宝石花の恋煩い ~女嫌いな俺様王子と、訳あり専属メイド令嬢の3か月間~

希結

文字の大きさ
6 / 15

6.それはきっと長い夜

しおりを挟む
 
 クラウディア様とエリデ様の一件が無事に解決し、二週間程は花嫁候補の方々のいざこざはなく、比較的穏やかに時が流れていた。

 結局エリデ様の処罰は、クラウディア様からの進言もあって大事にはしない事になったらしい。エリデ様は花嫁候補を自主辞退、という形を取る事で決着がついたのだった。レオ様は「隣国の公爵令嬢なのに、処罰は求めないなんて生ぬるいな」と、悪魔の様な言葉を洩らしていたけど。

「ルルリナ様。今夜の件で、ご相談が」

「……ロラン様」

「おや、もう既に嫌気がさしてますね?」

 私はくすりと笑ったロラン様に、少し恨めしい表情を向けた。

「別に、私がいなくても問題はないと思うのですが……」

「まぁまぁ……念には念を入れて、という事で。私も側に控えておりますので」

 そう。とある令嬢が事の発端なのだが、そのせいで私は今夜、王宮で宿泊をしなければいけなくなったのである。

 ────────────────

 時は少しだけ遡って、数日前。

「……夜這い、ですか?」

 聞き間違いかなと思い、もう一度ロラン様の言った事を馬鹿みたいに復唱した。

「はい。夜這い、です」

 き、聞き間違いじゃなかった……

「……あの、そんな事をしようとするご令嬢がいるんですか……?」

 仮にも、王子の花嫁候補に選ばれている、高位貴族のご令嬢が……夜這い?

「残念な事に、意外といらっしゃるんですよね。歴代の花嫁候補の方の記録を確認すると」

 まるで猫でも現れるかの如く、軽い口調で話す為、私は思わずロラン様をマジマジと見つめてしまった。

「こうやってライバル達が身近に集っていると、自分を他の人よりも目立たせたいと思ったり、少し羽目を外してでも王子の印象に残りたいと思うみたいです」

「はぁ……そういうものなんですか……」

 あのレオ様に対してその行き過ぎた行為は、ぶっちゃけ逆効果なのでは……?

「ルルリナ様は普段、夕方にはご自宅に戻られておりますので、夜の王宮の様子はご存知ないでしょう? レオ様もあまり言いたがらないでしょうし……」

「もしかして、もう既に何度か夜這いに遭っている……とかじゃないですよね?」

「惜しいですね。正解は、夜這い未遂が先日一件あった、です」

 話によると、先日夜遅くまでレオ様が執務室で政務を行なっていた際に、一人のご令嬢が現れたらしい。勿論、執務室の扉の前には護衛騎士が待機している。すぐ騎士に声を掛けられ、自分の部屋へと大人しく戻っていったそう……なのだが。

「その方が、また来るかもしれないんですか?」

「恐らく。これは私の……男の勘、とでもいいましょうかね」

「男の勘ってあんまり聞きませんけど」

 ふむ……と、腕を組みながら神妙な面持ちである。よっぽど危険な可能性でもあるのだろうか。

「どうやら中々可愛らしい方みたいなんですよね、そのご令嬢」

「……は?」

「あ、名前をお伝えしておりませんでしたね。そのご令嬢というのがハーニャ様なのですが、庇護欲をそそるといいますか。こう……頼られたら、願い事は叶えてあげたくなる、みたいな」

 つまり、そのご令嬢のお願いに負けて、レオ様の部屋へ通してしまう騎士様がいるかもしれない……という事だろうか?

「上手いんですよね、その方。先日いらっしゃった時間帯も、夜遅くは遅くなんですけど、真夜中って訳でもなくて。政務でお疲れのレオドール王子に、ご挨拶だけでいいからさせてほしくて……と、おっしゃっていたそうなんです。部屋へ戻るようにと騎士に言われると、謝ってすぐに引き返されたようですし」

 健気な感じがありますよねぇ、とウンウンと頷くロラン様である。確かに私も、それだけを聞いていれば、それが夜這いにまで発展するようにはあまり感じなかった。

「でもロラン様的には、その方は、ただ健気で可愛らしいだけの方ではない……と、思われるんですよね?」

「はい。それを確かめる為に、ルルリナ様には是非ともご協力をお願いしたくて」

 そう言ってニッコリと微笑むと、とある作戦を私に打ち明けたのだった。

 ────────────────

「それで私は、従者用の部屋で待機をしていればいい……んでしたよね?」

 レオ様の私室の続き扉の先には、夜間は使われる事が全くない待機室がある。部屋自体は従者用なので、さほど広くないが、簡単な物なら調理も可能なキッチンやベットなど、必要な物が一揃いあるのだ。

「はい。レオ様から、お茶だ何だとあれこれワガママを言われるかもしれませんが、それ以外は基本的に待機で問題ありません。事が片付くまでは眠れない、という点が申し訳ないのですが……」

「その点はお仕事ですし、レオ様やロラン様も眠れないのは一緒ですから、大丈夫です」

「ありがとうございます。夜間待機の護衛騎士にも、ハーニャ様がいらっしゃった時はあえて部屋に通すという一芝居を頼んでますのでね。夜這い行為をしようとした、という状況下で、現行犯として捕まえるのがミッションクリアの条件です……っと、今夜は雨が降り出しそうな雲行きですね……」

 ロラン様の目線を自然と追って、私も窓を眺めた。時刻はもう夕暮れに近づいていたが、雨雲が空を覆っていて、いつもよりうす暗く感じたのだった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...