34 / 41
第5章 死神は十字架を背負うべきか【case4:精霊栗鼠】
ep.34 断り辛い責任重大な任務
始業してすぐに行う医務課の仕事の1つに、事務室へ昨日分の書類提出がある。書類の内容は、治療中の団員の怪我・体調など、いわゆる状態報告だ。
無事に今日の朝も提出を終え、事務室を出る。
さて、今日も忙しくなりそうだと来た道を戻っていた私は、後ろから声を掛けられた。
「よーう、浮気者」
「うわ、団長っ!?」
私はギョッとしながら、医務課に戻ろうとしていた足を止めて振り返った。団長のパートナー精霊であるツンドラオオカミのオミも一緒のようだ。
「ちょ、急に現れたかと思ったら、なに朝から人聞きの悪い事を言ってるんですか……!?」
恐らくだけどこの団長は、2週間程前に行われた合同訓練時の事を未だにからかっているんだろう。
「あれは私、不可抗力だったじゃないですか。そもそも、団長が私を連れてっていいって勝手に許可を出しましたよね?」
「まぁな~、焔天のジャン団長は気のいい奴だって俺も知ってるから、そっちは何も心配はしてなかったけど」
けど……なんだ?
意味深に言葉を途切れさせた団長は、訝しんでいる私を見ながら、お得意のニヤニヤ顔でこちらを見下ろしている。
「お前がジャンに担がれていったのをシルヴァが見てたらしくてよ。俺んとこにあれはどうしたんだって詰め寄ってきたんだけど、そんときの顔がいつも以上に無表情でな? でも目だけがキレてんの。いや~、面白いもん見たわ」
「はい? 副団長がですか?」
そういえばあの日、カインからも何となく似たような話を聞いたような……?
「ていうか……副団長も同じように、私の事を米俵の如く担いでた事あったんですけど」
副団長、意外と自分の事は棚に上げるタイプなのか。
「お前とシルヴァって、なんだかんだで春からずっと一緒に何かしらの活動をしてっからな。シルヴァも仲のいいお前が勝手に他の男に触られるは連れ去られるはでさ、嫌だったんじゃねぇの?」
「えぇ……? まぁ……心配はしてくれてたみたいですけど。でも、そもそも副団長は女嫌いっだって話じゃないですか」
私も一応その嫌いの枠に入る女なのですが。うーん……副団長、実は仲良くなると距離が近いタイプだった、とか?
「そら勿論、嘘じゃねぇよ? だけどな、そう言っておいたところで、めげずに寄ってくる女はいくらでもいるんだわ。メルはそういう場面に出くわした事ないのか? 毎回女が立ち直れねぇんじゃねぇかってくらい、それはそれは冷たくあしらわれてるぞ」
「い、いつの間にそんな修羅場が騎士団内で……? こわ……」
「玄関の来客受付んとこで3日に1回くらい一刀両断されてっから、今度見てみ」
絶対嫌だ。同じ職場にいる女ってだけでも恨まれそう。
「シルヴァがそんなんだからさ、お前みたいな誰とでも仲良くなれる、自分とは正反対なタイプの女にアイツがここまで気を許してるって、本当珍しいんだよな。やっぱり俺の紹介は間違ってなかったわ」
勝手に満足げな表情を浮かべて、やたらと頷いている団長である。私とオミから冷めた目で見られてるの、素で気づいてないのかな。
「まぁ……初対面の時こそ印象は最悪でしたけど、今は副団長と一緒にいても、冷たいなとか怖いなって思う事はないですね。必然的にニアとも会えますし、楽しいですよ」
最初は話しにくい頑固なタイプかと思ってたけど、接していく内に仕事に対して真面目なだけだって分かったから。
きちんと筋が通っていれば話は聞いてくれるし、他者の意見を無下にするわけでもない。ニアに対しては過保護というかヤンデレ気味ではあるけども。
「あれ? 副団長といえば、今日はまだ事務室にいらっしゃらなかったみたいですけど、お休みなんですか?」
このザ・適当団長のせいで、副団長はわりと毎日忙しそうに騎士団内を行き来しているイメージがすっかり私の中で根付いている。
朝、事務室に提出しに行くと、ほぼ毎回と言っていいほどの確率で、書類を捌いていたり指示を出しているのを見かけるのだ。
「今日だけな。でもさ、少し心配なんだよなぁ……」
おや? 団長でも副団長の事を心配する時があるのか。
「心配するくらいなら、書類整理にもう少し協力的になってあげればいいのに……」
そうは言いつつも、しおらしい雰囲気の団長をちょっと意外に思った私は、そんな団長に詰め寄った。
「……もしかして副団長、体調不良でお休みなんですか?」
「いや、あー。ちょっと……まぁ」
団長は目を伏せて、さっきからずっとそんな風に言葉を濁している。
その雰囲気に疑問に思いつつも、まぁ副団長にはお世話になってるしな……と思い、お見舞いの品でも寮に届けるかと考えていると、何を思ったのか団長は、直接会って様子を見てきてやってくれないかと頼んできた。
「え? 男性寮の部屋の中まで入るのは、さすがに私でも無理ですよ?」
家庭持ちの団員や貴族出身の団員は通いが多いけれど、独身だったり、私のように遠方から来ている団員は寮住みだ。貴族である副団長も寮に住んでいると聞いた時は、少し驚いた。
ちなみに個人的な来客の場合は、寮の玄関ホール、もしくは騎士団の方での対応となり、基本的に異性は個人部屋への入室は不可とされているのだ。女性寮も同じく、である。
「いや、シルヴァの実家。アイツ今そっちにいるから」
「……はい!?」
何をそんな買い出しを頼むかのように、気軽に言ってんの? 私はぱかりと開いた口が、暫く塞がらなかった。
「今日中に確認してもらいたい書類があったのを忘れててナー。手紙も書いたから、シルヴァの実家まで行って直接渡してもらいたいんだよナー。極秘だから他の人間は介せないんだよナー」
ほんとか……?
団長の、取って付けたかのような棒読みっぷりに若干イラっとする。
「極秘なら持ち出しちゃいけないと思うんですけど」
「だいじょーぶだいじょーぶ。シルヴァじゃなきゃ分からないって意味だよ。医務課の爺にはついさっき、この後メルが不在になる事は伝えておいたから。あ、シルヴァの実家っていっても、領地じゃなくて王都の家の方だぞ? 馬車は騎士団のを使えばサクッと着くし。服装は団服で行けば問題ないだろ? お前の礼儀作法はそこいらの貴族にも劣らないからな」
ペラペラと1人で勝手に話し切った団長は、最後にいい笑顔で私の両肩にポンと手を置いた。
「そうそう。手土産はラヴィ菓子店の菓子折りがあるからな、それを持ってけ」
「くっ……何でそんなに用意周到なんですか……」
いつも書類は山ほど溜め込むくせに……!
「……じゃあ副団長は具合が悪いわけじゃなくて、用事があってご実家に帰られているっていう認識でいいんですよね?」
おう、と団長は頷いた。
「今日はさ、シルヴァの2番目の兄貴のな、命日なんだよ」
あなたにおすすめの小説
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
極うま魔獣肉に魅了されたおっさん冒険者は辺境の町で訳あり美少女エルフと癒し食堂を始めたようです
夢幻の翼
ファンタジー
長き期間を冒険者として過ごした俺――グラードは四十五歳を迎えるにあたって冒険者を引退、かつてから興味のあった料理人へと転職を決意した。調理は独学だが味に自信のあった俺は店舗経営の知識修得の為に王都の人気料理店で修行を始めるも横柄なオーナーのせいで店はおろか王都からも追放されてしまった。しかし、魔物の素材に可能性を見いだしていた俺は魔物が多く住むと言われる北の魔樹海側の町を拠点とし、食堂経営に乗り出すことに。
旅の途中で出会った変わり者の魔白猫や呪いのために一族から追放されたエルフの少女と共に魔物素材を使った料理で人々を幸せに癒す。冒険者を引退した料理好きのおっさんが繰り広げるほのぼのスローライフ開幕です。
スーパーのビニール袋で竜を保護した
チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。
見つけ次第、討伐――のはずだった。
だが俺の前に現れたのは、
震える子竜と、役立たず扱いされたスキル――
「スーパーのビニール袋」。
剣でも炎でもない。
シャカシャカ鳴る、ただの袋。
なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。
討伐か、保護か。
世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。
これは――
ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。