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閑話休題 ジュースがなければお酒を飲めばいい
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「ユーリ様がここに来るようになって、もう一週間かあ~・・・」
「はぇーよなぁ」
「レジナス様に空き時間に指導してもらえるのは嬉しいけど、結局毎回のようにあの隊長も一緒にいるからあんまりユーリ様と話せなかったな」
くっそ、と騎士達は宿舎の食堂で夕食後の食休みをしつつ話している。
この一週間、ユーリは毎日数時間を体力作りのために騎士団を訪れていた。
持久力がないのか演習場を三周も走ればふらふらになっていたり、柔軟体操で初日よりも体が曲がるようになったと喜んだり、試しに剣を持たせてもらってはその重さに驚きそれを一振りするだけでも必死になっていたり。
驚いたり喜んだりとクルクル変わる表情を間近で見られるのはユーリと言葉を交わす機会は少ないものの、騎士達にとっては至福の一週間だった。
「休憩中にうまそうにジュースを飲んでるユーリ様の顔がまたいいんだよなあ」
「分かる」
それな!と一人の騎士の言葉に他のみんなも頷いた。
「ただのジュースなのにそれを飲めるのがこの世の何よりも幸せ、みたいな顔をして本当にうまそうに飲んでるもんな」
「あれはレジナス様じゃなくても甘くなってすぐに休憩を取らせたくなるわ」
どう考えてもえ?もう休憩?みたいなやたらと早いタイミングで頻繁に入るユーリ様の休憩タイム。
水分補給だ疲労回復だと休む度に必ず何がしかの飲み物を飲まされたりお菓子を渡されたりしている癒し子ユーリ様。
それを受け取る度に本当に嬉しそうに目を輝かせて毎回丁寧にお礼を言ってはおいしそうに口にしている。
キラキラの目で自分を見上げてにっこり微笑まれればそりゃ甘くもなるだろう。
むしろその顔が見たくて無意味に何度も休憩が入っているような気さえする。
結果、騎士達が端から盗み見ていても初日に比べてユーリに持久力や体力がついたかと聞かれれば微増?といったところだ。
「まあそれでユーリ様が満足してるならいいんだけどよ」
「ていうか、考えようによってはもっと体力がつくまでこれから先も機会があれば何度もここを訪れて俺達と一緒にまた訓練に参加してくれるんじゃね?」
「そりゃあいい!」
「そうすれば俺らもまたレジナス様から指導してもらえたり、組み手の相手もしてもらえるかも知れないな!」
「よし、そしたら明日はユーリ様がここに来る最終日だし次もまた来たいって思ってもらえるようにお疲れ様の意味も込めて俺らからもユーリ様へジュースやお菓子を贈ろうぜ!」
「花束も準備しよう」
「ついでに明日の休憩時間用のジュースもあのクソ隊長じゃなく俺らで用意しようぜ!」
おお!とみんなが一致団結した。
「ユーリ様ってどんなジュースが一番好きなんだろうな?」
「ここでよく飲んでいるのはさっぱりした柑橘系のものが多いが・・・」
「まあ運動中に飲むやつだからな」
「じゃあ明日の休憩時間に飲むやつはそれでいいとして、プレゼント用のジュースはもっと甘いのにするか。」
「普段は少しアルコールの入ったケーキも好んで食されているって聞いたことがあるけど」
その言葉にそういえば、といとこが王宮の侍女をやっていて前に騎士達へ猫耳ヘアの情報をもたらした騎士が声を上げた。
「ユーリ様はコーンウェル領を訪問した際、リーモの発酵酒を薄めてハチミツを混ぜた冷たいジュースを気に入っていたらしい。」
「また随分とキツイ酒を割ったやつを好まれるんだな?」
他の騎士が驚いている。
「アルコールには弱いらしいが、なぜかそういうのを飲みたがるからレジナス様やリオン殿下もその辺りには気を配られているらしいが・・・」
「じゃあ一応レジナス様にも試飲してもらい許可を得てからそのリーモのハチミツ割りを薄めたのを、明日は贈り物として用意するか?」
「リーモのあの甘い味や香りがする飲み物は喜んでもらえるかもな。」
「お好きらしいアルコールの香りもほのかに香ればなお喜ばれるだろう!」
いつも休憩時間に嬉しそうにジュースを飲んでいるあの姿を思い浮かべれば、リーモの発酵酒割りを手にする幸せそうなその姿も容易に想像出来た。
早速その日のうちに、時間はもう夜に差し掛かっていたというのに騎士達は動いた。
連携プレーでリーモの発酵酒を手に入れ、それをハチミツと水で割り奥の院勤めの護衛騎士に連絡を取る。
そいつに作ったばかりのそのジュースもどきを渡して奥の院に部屋を持つレジナス様と会ってもらった。
時間も遅くなって来た頃だというのに事情を話して味見を頼むとさすが我らがレジナス様だ。
きちんと試飲をした上でもう少しアルコール度を抑える事を条件に許可を出してくれた。
一応リオン殿下にも話は通してくれるらしいから二人からのお墨付きなら安心して渡せる。
「お前達からそんな贈り物をもらえばきっと喜ぶだろう。何しろこの一週間、お前達の訓練の邪魔をしていたんじゃないかとユーリもかなり気にかけていたからな」
とのお言葉までもらった。
そうして迎えたユーリ様体力作り訓練の最終日。
思いもよらないことが起こった。
いや、思いもよらないというかちょっとした連絡の行き違いだった。
「何で発酵酒の原液なんだよ⁉︎」
「昨日はちゃんとコレを薄めたやつがあったよな?」
「ああ、レジナス様に試飲をしてもらったのと同じくらいの分量の水とハチミツをここに・・・」
食堂の厨房で数人の騎士達はざわめいていた。
ユーリに渡すための発酵酒割りに使う材料がない。
昨夜は確かにここに置いておいたのに。
と、そこへ厨房のおばちゃんがやって来て声をかけた。
「アンタ達、いつも言ってるけど厨房を使ったらちゃんと片付けないとダメだろ‼︎いくら酔ってるからって何でも出しっぱなしで寝るんじゃないよ!
とりあえずどうせ今夜もその酒は飲むんだろうからそこに置いといたけど、割るための撹拌用の道具は綺麗に洗ってしまっておいたからね!」
ユーリ様が訓練をしている間、すぐに発酵酒割りを作れるようにその道具や材料を出して準備しておいたのが裏目に出た。
騎士達が早朝訓練に出ている間にすっかりそれらの物は片付けられてしまっていたのだ。
そして誰もそれが今日これから必要なものだとはおばちゃんに伝えていなかった。
結果、いつものように夕食後に飲んだ後始末をせずに寝たものと勘違いしたおばちゃんに綺麗に片付けられてしまっていた。
「おばちゃん!ここにあったハチミツは⁉︎」
「何だいアンタら、子供でもあるまいしいつも強い酒しか飲まないくせに割って飲むつもりだったのかい?
ちょうど今日は塊肉の照り煮をしたかったからね、仕込みで使わせてもらったよ」
「全部⁉︎」
「あんたら大量に食うからね。ちょうどいい量だったよ、むしろ少し足りないくらいだったからね。
そこにあったジュースも甘味を足すのに使わせてもらったよ、どうせもう飲まないだろ?」
当然のようにおばちゃんは頷いた。
その言葉にそこにいた騎士達が辺りを確かめる。
「おい・・・大変だ、ユーリ様に今日の休憩で飲んでもらうはずのジュースもあまり残っていないぞ」
「今すぐ王宮に走ってハチミツとジュースを分けてもらって来い!」
「と、とりあえず最初の休憩は残ってるこのジュースでなんとか間に合うな。」
「おい、もうユーリ様が来るぞ急げ!」
バタバタと騎士達は演習場へと走っていく羽目になってしまった。
今日は自分達が休憩用のジュースを準備すると言ったからレジナス様もそれをユーリ様に伝えている。
いきなり期待を裏切るわけにはいかないと騎士達は焦った。
「はぇーよなぁ」
「レジナス様に空き時間に指導してもらえるのは嬉しいけど、結局毎回のようにあの隊長も一緒にいるからあんまりユーリ様と話せなかったな」
くっそ、と騎士達は宿舎の食堂で夕食後の食休みをしつつ話している。
この一週間、ユーリは毎日数時間を体力作りのために騎士団を訪れていた。
持久力がないのか演習場を三周も走ればふらふらになっていたり、柔軟体操で初日よりも体が曲がるようになったと喜んだり、試しに剣を持たせてもらってはその重さに驚きそれを一振りするだけでも必死になっていたり。
驚いたり喜んだりとクルクル変わる表情を間近で見られるのはユーリと言葉を交わす機会は少ないものの、騎士達にとっては至福の一週間だった。
「休憩中にうまそうにジュースを飲んでるユーリ様の顔がまたいいんだよなあ」
「分かる」
それな!と一人の騎士の言葉に他のみんなも頷いた。
「ただのジュースなのにそれを飲めるのがこの世の何よりも幸せ、みたいな顔をして本当にうまそうに飲んでるもんな」
「あれはレジナス様じゃなくても甘くなってすぐに休憩を取らせたくなるわ」
どう考えてもえ?もう休憩?みたいなやたらと早いタイミングで頻繁に入るユーリ様の休憩タイム。
水分補給だ疲労回復だと休む度に必ず何がしかの飲み物を飲まされたりお菓子を渡されたりしている癒し子ユーリ様。
それを受け取る度に本当に嬉しそうに目を輝かせて毎回丁寧にお礼を言ってはおいしそうに口にしている。
キラキラの目で自分を見上げてにっこり微笑まれればそりゃ甘くもなるだろう。
むしろその顔が見たくて無意味に何度も休憩が入っているような気さえする。
結果、騎士達が端から盗み見ていても初日に比べてユーリに持久力や体力がついたかと聞かれれば微増?といったところだ。
「まあそれでユーリ様が満足してるならいいんだけどよ」
「ていうか、考えようによってはもっと体力がつくまでこれから先も機会があれば何度もここを訪れて俺達と一緒にまた訓練に参加してくれるんじゃね?」
「そりゃあいい!」
「そうすれば俺らもまたレジナス様から指導してもらえたり、組み手の相手もしてもらえるかも知れないな!」
「よし、そしたら明日はユーリ様がここに来る最終日だし次もまた来たいって思ってもらえるようにお疲れ様の意味も込めて俺らからもユーリ様へジュースやお菓子を贈ろうぜ!」
「花束も準備しよう」
「ついでに明日の休憩時間用のジュースもあのクソ隊長じゃなく俺らで用意しようぜ!」
おお!とみんなが一致団結した。
「ユーリ様ってどんなジュースが一番好きなんだろうな?」
「ここでよく飲んでいるのはさっぱりした柑橘系のものが多いが・・・」
「まあ運動中に飲むやつだからな」
「じゃあ明日の休憩時間に飲むやつはそれでいいとして、プレゼント用のジュースはもっと甘いのにするか。」
「普段は少しアルコールの入ったケーキも好んで食されているって聞いたことがあるけど」
その言葉にそういえば、といとこが王宮の侍女をやっていて前に騎士達へ猫耳ヘアの情報をもたらした騎士が声を上げた。
「ユーリ様はコーンウェル領を訪問した際、リーモの発酵酒を薄めてハチミツを混ぜた冷たいジュースを気に入っていたらしい。」
「また随分とキツイ酒を割ったやつを好まれるんだな?」
他の騎士が驚いている。
「アルコールには弱いらしいが、なぜかそういうのを飲みたがるからレジナス様やリオン殿下もその辺りには気を配られているらしいが・・・」
「じゃあ一応レジナス様にも試飲してもらい許可を得てからそのリーモのハチミツ割りを薄めたのを、明日は贈り物として用意するか?」
「リーモのあの甘い味や香りがする飲み物は喜んでもらえるかもな。」
「お好きらしいアルコールの香りもほのかに香ればなお喜ばれるだろう!」
いつも休憩時間に嬉しそうにジュースを飲んでいるあの姿を思い浮かべれば、リーモの発酵酒割りを手にする幸せそうなその姿も容易に想像出来た。
早速その日のうちに、時間はもう夜に差し掛かっていたというのに騎士達は動いた。
連携プレーでリーモの発酵酒を手に入れ、それをハチミツと水で割り奥の院勤めの護衛騎士に連絡を取る。
そいつに作ったばかりのそのジュースもどきを渡して奥の院に部屋を持つレジナス様と会ってもらった。
時間も遅くなって来た頃だというのに事情を話して味見を頼むとさすが我らがレジナス様だ。
きちんと試飲をした上でもう少しアルコール度を抑える事を条件に許可を出してくれた。
一応リオン殿下にも話は通してくれるらしいから二人からのお墨付きなら安心して渡せる。
「お前達からそんな贈り物をもらえばきっと喜ぶだろう。何しろこの一週間、お前達の訓練の邪魔をしていたんじゃないかとユーリもかなり気にかけていたからな」
とのお言葉までもらった。
そうして迎えたユーリ様体力作り訓練の最終日。
思いもよらないことが起こった。
いや、思いもよらないというかちょっとした連絡の行き違いだった。
「何で発酵酒の原液なんだよ⁉︎」
「昨日はちゃんとコレを薄めたやつがあったよな?」
「ああ、レジナス様に試飲をしてもらったのと同じくらいの分量の水とハチミツをここに・・・」
食堂の厨房で数人の騎士達はざわめいていた。
ユーリに渡すための発酵酒割りに使う材料がない。
昨夜は確かにここに置いておいたのに。
と、そこへ厨房のおばちゃんがやって来て声をかけた。
「アンタ達、いつも言ってるけど厨房を使ったらちゃんと片付けないとダメだろ‼︎いくら酔ってるからって何でも出しっぱなしで寝るんじゃないよ!
とりあえずどうせ今夜もその酒は飲むんだろうからそこに置いといたけど、割るための撹拌用の道具は綺麗に洗ってしまっておいたからね!」
ユーリ様が訓練をしている間、すぐに発酵酒割りを作れるようにその道具や材料を出して準備しておいたのが裏目に出た。
騎士達が早朝訓練に出ている間にすっかりそれらの物は片付けられてしまっていたのだ。
そして誰もそれが今日これから必要なものだとはおばちゃんに伝えていなかった。
結果、いつものように夕食後に飲んだ後始末をせずに寝たものと勘違いしたおばちゃんに綺麗に片付けられてしまっていた。
「おばちゃん!ここにあったハチミツは⁉︎」
「何だいアンタら、子供でもあるまいしいつも強い酒しか飲まないくせに割って飲むつもりだったのかい?
ちょうど今日は塊肉の照り煮をしたかったからね、仕込みで使わせてもらったよ」
「全部⁉︎」
「あんたら大量に食うからね。ちょうどいい量だったよ、むしろ少し足りないくらいだったからね。
そこにあったジュースも甘味を足すのに使わせてもらったよ、どうせもう飲まないだろ?」
当然のようにおばちゃんは頷いた。
その言葉にそこにいた騎士達が辺りを確かめる。
「おい・・・大変だ、ユーリ様に今日の休憩で飲んでもらうはずのジュースもあまり残っていないぞ」
「今すぐ王宮に走ってハチミツとジュースを分けてもらって来い!」
「と、とりあえず最初の休憩は残ってるこのジュースでなんとか間に合うな。」
「おい、もうユーリ様が来るぞ急げ!」
バタバタと騎士達は演習場へと走っていく羽目になってしまった。
今日は自分達が休憩用のジュースを準備すると言ったからレジナス様もそれをユーリ様に伝えている。
いきなり期待を裏切るわけにはいかないと騎士達は焦った。
応援ありがとうございます!
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