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第十七章 その鐘を鳴らすのはわたし

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大声殿下が私の地方行きに許可を出してくれた?

シェラさんの思いがけない言葉に驚いていると、
出された紙を食い入るように見つめて確かめていた
リオン様も驚いている。

「確かに兄上の署名だ・・・。」

「時期国王陛下でもある皇太子殿下の勅令書です、
さすがに無視するわけにはいかないでしょう?
ユーリ様はオレとエルがしっかり守りますからね、
殿下はどうぞご安心下さい。」

そう言ったシェラさんはにっこりと私に微笑んだ。

「どうしてシェラさんがイリヤ殿下の許可を?」

「その地域にはキリウ小隊からも二名の人員を出して
いたのですがそのどちらとも連絡がつかなくなり
ましたのでね。余程の事だと思っていたところへ
ユーリ様への嘆願書が届いた事を知った殿下がオレに
その護衛と解決の手助けを命じられました。」

どんなに難しい任務でもやり遂げるキリウ小隊の
人が二人も連絡がつかなくなって帰って来ない?

それは本当に深刻な事態だ。やっぱり私が行かないと
いけない。

説明するシェラさんにレジナスさんは眉を寄せた。

「確かにお前はキリウ小隊の隊長だから隊員に責任が
ある。しかし実力で言えば俺がユーリに同行しても
良いのでは?」

「あなたはリオン殿下の護衛騎士でしょう。確かに
実力で言えばオレより優れていますが、だからこそ
イリヤ殿下は不測の事態に備えてあなたを温存して
おきたいのでは?もしこれが他国からの陽動で、
この騒ぎで地方に気を取られている間に王都へ何か
されたらどうします?」

まあ後はいつものイリヤ殿下の直感ですね。

そう言ってシェラさんは肩をすくめた。

「・・・癒し子の同行にはシェラの他に宮廷魔導士団
から副団長と魔導士数人、魔法剣に優れた中央騎士団
の者も何人か同行させるようにともあるね。」

リオン様の言葉にシェラさんが頷く。

「さすがに魔導士団長を出すわけにはいきません
からね。まあユリウス副団長がいれば魔法を使う他の
者達もうまく取りまとめてくれるでしょうしその方が
オレもユーリ様の護衛に専念出来ますから。」

確かにユリウスさんはコーンウェル領でも火山の
噴火から避難する人達の手助けをするのに、向こうの
騎士さん達や手伝いに出た私の護衛騎士さん、兵士の
人達の間にレジナスさんと一緒に入って連携を取って
くれていたっけ。

「今の君をユーリと二人で行かせなきゃならない
なんて、心配しかないよ」

はあとため息をついたリオン様にシェラさんは
ああ、と頷く。

「オレが求婚した件をお聞きになりましたか。
まさかこんな大変な時にすぐ返事を、などとさすがに
言いませんよ。ご安心下さい、この件が片付くまでは
ユーリ様に返事を迫ったり急がせたりなど致しません
から。」

「・・・っ!」

平然とリオン様に、私に告白したと言うシェラさんに
動揺して顔が赤くなり思わずリオン様の手をぎゅっと
握り返す。

「意識させたいんだろうけどそうやってわざとユーリ
の反応を見ようとするのもダメだよ。」

やっぱり心配しかない、とリオン様は私を抱き寄せて
守るようにその腕の中に隠すとじろりとシェラさんを
見つめた。

「おや失礼しました。何やらダーヴィゼルドから
オレにも関係した物が届けられたと小耳に挟みまして
つい嬉しくなったもので。」

「聞いたんですか⁉︎」

シェラさんもすでに伴侶の数に含まれている贈り物
をヒルダ様が送って来たことを。

リオン様の胸に顔をくっつけさせられているせいで
くぐもった声で小さく叫ぶ。

良かった、リオン様に顔がくっついているおかげで
私の顔が赤くなっているのが見えなくて。

そう思っていたのにシェラさんの

「お耳が真っ赤ですよユーリ様。いつかオレの腕の中
でもそのように可愛らしい姿を見せていただけると
良いのですが」

そんな言葉が背中から聞こえて来た。

「リオン様!」

どうにかしてと多分どうにもならない事を分かり
ながらもついリオン様に頼ってしまう。

「いや、そうやってユーリが僕に縋りつく様子は
確かにかわいいのは認めるけどね。伴侶ならまだしも
まだ告白の返事ももらってないのに、そんな風に言葉
でいじめて反応を楽しむようなそれを止めろと言って
いるんだよ。そんな風で向こうに行っても与えられた
任務を遂行出来るとでも?」

一応シェラさんを注意してくれてるけどリオン様の
言うことも変じゃないかな⁉︎

「それじゃまるで、伴侶になったら私の困った姿を
楽しんでもいいって言ってるみたいじゃないですか!
おかしくないですか⁉︎」

やっぱり離れる!と腕でリオン様の胸を押して
逃れようとするけどびくともしない。

「そんなにじゃれ合う姿を目の前で見せられるのは
今のオレにはとても辛いですね。ですが誓ってこの
騒ぎが片付くまではオレ個人の事情は持ち込みません
のでご安心下さい。今は何よりも、民の願いに応え
奪われたオレの部下も取り戻す事に集中致します。」

そう言ったシェラさんの真剣な声にああそうだ、と
気付いてリオン様から逃れようとするのを止める。

シェラさんは自分で自分を悪人だなんだと謎に
卑下しているけど、誰かが困っていればその自分を
犠牲にしてまで人を助ける人だ。

コーンウェルでの燃える森林の中、赤ちゃんを
助けるために最後まで奮闘していたように。

そんな情に厚い悪人なんていないと思うんだけど、
そんなシェラさんなら今回も連絡の取れない人達を
助けるために、自分の務めはきちんと全うするに
違いない。

「・・・みんなを助けるためにはシェラさんの力が
必要ですから。一緒に頑張りましょうね。」

リオン様に掴まったまま、顔だけ振り向いてそう
シェラさんに言えば、

「はい。一緒に、ですね。どこまでもお供致しますよ
オレの女神。」

ぱちりと一つ瞬くと、金色の瞳を笑ませてこの上なく
綺麗な所作で敬愛を示す礼をされたのだった。






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