儂とナナシを分散させれば高確率で片方はゼギウスと合流できた。
そこでゼギウスに力が余っていたら儂等の魔力体を再生成して違う戦場に行けばいい。そうすることで戦力の均衡化を図り残っている戦場全てで勝利を狙える。それか儂等をそのまま取り込みその戦場での勝利をより確実にする。
どちらにせよ儂等の残っている魔力量を考えれば集まったところで戦闘にならない。だから少しでも戦力をゼギウスの元へ戻し選択の幅を広げる。
そう考えていたのだが、屋敷の場所に戻りシアンと合流したことで考えが変わった。
カイゼルのことは残念だったが、カイゼルの戦場は片付いていたと知り戦場が1つ減った。
残り2戦場で儂とナナシとシアンの3人がいるのなら戦力を分散させるよりも集めた方がいい。
今、目の前に広がっている光景のように戦力が偏っていたとしても、その戦場での勝利の確率が上がり戦力を温存できる。仮にその間にもう片方の戦場の敵が流れてきても対応できると踏んだ。それが気に入らなければ勝てる戦力だけ残して余りはもう片方の戦場に送ればいい。
だが、逆に戦力を分散して残っている2戦場も戦力が均衡していた場合、どちらの戦場も負ける。或いは片方が勝ったとしても次戦を戦う余力がないという状況になりかねなかった。
だから避けたかったのだが、ナナシはそこに賭けた。というより、自らを犠牲にすることで選択の幅を広げた。
自分が寡兵の戦場に行き、そこで時間を稼ぐ。その間にもう片方の戦場の決着がつき応援が来るのを待つことでメナドールとシアン、アルメシア、全員の生存を狙う方に切り替えた。
その結果、自らが犠牲になるとしても…
だが、この策は保険が利いている。もし儂等の行った方の戦場が寡兵の側だった場合、ナナシだけ戻ってくることで3人が同じ靄に入った状況を作り出せる。そこで儂等が入った瞬間に決着でもついていない限りはナナシが戻ってくるまでの時間は稼げるからデメリットもほぼない。
しかし、これだけ上策であってもシアンが認める訳がない。戦力を分散する場合、儂とナナシがセットでシアンが1人の方を選ぶだろう。それではこの策は成り立たない。
それにシアンを説得する間にも状況が変わり間に合わなくなる可能性があった。だからナナシはシアンを煽ったのだろう。
煽ったと言っても元は揉める気すらなかっただろう。シアンが儂に食いつき、火種が起きそうなところで機転を利かせた。尤も、シアンの考えが甘いだけで儂もナナシも間違ったことは言っていない。少しだけシアンの気持ちを慮ることを止めただけだ。
その結果、シアンがそういった私情を挟み儂がシアンの方が使えると判断してシアンについて行くと分かっていたのだろう。そうでなかったら輪を乱したナナシの責任だ。
しかし、状況はナナシが狙っていたほど芳しくない。
メナドールは既に倒れていて戦っているゼギウスもエストも万全とは言えない。それどころかゼギウスもエストもかなり魔力量が少なく短期決戦に切り替えたのだろう。今の2人の位置関係はそういうものだ。
そこに儂等が来たことで1度、態勢を立て直す方へ考え直した。
シアンの《暴食》を考えれば妥当な判断と言えるが、少し気掛かりなことがある。
ゼギウスの魔力の半分以上、儂とナナシに割いたことを加味しても今のゼギウスは弱り過ぎている。
ゼギウスの策が嵌まったこともあり儂等の戦場はあっさり勝てたと思ったが、それも儂等への対策を捨てゼギウスへの対策に全てを注いでいたということか。それならエンヴィーの役割は儂等の魔力を削ることになり、それは結果として成功したと言える。
儂等は魔力の消費量より時間を優先した。
だが、こちらの計算が狂っている訳ではない。カイゼルの敗北は予め読めていてそこの補填はシアンが済ませた。本来ならゼギウスが済ませるはずの補填をシアンが済ませたという点ではかなり上振れしていると言ってもいい。
それでも尚、この戦況ということはそれだけ庭が強敵ということだ。儂等が対峙したエンヴィーを基準に考えると足をすくわれるな。
「儂がメナドールの容態を見る。シアンは加勢して来い」
「言われなくても分かってるさ」
そうシアンは飛び出していく。それから少し遅らせてメナドールの元へ駆け寄る。
「意識はあるか?」
「……」
問いかけるが返答はない。続いて触診に移ると簡易的に傷を塞いだ跡がある。
おそらくゼギウスが駆け付けた時には致命傷を負っていたのだろう。それをゼギウスは自らの身を代償に庇い助けたといったところか。それなら今のゼギウスの状態も頷けるが、甘すぎる。
この戦いに置ける自分の立ち位置を理解していない。
この短期間で鍛えられるだけ鍛えはしたが、それでも庭の方が格上だ。その中で唯一、ゼギウスだけは対等以上に渡り合える。その重要さを分かっていない。
向こうはたとえ1体になろうとゼギウスさえ戦闘不能に追い込んでいればどうとでも巻き返すことが可能だ。それだけの差が儂等と庭にはある。
それは上振れている現状でも同じことだ。
格下ながら格上を倒す。その過程でかなりの体力・魔力を消費している。そんな状態の者が何人いようと庭相手には渡り合えない。
それは今の儂等やシアンの状態を見れば明らかだ。
そう頭の整理をしながらメナドールの治療をするが、メナドールが眠っているのは肉体的な傷からではない。心が起きることを拒否している。
それはゼギウス以外からの呼び掛けに対しては答える気がないようにすら感じる。
だが、ただ起きるのを拒否している訳ではない。その分、体力・魔力の回復を早めている。それは敵を近くにしてできることではない。
しかし、メナドールはそれをやっている。それは一重にゼギウスへの絶対的な信頼の表れだろう。
これ以上、治療をしたところで無駄というのが分かりゼギウスたちの方へ全ての意識を向ける。すると、来た時とは逆にシアンとゼギウスが前面に立ちエストが後方に立っていた。
シアンが入ることでラストにスキルの使用を制限しながらラストの剣の間合いに入らないようにしている。それで互いに睨み合い膠着していた。
(この後はどうするつもりだ?)
そう念話でゼギウスに問いかける。この睨み合いは明らかにこちらが優位過ぎて長くは続かない。だから早い内に方針を聞いておく必要があった。
(他の戦場はどうなってる?)
(残っているのはこことアルメシアの所だけだ。儂とナナシとシアンは屋敷の場所で合流しナナシだけアルメシアの方へ行った。他は言わなくても分かるだろう)
ここまで言えばカイゼルとレイブンがどうなったかは分かるだろう。それが伝わったようでゼギウスは少し沈黙した。
(……そうか。ならメナ以外を連れてアルの方に行け)
「な…」
予想とは違い過ぎる返答に思わず声が漏れる。まさか、エストまでも連れていけと言うとは思わなかった。それはここを時間稼ぎにするということだ。
だが、それはナナシがやろうとしたのとは訳が違う。もし儂等が戻ってくるまでにゼギウスが死んでいたら終わりだ。そんな無謀なことを提案するとは思わなかった。
……いや、無謀ではないということか。ゼギウスにどんな策があるのかは分からないが、そうでもなければメナドールも連れていけと言うはずだ。無謀ならメナドールをただ犠牲にすることになる。
だが、ゼギウスは絶対にそんなことはしない。守らなければならないものを傍に置くことで儂等が戻ってくるまで生きて耐えるという確約のつもりか。
(分かった。ゼギウスに従おう)
儂はそう返答するが、向こうはそうもいかないようだ。シアンもエストも声を荒げて怒っている。
だが、その時間が無駄でしかない。
「だったらさっさと向こうを片付けて戻ってこい!」「シアン!今この間にも向こうが危機に曝されていると知れ!」
そうゼギウスのエストへ向けた言葉と儂のシアンへと向けた言葉が同時に放たれる。
それでもエストはメナドールをおいて行くことに納得がいかないようだったが、シアンが詰め寄りクナイで斬りつけると意識を失った。
シアンはそのままエストを引き摺り戻ってくると儂の前にエストを置く。
「納得した訳じゃない、ゼギウスの意思を尊重しただけさ」
そう吐き捨てて靄に入って行くシアンにエストを担いでついて行った。
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