怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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おまけ 後処理3

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会議がお開きになった後、ドラルの城に戻ったゼギウスとララ、ルルの3人は今後について話すためにゼギウスの部屋に集まっていた。

メナを始めとする他の七英雄を交えないのは2人の本心を聞きながら話したいからだ。他にもメルダとベネッタの警護、魔物の進攻に備えるという理由もあるが、1番の理由はそれだろう。

「ご主人様の邪魔をして申し訳ありませんでした」

そう改めてララは頭を下げる。間違ったことをしたとは思っていないが、ゼギウスが自分とルルの願いを汲み取って王国領に住む人を避難させようとしてくれたのは伝わっていた。それを踏み躙ってしまったことに対する謝罪だ。

しかし、ゼギウスはそんなことは微塵も気にしていなかった。

「謝るのはそこじゃねぇだろ。何だ、あの言い訳、俺が変態みたいになったじゃねぇか」

「仕方ない。ララは冷静じゃなかった」

さり気なく自分が関係ないかのようにルルが口を挟むと、ゼギウスがツッコむ。

「何自分は関係ないみたいな言い方してるんだよ。ややこしくなった理由の半分はルルのせいだろ」

「私もあの時は冷静じゃなかった」

視線を逸らしてルルはそう言うが、その行動で嘘というのはバレバレだ。その分かりやすさにゼギウスも呆れるしかない。

「はぁ…まぁいい。それでお前たちはどうしたいんだ?」

「どうしたいと言われると難しいですが、王国領に住む方の安全は確保してもらいたいです」

その言葉にルルも「私も」と同調する。ゼギウスはララとルルの願望を聞いたのに私利私欲の無い周りを気遣ったことを言う辺り素の人の好さが出ていた。

その言葉に聞き方を間違えたと思ったのかゼギウスはより直接的に聞く。

「それだけか?王国を再興させるのもララが皇国に戻るのも今を逃したら難しいぞ?まずは遠慮せずに願望を全部言え。その中で何ができそうで何ができないかを決める」

その言葉にララとルルは考える。こうやって聞かれるまで自分たちの願望については考えていなかったようだ。

それからしばらく考えるとララが質問する。

「ご主人様はあの時、何をしようとしていたのですか?」

会議の時、ゼギウスが帝国代表になって何をやろうとしていたのかを聞く。

「あぁ、帝国を解体して自治領に戻そうとしたんだよ。まぁ、今の王国みたいな感じだな。そうなれば皇国だけで人間界全域に対する責任を持つことになる。だから責任の分散の意味も込めて王国再興を呑むと思った」

ゼギウスは何事も無いようにさらりとそう答える。そこにララは続けて質問した。

「それだと帝国に対する責任が問えなくなりませんか?」

「元から帝国自体に責任を問うつもりはねぇからな。帝国を解体してもメルダに責任を問うことはできる。それで十分だろ」

「それはメルダ様の処刑は避けられないということですか?」

その質問にはララの優しさ、というかゼギウスのような甘さが出ていた。

「別にメルダ自身に聞いて生きたいって答えたなら腐れにダミーでも用意させてそれを処刑すればいい」

「やっぱりご主人様は優しいのですね」

ゼギウスの返答が嬉しかったのかララは落ち着きのある優しい笑みを浮かべる。それが照れくさいのかゼギウスは少し早口になった。

「勘違いするなよ。今回は帝国だからだ。あそこはガルドスの独裁だってことが分かってる。その奥方だってだけでメルダにまで責任があるとは俺は思わねぇ。まぁ、メルダが生きたいと思ってるかは怪しいと思うけどな」

「だから甘いと思われてご主人様には判断を委ねられないと言われるのですよ」

追い打ちをかけられたゼギウスは逃げ場を見つけたように話を戻す。

「それで、ララとルルの願望は何だ?」

そう聞き直すと今度は会話にも混じらず真剣に考えていたルルが答える。

「やっぱり最優先は王国領に住む人の安全。その次に王国再興。今回のことで思ったけど国じゃないと護れないものがある」

「それだけか?」

その2つは織り込み済みだったのかゼギウスが更に聞くとルルは「もう1つある」と答える。

「ゼギウスに王国を支えてもらいたい。今回のことで王国に置けるゼギウスの存在の大きさを実感した」

「どの道、手伝うことにはなると思うぞ」

「そうじゃない……」

珍しくルルの歯切れが悪い。ゼギウスはその奥に何があるのか気づいていないが、ララは暖かい目で見守るように見ている。

「歯切れが悪いな。今更、遠慮はいらねぇって言っただろ?」

「分かってる。…すぅー……私の夫になって王国を導いてほしい」

「は…?」「え…?」

あまりにも想定外だったのかゼギウスもララも同じように声を漏らして開いた口が塞がらなくなる。

「ズルいです…」

少しするとララが小声でそう呟く。その声はすぐ隣にいたゼギウスにも聞き取れないほどか細かった。

「ん?今、何て言った?」

「ズルいって言ったんです!私だってご主人様のお嫁さんになりたいです!」

顔を真っ赤にしながらスカートをギュッと握り大声を出す。だが、こっちは想定内とばかりにゼギウスは「はぁ…」と呆れた溜息を漏らす。

「その反応…私は負けってことじゃないですか…」

ララは俯いてそう声を振り絞る。その目からは涙がぽつぽつと滴っていた。

「負けも何も結論から言うとどっちとも結婚する気はねぇよ」

「メナドールさんですか?それともアルメシアさん?もしかしてナナシさんですか?」

かなり食い気味にララがそう聞くと、ゼギウスは圧されたように少し引く。

「どれでもねぇよ」

「じゃあ闇商人さんですか?」

ララが引いたゼギウスに更に詰めながらそう聞くとゼギウスは更に引こうとして壁にぶつかる。

「違ぇよ。っていうか何で俺が誰かと結婚する前提なんだよ」

「だってご主人様は女誑しの天然ジゴロですから」

「…アホか」

今まで引いていたのが馬鹿馬鹿しいとばかりにゼギウスは呆れる。それはルルも思ったのか真面目な話に戻す。

「そんなことはどうでもいい。断る理由を教えてほしい」

「ルルが俺と結婚したいのは国王かそれに近い立場にするためだろ?」

「否定はしない。だけど、私がゼギウスに惹かれているのは事実。政治的な理由だけじゃない」

そうルルはゼギウスを真っ直ぐ見つめて言う。それがあまりにも真っ直ぐでゼギウスは動揺する。

「お、おう。そうか。まぁ、それは置いとくとして結婚できねぇ理由だが、俺は今回の後処理が終われば人間界から消えるつもりだ。だからララとルルをどう思ってようが結婚はできねぇ」

その言葉はゼギウスが動揺していたのを忘れてしまうほど衝撃的だった。

「どういうことですか?」

「どういうことって今、説明しただろ」

「何で人間界から消えるなんて言うのですか?」

悲しそうな目でララはゼギウスにそう問いかける。その目を見てゼギウスは言葉が足りなかったのだと気づく。

「世界には庭や元老院みたいな導き手が必要で、俺やメナ、ナナシが担わないといけないことだ。それはこっちにいながらできることじゃねぇ。この後処理は俺からララとルルにしてやれる最初で最後の贈り物とでも思っとけ。だから遠慮する必要はねぇぞ」

ララもルルもようやく会議の時にゼギウスがあんな発言をしたのかに気づく。ゼギウスは表から退くため最後にどんな汚名がついてもいいと思ったのだろう。元々、気にしない性格というのも影響しているのかもしれない。

それを聞いてララは改めてあの時、止めてよかったのだと思う。

そこからは2人とも残り短いゼギウスとの時間を楽しむように軽口を叩きながら夜が明けるまで話していた。
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