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2話「開始」
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翌日、午前7時30分。朝食やらなんやら普段の朝と変わらない行動をして昨日話のあったホールに来ていた。
配布された肌にぴちっと張り付くスーツを着てスフィア型のデバイスの前でアカウントのログインをしながらALONESTの開始を今か今かと待っている。
相変わらず敵意に満ちた視線を向けられているが、その敵意には一体感があった。昨日、俺が自室に戻ってから話し合いでもして軽い決め事でもしたのだろう。しょうもない。
今日はALONESTの初日で全員が新デバイスを初めて使うということもあり8時~12時の4時間なのに加えゲーム内の進行時間も等倍という軽く流す感じだ。ここから数日間の様子を見て全員が慣れてきたらプレイ時間を増やしゲーム内進行時間も早くするそうだ。
「それではこれよりALONESTを開始します。ハッチ開錠」
昨日のアナウンスの声と同じ声が聞こえてくるとスフィア型のデバイスの上部が開くと梯子に変形して足元に向かって伸びてくる。まるで変形ロボットのようにウィーンと音を立てながら変形するさまは周りに驚愕の声を上げさせた。
実際は音を立てなくても変形させられるのだろうがパフォーマンスとしてわざと入れたのだろう。直継はそういった浪漫のようなもの、言ってしまえば無駄なものに力を入れる癖がある。
梯子に掴まり足をかけると自動で上部へと連れていかれ、今度は内部へと少し梯子が伸びていく。それに足をかけると梯子は内部の床まで伸びていき自動で下りることができた。
正直、そこまで高低差がないため自分で上り下りした方が早いし楽だが浪漫溢れる仕組みにしたかったのだろう。それは俺も好きだ。ただ、明日からは自分で上り下りできるように調整してもらおう。
スフィア内部の床は中央付近が少し硬めで周りは沈み込むように柔らかい。その少し硬めの場所にはフルフェイスのヘッドギアが置かれていて何やらコードが伸びている。
大体どうするかは分かるがアナウンスを待つ。すると予想通り「ヘッドギアを装着してください」と指示が入る。
指示に従ってヘッドギアを被ると視界が白くなりハッチが閉まる音が聞こえた。それと同時に足元から何か抵抗感を覚え、それは次第に全身を包み込む。
見えていないがどうやら何かの液体に全身が浸かっているようだ。
これがU液か。スーツ越しだがサラサラとした液体なのは伝わって来る。
コードから酸素が供給されているため問題はないが、まさかゲームをするのに某汎用人型決戦兵器に乗っているような気分を味わえる日が来るとは思わなかった。いや、あれにはフルフェイスのヘッドギアは必要ないか。あー、ジオフロント見てみたいなー。あれこそ浪漫の塊だよな。
「それではALONESTを起動します」
そんなことを考えているとヘッドギアからアナウンスが聞こえてきて体が浮遊感に包まれる。ただ白かった視界には虹色の粒子の渦が現れてそこに吸い込まれていく。
渦を抜けるとそこには丸太に藁の塊が付けられた的に白と赤の2色で何重にも丸が描かれた的がある空間にいた。
見るからに訓練空間のそこに居ることを考えるにまだALONESTは始まっていないようだ。時間も8時前だしここで軽い操作練習をしてもいいということだろう。
6タイトル時代よりも画面はスッキリとしていて視界の左上にHPとSPのゲージがあり左下にはメニューウィンドウを呼び出すアイコンがあるだけだ。スッキリとしているのは死角が減っていていい反面、6タイトル時代にあった方位磁針やミニマップも消えていて少し不便さも感じる。というか違和感がある。
早速、操作感を試そうと視線を上下左右に動かすとアバターの一部が映る。グーチョキパーと現実で手を動かすのと同じ感覚で動かそうと試みると不自然な動作や遅延のような違和感がなく思った通りに動く。
現実ではできないようなバク宙も空中で姿勢を変えることもできる。ステータスが動きやすさに反映されているようだ。
しかし、着地のような細かい技術はステータスとは別の純粋な技術が必要なようで動きに無駄が多い。
想定よりも高い操作性に驚きながらも今度はゲームの基本的な操作の確認に移る。
メニューウィンドウの出し方やアイテムの出し入れ、武器の顕現と解除。6タイトル時代はコマンドやワンボタンで行っていた操作の確認をする。昨日自室に行ってからタブレットで軽く見た通りの操作方法で、その操作は別の動きをしながらでも行えた。
ゲーム開始は8時からでメニューを開いたときに表示されていた時間は7:40。まだ時間はあるためもう少し踏み込んだ操作の確認をする。
非詠唱スキルの簡易コマンド設定や発動、効果の終了にクールタイムの感覚。そして武器の使用感に詠唱スキル等の戦闘で重要になるものを確認したが、かなり厄介だ。
非詠唱スキルの簡易コマンドは指を動かすパターンによる登録で最初はミスがあってもすぐに慣れそうで問題ない。スキルの発動と終了、詠唱スキルに関しては6タイトル時代と変わらなかった。
しかし、スキルのクールタイムと武器の使用感は違う。
6タイトル時代はスキルのクールタイムはそのスキルのアイコンについているゲージで視覚化されていたが今は何もない。何千、何万と使ってきたスキルで通常時であればそのクールタイムは肌勘で分かるかもしれない。だが、こと戦闘時に置いては焦りによってその感覚が狂う。
そして武器に至っては最早別ゲーだ。昨日の直継の言葉にバク宙をした時からも薄々勘づいてはいたが、指一本に至るまでの操作は幅を広げるがそれ故に複雑だ。使っているのが大鎌という特殊な武器だからか思った軌道に刃を乗せるのが難しく藁の的ですら斬るのが難しい。これではとてもじゃないが実戦では使えない。
こんなことなら剣道か居合でもやっておくべきだった。いや、大鎌なら薙刀の方が近いか。違うな。こんな特殊な武器がゲーム以外でまともに使えるとは思えない。せめて剣や槌のようなスタンダートな武器にしておくべきだったか。いや、いっそのこと杖か本で完全な魔法職にしておくべきだったな。
そんなどうしようもない嘆きを心の中でしていると時間が来たのか視界が光に包まれて何も見えなくなる。
しばらくして光は収まったが視界はぼやけている。まだぼやけた目で正確な人数は分からないがサーモグラフィのような人影では10人くらいに囲まれているようだ。
時間が経って目が慣れると今いる場所と囲んでいる人の姿がハッキリとしてくる。
今いるのは黒くて艶のある石に囲まれた部屋で10人の兵士に囲まれており奥には老人と少女が立っている。兵士は何かを模したような棘々しい装飾の施された鎧を着ていて老人と少女は明らかに身分が高そうな煌びやかな服を着ていた。
兵士の練度もさることながら奥にいる老人と少女の強さは桁が違う。恰好からも上流階級なのは分かるが戦闘能力も高い。
「皆の者、下がれ」
老人は兵士を下がらせると目の前まで来て品定めをするように俺をじっくりと見つめている。今のところ敵意やスキル発動の予兆は感じないが警戒心を解かないまま指を動かして非詠唱スキルの《索敵》を発動する。
超音波のようなものでこの辺りの地形と人の居る場所が手に取るように分かる。どうやらここは城の地下のようだが、ここにいる12人を除いて他に人の気配がない。城の構造は分かることから《索敵》は正常に作動しているのは間違いないが、それなのに人の気配がないということは個人のスキルで無効にしているか本当に人がいないかだ。
「ほぉ、預言書は真であったか。して、神使殿は御1人か?」
歴戦の猛者を彷彿とさせる無数の肌傷にそれが映えるような筋肉質の良い体つき。威厳があり余裕を感じさせる声、と一目見ただけで強者と分かるオーラがこの老人にはあった。
「神使が何か、元々何人来る予定だったのかは存じませんが、神使が私を指すならこの場に来たのは私だけかと」
答えた通り《索敵》に他のプレイヤーの気配はない。どうせすぐにボロが出るだろうがなんちゃってな言葉遣いをする。
「では書き換わった預言書が正しいということか。神使とは預言書に記されているこの世界を創った創造主がお送りになった方、即ち貴殿のことだ。預言書には元々10人の神使が降臨すると記されていたのだが、7年前に預言書の内容が書き換わり降臨するのは1人となったのだ」
そう説明する老人の表情は細かく変わり息遣いも感じられる。とてもNPCには見えない。というかまだ一言だが会話が成り立っている。
これが家庭用ではなくコスパを完全に無視したデバイスの力か。視界にHPとSPのゲージにメニューアイコンもなければ異世界に転生したと言われても信じてしまいそうだ。
「なるほど。そういうことでしたらここに来るのは私だけで間違いないかと」
預言書の内容は気になるところだが言葉遣いからも神聖さが感じられ言及したところで実物を見られるとは思えない。それに今は向こうの出方を見たい。
「そうか。では神使殿に問おう、貴殿はこの世界に何をもたらす?」
答え次第ではすぐにでも腰の剣を抜いて斬り捨てるという圧を感じる。
こういった時は是非とも戦ってみたいところだが、現状のまともに武器を使えないことにこの狭い場所で接近戦を免れないことも考慮すれば勝てる確率は低い。そうなると正直に答える方が吉か。
「預言書にどう記されていたかは存じませんが、おそらく他の場所にも私と同じように神使が現れたかと。その神使を倒すことが創造主に与えられた使命であり目的。それ以外のことは考えておりません」
少しの静寂が訪れる。
老人は顎に手を当てて髭を撫でるように手を滑らせる。真偽を見定めるように真剣に見つめてくるそのさまは全てを見透かそうとしているようだ。特にやましいことはなくても目を背けたくなるが堪えていると老人は少し表情を緩めた。
「預言書通りということか。預言書には創世627年、世界には異世界より神使が降臨する。神使は他の神使を滅ぼそうと躍動し、その過程にて世界には大きな変革が齎されるであろう。そう記されていた。となると問題はその変革がこの世界にとって善きものか悪しきものかとなる訳だが……それを見極めさせてもらうぞ!」
親切に預言書の内容を話してくれたかと思えば老人は唐突に腰の剣を抜くと斬りかかって来る。
通常ならばこういったゲーム開始直後に起こる戦闘はチュートリアルでこのゲームに置ける戦闘方法を学ぶ機会なのだが、そんな気配は微塵もない。
斬り上げるように振るわれるその刃をどうにか上体を反らして躱す。だが、それは両者合意の避け方で次の攻撃が迫ってくる。
斬り上げた剣をそのまま返すように袈裟切りがくるが今度はバックステップで距離を置いて態勢を整えようとする。
しかし、それを許さないように老人は深く速い踏み込みで追撃をかけてくる。それは明らかに防御のことを一切考えていないように見え、こちらのHPを削りに来ていた。
不意打ちからの戦闘に息を吐かせぬ攻撃、戦闘能力が自分よりも高いことを想定しているようなその戦い方は普段から自分よりも強者と戦っているのを感じさせる。
思ったよりも深い踏み込みから放たれる一撃は試みようとするまでもなく回避は間に合わない。が、剣の軌道に合わせて軽く横に跳んで派手に吹っ飛ぶことはできる。
ダメージは大して軽減されないが、態勢を整えるにはそれで十分だ。派手に吹っ飛んだことで老人との間に距離が空き、ようやくスキルを発動するだけの余裕が生まれた。
「っ、《54枚が紡ぐ世界》」
ダメージをくらったことによる痛みの代用措置か体に少し圧が加わる。HPが減っている間はそれが持続するのかダメージをくらった時ほどではないがその部位に軽い違和感が残る。それにより一瞬スキルを唱えるのが遅くなったがスキルの詠唱は間に合った。
それでも一瞬遅くなったのは戦闘に置いて形勢を不利にする要素の1つであり、老人の剣が再び目の前まで迫っていた。
それを《54枚が紡ぐ世界》で出したトランプを盾にして防ぐ。トランプの大きさは敵の大きさに依存するためティ・ルナノーグ戦の時のように大きくなく手のひらサイズだが、たった1枚で老人の剣を弾いた。
防がれたことで今の攻撃偏重の戦い方には無理があると判断したのか老人は一度下がって距離を取る。
「儂の剣撃を止めるか。ならば…」
老人はわざわざ奥の手を出しますよと言わんばかりにそう呟くと懐に手を入れる。
「《52枚の障壁》」
ブラフの可能性もあるが面倒なアイテムや発動の早いスキルの可能性も考慮すると先手気味に防御スキルを発動するしかなかった。
トランプを数字毎で1枚の板にして目の前に13枚の壁を張る。
その身構えは正解だったのか老人は懐からメダルを取り出すと剣に填めて突き出す。
「《武装・龍》」
老人がそう唱えると剣の先端から具現した龍が出てくる。それはまるで生きているように体を波打たせながら口を大きく開けて襲い掛かって来る。
Kから順番に壁は最早あるのかないのか分からないほど簡単に砕け散っていく。そして最後の壁、Aすらも簡単に砕け散ると龍は目の前まで迫っていた。
Aが砕け散ると手元にはJOKERと書かれたトランプが現れる。その中央には壁を突破した龍の絵が描かれていた。
それを龍に向かって投げるとカードは相手の龍を模した龍に変わり2頭の龍は激しく衝突する。互いの腹を噛み千切り合いながら何度も衝突すると龍は2頭とも消滅した。
次の手に備えて再びトランプを展開するが老人は逆に剣を納めた。
今のが全力ということもなければ投了ということもないだろうにしたその行動の意図が読めず警戒心を強めることしかできない。それを表すように老人はどこか嬉しそうに笑っているが、それはまだ手の内を隠している余裕の表れにしか見えない。
「儂の武装が完璧に止められたのは何年振りか。して、貴殿は何故攻撃をしてこなかったのだ?他の神使と戦おうとしている貴殿が防御だけに特化しているということはあるまい」
老人の言う通りこちらから攻撃は仕掛けていない。だが、そこに深い意図はなく単にこの操作方法に慣れるまでは防御に集中するしかなかっただけだ。下手に攻撃にまで手を出そうとしては粗が出て負けかねない。それに防御に集中して相手の行動パターンや癖が分かれば余裕が出て粗のある攻撃でも仕掛けられるようになる。
要するにただのこっちの都合だが、そう答えてはこちらの評価が下がる。相手視点で俺の行動の意図は読めないのだから適当な理由を騙って対等な立場を維持した方がいい。
「理由は3つほど。1つは周りの兵士のことも考えれば攻撃に転じる余裕がなかったこと。もう1つは見るからに上流階級の貴方を殺してしまっては話し合いが不可能になること。そしてそちらからしたら私の存在は預言書にあるとはいえ侵略者のようなもの。見極めるというのであれば素直に判断を委ねようかと」
全くの嘘という訳でもない。出来る出来ないの判断は別としてその考えがあったのは事実だ。実際はすぐに不可能だと判断して防御に全シフトしたが。
「ほぉ、見た目は少年だが頭もキレるようだな。儂は貴殿を信用しよう。フィリア、こっちにおいで」
老人は後ろの方にいる少女の方を向いて手招きで呼び寄せる。緩んだ表情に優しい声音で呼び寄せる辺り随分と甘やかしているのだろう。
「儂はティノーグ皇国上皇のジーク・ドラシオンだ。今は辺境で領主をしている隠居の身だ」
そう軽く老人改めジークが名乗ると少女は1歩前に出る。
「ティノーグ皇国暫定皇位継承権第四位、ジークの孫娘、フィリア・ドラシオンです。神使様、祖父共々宜しくお願い致します」
軽装で機動力を重視に見える鎧を着ているのにフィリアはまるでロングドレスを着ているように裾を摘まむ仕草をしてお辞儀する。流石は皇族と言うべきかその動作は美しく普段からしているような慣れが窺え、ドレスすらも幻視させた。
遠目では金髪ということぐらいしか分からなかったが、フィリアは光を溜め込んでいるような碧眼に肩まで伸びた金髪、それに翼の形をした髪飾りを前髪に付けている。それは数多の戦場に赴き無数の肌傷を負ったであろうジークとは対照的でお姫様という言葉が似合う。
「私はJOKERと申します。この名は他の神使にも私であることが通じる名でファミリーネームの類はありません。コードネームのような認識でいてくだされば問題ないかと」
「本当の名を名乗らないのは失礼ではないでしょうか?」
コードネームという点が引っかかったのかフィリアは少し苛立ちを表すようにそう聞いてくる。
そういうつもりはなくファミリーネームがないという点とPNをどう言い換えれば伝わるのかを考えたつもりだったが言われてみれば確かにそうだ。わざわざ自分から偽名を名乗りましたなんて言われれば下に見られたと思い本名を名乗れと言うのは尤もだ。
どう弁明しようかと考えていると助け舟を出してくれたのはジークだった。
「フィリアよ、異世界から来たJOKER殿の真の名を聞いたところで何も変わるまい。仮に貴族や王族の名だったとて儂等にそれを知る術がなければこの世界では何の価値もない。それを分かっているからJOKER殿はまだ価値のある他の神使に通じる名を名乗ったのだ」
全く以ってそんな思惑はないがそう思ってくれるならそういうことにしておこう。その言葉でフィリアも納得したのか頭を下げる。
「そういう意図があったのですね。そこまで考えが至らず失礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした」
「いえ、お気になさらず」
別にいいのだが、本名は知られていないがコードネームが他の神使に知られているって俺の職業は暗殺者か!確かにその職業を使えなくもないがそれで納得するジークとフィリアもどうなんだと心の中でツッコミながらそう思う。
「ところでJOKER殿はこの世界について分からないことも多かろう。そこで案内人を付けようと思うのだが何か要望はあるかな?可能な限り叶えると約束するぞ」
案内人という名の監視か。要望の有無を聞くのも暗に拒否する選択肢を塞いでいて、強引に断れば面倒なことになりかねない。
だから断れないのだが、監視がつくとALONESTに置いて使えるスキルと使えないスキルの選別や新しいスキルの開発、武器の扱いの未熟さにも気づかれ俺の手の内がバレるということだ。
武器の扱いは隠しきれないとしてもスキルの選別に関しては隠しておきたい。もし敵対した時に手の内を知られているとなると面倒だ。まぁ、隠す術がないこともないがそれがここで使える確証はない。
基本的に何の前触れもなく使えなくなるということはないだろうが、それに関してだけは使えないと言われても仕方がない。ただ、使えなければ俺の作った全てのNPCがALONESTにはいないことになり、根本から立ち回りを考え直さなければならないため早い内に確認しておく必要がある。
「それなら女性の方でお願いしたい」
こう答えたのには明確な理由がある。
監視役が同性であれば宿泊の部屋や果てにはトイレまで(ゲーム内でトイレに行く必要はないだろうが)全ての場所に同行される可能性がある。対して異性であれば1人になれる時間が生まれる可能性が高い。もし使命感の強い人で1人になれなかったとしてもこれはR18のゲームではないのだから危ないことには成り得ない。
「ほぉ、英雄色を好むと言うがJOKER殿はその歳で既に英雄ということか。そのくらいであれば用意できるな?」
ジークはこの場所の人間ではないため細かい人材については分からないのだろう。振り返って兵士の1人に確認を取る。
勘違いも甚だしいが、本当の理由を知られることに比べれば些細なことだ。
「案内役となるとティノーグ皇国全域に詳しく概要を説明できる者となるのでリア様に許可を取らないとなんとも言えません」
その理由は本当なのだろうが俺に対する嫌悪感からそう言っているようにも感じられる。
「そうか…それは困ったな…」
「その大役、私に任せていただけませんか?」
ジークが悩んでいるとフィリアがそう名乗り出た。
しかし、それはすぐに否定される。
「いけません!フィリア様、その者の狙いが分かっている上でフィリア様に汚れ役をお任せするなどできません」
そう兵士の1人が声を上げると他の兵士もそれに続く。果てには今すぐ俺を殺すべきだなんて意見も出始めている。そこからはフィリアの人望が窺えた。
ここまで話が膨れると流石に否定した方がいい気もするが、否定できない。っていうか失礼にも程があるだろ。
ただ傍観することしかできないと思いながら眺めているとフィリアが声を上げる。
「大丈夫です。JOKER様はそのような方ではありません。爺様もそのことを分かってお戯れをしていますよね?」
「当然だ。人数の要望がなければ容姿や性格の要望もなかった。それは拘りがなく何か違う目的での発言を意味する。お前たちもそれくらい見抜けるようにならねばいつまで経っても儂やリアには追いつけないぞ」
どうやら冗談だったようだが、意味もなく出会って数分の俺にくだらない悪ふざけをするとも思えない。何か違う意図があるはずだ。
考えられるのはここにいる兵士が未熟だと知らせて俺の反応を窺っている?それとも単純に俺の人となりを探っているのか?
考えたところで現状の少ない情報では結論は出ない。しかし、考えることに意味がある。相手に出し抜かれないように可能性を考え続けなければならない。だが、思いついた可能性だけに思考を偏らせてもいけない。常に他の可能性も模索しながらも相手の思考に寄せていく必要がある。
「ですがジーク様、それだけ雑食という可能性もあるのではないでしょうか?」
「おっと…それもそうだな」
その発想はなかったというようにジークはおどけて緊張感がないように見えるが隙は一切なくこっちの反応を窺っているように見える。
「爺様!いい加減にしないとJOKER様に失礼ですよ」
「そうだな。だが、JOKER殿はこの程度の戯れで怒るような者でもあるまい。フィリアであれば無礼もなくこの国についても他の国についても詳しい。JOKER殿もそれでよろしいかな?」
いや、怒れるもんなら怒ってるよ。というツッコミは心の中でして冷静に考える。
戦闘能力が皆無ということはないだろうができればあまり行動を共にしたくはない。もし人質に取られたら見捨てることができない。
会話が成り立つことからもこのゲームに置けるNPCは無数に近い分岐の選択肢を持っている可能性が高い。それは現実世界の人間と大して変わらないことを想定して動いた方がよく、そうなると不必要に敵対する可能性の高い行動をとりたくはない。
このゲームに置ける敵はあくまで他のプレイヤーでありわざわざNPCを敵に回す必要はない。まぁ、味方につけようとも思わないから適度な距離感を保ちたいところだ。
「私の目的は他の神使を倒すことであり、それには必ず危険が付き纏います。その際、私にはフィリア様を守りながら戦う余裕はないかと。ですから違う方に代えていただけるとありがたい」
皇族の名乗り出を断ったという点では多少問題があるとは思うが厄介事は避けたい。そう思ったのだが、想定以上に場の空気が重くなる。
俺とは感覚が違い何か地雷を踏んだのかと反射的にバックステップをして戦闘態勢に入る。
「その必要はありません。JOKER様の居た世界、国では、命は尊び守るものなのかもしれませんがこの国では違います。弱き者が命を落とすのは自然の摂理、それで強者に迷惑をかけるなど以ての外。それで私の命が散ろうともJOKER様に迷惑をかけないことはここでお約束します」
どちらに対する必要がないなのかは分からないがひとまず難は逃れたようだ。
確かに軽率な発言だったか。当然と言えば当然だが、ALONEST内が現実世界と同じ基準、同じ文化な訳がない。何が地雷かは正直見当がつかないが、さっきのように若干の危険が孕んでいると分かっている発言は控えるべきか。まぁ、文化が違うから俺と感覚が違い過ぎて地雷を踏み抜く可能性はあるが、ある程度一貫性を持っておけば失言があってもカバーしやすい。
ただ、出来る限りフィリアのことは守った方が良さそうだ。文化の違いに対して理解して訂正してくれる存在はありがたい。
「そういうことでしたらフィリア様にお願いします」
これ以上余計なことを言わないように短くそう答えるがフィリアはまだ収まらないようだ。
「その表情、まだ分かっていないようですね。まだ、守るなんて考えているかもしれませんがその必要はありません。自分の身は自分で守れます。何せ私はJOKER様より強いですから。その感覚はこの国で失礼に当たるので気を付けてください」
その目は虚勢ではないと物語っている。それは少なくともさっきのジークとの戦闘を見ても自分の方が強いと確信を抱けるだけの力をフィリアは持っているということだ。俺は防御に全振りでジークは加減していたとはいえ、それは周知の事実でありそれを分かった上で確信を抱けるということになる。つまりジークと同等と見た方がいいだろう。
「知らずとはいえ失礼しました。郷に入っては郷に従えと言いますからね、この国のことを学び従います。ですからこの国のことを教えていただけますか?」
「もちろんそのつもりです。では時間もないので余談はこの辺りで場所を移りましょう」
時間がないというのは少し気になるが神使が今日現れると分かっていたならタイムテーブルが組まれていてもおかしくない。
フィリアとジークに先導されて部屋を移る。
案内された部屋は客間なのか高そうな家具が並べられた部屋だった。本当に元からこの国の文化について教えるつもりがあったようで机には地図や書物が並べられている。
更に暖炉が焚かれていて部屋は暖かくフィリアの淹れた紅茶まで出される。
出された紅茶を飲んで一息吐くついでに《索敵》を発動するが、やはり地下にいた12人以外は誰も引っかからない。もしかしたら最悪の事態に備えて必要最低限の人材だけ残して避難しているのかもしれない。ちなみに紅茶は何の味もしないし飲んだ感覚も分からない。
「先程フィリアも言ったが、急いでいてな。JOKER殿にはこの後、皇への謁見が済み次第この城を発ってもらいたい」
「謁見と言われましてもこの城には私たち以外誰もいないように感じられますが別の場所に移動してということでしょうか?」
《索敵》の結果が当てになるのか探りを入れるとジークとフィリアはバツが悪そうな表情を浮かべる。
「恥ずかしい話だが、今この城には儂等以外に人はおらん。それはJOKER殿に皇への謁見が終わり次第発ってもらいたい理由にも繋がるのだが、フィリアの姉のソーマがここに向かっているのだ。ソーマは言ってしまえば戦闘狂で戦いが始まれば周りが何も見えなくなる性格なのだ。それこそこの王都で戦われては王都壊滅もあり得るほどにな」
どんなバケモノなんだよ!心の中で反射的にそう叫んでしまう。
王都が壊滅するほどの広範囲且つ高威力のスキルを使える猛者。いったいどれだけ大きく強いのだろうか。是非とも準備が整えば戦ってみたいものだ。
「そういうことでしたら行先は任せますのでソーマ様と戦闘になっても問題ない場所に案内していただければいいかと」
「ご配慮いただきありがとうございます。それでは皇が帰ってくるまでこの国のことを中心にこの世界についてご説明いたします。資料も十分揃えているのでJOKER様の疑問にもお答えできると思います」
フィリアは対面の席からこっちに見やすいように地図を広げる。
描かれているのは山、川、湖、森といった地形を表す簡易的なマークと国境線、都市の名前といった簡易的なものだ。これがこの世界の、少なくともティノーグ皇国の基準値以上の地図なのだろう。
ALONESTは大きな1つの大陸で出来ているようで縦長の六角形…いや、中央が黒く塗り潰されているからアルファベットのOのような形をしている。大陸の外は中央と同じように黒く塗り潰されていて大海が広がっているという訳ではなさそうだ。おそらく世界の果て、マップの端だろう。
「地図の上側で平地の多い場所にあるのがエラード王国です。ここには人が暮らしていて中立の国ということは知っているのですが、ティノーグとは離れているので交流がなく詳しいことは分かりません」
石器時代の鏃という表現がしっくりとくるような菱形に近い形の下側に棒に紐で括りやすいような直角三角形が付いた歪な形。或いは地盤がしっかり目の括れた陶器のような形をフィリアは指でなぞる。
エラード王国をなぞりながら説明を終えるとそのまま右下に指を滑らせた。
「樹海を越えて森の中にあるのがオール共和国です。ここには妖精人が暮らしていて妖精と協力して自然の中で暮らしているそうなのですが、樹海の中で辿り着ける者は少なくティノーグ以外もその内情は知りません」
阻まれているのか護られているのか、大陸の端以外を樹海に覆われていてどこからどこまでがオール共和国なのか分からない。それはフィリアも同じようで樹海全体をなぞっていた。
時計回りに説明していくのかと思いきや今度は反対側、大陸の左側に指を滑らせる。
「エラード王国とオール共和国を合わせたよりも広い国土を持つのがエン帝国です。ここには魔人が暮らしているのですが、領土欲が強く近隣諸国と常に争っています。ティノーグとは思想の違いから仲が悪く敵対国と言ってもいいでしょう」
説明の通り領土欲が強いのはその国土からも見て取れる。エラード王国が歪な形なのも争いの結果なのだろう。
しかし、領土欲が強いという割には左側にまだ土地が余っているように見える。わざわざ争ってまで領土を広げるくらいなら空いている左側を取ればいいと思うのだが何か理由があるのだろうか。
そのことを聞こうと思った時にはもう次の国の説明に入っていた。
「エン帝国の下にあるのがシャバラ公国で国土の大半を砂漠が占めています。ここには鬼人が暮らしているのですが、他種族を嫌っているので関わりを持つ際は気を付けてください。ただ、ティノーグとは明確に友好関係にあるので私と一緒であれば関係を築きやすいと思います」
砂漠に適した国民性をしていてそこ以外では暮らしにくいのか西端の上下には土地が空いている。エン帝国と同じように土地が空いているのは緩衝地帯のような役割でもあるのだろうか。
「その反対側、森、川、山とバランスよく自然豊かなのがニナイ連邦です。ここには様々な獣人が暮らしていて、それぞれが独自の文化を形成しています。体裁上1つの国のような扱いになっていますが内乱が絶えません。ティノーグとは利害関係にあるので1度行ってみてもいいかもしれませんね」
今聞いただけでも面倒くさそうだが雲隠れするにはいい場所かもしれない。だが、シャバラ公国とは違い利害関係と言っているところから特別仲がいい訳ではなさそうだ。
「そして最南端にあるのがここ、ティノーグ皇国です。ティノーグには龍人と精霊が暮らしており、峡谷や山が多く平地の少ない暮らしにくい土地で人口も他国に比べ少ないです。ただ、その過酷な土地で養われた戦闘感覚は他国の兵士と一線を画し最強と言っても過言ではありません」
自国のことだからか自慢げに早口でフィリアはそう語るが、気になるところがあった。
それは最南端と言っているにも拘らずティノーグ皇国よりも下に土地があるのだ。それはエン帝国の左に広がっているのと同じように一国分の土地がある。
ティノーグ皇国とシャバラ公国が友好関係というところからもシャバラ公国とエン帝国は敵対しているだろうから緩衝地帯を設けるのはまだ分かるが、シャバラ公国の下でありティノーグ皇国の左と下に広がっている土地を放置している意味は分からない。
それにエン帝国やシャバラ公国とティノーグ皇国は訳が違う。
2国は土地が空いていながらも大陸の端の部分は少しでも押さえているがティノーグ皇国だけは大陸の端を押さえていない。
普通に考えて大陸の端は守りやすいはずで大陸の端がそのまま世界の果てならば守る必要すらない。それは人口の少ないティノーグ皇国からしたら押さえておきたい場所のはずだが、そうしない理由が何かあるはずだ。
これで説明は一通り終わったようで今度こそ疑問を口にする。
「最南端というにはまだ下に土地が広がっているように見えますが何かあるのでしょうか?防衛のことを考えるのであれば大陸の端は押さえた方がいいと思うのですが」
「そうですね。最南端という言い方には語弊があったかもしれませんね。最南端というのは承認国家6ヵ国の中でという意味です。承認国家とは自国を除いた過半数の国が国家として承認した国のことを言います。ティノーグを含め先程紹介した6ヵ国は何れも自国以外で3ヵ国以上が承認した国です」
「では承認されなかった国もあるということですよね?」
「はい。JOKER様の言う通り非承認となった事例は過去に幾つもあったと聞いています。その大半は国家と呼べるほど国力がなく淘汰されてきたとも聞いています。ですが、唯一国家と呼べる国力を持ちながら承認されなかった国があります。それがエン帝国やシャバラ公国、そしてティノーグに接し広がっているアピア合集国です」
フィリアがなぞったのはエン帝国とティノーグ皇国の左側を大陸の端から覆うように広がる平仮名のしのような形だ。しと言ってもシャバラ公国が分断するように左端まで伸びているため正確には棒とアルファベットのUのような形だ。
空いている土地にアピア合集国が生まれたのか、侵攻して奪い取ったのかによって警戒度合いは大きく変わる。国家と呼べるだけの国力を持っているという言葉からも各国と同じくらい警戒する必要はあるが奪い取ったのであれば最も警戒する必要がある。
加えてティノーグ皇国と適度な距離感の付き合いを継続するにしても無視できない存在だ。シャバラ公国とティノーグ皇国の同盟、エン帝国、アピア合集国と三つ巴になっている状況ならば国土からも均衡を保てるかもしれないが、もしエン帝国とアピア合集国が同盟を組めばひとたまりもない。どこかに要塞線を築いていれば防衛くらいはどうにかなるかもしれないが白兵戦になれば致命的な戦力差でもない限り数の暴力で押される。
ゲームといえど数は正義だ。圧倒的な戦力差、それこそパッシブスキルで相手の攻撃を全て無効化できるほどの能力差がない限り現実世界で体力が尽きると同じようにSP切れになるじり貧だ。
早い内に見切りをつける準備をする必要があるが気になる点はもう1つある。
過半数の国が承認しなければならないのは6ヵ国中4ヵ国とハードルが高いが不可能な話じゃない。今まで承認されなかったのは国力が足りないという明確な理由があるのに比べアピア合集国は国力は足りているとフィリアは言っていた。そうなると他に致命的な理由があるということだ。
「アピア合集国は何故非承認国家なのですか?国家と呼べるだけの国力を有しているというのに承認されていないということは何か致命的な問題があるということですよね?」
「鋭いですね。ティノーグ皇国からしたら些細な問題なのですがアピア合集国は___」
いくら自分で考えたところでALONESTについての知識がない俺には答えは出ないため聞いたのだが、それに答えようとしたフィリアの言葉は扉がバンッ!と乱暴に開けられる音で遮られた。
「何事ですか!客人を前に無礼ですよ!」
フィリアが声を荒げて扉を開けた兵士を叱責するが兵士は足を止めずそのまま部屋の中に入ってきて片膝をつく。
「失礼しました。ですがジーク様に至急お伝えしなければならないことが…国境線より赤い狼煙が上がりました。急ぎ対応をお願いします」
「その程度のことで…もう少し節度のある入室をしなさい」
捉え方に大きな違いがあるようで兵士の報告を聞いてもフィリアの態度は変わらない。それはジークも同じで、ジークは寧ろ溜息を吐いている。
「そう言うなフィリアよ。はぁ…また彼奴等は…JOKER殿、騒がしい挙句申し訳ないが急用ができたので儂はここで失礼する」
「いえ、フィリア様が丁寧に説明してくださったのでお気になさらず」
この部屋に来た時からジークはほとんど喋っていなかったしフィリアだけで事足りているのでいなくなる分には大した影響はないが、その理由は気になる。国境線からの知らせということは消去法で考えるにアピア合集国絡みなのは間違いない。
ジークはこちらに向かって一礼すると心底面倒くさそうに兵士と部屋を出て行く。
「騒がしくて申し訳ありません。気になると思うのでお話ししますが、今の伝令はティノーグとアピア合集国の境界線、爺様の統治する地で激しい衝突が起こったという知らせです」
フィリアもジークも落ち着いていたが兵士の慌てようを見るに状況は芳しくないのだろう。アピア合集国にも預言書があるかは不明だが、なかったとしても今日神使が現れることが分かっていたなら戦場の気配も相まってジークの不在を感じ取り攻勢に出た可能性はある。
しかし、そんな推測は見当外れだと言うようにフィリアは笑う。
「ふふ。確かに爺様の不在が原因で起きた衝突ですが、押されている訳ではありません。寧ろその逆、爺様の不在で抑える者がいなくなり全員が殲滅に走り戦線が上がっているのです。赤い狼煙は味方の暴走を知らせるものです」
「最強を謳うだけのことはあるということですか」
流石は戦闘民族。それならフィリアやジークが冷静だったのも頷ける。
しかし、そうなると戦線を上げられる力があるのに現状の境界線で止めていることになる。今の境界線に要塞線でも築いてあるのだろうか。それなら味方の暴走を止めに行くのも頷ける。
これは見切りの判断は遅らせてもよさそうだな。
「この程度は造作もありません。尤も爺様や姉様、それに母様は1人でもこの比ではありませんけど。えっと話が逸れましたね。アピ___」
フィリアが話を戻そうとすると今度は大きな雄叫びがそれを遮る。その直後、大きな振動が床を伝っていた。
声の聞こえてきた方向と振動の伝わってきた方向から何か巨大な生物がこの城内に着地したのは間違いない。問題はその生物が何かだが、真っ先に思い浮かんだのは王都壊滅級の力を持つというフィリアの姉、ソーマ。
その確認をしようとフィリアの方を見るとその表情には緊張が走っていた。
「母様が帰ってきました」
配布された肌にぴちっと張り付くスーツを着てスフィア型のデバイスの前でアカウントのログインをしながらALONESTの開始を今か今かと待っている。
相変わらず敵意に満ちた視線を向けられているが、その敵意には一体感があった。昨日、俺が自室に戻ってから話し合いでもして軽い決め事でもしたのだろう。しょうもない。
今日はALONESTの初日で全員が新デバイスを初めて使うということもあり8時~12時の4時間なのに加えゲーム内の進行時間も等倍という軽く流す感じだ。ここから数日間の様子を見て全員が慣れてきたらプレイ時間を増やしゲーム内進行時間も早くするそうだ。
「それではこれよりALONESTを開始します。ハッチ開錠」
昨日のアナウンスの声と同じ声が聞こえてくるとスフィア型のデバイスの上部が開くと梯子に変形して足元に向かって伸びてくる。まるで変形ロボットのようにウィーンと音を立てながら変形するさまは周りに驚愕の声を上げさせた。
実際は音を立てなくても変形させられるのだろうがパフォーマンスとしてわざと入れたのだろう。直継はそういった浪漫のようなもの、言ってしまえば無駄なものに力を入れる癖がある。
梯子に掴まり足をかけると自動で上部へと連れていかれ、今度は内部へと少し梯子が伸びていく。それに足をかけると梯子は内部の床まで伸びていき自動で下りることができた。
正直、そこまで高低差がないため自分で上り下りした方が早いし楽だが浪漫溢れる仕組みにしたかったのだろう。それは俺も好きだ。ただ、明日からは自分で上り下りできるように調整してもらおう。
スフィア内部の床は中央付近が少し硬めで周りは沈み込むように柔らかい。その少し硬めの場所にはフルフェイスのヘッドギアが置かれていて何やらコードが伸びている。
大体どうするかは分かるがアナウンスを待つ。すると予想通り「ヘッドギアを装着してください」と指示が入る。
指示に従ってヘッドギアを被ると視界が白くなりハッチが閉まる音が聞こえた。それと同時に足元から何か抵抗感を覚え、それは次第に全身を包み込む。
見えていないがどうやら何かの液体に全身が浸かっているようだ。
これがU液か。スーツ越しだがサラサラとした液体なのは伝わって来る。
コードから酸素が供給されているため問題はないが、まさかゲームをするのに某汎用人型決戦兵器に乗っているような気分を味わえる日が来るとは思わなかった。いや、あれにはフルフェイスのヘッドギアは必要ないか。あー、ジオフロント見てみたいなー。あれこそ浪漫の塊だよな。
「それではALONESTを起動します」
そんなことを考えているとヘッドギアからアナウンスが聞こえてきて体が浮遊感に包まれる。ただ白かった視界には虹色の粒子の渦が現れてそこに吸い込まれていく。
渦を抜けるとそこには丸太に藁の塊が付けられた的に白と赤の2色で何重にも丸が描かれた的がある空間にいた。
見るからに訓練空間のそこに居ることを考えるにまだALONESTは始まっていないようだ。時間も8時前だしここで軽い操作練習をしてもいいということだろう。
6タイトル時代よりも画面はスッキリとしていて視界の左上にHPとSPのゲージがあり左下にはメニューウィンドウを呼び出すアイコンがあるだけだ。スッキリとしているのは死角が減っていていい反面、6タイトル時代にあった方位磁針やミニマップも消えていて少し不便さも感じる。というか違和感がある。
早速、操作感を試そうと視線を上下左右に動かすとアバターの一部が映る。グーチョキパーと現実で手を動かすのと同じ感覚で動かそうと試みると不自然な動作や遅延のような違和感がなく思った通りに動く。
現実ではできないようなバク宙も空中で姿勢を変えることもできる。ステータスが動きやすさに反映されているようだ。
しかし、着地のような細かい技術はステータスとは別の純粋な技術が必要なようで動きに無駄が多い。
想定よりも高い操作性に驚きながらも今度はゲームの基本的な操作の確認に移る。
メニューウィンドウの出し方やアイテムの出し入れ、武器の顕現と解除。6タイトル時代はコマンドやワンボタンで行っていた操作の確認をする。昨日自室に行ってからタブレットで軽く見た通りの操作方法で、その操作は別の動きをしながらでも行えた。
ゲーム開始は8時からでメニューを開いたときに表示されていた時間は7:40。まだ時間はあるためもう少し踏み込んだ操作の確認をする。
非詠唱スキルの簡易コマンド設定や発動、効果の終了にクールタイムの感覚。そして武器の使用感に詠唱スキル等の戦闘で重要になるものを確認したが、かなり厄介だ。
非詠唱スキルの簡易コマンドは指を動かすパターンによる登録で最初はミスがあってもすぐに慣れそうで問題ない。スキルの発動と終了、詠唱スキルに関しては6タイトル時代と変わらなかった。
しかし、スキルのクールタイムと武器の使用感は違う。
6タイトル時代はスキルのクールタイムはそのスキルのアイコンについているゲージで視覚化されていたが今は何もない。何千、何万と使ってきたスキルで通常時であればそのクールタイムは肌勘で分かるかもしれない。だが、こと戦闘時に置いては焦りによってその感覚が狂う。
そして武器に至っては最早別ゲーだ。昨日の直継の言葉にバク宙をした時からも薄々勘づいてはいたが、指一本に至るまでの操作は幅を広げるがそれ故に複雑だ。使っているのが大鎌という特殊な武器だからか思った軌道に刃を乗せるのが難しく藁の的ですら斬るのが難しい。これではとてもじゃないが実戦では使えない。
こんなことなら剣道か居合でもやっておくべきだった。いや、大鎌なら薙刀の方が近いか。違うな。こんな特殊な武器がゲーム以外でまともに使えるとは思えない。せめて剣や槌のようなスタンダートな武器にしておくべきだったか。いや、いっそのこと杖か本で完全な魔法職にしておくべきだったな。
そんなどうしようもない嘆きを心の中でしていると時間が来たのか視界が光に包まれて何も見えなくなる。
しばらくして光は収まったが視界はぼやけている。まだぼやけた目で正確な人数は分からないがサーモグラフィのような人影では10人くらいに囲まれているようだ。
時間が経って目が慣れると今いる場所と囲んでいる人の姿がハッキリとしてくる。
今いるのは黒くて艶のある石に囲まれた部屋で10人の兵士に囲まれており奥には老人と少女が立っている。兵士は何かを模したような棘々しい装飾の施された鎧を着ていて老人と少女は明らかに身分が高そうな煌びやかな服を着ていた。
兵士の練度もさることながら奥にいる老人と少女の強さは桁が違う。恰好からも上流階級なのは分かるが戦闘能力も高い。
「皆の者、下がれ」
老人は兵士を下がらせると目の前まで来て品定めをするように俺をじっくりと見つめている。今のところ敵意やスキル発動の予兆は感じないが警戒心を解かないまま指を動かして非詠唱スキルの《索敵》を発動する。
超音波のようなものでこの辺りの地形と人の居る場所が手に取るように分かる。どうやらここは城の地下のようだが、ここにいる12人を除いて他に人の気配がない。城の構造は分かることから《索敵》は正常に作動しているのは間違いないが、それなのに人の気配がないということは個人のスキルで無効にしているか本当に人がいないかだ。
「ほぉ、預言書は真であったか。して、神使殿は御1人か?」
歴戦の猛者を彷彿とさせる無数の肌傷にそれが映えるような筋肉質の良い体つき。威厳があり余裕を感じさせる声、と一目見ただけで強者と分かるオーラがこの老人にはあった。
「神使が何か、元々何人来る予定だったのかは存じませんが、神使が私を指すならこの場に来たのは私だけかと」
答えた通り《索敵》に他のプレイヤーの気配はない。どうせすぐにボロが出るだろうがなんちゃってな言葉遣いをする。
「では書き換わった預言書が正しいということか。神使とは預言書に記されているこの世界を創った創造主がお送りになった方、即ち貴殿のことだ。預言書には元々10人の神使が降臨すると記されていたのだが、7年前に預言書の内容が書き換わり降臨するのは1人となったのだ」
そう説明する老人の表情は細かく変わり息遣いも感じられる。とてもNPCには見えない。というかまだ一言だが会話が成り立っている。
これが家庭用ではなくコスパを完全に無視したデバイスの力か。視界にHPとSPのゲージにメニューアイコンもなければ異世界に転生したと言われても信じてしまいそうだ。
「なるほど。そういうことでしたらここに来るのは私だけで間違いないかと」
預言書の内容は気になるところだが言葉遣いからも神聖さが感じられ言及したところで実物を見られるとは思えない。それに今は向こうの出方を見たい。
「そうか。では神使殿に問おう、貴殿はこの世界に何をもたらす?」
答え次第ではすぐにでも腰の剣を抜いて斬り捨てるという圧を感じる。
こういった時は是非とも戦ってみたいところだが、現状のまともに武器を使えないことにこの狭い場所で接近戦を免れないことも考慮すれば勝てる確率は低い。そうなると正直に答える方が吉か。
「預言書にどう記されていたかは存じませんが、おそらく他の場所にも私と同じように神使が現れたかと。その神使を倒すことが創造主に与えられた使命であり目的。それ以外のことは考えておりません」
少しの静寂が訪れる。
老人は顎に手を当てて髭を撫でるように手を滑らせる。真偽を見定めるように真剣に見つめてくるそのさまは全てを見透かそうとしているようだ。特にやましいことはなくても目を背けたくなるが堪えていると老人は少し表情を緩めた。
「預言書通りということか。預言書には創世627年、世界には異世界より神使が降臨する。神使は他の神使を滅ぼそうと躍動し、その過程にて世界には大きな変革が齎されるであろう。そう記されていた。となると問題はその変革がこの世界にとって善きものか悪しきものかとなる訳だが……それを見極めさせてもらうぞ!」
親切に預言書の内容を話してくれたかと思えば老人は唐突に腰の剣を抜くと斬りかかって来る。
通常ならばこういったゲーム開始直後に起こる戦闘はチュートリアルでこのゲームに置ける戦闘方法を学ぶ機会なのだが、そんな気配は微塵もない。
斬り上げるように振るわれるその刃をどうにか上体を反らして躱す。だが、それは両者合意の避け方で次の攻撃が迫ってくる。
斬り上げた剣をそのまま返すように袈裟切りがくるが今度はバックステップで距離を置いて態勢を整えようとする。
しかし、それを許さないように老人は深く速い踏み込みで追撃をかけてくる。それは明らかに防御のことを一切考えていないように見え、こちらのHPを削りに来ていた。
不意打ちからの戦闘に息を吐かせぬ攻撃、戦闘能力が自分よりも高いことを想定しているようなその戦い方は普段から自分よりも強者と戦っているのを感じさせる。
思ったよりも深い踏み込みから放たれる一撃は試みようとするまでもなく回避は間に合わない。が、剣の軌道に合わせて軽く横に跳んで派手に吹っ飛ぶことはできる。
ダメージは大して軽減されないが、態勢を整えるにはそれで十分だ。派手に吹っ飛んだことで老人との間に距離が空き、ようやくスキルを発動するだけの余裕が生まれた。
「っ、《54枚が紡ぐ世界》」
ダメージをくらったことによる痛みの代用措置か体に少し圧が加わる。HPが減っている間はそれが持続するのかダメージをくらった時ほどではないがその部位に軽い違和感が残る。それにより一瞬スキルを唱えるのが遅くなったがスキルの詠唱は間に合った。
それでも一瞬遅くなったのは戦闘に置いて形勢を不利にする要素の1つであり、老人の剣が再び目の前まで迫っていた。
それを《54枚が紡ぐ世界》で出したトランプを盾にして防ぐ。トランプの大きさは敵の大きさに依存するためティ・ルナノーグ戦の時のように大きくなく手のひらサイズだが、たった1枚で老人の剣を弾いた。
防がれたことで今の攻撃偏重の戦い方には無理があると判断したのか老人は一度下がって距離を取る。
「儂の剣撃を止めるか。ならば…」
老人はわざわざ奥の手を出しますよと言わんばかりにそう呟くと懐に手を入れる。
「《52枚の障壁》」
ブラフの可能性もあるが面倒なアイテムや発動の早いスキルの可能性も考慮すると先手気味に防御スキルを発動するしかなかった。
トランプを数字毎で1枚の板にして目の前に13枚の壁を張る。
その身構えは正解だったのか老人は懐からメダルを取り出すと剣に填めて突き出す。
「《武装・龍》」
老人がそう唱えると剣の先端から具現した龍が出てくる。それはまるで生きているように体を波打たせながら口を大きく開けて襲い掛かって来る。
Kから順番に壁は最早あるのかないのか分からないほど簡単に砕け散っていく。そして最後の壁、Aすらも簡単に砕け散ると龍は目の前まで迫っていた。
Aが砕け散ると手元にはJOKERと書かれたトランプが現れる。その中央には壁を突破した龍の絵が描かれていた。
それを龍に向かって投げるとカードは相手の龍を模した龍に変わり2頭の龍は激しく衝突する。互いの腹を噛み千切り合いながら何度も衝突すると龍は2頭とも消滅した。
次の手に備えて再びトランプを展開するが老人は逆に剣を納めた。
今のが全力ということもなければ投了ということもないだろうにしたその行動の意図が読めず警戒心を強めることしかできない。それを表すように老人はどこか嬉しそうに笑っているが、それはまだ手の内を隠している余裕の表れにしか見えない。
「儂の武装が完璧に止められたのは何年振りか。して、貴殿は何故攻撃をしてこなかったのだ?他の神使と戦おうとしている貴殿が防御だけに特化しているということはあるまい」
老人の言う通りこちらから攻撃は仕掛けていない。だが、そこに深い意図はなく単にこの操作方法に慣れるまでは防御に集中するしかなかっただけだ。下手に攻撃にまで手を出そうとしては粗が出て負けかねない。それに防御に集中して相手の行動パターンや癖が分かれば余裕が出て粗のある攻撃でも仕掛けられるようになる。
要するにただのこっちの都合だが、そう答えてはこちらの評価が下がる。相手視点で俺の行動の意図は読めないのだから適当な理由を騙って対等な立場を維持した方がいい。
「理由は3つほど。1つは周りの兵士のことも考えれば攻撃に転じる余裕がなかったこと。もう1つは見るからに上流階級の貴方を殺してしまっては話し合いが不可能になること。そしてそちらからしたら私の存在は預言書にあるとはいえ侵略者のようなもの。見極めるというのであれば素直に判断を委ねようかと」
全くの嘘という訳でもない。出来る出来ないの判断は別としてその考えがあったのは事実だ。実際はすぐに不可能だと判断して防御に全シフトしたが。
「ほぉ、見た目は少年だが頭もキレるようだな。儂は貴殿を信用しよう。フィリア、こっちにおいで」
老人は後ろの方にいる少女の方を向いて手招きで呼び寄せる。緩んだ表情に優しい声音で呼び寄せる辺り随分と甘やかしているのだろう。
「儂はティノーグ皇国上皇のジーク・ドラシオンだ。今は辺境で領主をしている隠居の身だ」
そう軽く老人改めジークが名乗ると少女は1歩前に出る。
「ティノーグ皇国暫定皇位継承権第四位、ジークの孫娘、フィリア・ドラシオンです。神使様、祖父共々宜しくお願い致します」
軽装で機動力を重視に見える鎧を着ているのにフィリアはまるでロングドレスを着ているように裾を摘まむ仕草をしてお辞儀する。流石は皇族と言うべきかその動作は美しく普段からしているような慣れが窺え、ドレスすらも幻視させた。
遠目では金髪ということぐらいしか分からなかったが、フィリアは光を溜め込んでいるような碧眼に肩まで伸びた金髪、それに翼の形をした髪飾りを前髪に付けている。それは数多の戦場に赴き無数の肌傷を負ったであろうジークとは対照的でお姫様という言葉が似合う。
「私はJOKERと申します。この名は他の神使にも私であることが通じる名でファミリーネームの類はありません。コードネームのような認識でいてくだされば問題ないかと」
「本当の名を名乗らないのは失礼ではないでしょうか?」
コードネームという点が引っかかったのかフィリアは少し苛立ちを表すようにそう聞いてくる。
そういうつもりはなくファミリーネームがないという点とPNをどう言い換えれば伝わるのかを考えたつもりだったが言われてみれば確かにそうだ。わざわざ自分から偽名を名乗りましたなんて言われれば下に見られたと思い本名を名乗れと言うのは尤もだ。
どう弁明しようかと考えていると助け舟を出してくれたのはジークだった。
「フィリアよ、異世界から来たJOKER殿の真の名を聞いたところで何も変わるまい。仮に貴族や王族の名だったとて儂等にそれを知る術がなければこの世界では何の価値もない。それを分かっているからJOKER殿はまだ価値のある他の神使に通じる名を名乗ったのだ」
全く以ってそんな思惑はないがそう思ってくれるならそういうことにしておこう。その言葉でフィリアも納得したのか頭を下げる。
「そういう意図があったのですね。そこまで考えが至らず失礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした」
「いえ、お気になさらず」
別にいいのだが、本名は知られていないがコードネームが他の神使に知られているって俺の職業は暗殺者か!確かにその職業を使えなくもないがそれで納得するジークとフィリアもどうなんだと心の中でツッコミながらそう思う。
「ところでJOKER殿はこの世界について分からないことも多かろう。そこで案内人を付けようと思うのだが何か要望はあるかな?可能な限り叶えると約束するぞ」
案内人という名の監視か。要望の有無を聞くのも暗に拒否する選択肢を塞いでいて、強引に断れば面倒なことになりかねない。
だから断れないのだが、監視がつくとALONESTに置いて使えるスキルと使えないスキルの選別や新しいスキルの開発、武器の扱いの未熟さにも気づかれ俺の手の内がバレるということだ。
武器の扱いは隠しきれないとしてもスキルの選別に関しては隠しておきたい。もし敵対した時に手の内を知られているとなると面倒だ。まぁ、隠す術がないこともないがそれがここで使える確証はない。
基本的に何の前触れもなく使えなくなるということはないだろうが、それに関してだけは使えないと言われても仕方がない。ただ、使えなければ俺の作った全てのNPCがALONESTにはいないことになり、根本から立ち回りを考え直さなければならないため早い内に確認しておく必要がある。
「それなら女性の方でお願いしたい」
こう答えたのには明確な理由がある。
監視役が同性であれば宿泊の部屋や果てにはトイレまで(ゲーム内でトイレに行く必要はないだろうが)全ての場所に同行される可能性がある。対して異性であれば1人になれる時間が生まれる可能性が高い。もし使命感の強い人で1人になれなかったとしてもこれはR18のゲームではないのだから危ないことには成り得ない。
「ほぉ、英雄色を好むと言うがJOKER殿はその歳で既に英雄ということか。そのくらいであれば用意できるな?」
ジークはこの場所の人間ではないため細かい人材については分からないのだろう。振り返って兵士の1人に確認を取る。
勘違いも甚だしいが、本当の理由を知られることに比べれば些細なことだ。
「案内役となるとティノーグ皇国全域に詳しく概要を説明できる者となるのでリア様に許可を取らないとなんとも言えません」
その理由は本当なのだろうが俺に対する嫌悪感からそう言っているようにも感じられる。
「そうか…それは困ったな…」
「その大役、私に任せていただけませんか?」
ジークが悩んでいるとフィリアがそう名乗り出た。
しかし、それはすぐに否定される。
「いけません!フィリア様、その者の狙いが分かっている上でフィリア様に汚れ役をお任せするなどできません」
そう兵士の1人が声を上げると他の兵士もそれに続く。果てには今すぐ俺を殺すべきだなんて意見も出始めている。そこからはフィリアの人望が窺えた。
ここまで話が膨れると流石に否定した方がいい気もするが、否定できない。っていうか失礼にも程があるだろ。
ただ傍観することしかできないと思いながら眺めているとフィリアが声を上げる。
「大丈夫です。JOKER様はそのような方ではありません。爺様もそのことを分かってお戯れをしていますよね?」
「当然だ。人数の要望がなければ容姿や性格の要望もなかった。それは拘りがなく何か違う目的での発言を意味する。お前たちもそれくらい見抜けるようにならねばいつまで経っても儂やリアには追いつけないぞ」
どうやら冗談だったようだが、意味もなく出会って数分の俺にくだらない悪ふざけをするとも思えない。何か違う意図があるはずだ。
考えられるのはここにいる兵士が未熟だと知らせて俺の反応を窺っている?それとも単純に俺の人となりを探っているのか?
考えたところで現状の少ない情報では結論は出ない。しかし、考えることに意味がある。相手に出し抜かれないように可能性を考え続けなければならない。だが、思いついた可能性だけに思考を偏らせてもいけない。常に他の可能性も模索しながらも相手の思考に寄せていく必要がある。
「ですがジーク様、それだけ雑食という可能性もあるのではないでしょうか?」
「おっと…それもそうだな」
その発想はなかったというようにジークはおどけて緊張感がないように見えるが隙は一切なくこっちの反応を窺っているように見える。
「爺様!いい加減にしないとJOKER様に失礼ですよ」
「そうだな。だが、JOKER殿はこの程度の戯れで怒るような者でもあるまい。フィリアであれば無礼もなくこの国についても他の国についても詳しい。JOKER殿もそれでよろしいかな?」
いや、怒れるもんなら怒ってるよ。というツッコミは心の中でして冷静に考える。
戦闘能力が皆無ということはないだろうができればあまり行動を共にしたくはない。もし人質に取られたら見捨てることができない。
会話が成り立つことからもこのゲームに置けるNPCは無数に近い分岐の選択肢を持っている可能性が高い。それは現実世界の人間と大して変わらないことを想定して動いた方がよく、そうなると不必要に敵対する可能性の高い行動をとりたくはない。
このゲームに置ける敵はあくまで他のプレイヤーでありわざわざNPCを敵に回す必要はない。まぁ、味方につけようとも思わないから適度な距離感を保ちたいところだ。
「私の目的は他の神使を倒すことであり、それには必ず危険が付き纏います。その際、私にはフィリア様を守りながら戦う余裕はないかと。ですから違う方に代えていただけるとありがたい」
皇族の名乗り出を断ったという点では多少問題があるとは思うが厄介事は避けたい。そう思ったのだが、想定以上に場の空気が重くなる。
俺とは感覚が違い何か地雷を踏んだのかと反射的にバックステップをして戦闘態勢に入る。
「その必要はありません。JOKER様の居た世界、国では、命は尊び守るものなのかもしれませんがこの国では違います。弱き者が命を落とすのは自然の摂理、それで強者に迷惑をかけるなど以ての外。それで私の命が散ろうともJOKER様に迷惑をかけないことはここでお約束します」
どちらに対する必要がないなのかは分からないがひとまず難は逃れたようだ。
確かに軽率な発言だったか。当然と言えば当然だが、ALONEST内が現実世界と同じ基準、同じ文化な訳がない。何が地雷かは正直見当がつかないが、さっきのように若干の危険が孕んでいると分かっている発言は控えるべきか。まぁ、文化が違うから俺と感覚が違い過ぎて地雷を踏み抜く可能性はあるが、ある程度一貫性を持っておけば失言があってもカバーしやすい。
ただ、出来る限りフィリアのことは守った方が良さそうだ。文化の違いに対して理解して訂正してくれる存在はありがたい。
「そういうことでしたらフィリア様にお願いします」
これ以上余計なことを言わないように短くそう答えるがフィリアはまだ収まらないようだ。
「その表情、まだ分かっていないようですね。まだ、守るなんて考えているかもしれませんがその必要はありません。自分の身は自分で守れます。何せ私はJOKER様より強いですから。その感覚はこの国で失礼に当たるので気を付けてください」
その目は虚勢ではないと物語っている。それは少なくともさっきのジークとの戦闘を見ても自分の方が強いと確信を抱けるだけの力をフィリアは持っているということだ。俺は防御に全振りでジークは加減していたとはいえ、それは周知の事実でありそれを分かった上で確信を抱けるということになる。つまりジークと同等と見た方がいいだろう。
「知らずとはいえ失礼しました。郷に入っては郷に従えと言いますからね、この国のことを学び従います。ですからこの国のことを教えていただけますか?」
「もちろんそのつもりです。では時間もないので余談はこの辺りで場所を移りましょう」
時間がないというのは少し気になるが神使が今日現れると分かっていたならタイムテーブルが組まれていてもおかしくない。
フィリアとジークに先導されて部屋を移る。
案内された部屋は客間なのか高そうな家具が並べられた部屋だった。本当に元からこの国の文化について教えるつもりがあったようで机には地図や書物が並べられている。
更に暖炉が焚かれていて部屋は暖かくフィリアの淹れた紅茶まで出される。
出された紅茶を飲んで一息吐くついでに《索敵》を発動するが、やはり地下にいた12人以外は誰も引っかからない。もしかしたら最悪の事態に備えて必要最低限の人材だけ残して避難しているのかもしれない。ちなみに紅茶は何の味もしないし飲んだ感覚も分からない。
「先程フィリアも言ったが、急いでいてな。JOKER殿にはこの後、皇への謁見が済み次第この城を発ってもらいたい」
「謁見と言われましてもこの城には私たち以外誰もいないように感じられますが別の場所に移動してということでしょうか?」
《索敵》の結果が当てになるのか探りを入れるとジークとフィリアはバツが悪そうな表情を浮かべる。
「恥ずかしい話だが、今この城には儂等以外に人はおらん。それはJOKER殿に皇への謁見が終わり次第発ってもらいたい理由にも繋がるのだが、フィリアの姉のソーマがここに向かっているのだ。ソーマは言ってしまえば戦闘狂で戦いが始まれば周りが何も見えなくなる性格なのだ。それこそこの王都で戦われては王都壊滅もあり得るほどにな」
どんなバケモノなんだよ!心の中で反射的にそう叫んでしまう。
王都が壊滅するほどの広範囲且つ高威力のスキルを使える猛者。いったいどれだけ大きく強いのだろうか。是非とも準備が整えば戦ってみたいものだ。
「そういうことでしたら行先は任せますのでソーマ様と戦闘になっても問題ない場所に案内していただければいいかと」
「ご配慮いただきありがとうございます。それでは皇が帰ってくるまでこの国のことを中心にこの世界についてご説明いたします。資料も十分揃えているのでJOKER様の疑問にもお答えできると思います」
フィリアは対面の席からこっちに見やすいように地図を広げる。
描かれているのは山、川、湖、森といった地形を表す簡易的なマークと国境線、都市の名前といった簡易的なものだ。これがこの世界の、少なくともティノーグ皇国の基準値以上の地図なのだろう。
ALONESTは大きな1つの大陸で出来ているようで縦長の六角形…いや、中央が黒く塗り潰されているからアルファベットのOのような形をしている。大陸の外は中央と同じように黒く塗り潰されていて大海が広がっているという訳ではなさそうだ。おそらく世界の果て、マップの端だろう。
「地図の上側で平地の多い場所にあるのがエラード王国です。ここには人が暮らしていて中立の国ということは知っているのですが、ティノーグとは離れているので交流がなく詳しいことは分かりません」
石器時代の鏃という表現がしっくりとくるような菱形に近い形の下側に棒に紐で括りやすいような直角三角形が付いた歪な形。或いは地盤がしっかり目の括れた陶器のような形をフィリアは指でなぞる。
エラード王国をなぞりながら説明を終えるとそのまま右下に指を滑らせた。
「樹海を越えて森の中にあるのがオール共和国です。ここには妖精人が暮らしていて妖精と協力して自然の中で暮らしているそうなのですが、樹海の中で辿り着ける者は少なくティノーグ以外もその内情は知りません」
阻まれているのか護られているのか、大陸の端以外を樹海に覆われていてどこからどこまでがオール共和国なのか分からない。それはフィリアも同じようで樹海全体をなぞっていた。
時計回りに説明していくのかと思いきや今度は反対側、大陸の左側に指を滑らせる。
「エラード王国とオール共和国を合わせたよりも広い国土を持つのがエン帝国です。ここには魔人が暮らしているのですが、領土欲が強く近隣諸国と常に争っています。ティノーグとは思想の違いから仲が悪く敵対国と言ってもいいでしょう」
説明の通り領土欲が強いのはその国土からも見て取れる。エラード王国が歪な形なのも争いの結果なのだろう。
しかし、領土欲が強いという割には左側にまだ土地が余っているように見える。わざわざ争ってまで領土を広げるくらいなら空いている左側を取ればいいと思うのだが何か理由があるのだろうか。
そのことを聞こうと思った時にはもう次の国の説明に入っていた。
「エン帝国の下にあるのがシャバラ公国で国土の大半を砂漠が占めています。ここには鬼人が暮らしているのですが、他種族を嫌っているので関わりを持つ際は気を付けてください。ただ、ティノーグとは明確に友好関係にあるので私と一緒であれば関係を築きやすいと思います」
砂漠に適した国民性をしていてそこ以外では暮らしにくいのか西端の上下には土地が空いている。エン帝国と同じように土地が空いているのは緩衝地帯のような役割でもあるのだろうか。
「その反対側、森、川、山とバランスよく自然豊かなのがニナイ連邦です。ここには様々な獣人が暮らしていて、それぞれが独自の文化を形成しています。体裁上1つの国のような扱いになっていますが内乱が絶えません。ティノーグとは利害関係にあるので1度行ってみてもいいかもしれませんね」
今聞いただけでも面倒くさそうだが雲隠れするにはいい場所かもしれない。だが、シャバラ公国とは違い利害関係と言っているところから特別仲がいい訳ではなさそうだ。
「そして最南端にあるのがここ、ティノーグ皇国です。ティノーグには龍人と精霊が暮らしており、峡谷や山が多く平地の少ない暮らしにくい土地で人口も他国に比べ少ないです。ただ、その過酷な土地で養われた戦闘感覚は他国の兵士と一線を画し最強と言っても過言ではありません」
自国のことだからか自慢げに早口でフィリアはそう語るが、気になるところがあった。
それは最南端と言っているにも拘らずティノーグ皇国よりも下に土地があるのだ。それはエン帝国の左に広がっているのと同じように一国分の土地がある。
ティノーグ皇国とシャバラ公国が友好関係というところからもシャバラ公国とエン帝国は敵対しているだろうから緩衝地帯を設けるのはまだ分かるが、シャバラ公国の下でありティノーグ皇国の左と下に広がっている土地を放置している意味は分からない。
それにエン帝国やシャバラ公国とティノーグ皇国は訳が違う。
2国は土地が空いていながらも大陸の端の部分は少しでも押さえているがティノーグ皇国だけは大陸の端を押さえていない。
普通に考えて大陸の端は守りやすいはずで大陸の端がそのまま世界の果てならば守る必要すらない。それは人口の少ないティノーグ皇国からしたら押さえておきたい場所のはずだが、そうしない理由が何かあるはずだ。
これで説明は一通り終わったようで今度こそ疑問を口にする。
「最南端というにはまだ下に土地が広がっているように見えますが何かあるのでしょうか?防衛のことを考えるのであれば大陸の端は押さえた方がいいと思うのですが」
「そうですね。最南端という言い方には語弊があったかもしれませんね。最南端というのは承認国家6ヵ国の中でという意味です。承認国家とは自国を除いた過半数の国が国家として承認した国のことを言います。ティノーグを含め先程紹介した6ヵ国は何れも自国以外で3ヵ国以上が承認した国です」
「では承認されなかった国もあるということですよね?」
「はい。JOKER様の言う通り非承認となった事例は過去に幾つもあったと聞いています。その大半は国家と呼べるほど国力がなく淘汰されてきたとも聞いています。ですが、唯一国家と呼べる国力を持ちながら承認されなかった国があります。それがエン帝国やシャバラ公国、そしてティノーグに接し広がっているアピア合集国です」
フィリアがなぞったのはエン帝国とティノーグ皇国の左側を大陸の端から覆うように広がる平仮名のしのような形だ。しと言ってもシャバラ公国が分断するように左端まで伸びているため正確には棒とアルファベットのUのような形だ。
空いている土地にアピア合集国が生まれたのか、侵攻して奪い取ったのかによって警戒度合いは大きく変わる。国家と呼べるだけの国力を持っているという言葉からも各国と同じくらい警戒する必要はあるが奪い取ったのであれば最も警戒する必要がある。
加えてティノーグ皇国と適度な距離感の付き合いを継続するにしても無視できない存在だ。シャバラ公国とティノーグ皇国の同盟、エン帝国、アピア合集国と三つ巴になっている状況ならば国土からも均衡を保てるかもしれないが、もしエン帝国とアピア合集国が同盟を組めばひとたまりもない。どこかに要塞線を築いていれば防衛くらいはどうにかなるかもしれないが白兵戦になれば致命的な戦力差でもない限り数の暴力で押される。
ゲームといえど数は正義だ。圧倒的な戦力差、それこそパッシブスキルで相手の攻撃を全て無効化できるほどの能力差がない限り現実世界で体力が尽きると同じようにSP切れになるじり貧だ。
早い内に見切りをつける準備をする必要があるが気になる点はもう1つある。
過半数の国が承認しなければならないのは6ヵ国中4ヵ国とハードルが高いが不可能な話じゃない。今まで承認されなかったのは国力が足りないという明確な理由があるのに比べアピア合集国は国力は足りているとフィリアは言っていた。そうなると他に致命的な理由があるということだ。
「アピア合集国は何故非承認国家なのですか?国家と呼べるだけの国力を有しているというのに承認されていないということは何か致命的な問題があるということですよね?」
「鋭いですね。ティノーグ皇国からしたら些細な問題なのですがアピア合集国は___」
いくら自分で考えたところでALONESTについての知識がない俺には答えは出ないため聞いたのだが、それに答えようとしたフィリアの言葉は扉がバンッ!と乱暴に開けられる音で遮られた。
「何事ですか!客人を前に無礼ですよ!」
フィリアが声を荒げて扉を開けた兵士を叱責するが兵士は足を止めずそのまま部屋の中に入ってきて片膝をつく。
「失礼しました。ですがジーク様に至急お伝えしなければならないことが…国境線より赤い狼煙が上がりました。急ぎ対応をお願いします」
「その程度のことで…もう少し節度のある入室をしなさい」
捉え方に大きな違いがあるようで兵士の報告を聞いてもフィリアの態度は変わらない。それはジークも同じで、ジークは寧ろ溜息を吐いている。
「そう言うなフィリアよ。はぁ…また彼奴等は…JOKER殿、騒がしい挙句申し訳ないが急用ができたので儂はここで失礼する」
「いえ、フィリア様が丁寧に説明してくださったのでお気になさらず」
この部屋に来た時からジークはほとんど喋っていなかったしフィリアだけで事足りているのでいなくなる分には大した影響はないが、その理由は気になる。国境線からの知らせということは消去法で考えるにアピア合集国絡みなのは間違いない。
ジークはこちらに向かって一礼すると心底面倒くさそうに兵士と部屋を出て行く。
「騒がしくて申し訳ありません。気になると思うのでお話ししますが、今の伝令はティノーグとアピア合集国の境界線、爺様の統治する地で激しい衝突が起こったという知らせです」
フィリアもジークも落ち着いていたが兵士の慌てようを見るに状況は芳しくないのだろう。アピア合集国にも預言書があるかは不明だが、なかったとしても今日神使が現れることが分かっていたなら戦場の気配も相まってジークの不在を感じ取り攻勢に出た可能性はある。
しかし、そんな推測は見当外れだと言うようにフィリアは笑う。
「ふふ。確かに爺様の不在が原因で起きた衝突ですが、押されている訳ではありません。寧ろその逆、爺様の不在で抑える者がいなくなり全員が殲滅に走り戦線が上がっているのです。赤い狼煙は味方の暴走を知らせるものです」
「最強を謳うだけのことはあるということですか」
流石は戦闘民族。それならフィリアやジークが冷静だったのも頷ける。
しかし、そうなると戦線を上げられる力があるのに現状の境界線で止めていることになる。今の境界線に要塞線でも築いてあるのだろうか。それなら味方の暴走を止めに行くのも頷ける。
これは見切りの判断は遅らせてもよさそうだな。
「この程度は造作もありません。尤も爺様や姉様、それに母様は1人でもこの比ではありませんけど。えっと話が逸れましたね。アピ___」
フィリアが話を戻そうとすると今度は大きな雄叫びがそれを遮る。その直後、大きな振動が床を伝っていた。
声の聞こえてきた方向と振動の伝わってきた方向から何か巨大な生物がこの城内に着地したのは間違いない。問題はその生物が何かだが、真っ先に思い浮かんだのは王都壊滅級の力を持つというフィリアの姉、ソーマ。
その確認をしようとフィリアの方を見るとその表情には緊張が走っていた。
「母様が帰ってきました」
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