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東の最果てアシノ領地へ

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   その反応にゼンは、何があるのかわからず人集りの他の人へ視線を向けた。
   しかし、誰一人何も応える様子は、なく。どうしようか困っていると人集りの中から手を大きく挙げてるのが見えた。
   クリフの手だ。

「そのバルディシュ。もしかしたら相当ヤバいデカさかもしれないぜ、大将」

   クリフは、そう言いながら人集りを掻き分けゼンの前に立つと鼻ひとつ鳴らした。

「網を張る為に周りを見てきたけど、泥に残った足跡、かなりデカイ。多分大きさは、俺より高いかも」

    クリフの身長は、確か185cmぐらい、縦にそれ以上デカイなら横にももっとデカイ可能性もある。それが3頭も昨日の夕方に襲ってきた。

「ウルテアは…この村で…唯一戦えるから…そのバルディシュに挑んで…」

   ゼンの前で跪く初老の男性がポツリ、ポツリと呟いた。

「他の奴らは、その間何をしてた?」

   ゼンがそう聞くと、人集りは全員下を向きながらゼンから視線を外した。

「この村に彼女以外の剣士や守人は?あの洋館は、領主の家だろ?護衛の剣士ぐらいは、いるだろ?」

「数日前に出ていった。国から別地への異動の通達が来て…」

   いや、引き継ぎとか色々あるだろうが。
   ゼンは、心の中で悪態をつきながらクリフとセリーナに視線を走らせた。

「セリーナ、あの館の鍵とかは、どうなってる?」

「もっています」

「クリフ、今何時だ?」

「昼過ぎ、それが?」

   ゼンは、それだけ聞くと押し黙りながら少しだけ思案すると深呼吸をひとつした。

「ひとつ聞く、男共、戦う意思は、あるか?」

「急に何を…俺達にあのバルディシュと戦えと言っているのか?」

   ゼンの問いに応えたのは、先程の中年の男性だった。

「別にお前達に3頭全部相手しろとは、言ってない。1頭でいい。あと2頭は、俺とクリフで何とかする」

   ゼンのその応えに人集りの男達は、恐怖と戸惑いの声が波の様に広がり始めた。

「簡単に言ってくれる」

   クリフがゼンの横に立つと小さな声で言い、ゼンはそれを首を小さく横に傾けて応えた。

「アンタらは、アレを見てないからそんなこと言えるんだ!あんな怪物相手するなんてゴメンだ!!」

「なら、この村から出ていくんだな。多分あれは今日もここに来るぞ?その時は、間違いなく死ぬ」

   ゼンがそう言い切ると波は止み、次に恐怖に怯える無言の空間が広がった。
   クリフがゼンの肩を軽く叩く。言い過ぎっと言いたいのだろうがこればかりは、嘘をついてもしょうがない。ゼンは、そう思いながら首を横に振り人集りを掻き分けて外に出た。

「んで、どうする?」

   後には、クリフも続いてきた。

「とりあえず、足跡を見たい。相手のサイズは、知っておきたい。情報が無いとこっちが不利だ」

   ゼンがそう言うと、クリフが横に立ち村の出入口付近の方を指差した。ゼンはその方向に向かい足元を見ると大きな蹄がそこらかしこに残されていた。

「これで大きい身体、以外の何がわかる?」

  ゼンが足跡を見渡しながら思案している横でクリフは、パイプタバコを取り出して吸い始めた。

「少なくとも相手が目的が多少わかる」

   ゼンは、一つの足跡を指差しながらそっと動かした。

「例えばこれ、明らかに木造の家を壊そうとしている。これだけじゃない他の足跡も全部、家を破壊する為だけに行動している」

「それが?」

「これは、自然災害じゃなく、魔術を使った人災だ」

   ゼンがそう言うとクリフは、笑いだした。余りにも荒唐無稽過ぎるのだ。

「冗談は、良してくれよ。この村を破壊する為にそんな回りくどい事をしてるって?それならいっその事、部隊を派遣した方が早いだろ?」

「戦争が目的ならな、そうじゃなく領地拡大、または隠し砦なんかの目的なら逆に隠密にこなした方がいい」

「おいおい、本気か?こんな辺鄙な土地にそこまで価値あるか?」

   クリフがそう言いながら地面を2、3度足踏みしながら言うとゼンは、軽く頷きながら北の山の手前にある森を指差した。

「ここの大地は、肥沃だ。仕組と道具が無いだけで、その証拠に村人達に細身の者は、少なかった。もし隠し砦にして畑と農場させ設ければある程度の持久戦も出来るだろうぜ。それとあの森、聖域の森は、資源としてもかなり価値がある」

「おいおい、何んだ?つまりその魔術師達は、聖霊獣を魔術で手懐けようとしてるってのか?」

   クリフのその言葉にゼンは、盛大な溜め息を漏らした。

「お前、曲がりなりにも魔術騎士だろ?そんなの無理なの知ってるよな?」

   ゼンがそう聞くと、クリフは大きく頷いた。

「だけど、聖域の森が目当てなんだろ?他に何があるってんだよ?」

「聖石や聖草なんかの高値の物資が取れるだろ?」

   そう言われると、先程まで笑っていたクリフの表情がゆっくりと険しくなっていく。

「まさか、それだけの目的で?どこの国が?」

「さぁな。だか、それだけと言うが聖石、聖草で下手したら一つの街を買う事だって出来るからな?」

   ゼンの返しに、クリフは、口を開けぴろげながら森を見た。
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