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第1章 城下町アルテアへようこそ
ep.2 東の精霊騎士団【黒夜】
テスカ王国精霊騎士団は、東の精霊騎士団【黒夜】と、西の精霊騎士団【焔天】の2つに分かれている。
騎士団には所属を示す色があり、私が着用している団服は、黒に白銀の刺繍が施された物。つまり黒を団の色としている、黒夜所属という事になるのだ。
どちらに配属されるかは、個々の能力や不足した部署への増員に合わせてらしい。私の場合はのっぴきならない事情を唯一知る人が、身内を除いて黒夜の団長だけだからという理由なのだけど。
女子寮を出て渡り廊下を抜け、黒夜本棟にある食堂へ。騎士の姿はまださほど多くなく、間に合ってよかったと思いながら軽めのメニューを選んでプレートに乗せていく。
さて今日はどのあたりに座ろうかな……と考えていると、呑気な声が食堂内に響いた。
「ふぇる~! ほはひょう~!」
「……おはよう、カイン。食べながら喋ってると変なとこに入るよ……?」
「もひょっ」
あぁ、言わんこっちゃない。
口に頬張っていたパンを丸呑みしたのか、慌ててミルクで流している幼なじみを、私は呆れた顔で見下ろしたのだった。
この天然おっちょこちょいは、カイン・アシュレー。私と同じ17歳で、金色の髪の毛がクルクルもっふもふしている大型犬みたいな奴である。
何で家名が一緒なのに幼なじみなのか、何で瞳の色は似ているのに全く顔が似ていないのかという話は、複雑な私の出生に関係していて。
簡潔に言えば、私とカインは本当のきょうだいではないから。でもカインは生まれた時からずっと家族同然のように過ごしてきた、大切な弟のような存在だ。自分がアシュレー家の子じゃないと知ってからも、それは変わらないのである(同い年だけど)
「あー、危なかった。ねぇねぇ、1週間経ったけどさ、メルの配属先どう? 厳しくなさそ?」
「医務課? うん、全然。おじいちゃん医師は真面目で優しいし、直属の女の先輩もフレンドリーだし。ただ人が足りなさすぎるけどね」
ここの本棟1階にある私の配属先の医務課は、訓練や任務で負傷した騎士の手当を主に仕事としている。新人の私は今のところ軽傷者の対応を教わりつつの、事務や雑務の担当だ。
「私の事よりカインはどうなの? 第2地区担当って、新人にしてはかなりの大抜擢なんでしょ?」
「なんか血の気が多いかなぁ? でも黒夜は実力主義が結構根付いてるから、平民だって見下されたりはしないけどね。訓練は他の地区よりもハードみたいだし、対応する事件も結構物騒っぽい?」
「へぇ……てか、なんで全部そんなホワッとした感想なの? 余所事みたいな言い方だし」
「ん~、正直じいちゃんの訓練に比べたらノルマはあっという間だし、あんまりハードだと思ってないんだもん」
「あぁ、なるほどね……」
故郷の村にいる、絶対只者じゃなかったであろう祖父の顔を思い出して、遠い目をする私とカインである。
数年前まで私もカインと一緒に訓練を受けさせられていたのだが、ある時祖父に「メルに殺傷は向いてない」と言ってもらい、訓練から離脱できて心底喜んだものだ。
「あ、でも焔天の第2地区との仲がね……」
何かを言いかけたカインの言葉にかぶせるように、食堂のドア付近が騒がしくなった。朝練終わりの騎士達がまとまってやってきたようだ。
「おい、カイン! お前ノルマこなすの早すぎだろ……って、メルと呑気に朝メシ食ってんじゃねーよ! 羨ましいなおい!」
大声の持ち主は私達の席へとやって来ると、カラカラと笑いながらカインの頭をガシリと掴む。ふごっという声からして、カインはまた何かを詰まらせているようだ。団長は朝から元気である。
「お、おはようございます団長」
「よ、メル。ちょうど会えてよかったわ。コイツを紹介しようと思っててな」
団長が親指をくい、と傾けて自身の後ろを指す。その動作につられて視線を向けると、長身の団長に負けない位の背丈の美男子が立っていた。食堂内にいる元々数少ない女性騎士団員たちが釘づけになっているような、注目を集めている空気が何となく伝わる。
「お前らと同じ、春から副団長に就任したシルヴァ・ステラ。手続きにちと手間取って、入団が1週間遅れちまった。20歳で副団長就任なんて滅多にないし、んでこの容姿だろ? これから騒がしくなると思うけどよろしくな」
黒夜の名にふさわしい程に黒く艶やかな髪と、アイスブルーの瞳。この目で睨まれたりでもしたら、悪寒が止まらないだろうな……なんて思っていた私は、はたと我に返って慌ててお辞儀をした。
「医務課所属のメル・アシュレーと申します。よろしくお願いいたします」
「……シルヴァ・ステラと申します」
「……」
「……」
沈黙が辛い。
「あ、ちなみにコイツ、かなりの女嫌いだから」
「……!?」
もう既によろしくできなそう……!
じゃあなんで私にわざわざ紹介したんですか、という愚痴をここまで飲み込む。
代わりに団長へ胡乱げな視線でも向けてしまおうかと思っていると、ふわり、ふわり。
騎士団の中で見かけた事のない精霊動物が、目の前にやってきた。
いつもはそれを見えないものとして流すのだけれど、不意打ちで驚いた私は、思わず小さな声で呟いていたのである。
「ロシアン、ブルー……?」
至近距離にでもいなきゃ聞き取れない位の小声だったはずなのに。
どうしてか、副団長のヒンヤリとした瞳は真っ直ぐにこちらへ向けられていた。
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