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番外編
ダンス・ウィズ・ハビーズ 6
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まさか私の結婚披露宴用のドレスのためにユリウスさんまで巻き込まれているとは知らなかった、とまだ申し訳なく思っている私を尻目にシェラさんはさて、と私の手を取りおもむろに立ち上がった。
「ダンスを披露する夜会の事やその際お召しいただくドレスについては踊りながら話しましょうか」
そう言って傍らに置いてあった小箱を開く。
するとオルゴールになっているその小箱からは途端にゆったりとしたワルツの調べが素朴でかわいらしい音で鳴り始めた。
それに合わせてシェラさんに手を取られ導かれるままに私もダンスを始める。
「今回のユーリ様の結婚式と披露宴は五日間に渡って取り行われ、オレ達とのダンスがある大夜会は最後の5日目ということはすでに聞いておりますね?」
「あ、はい。でも他国からのお客様との晩餐会や王都のパレードがあることを考慮しても、やっぱり五日間はやり過ぎだと思うんですけど・・・」
なんで五日間も披露宴を、と思ったらルーシャ国の慣例らしい。
国の慶事として国王陛下の結婚の場合は一週間、皇太子殿下や皇太女殿下なら五日間、それ以下の王子や王女の結婚は三日間に渡り国を挙げてお祝いするらしい。
それで言ったら王弟殿下であるリオン様が絡む今回の結婚式は三日間で良くない?と思ったのに前陛下のナジムート様が
「はァ!?何言ってんだ、ユーリちゃんは100年ぶりの召喚者だぞ?格で言えば王様よりもずっと上なんだから3日はねぇよ!しかもその召喚者がオレの息子と結婚するんだ、これ以上はないってくらい祝わねぇと!!」
と反対し、大声殿下・・・もとい今は国王になったイリヤ陛下までもが
「リオンと召喚者の婚姻という世にもめでたい祝いの場だ、皇太子級の祝賀にしなければならない!俺が許す!!」
といつも以上の大声で宣言した。ちなみにその場には私とリオン様の他にレジナスさんもいたんだけど大声殿下、そのレジナスさんの背中をバシバシ叩いてガシッと肩を組むと
「良かったなあレジナス!まさかお前が嫁をもらうのを生きているうちにこの目で見られるとは思わなかった!まさに奇跡だ!!」
とまたいつものように遠慮もデリカシーもない事をずけずけと言い放っていた。
本当にもうこの大声殿下は・・・と私は呆れていたけど当のレジナスさんは嫌がるでも怒るでもなく
「は、どうも・・・」
と何なら少し気恥ずかしそうにしているし、リオン様も
「兄上もカティヤも昔からレジナスのそういうところは気を揉んでいたからね」
と微笑ましく見ているだけというやり取りもあった。
そんなわけで私やリオン様達の結婚行事は国を挙げての五日間にも渡るものをやる事になってしまったのだ。
その中でも重要なのは初日にある、いわゆる結婚披露宴である大晩餐会と呼ばれるものと、最終日に私達がダンスを披露する大夜会だった。
どちらも他国からの賓客を招いているとても華やかで外交の場としても大事なものだ。
だからこそ夜会で下手なダンスは見せられないと私も必死になっている。
改めて緊張の面持ちでそんな事を考えていると目の前のシェラさんがくすりと笑った気配がした。
「そんなに気負わないでください。もう少し肩の力を抜いた方がダンスも美しく見えますよ。」
「そんな事を言われても」
「まったく、ユーリ様は真面目なお方ですからねぇ。ですからオレもそんなユーリ様の一助になればと最終日の夜会については少しアイデアを出させてもらいました」
「え?」
どういう意味だろう、とシェラさんを見上げたら
「おや、やっと目が合いましたね。踊っている間は常に視線はそのように相手に向けていてください。ましてや今回は新婚カップルのダンスです、見つめ合っていてこそ周囲の者達にもその幸せな気分をお裾分け出来るのですから」
そんな事を言いながらあの金色の瞳を笑ませた。
「は、はぁ・・・」
こっちはやっと足元を見ないで顔を上げたままダンスを踊れるようになったばっかりなのに、見つめ合ったまま踊るとか気恥ずかしさのあまりせっかく覚えたステップを忘れそうなんですけど。
一瞬そんな余計な事を考えたのが悪かった。
「あっ!」
ステップが乱れてかくんと膝の力が抜けるような形になってしまう。
するとすかさずシェラさんは後ろに仰向けに転びかけた私の動きを利用して、私の背中を抱きしめるように支えながらそのままくるりと器用にターンを決めた。
「大丈夫ですよ、少しくらいステップが乱れてもオレのリードでこのようにダンスの一部だったように見せますので。ユーリ様は安心して身をお任せくださいね」
「さ、さすがですね」
初めてシェラさんとダンスの練習をする際、
『不本意ながら、昔から踊りは得意なのです。剣舞から神殿への奉納舞、遊女の宴席舞まで歌舞音曲の類であればオレは何でも踊れますからね。何ならユーリ様のダンスの指南役も出来ますよ』
なんて言っていただけあって、相手の足を踏んでしまいそうな私の下手くそダンスの相手を今までも難なくこなしている。
そしてそんなシェラさんは何事も無かったかのように再びワルツのステップを踏みながら続けた。
「話を戻しますね。最終日の夜会は王宮の大ホールではなく、本宮の大庭園を会場にしました。式まで5ヶ月を切ったところですのでそろそろ大庭園にも夜会の会場用に板を敷き屋根を掛ける工事が始まるはずです」
「ええ!?そんな大掛かりな・・・!」
「煌びやかで明るい大ホールよりも、月夜の翳りを僅かに帯びた野外の方がユーリ様もダンスの粗探しをされにくく安心して踊れるかと思いまして。」
なんて言ってシェラさんはまた一つニコリと微笑んだ。
「それにダンスホールにする場は板を敷きますが、立食形式の宴席の場は芝の上です。それもあり当日のドレスコードのご婦人方の履き物も、芝を痛めないようにいつもの夜会よりも太めで低いヒールを指定する予定です」
「あ」
みんながいつもよりも低くて太いヒールを履くなら私も自然とそうなる。となると、ダンスも俄然踊りやすくなるはずだ。
さすがシェラさん。明るい室内で踊って私のダンスにボロが出るのを誤魔化すために会場をわざと暗めの屋外に設定したのは、同時に私が踊りやすい低いヒールを履いていても違和感がないようなシチュエーションにするためでもあるらしい。
「相変わらず用意周到ですね・・・!」
本当に感心して思わずそう言えば、ふふ、と嬉しそうに目を細められた。
「お褒めに預かり光栄です。会場の庭園に向かう道の両側にはガラスの蓋を嵌めた細い溝を設置し、溝の中にはユーリ様とシグウェル殿が共同で作り上げた例の星の砂を入れて燃やす予定です。ガラスを通して両側が煌びやかに輝く歩道はどの国の賓客にも驚きを与え、庭園までの夜道を華やかに明るく導いてくれることでしょう」
「あれも使うんですか!?」
あれって結構貴重だとかで、セディさんがシグウェルさんの郊外のお屋敷で厳重に保管しているはずなんだけど。
「シグウェル殿には快く許可をいただきました。ユーリ様の加護の力で減ることのない砂ですので、王宮の主門から大庭園までの長距離でも敷き詰めることが出来るようですね?それに燃えていながらも他の物にその熱が移らず延焼もしないというのがまた素晴らしい。ご婦人方も華やかなドレスに火が燃え移る心配もなくユーリ様とシグウェル殿の魔法研究の成果を見られるということですからね」
そう頷きながらシェラさんは私をまた一つくるりとターンさせる。そして
「オレが月光花をドレスに使おうと思いましたのもそこに理由がありまして」
と続けた。
「月光花の真の美しさは夜の野外でこそ発揮されます。大庭園の会場の飾り付けにも月光花は使いますが、ユーリ様のドレスに縫い付けられ散りばめられたその輝きはユーリ様ご自身が淡く発光しているかのような幻想的な美しさで皆の目を奪うはずです。それこそダンスのステップを踏む足さばきのみに注目して粗探しをする暇もなくなるかと」
なるほど、ドレスの華やかさでもみんなの目を誤魔化そうってことかな?
「それにその月光花もユリウスの・・・魔導士院の研究の成果ということをそれとなく流布しておけば、星の砂と合わせて他国の賓客にはルーシャ国の魔法技術の高さを知らしめ、国内の貴族達にも魔導士院とそこに所属している者達の意義も分からせる事が出来るでしょう」
「なんて言うか、理由付けがうまいですよね・・・。そうやってユリウスさんには無理を言って、リオン様からは予算をたくさん貰ったんですか?」
私のためにあれこれしてくれてるのはよーく分かったけど、夜会用に庭園の工事まで始まるとかまた経費がたくさんかかりそうな事まで知ってしまった。
いや、遅かれ早かれ知ることにはなっただろうけど。
「魔導士院の権威高揚にも関わると説明したらリオン殿下だけでなくシグウェル殿からも魔導士院に割り当てられている予算からいくらか貰えましたよ?」
「お金集めがうますぎる!」
思ってもみなかったことについタメ口で突っ込んでしまった。
「シェラさんって騎士よりも商人に向いてるんじゃないかなってたまに本気で思います・・・」
「オレも早く騎士団を辞めて商人もどきをしながら小銭を稼ぎ、日々ユーリ様のお側にいたいと思っているんですがねぇ・・・。なぜかリオン殿下とレジナスが許してくれないのですよ。ユーリ様、一度彼らを説得していただけませんか?」
そんなお願いをされたけど、あの二人が反対してるってことはもしシェラさんが騎士を辞めたら碌でもないことになると思っているってことだ。
なら私もシェラさんを辞めさせるわけにはいかない。ここは一つ、褒めてその気を削がせようと口を開く。
「私、シェラさんの騎士服姿がカッコ良くて好きなので騎士を辞めたらそれを見られないってことですよね?それはちょっと残念かも」
するとおや、と一瞬目を丸くしたシェラさんが次の瞬間ぐいと顔を寄せたので、ワルツなのにまるでタンゴを踊っているようにのけぞるような姿勢になった。
「ユーリ様に好ましいと思っていただけるのは嬉しいですが、好きなのはオレの服装だけですか?オレ自身ではなくて?オレの顔や体はユーリ様の好みではありませんか?」
「はい!?」
そこはせめて、容姿じゃなく性格や中身は好きじゃないのかと聞くところじゃないのかな!?
オレの体は好みではありませんかと聞きながら、取っている私の両手の片方をシェラさんはわざと自分の胸元に当てさせる。
「ちょっとシェラさん!」
レジナスさんほどの厚みや硬さはないけど、充分引き締まった騎士さんらしい体の感触とトクトクと脈打つ鼓動を感じて赤面する。
「まだ婚前だというのに挑発したのはユーリ様ですからね」
「してない!してないです!!」
どうしてこうなった、とぶんぶん頭を振る。
私はただシェラさんに騎士を続けてもらおうと思って話しただけだったのに。
なんでこういつも墓穴を掘るみたいになるんだろう。
そう慌てる私をシェラさんは満足そうに見つめて、
「やはりそのように慌てて恥ずかしそうにしているユーリ様を間近で見られるのは良いものですね。最近は会えない時間も多かったのでより一層新鮮に愛らしく思えます。どうかいつまでもそのように愛らしくオレの心を乱す存在でいてくださいね」
オレの女神。久しぶりにそのセリフを聞いたと思ったらそのまま口付けられる。
そしてそんなシェラさんの言い様に「またからかわれた!!」と口付けられたまま私はやっと気付き、悔しい思いをするのだった。
「ダンスを披露する夜会の事やその際お召しいただくドレスについては踊りながら話しましょうか」
そう言って傍らに置いてあった小箱を開く。
するとオルゴールになっているその小箱からは途端にゆったりとしたワルツの調べが素朴でかわいらしい音で鳴り始めた。
それに合わせてシェラさんに手を取られ導かれるままに私もダンスを始める。
「今回のユーリ様の結婚式と披露宴は五日間に渡って取り行われ、オレ達とのダンスがある大夜会は最後の5日目ということはすでに聞いておりますね?」
「あ、はい。でも他国からのお客様との晩餐会や王都のパレードがあることを考慮しても、やっぱり五日間はやり過ぎだと思うんですけど・・・」
なんで五日間も披露宴を、と思ったらルーシャ国の慣例らしい。
国の慶事として国王陛下の結婚の場合は一週間、皇太子殿下や皇太女殿下なら五日間、それ以下の王子や王女の結婚は三日間に渡り国を挙げてお祝いするらしい。
それで言ったら王弟殿下であるリオン様が絡む今回の結婚式は三日間で良くない?と思ったのに前陛下のナジムート様が
「はァ!?何言ってんだ、ユーリちゃんは100年ぶりの召喚者だぞ?格で言えば王様よりもずっと上なんだから3日はねぇよ!しかもその召喚者がオレの息子と結婚するんだ、これ以上はないってくらい祝わねぇと!!」
と反対し、大声殿下・・・もとい今は国王になったイリヤ陛下までもが
「リオンと召喚者の婚姻という世にもめでたい祝いの場だ、皇太子級の祝賀にしなければならない!俺が許す!!」
といつも以上の大声で宣言した。ちなみにその場には私とリオン様の他にレジナスさんもいたんだけど大声殿下、そのレジナスさんの背中をバシバシ叩いてガシッと肩を組むと
「良かったなあレジナス!まさかお前が嫁をもらうのを生きているうちにこの目で見られるとは思わなかった!まさに奇跡だ!!」
とまたいつものように遠慮もデリカシーもない事をずけずけと言い放っていた。
本当にもうこの大声殿下は・・・と私は呆れていたけど当のレジナスさんは嫌がるでも怒るでもなく
「は、どうも・・・」
と何なら少し気恥ずかしそうにしているし、リオン様も
「兄上もカティヤも昔からレジナスのそういうところは気を揉んでいたからね」
と微笑ましく見ているだけというやり取りもあった。
そんなわけで私やリオン様達の結婚行事は国を挙げての五日間にも渡るものをやる事になってしまったのだ。
その中でも重要なのは初日にある、いわゆる結婚披露宴である大晩餐会と呼ばれるものと、最終日に私達がダンスを披露する大夜会だった。
どちらも他国からの賓客を招いているとても華やかで外交の場としても大事なものだ。
だからこそ夜会で下手なダンスは見せられないと私も必死になっている。
改めて緊張の面持ちでそんな事を考えていると目の前のシェラさんがくすりと笑った気配がした。
「そんなに気負わないでください。もう少し肩の力を抜いた方がダンスも美しく見えますよ。」
「そんな事を言われても」
「まったく、ユーリ様は真面目なお方ですからねぇ。ですからオレもそんなユーリ様の一助になればと最終日の夜会については少しアイデアを出させてもらいました」
「え?」
どういう意味だろう、とシェラさんを見上げたら
「おや、やっと目が合いましたね。踊っている間は常に視線はそのように相手に向けていてください。ましてや今回は新婚カップルのダンスです、見つめ合っていてこそ周囲の者達にもその幸せな気分をお裾分け出来るのですから」
そんな事を言いながらあの金色の瞳を笑ませた。
「は、はぁ・・・」
こっちはやっと足元を見ないで顔を上げたままダンスを踊れるようになったばっかりなのに、見つめ合ったまま踊るとか気恥ずかしさのあまりせっかく覚えたステップを忘れそうなんですけど。
一瞬そんな余計な事を考えたのが悪かった。
「あっ!」
ステップが乱れてかくんと膝の力が抜けるような形になってしまう。
するとすかさずシェラさんは後ろに仰向けに転びかけた私の動きを利用して、私の背中を抱きしめるように支えながらそのままくるりと器用にターンを決めた。
「大丈夫ですよ、少しくらいステップが乱れてもオレのリードでこのようにダンスの一部だったように見せますので。ユーリ様は安心して身をお任せくださいね」
「さ、さすがですね」
初めてシェラさんとダンスの練習をする際、
『不本意ながら、昔から踊りは得意なのです。剣舞から神殿への奉納舞、遊女の宴席舞まで歌舞音曲の類であればオレは何でも踊れますからね。何ならユーリ様のダンスの指南役も出来ますよ』
なんて言っていただけあって、相手の足を踏んでしまいそうな私の下手くそダンスの相手を今までも難なくこなしている。
そしてそんなシェラさんは何事も無かったかのように再びワルツのステップを踏みながら続けた。
「話を戻しますね。最終日の夜会は王宮の大ホールではなく、本宮の大庭園を会場にしました。式まで5ヶ月を切ったところですのでそろそろ大庭園にも夜会の会場用に板を敷き屋根を掛ける工事が始まるはずです」
「ええ!?そんな大掛かりな・・・!」
「煌びやかで明るい大ホールよりも、月夜の翳りを僅かに帯びた野外の方がユーリ様もダンスの粗探しをされにくく安心して踊れるかと思いまして。」
なんて言ってシェラさんはまた一つニコリと微笑んだ。
「それにダンスホールにする場は板を敷きますが、立食形式の宴席の場は芝の上です。それもあり当日のドレスコードのご婦人方の履き物も、芝を痛めないようにいつもの夜会よりも太めで低いヒールを指定する予定です」
「あ」
みんながいつもよりも低くて太いヒールを履くなら私も自然とそうなる。となると、ダンスも俄然踊りやすくなるはずだ。
さすがシェラさん。明るい室内で踊って私のダンスにボロが出るのを誤魔化すために会場をわざと暗めの屋外に設定したのは、同時に私が踊りやすい低いヒールを履いていても違和感がないようなシチュエーションにするためでもあるらしい。
「相変わらず用意周到ですね・・・!」
本当に感心して思わずそう言えば、ふふ、と嬉しそうに目を細められた。
「お褒めに預かり光栄です。会場の庭園に向かう道の両側にはガラスの蓋を嵌めた細い溝を設置し、溝の中にはユーリ様とシグウェル殿が共同で作り上げた例の星の砂を入れて燃やす予定です。ガラスを通して両側が煌びやかに輝く歩道はどの国の賓客にも驚きを与え、庭園までの夜道を華やかに明るく導いてくれることでしょう」
「あれも使うんですか!?」
あれって結構貴重だとかで、セディさんがシグウェルさんの郊外のお屋敷で厳重に保管しているはずなんだけど。
「シグウェル殿には快く許可をいただきました。ユーリ様の加護の力で減ることのない砂ですので、王宮の主門から大庭園までの長距離でも敷き詰めることが出来るようですね?それに燃えていながらも他の物にその熱が移らず延焼もしないというのがまた素晴らしい。ご婦人方も華やかなドレスに火が燃え移る心配もなくユーリ様とシグウェル殿の魔法研究の成果を見られるということですからね」
そう頷きながらシェラさんは私をまた一つくるりとターンさせる。そして
「オレが月光花をドレスに使おうと思いましたのもそこに理由がありまして」
と続けた。
「月光花の真の美しさは夜の野外でこそ発揮されます。大庭園の会場の飾り付けにも月光花は使いますが、ユーリ様のドレスに縫い付けられ散りばめられたその輝きはユーリ様ご自身が淡く発光しているかのような幻想的な美しさで皆の目を奪うはずです。それこそダンスのステップを踏む足さばきのみに注目して粗探しをする暇もなくなるかと」
なるほど、ドレスの華やかさでもみんなの目を誤魔化そうってことかな?
「それにその月光花もユリウスの・・・魔導士院の研究の成果ということをそれとなく流布しておけば、星の砂と合わせて他国の賓客にはルーシャ国の魔法技術の高さを知らしめ、国内の貴族達にも魔導士院とそこに所属している者達の意義も分からせる事が出来るでしょう」
「なんて言うか、理由付けがうまいですよね・・・。そうやってユリウスさんには無理を言って、リオン様からは予算をたくさん貰ったんですか?」
私のためにあれこれしてくれてるのはよーく分かったけど、夜会用に庭園の工事まで始まるとかまた経費がたくさんかかりそうな事まで知ってしまった。
いや、遅かれ早かれ知ることにはなっただろうけど。
「魔導士院の権威高揚にも関わると説明したらリオン殿下だけでなくシグウェル殿からも魔導士院に割り当てられている予算からいくらか貰えましたよ?」
「お金集めがうますぎる!」
思ってもみなかったことについタメ口で突っ込んでしまった。
「シェラさんって騎士よりも商人に向いてるんじゃないかなってたまに本気で思います・・・」
「オレも早く騎士団を辞めて商人もどきをしながら小銭を稼ぎ、日々ユーリ様のお側にいたいと思っているんですがねぇ・・・。なぜかリオン殿下とレジナスが許してくれないのですよ。ユーリ様、一度彼らを説得していただけませんか?」
そんなお願いをされたけど、あの二人が反対してるってことはもしシェラさんが騎士を辞めたら碌でもないことになると思っているってことだ。
なら私もシェラさんを辞めさせるわけにはいかない。ここは一つ、褒めてその気を削がせようと口を開く。
「私、シェラさんの騎士服姿がカッコ良くて好きなので騎士を辞めたらそれを見られないってことですよね?それはちょっと残念かも」
するとおや、と一瞬目を丸くしたシェラさんが次の瞬間ぐいと顔を寄せたので、ワルツなのにまるでタンゴを踊っているようにのけぞるような姿勢になった。
「ユーリ様に好ましいと思っていただけるのは嬉しいですが、好きなのはオレの服装だけですか?オレ自身ではなくて?オレの顔や体はユーリ様の好みではありませんか?」
「はい!?」
そこはせめて、容姿じゃなく性格や中身は好きじゃないのかと聞くところじゃないのかな!?
オレの体は好みではありませんかと聞きながら、取っている私の両手の片方をシェラさんはわざと自分の胸元に当てさせる。
「ちょっとシェラさん!」
レジナスさんほどの厚みや硬さはないけど、充分引き締まった騎士さんらしい体の感触とトクトクと脈打つ鼓動を感じて赤面する。
「まだ婚前だというのに挑発したのはユーリ様ですからね」
「してない!してないです!!」
どうしてこうなった、とぶんぶん頭を振る。
私はただシェラさんに騎士を続けてもらおうと思って話しただけだったのに。
なんでこういつも墓穴を掘るみたいになるんだろう。
そう慌てる私をシェラさんは満足そうに見つめて、
「やはりそのように慌てて恥ずかしそうにしているユーリ様を間近で見られるのは良いものですね。最近は会えない時間も多かったのでより一層新鮮に愛らしく思えます。どうかいつまでもそのように愛らしくオレの心を乱す存在でいてくださいね」
オレの女神。久しぶりにそのセリフを聞いたと思ったらそのまま口付けられる。
そしてそんなシェラさんの言い様に「またからかわれた!!」と口付けられたまま私はやっと気付き、悔しい思いをするのだった。
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