異世界転移の……説明なし!

サイカ

文字の大きさ
上 下
139 / 251

139

しおりを挟む


 宿へ戻り三毛猫さんを撫でながら気持ちを落ち着かせていると、ルークが迎えに来た。


今日は私の就職祝いと言う事でウィルも一緒に四人でお店に向かう。

初めて行くお店は少し落ち着いた雰囲気の居酒屋だった。

前の二軒は若者中心の客層だったけれどここは若者もいるけれど家族連れだったり老夫婦だったり様々だ。

四人で席に着き料理とお酒を頼む。

「それで伯爵家はどうだったの?」

ウィルが聞くとマーサとルークもこちらを見る。

「うん。とても感じのいい方々だったよ。来週から住み込みで働かせてもらうことになったんだ」

良かったな、とウィルが私の頭を撫でる。
仕事が決まったというのに子供扱いされている気がする……

店員さんが飲み物を運んで来てくれたので乾杯をすることにした。

「仕事が決まったノアに、乾杯!」

マーサが言うとみんなでグラスを合わせる。

「ありがとう、頑張ります!」

お酒を飲み始めると料理もどんどん運ばれて来た。

「辛いことや我慢できない事があったらいつでも鉄の鍵に帰っていらっしゃい」

マーサ……優しい……

「俺の家でもいいよー」

ウィル……軽……

「ノアは貴族の屋敷で働いたことがあるんだったな、リアザイアでか?」

ルークに聞かれた。貴族の屋敷というかお城というか……まぁ言っても大丈夫だよね?

「リアザイアではお城で、ザイダイバではお城と公爵家でお世話になっていたよ」

みんながこちらを見て固まっている……

「ノア……おまえ何者だよ……」

「ザイダイバって……もしかしてあの奇跡もみたの!?」

ルークの呟きがマーサの声でかき消される……私もルークの言葉はスルーさせてもらおう……すまん。

「うん、見たよ。とても美しくて感動したよ」

そう言うとマーサが詳しく聞かせて、と前のめりに聞いてきたので詳しくお話しした。

なんと言っても目の前の特等席で見ていたからね、この感動を喜んで伝えますよ。

キラキラと目を輝かせて話を聞いているマーサは可愛い。
そんなマーサをウィルが優しい表情で見つめている……

おや…………? これは……

ルークがやれやれと視線をこちらに向けるとウィルがうっすら頬を染めてなんだよ、と言う。

私も我慢できずにやけてしまう。

ウィルってば軽い感じに見せているけれど本命には奥手なんだなぁ、なんて思っていることを見透かされたのか

「ノアッ生意気だぞっ」

とデコピンされた……地味に痛い……

でもそうかぁ、二人が上手くいってくれたら何だか嬉しいな。
フフフッと笑うとウィルにまたデコピンされそうになったからお手洗いに行ってくる、といって席をたった。

店員さんに場所を聞いてお手洗いへ向かい気がついた……
男子トイレに入らなきゃいけないのか!?

どうしよう……別にまだ行かなくても大丈夫なのだけれど……

迷っていると後ろから肩を組まれた。

「きゃっ」

一瞬何が起きたのかわからなかった。

「きゃっ、て本当に女みたいだなぁ」

「かぁわいい~」

ゲラゲラと笑う男達にトイレへ連れ込まれる。

「ちょっと! 離してくださいっ!」

男子トイレに入ってしまったじゃないかっ

手で口を塞がれる……コイツらっ……前に道端で声を掛けてきた二人組だ!

「大人しくしてねぇ、やっとだよぉきみ、なかなか一人にならないからさぁ」

お酒くさい……酔っているとしてもこれは……

「ここで一回ヤッてから俺の家に行こうねぇ、ずっと我慢してたから優しく出来ないけど家では優しくするから怖がらないでねぇへへへ」

イヤァッやめてぇっ! 

とか言うとでも思っているのか……本当に勘弁して欲しい。

女の姿ですれ違った時は無視したくせに……別に根に持っている訳ではないけれど一応言っておくとあの時私は一人だったぞ。

個室に連れ込まれ一人が後ろから私を抑えこみもう一人が顔を近づけてきたかと思ったら首筋に顔を埋める。

「あぁ、やっぱりいい匂いだ……たまんねぇ」

男が自分の股間を手で押さえながら言う。
背中にも後の男の固くなったものを感じる……不快だ。

一応最後の警告のつもりで睨み付ける。

「そんなに俺を喜ばせるなよぉ」

ゲラゲラと笑う男達の声……サッサとやろう。

風魔法でフルフェイスのヘルメットのように彼らの顔を覆い空気を抜いていく。

突然呼吸が出来なくなり驚き床に膝をつく男達とその様子を見下ろす私。

ダラリと身体の力が抜けた二人がトイレの床に倒れこむ。

失神しているだけだから少ししたら目が覚めるか誰かが見つけてくれるかな。

トイレの個室に男二人……この状態で誰かに見つかったらいろいろと誤解されるかもしれないけれどそんなことはどうでもいい。

この人達は……こんな事を何度もしているのだろうか。
それとも今回が初めてなのか……

とりあえず自分にクリーンをかけてからトイレを出るとルークと鉢合わせた。

「ノア、大丈夫か? 具合悪くなっていないか?」

少し遅いから様子を見に来てくれたみたい。
最悪な気分が一気に回復する。

「大丈夫だよ、ありがとう」

ニコリと微笑むとルークもホッとしたようにそうか、と微笑む。
二人で席に戻るとマーサがウィルに女心というものを語っている。

「なんだかんだ言ってもね女性はロマンチックな事が好きなのよ、憧れるのよ」

ハイハイと聞いているウィルはきっと一言も逃さずマーサの言葉を記憶しているんだろうなぁ。

トイレのあの二人とこっちの男性二人は本当に同じ生き物なのだろうか……

それから二杯目のお酒でも乾杯をして美味しいご飯も食べて楽しく過ごした。

今日はありがとう、と言いウィルと別れて三人で宿へ戻る。

部屋へ戻るために階段へ足をかけたとき、

「ノア、仕事決まって本当に良かったわね」

そう言ってマーサとルークが親指を立てて笑っている。

「うん! ありがとう、頑張るね」

手を振りおやすみ、と言い部屋へ戻る。


さてと、三毛猫さんを撫でて結界を張る。

そっと窓を開けて外の様子を見てみる。
まだ人通りは多いし酔っ払いもいる。みんな楽しそうだなぁと思いながらしばらく眺めていると……いた。

お店のトイレで私を襲った二人組。

やっぱり私がここに泊まっていることを知っているのか。

二人はイライラした様子で宿の人の出入りを見ている。
しばらく観察していると突然彼らが歩きだした。

三毛猫さんと一緒にフライで彼らの後をつける。

彼らは夜道を一人で歩いている女性の後をついて歩いているように見える。

トイレでずっと我慢してたとか言っていたし……万が一にでも私を連れ帰れなかったからと言って他の人が犠牲になったら嫌だと思っていた。

二人がいよいよ女性に近づいて手を伸ばす……

女性が振り向く……けれど誰もいない……いや見えていない。

女性と男達の間に結界を張った。彼女を怖がらせてはいけないからね。
私ってば紳士。お嬢さん夜道は気を付けてね。

男達は訳がわからず恐る恐る手を伸ばしたりしている。

「おい……どうなっている……飲み過ぎたか?」

「あ、あぁ……一体何なんだ今日は……」

「チッ、よくわからんが別のを探すか」

は? 別のを? コイツら……

「ニャーー」

「三毛猫さん?」

三毛猫さんが男の目の前に行きしっかりと爪を食い込ませバリッバリッバリバリバリバリッと男の顔を引っ掻く。

「ギャーーーーッ!!」

「どうした!?」

痛がり地面を転がる男に近づいてきたもう一人も三毛猫さんは同じように引っ掻く。

おぅ…………三毛猫さん容赦ない……

でもこれで彼らは帰るしかなくなるだろうし傷が治るまではナンパも出来ないね。


三毛猫さんの可愛いお手てにクリーンをかけて撫でながら私達は宿へ戻った。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

主神の祝福

BL / 完結 24h.ポイント:2,059pt お気に入り:257

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:10,893pt お気に入り:3,099

浮気の認識の違いが結婚式当日に判明しました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,735pt お気に入り:1,219

公爵様と行き遅れ~婚期を逃した令嬢が幸せになるまで~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,769pt お気に入り:26

出戻り国家錬金術師は村でスローライフを送りたい

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,067

処理中です...