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幕間
39.ノエル視点④
しおりを挟む大切に想う子が隣で眠っている姿を見つめる朝は、こんなにも愛しくて優しいものなのか。
僕は未だ無防備に眠るサシャの姿を眺めながら、小さく溜息をついた。
────────────────
レクドとの打ち合わせの最中に起きた、真夜中のボヤ騒ぎ。
自分達のいた場所からさほど離れていない、倉庫と化している一室が火元のようだった。駆けつけて報告を聞くと、火の燃え上がりは速かったが怪我人は今のところいないとの事でホッとした。
夜間警備の者が消火活動や、念の為の避難誘導にあたる中で、何だか妙に胸騒ぎがした。
この火事が、何かを隠す為のフェイクだとしたら? 犯人の狙いは別にあるんじゃないか?
「……っ、サシャの所へ行く……!」
僕はレクド達から掛けられる声も聞かずに、走り出した。
嫌な予感は当たっていた。
サシャから話を聞くと、暗殺者が侵入してきたのだと、落ち着いた様子で淡々と話すものだから、思わず僕は自分の額に手を当てた。
殺されそうになったのに、機転を利かせて味方にした?
しかもその暗殺者の名前が、界隈では有名な「死神」だというのだから、もう驚きを通り越して無になってしまった。どうしたらそんな立ち回りが出来るのか教えて欲しいくらいだ。
君はいつだって「大丈夫だから」と、自分の事を後回しにする。クララを庇った時だってそうだ。
今回も、僕やイヴが部屋にいようかと提案しても「大丈夫だから」と断った。
イヴも珍しく心配そうな表情をしていたので、何かあれば僕がサシャの所へ向かうからと事前に伝えておいた。
案の定といってもいいのか、うなされている声が扉の向こうから聞こえた時。
なんで君はいつも誰かを頼ろうとしないんだよと。なんでこんなに近くにいる僕を頼ろうとしてくれないんだよと。
やるせない気持ちになって、少しだけ自分にイラついたんだ。
だけど、少し弱ったサシャから紡がれた言葉は僕の心を驚かせた。
それからジワジワと嬉しさが込み上げてきて……君に触れたくて、気づけば僕は額にキスを落としていた。
その後も、本当はもっとと欲が出たけれどそれ以上は押し留めておく。今日は悪夢を見ないでゆっくり眠ってもらいたいから。
腕の中にあるサシャの顔を覗き込む。
その寝顔はあどけなくて、とてもリラックスした様子で……安心した。
それと同時に、僕が側にいる事で安心してくれているのかと思うと、また上手く言えないけれど、胸が温かくなったのである。
僕の、サシャにだけ向ける特別な感情についてはやっと理解してくれたみたいだけど……別に返事を急いでいる訳じゃないから、今すぐ答えをもらわなくてもいい。
「……この契約が終わっても、君を離さないから覚悟してね?」
僕がようやく眠りについたのは早朝4時……いや、もう5時に近かった気がする。
────────────────
「可愛すぎて辛い……」
つまりはそう、朝から僕は困っているのだ。
シーツに零れ落ちている紺色の艶めく髪の毛を、そっと掬って口付ける。
「いい夢見てるのかな」
早く起きてよ、サシャ。
僕が君にこれ以上手を出す前に、ね。
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