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アシノ領主のお仕事

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   稽古場に着くとゼンは、手を何度か叩きながら村人達の視線を集め、ザワついていた雰囲気を静寂へと変えた。

「みんな、聞いてくれ。今日からこの村の復興をしようと思ってるんだがその前に今日からここの仲間になる人物を紹介したい」

   その一言から始まりゼンは、ガルダンから紹介を始めた。

   ガルダン、元々はジグモ国の鍛冶場で働いていた鍛冶師で、剣は勿論、防具や道具等にも精通している生粋の職人肌の男だ。

   腕は一流なのだがそのせいで下手な物は、打ちたくないっという頑固さも持ち合わせており、かつて大臣に持ってきた鉄である一定数の剣を打つように依頼されたのだが大臣が持ってきた鉄が余りにも粗悪で、依頼された数は作れないと反発し、そこで一悶着を起こし危うく死罪になりそうになるっという過去も持っている。

   それでも本人は、そんな粗悪品で粗悪なものを作るぐらいなら死んだ方がマシだと、牢屋のど真ん中で胡座をかきながらその時の王、ゼンの父に息巻いていた。

   ゼンが初めて彼にあったのは、まだ幼く6歳の頃だった。
   彼の仕事場に向かい彼の仕事に目を奪われた。
   そして、それから彼の事を親方と慕い、彼の仕事場に向かい彼の仕事を手伝ったりもした。

   大臣の一件で彼にお咎め無しになったのもゼンの後ろ盾もあった。
   彼の作る物がどれだけ素晴らしいかを父に解き、何よりも彼に作らせ他の職人との違いを見せつける為に比べさせ、その腕前を認めさせたのだ。

   結果、彼は死罪を逃れたが、それ以降は村八分の様な扱いを受けていた。
   まともな仕事は、振られず。道具作りばかりさせられていた。
   しかし、それでも彼は依頼した物は、定評があり、多くの人に慕われてもいた。

   次にウィンドルだ。
   ウィンドルは、ジグモ国の騎士団に席を置いていた。
   しかし、彼の主な任務は、前衛ではなく、補給補助の仕事で、主に戦地でのテント設営や兵士達の食料や寝床などの準備また資材などの確保が主な任務になっていた。

   彼には、多少の魔術の心得がある。
   それを使い、塹壕等のセンチ設備等に一役買っていたが体格と性格のせいだろうか彼はよく騎士団の中でも爪弾きにされている存在だった。

   本来の彼のする仕事は、新人の兵士や戦うことの出来ない兵士などがあてがわれている。
   しかし、彼の場合自分の意思でそこに入ることを希望し騎士団長も彼の仕事っぷりを認め、任せる事した。
   しかし、そんな彼を《弱虫》や《逃げ者》と呼ぶ騎士達も少なくなく、彼を虐げたりもしていた。
   そんな彼を助けていたのが同じ貧民街出身であり、幼なじみでもあったクリフだった。

   ゼンは、ガルダンを鍛冶師、ウィンドルを大工と村人達に紹介した。
   ガルダンは鼻息をひとつ鳴らしながら胸を張り、ウィンドルはゼンの紹介に語弊があると思いオタオタと何かを言いたげな態度を取るが。

「しゃんとしろ!」

   っというクリフの一言に口を閉ざして小さく会釈をするに留まった。

   実際、ウィンドルの紹介にゼンは、何ら迷いがなかった。
   彼は、自分の力を過小評価しているがその実、木材に詳しく、建築の知識もテント設営を素早くそして品質良く作る為に猛勉強していたし、何よりもクリフとウィンドルがゼンについて行くと聞かされた騎士団長からは「これは痛手ですよ」っと苦言を言われた程なのだ。

「ゼン様」

   ウィンドルの紹介を終えたタイミングに声をかけられ視線を送ると稽古場の出入口にサウラがこちらに向かい立っていた。

「ウルテアの容態はどうだ?」

   ゼンがそう聞くとサウラは、大丈夫と応える様に笑顔で頷いた。

   そして、ゼンはタイミングが良いと思ったのかそのまま、サウラの紹介を始めた。

   フウラは、医療魔術と植物学を収めている。
   ジグモ国の中の医療局出身なのだがそこの局長にセクハラ行為を受けているのをゼンが助けたのがきっかけでもある。

   ゼンの薬草等の知識は、サウラから教わっているものだ。
   おっとりとした話し方だが頭の回転は早く、洞察力と観察力も長けている。
   しかし、抜けているのもまたしかり。
   放っておくとご飯も食べずに薬学の勉強、研究に没頭しがちで、以前2日程姿を見なくなった事を不安に思いゼンが尋ねると倒れていたという事もやらかしていたりする。

「そして、皆ももう知っていると思うが改めて紹介しよ、クリフとセリーナ」

   サウラの紹介を終えると次にゼンは、クリフとセリーナに全員の視線を集めた。

   セリーナは、ゆっくりと頭を下げたが、クリフは恥ずかしいのか首を少し動かすだけに留まっていた。

「すいません、彼は恥ずかしがり屋なので気にしないでください」

   そんなクリフの態度にそっとウィンドルがフォローを入れると気まずくなったのかクリフは改めて直立で立つとゆっくりと頭を下げた。

   顔あげる際にウィンドルを見る目は、鋭く「これでいいんだろ!?」っと言う声が聞こえてきそうでゼンは、苦笑いをこぼしてしまった。
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