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5.甘いのは、紅茶?
しおりを挟む「貴方達も、そろそろ主人の元へ戻った方がいいんじゃないかしら? 報告、お願いね」
「かしこまりました」
レオ様、別に私たちのこと待ってないだろうな……と思ったのは、ここだけの話である。
「それと……エリデ様の件については、私が怪我を負ったりした訳でもないし、できればこちらとしても、穏便に済ませたいわ。気分的にはいいものじゃなかったけれど、これは女同士の戦いみたいなものだから、ね」
他国の事に口を挟むのは、良くないと思うのだけど……と、申し訳なさそうしながら、クラウディア様はそう語られたのだった。
「寛大なお言葉、感謝いたします。レオドール王子にも、クラウディア様のご意向は、きちんと伝えさせていただきます」
ロラン様の言葉を聞いて、心底ホッとしたような表情を浮かべたクラウディア様なのだった。自分が被害を受けた側なのに、色々な事を配慮されていて、心優しい方である。
レオ様にも、その優しさを少しは見習ってもらいたいくらいだ……と、私がうんうんと心の中で思いながら、ふと目線を上げた……のだが。私のすぐ目の前でクラウディア様が立っており、ジッと見つめていた。思わずビクッとなる私。
「ク、クラウディア様?」
「さっきからずっと気になっていたのだけど、貴方……この王宮以外のどこかで、お会いした事があったかしら……?」
「? いえ、クラウディア様をお見かけしたのは、先日来国された時が初めてですが……」
こうして面と向かって、メイドとして接するのは今回が初めてで、令嬢の姿では勿論会った事はないので、嘘は言っていない。
「そう……気のせいかしら。不躾にごめんなさいね。どこかで見かけた顔立ちだったから、思い出そうとして、つい見入ってしまったわ。ね、お名前は何ておっしゃるの?」
ここでは一人のしがない王宮メイドとして、挨拶しておいた方が妥当だろう。私は「ルルリナ、と申します」と、だけ挨拶をした。私の名前を聞いて、可愛らしい名前だわ、とクラウディア様は微笑んだ。
「ルルリナの透き通った青い瞳、とても綺麗ね。宝石みたいだわ」
「あ、ありがとうございます」
クラウディア様に突然お褒めの言葉をいただき、困惑しつつも、お礼を述べた私なのだった。
────────────────
公務室に戻ると、何だかヤケに不機嫌そうなオーラを漂わせたレオ様が、私たちを出迎えた。そして私を見るなり「遅い」と、一言。
「なんなんですかね、この俺様王子……」
私がロラン様へコソッと耳打ちすれば、更に眉間にしわが寄っている。
「そんなに心配していらっしゃったのなら、ご一緒に現場に来ていただいても構いませんでしたのに」
不機嫌そうなレオ様を横目に、そんなのお構いなしといった様子のロラン様は、ニコニコと言葉を返している。
「ロラン様、それだとあのご令嬢、確実に瀕死になります」
現場を取り押さえられたエリデ様、レオ様がこの件をご存知だって分かった時のショック加減、凄かったですから。もし現場にレオ様がいたら、気絶の一つや二つ、余裕でしていたに違いないだろう。
「別にお前(ロラン)が付き添ってるなら、危険な事はまずないだろ。心配してた訳じゃない。そんな事より、ルル」
「? 何でしょう」
「いつもの紅茶が飲みたい」
「……すぐにご用意します」
何を言うのかと思えば、紅茶か……ちょっと呆れた私だったが、文句を言われる前に準備に取り掛かる事にした。公務室は続き部屋になっており、簡単なお茶がすぐに出せるように、色々と設備も整っているのである。
小鍋に入れた水が沸騰したら、茶葉を入れて火を止める。蒸らしてからミルクと蜂蜜を投入し、また少し火にかけて、茶こしで漉したら完成だ。砂糖じゃなくて蜂蜜なのが、私流である。驚く事なかれ。腹黒王子は、ミルクと蜂蜜たっぷりの、ロイヤルミルクティー派なのだ。
◇◇◇
私が続き部屋のキッチンで、コトコトと紅茶を淹れている頃────
「レオドール様、先程はなぜ不機嫌だったんですか?」
「あ? さっきも言ったろ。別に」
ドカッとソファーに座ったレオドールは、ロランの問いかけに、また機嫌が悪くなりそうな声色で、そう告げた。
「ふむ……何だか納得がいってないご様子ですので」
今ならルルリナ様もいらっしゃいませんですし、といい笑顔で促すロランなのだった。
そんな顔を、ちょっとウンザリした表情で見ていたレオドールは、暫くして諦めたのか、ポツリと言葉を溢した。
「チッ……ただの令嬢のネズミトリにしては遅いから、トラブルでもあったかと思っただけだ」
「戻ってくるのが少し遅くなったのは、クラウディア様がルルリナ様を気にされていて、ちょっとお話していただけですよ?」
「お前、それを先に言えよ……」
はー、と深い溜息をついたレオドールと、それをニコニコと見守るロランの姿を、ルルリナは知るよしもなかったのである。
◇◇◇
「お待たせしました……って、お二人ともどうかされましたか?」
「別に」
「いえ、何でもありません」
何だ何だ……と、訝しげに二人を交互に見つめてみるが、結局よく分からず。私はとりあえず淹れたての紅茶を、そっとテーブルの上に置いたのだった。
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