26 / 36
アシノ領主のお仕事【サザレ村へ】
4
しおりを挟む
それは、そうだ。
ゼンはこの1ヶ月、村復興と同時進行で畑の開拓にも精力的に取り掛かっていたのだ。
農作方法と畑の開拓、村の状況を調査し、道具の不備や不足を補い、畑の拡大をした。
村人達は最初は無理だと言っていたが牛を使った耕運機や村人達の作業手順の振り分けなどを行うと畑の量が以前より少し大きくなっていた。
それでも、村人達の作業負担は以前より明らかに減っているとウズロから言われた。
ゼンから見てもそれはそうだろうなと言う感想だった。
以前の村は、村人が個々に自分達の家用の畑しか持っておらず、育てる作物もほぼ同じ。
つまり、食糧が取れる時期が全く同じで取れない時期もほぼ同じという状況だった。
それでは、村の食糧がある時期にある程度の保存食作り、それを食い潰して次の時期まで耐え凌ぐという方法になる。
そうすると必然的に狩猟が盛んになるはずなのだが武器の知識やそれ対する鍛治知識や鉱石知識がかなり低かった。それが導き出しす答えはアシノ領が全体が生活レベルが低いという事だった。
歴史とそしてこのアシノ領という土地柄を考えれば致し方ない事でもある。
アシノ領歴史はジグモ国が収める以前からある程度の曰く付きともいえる土地でもあった。
200年以上前にこの地に根付いていた宗教団体、次に聖霊獣の存在は人の足をこの地から離すには、十分な内容だった。
それとジグモ国の首都であるヤマダルとの距離もまた原因の一つでもある。
大抵の新しい道具や政策やシステムは、首都圏から派生的に広がっていくが末端のあるこの土地柄で広まる事が遅く、文化レベルは低くなってしまうのだ。
ゼンが村人達にガルダンに作らせ広めた農耕具などは特にそれにあたる。
それでもまだ肥料やゼンの持つ技術を使えていないものを考えるとまだまだ飛躍の余地が存分に残され、ナカル村自体にもそれほどの潜在的な力があるのだ。
「とりあえず、その話は私達は受けたいと思いますが、領主様、本当に大丈夫なのでしょうか?」
バトカンが沈黙を割ってい入る。
しかし、その表情はどうも浮かない。
「何がだ?」
「いや、領主様を疑うわけでは無いのですが、正直私達には夢物語を語られている様にしか感じられないのです」
そりゃそうだわなぁ。
ゼンは、そう思いながら頭をひとつ掻きながら少し考えた。
「とりあえず、お試しで1年様子を見てくれ。もしダメっと思ったならそこでやめてもらって構わないし、大丈夫だと思ったら話を進める。そんな形でどうだろうか?」
ゼンがそう言うとバトカンは、どこか申し訳なさそうに頭を下げた。
「んで次の議題が本題だが熊の事だ」
空気を切り替える様にゼンは、一つ手を鳴らした。
「はい、熊は冬の終わりぐらいに出てきました。まだ村の近くにいると思われますが中々その姿を見せないのであります」
「村人の被害はどれぐらいだ?」
バトカンの表情が曇る。
「村の者での被害は女1人に男2人です」
「若いのか?」
バトカンはゆっくりと頷きながら小さなため息を漏らした。
「1人は、私の娘です…そしてもう1人は娘の恋人のダラントと言う若者でした…」
ウルテアがそっと息を飲む。
何か聞きたそうな表情をしているが場の空気を読んでかただ沈黙しながらゼンとバトカンの様子を伺っていた。
「3人とも、亡くなったのか?」
バトカンは頷き、ゼンは少し天を仰いだ。
「遺体はどこで?」
「村を西に少し行ったところに滝壺と実なる木が沢山ある広場があります。そこで見つかりました」
「3人は、同じ時期に?」
「はい、まず私の娘が木の実を取りに出かけ、帰りが遅い事に心配になったダラントが友人のブルムを連れて探しに行って…」
「それ以降は?」
「時折、村人が食糧を取りに行く度に現れる様になって、今の所みんな逃げきれているので被害は無いですが…」
それも時間の問題か…
ゼンは、バトカンの続く言葉を想像しながら聞き。腕を組みながら少し天を仰いだ。
現れたのは冬の終わり春の始まり。恐らく1ヶ月程前だと考えると冬眠から覚めた熊なのだろうが…
「大きさとかは、わからんか?」
ゼンの問いにバトカンは少し視線を空に漂わせた後にポツリと呟いた。
「身の丈は壁より低いですがかなり大きいとの事です」
「バトカンは、実際には」
「見ておりません」
バドカンは、そんなゼンの質問に恥ずかしそうに応えた。
まぁ無理もない、熊の事を話す時にあれだけ鬼気迫る言い方をしておいていざ聞いてみたら見た事ないと言うのだから肩透かしもいいところだ。
ゼンは、ゆっくりと立ち上がった。
「つまり、情報が少ないんだな。外の様子見てくる」
そう言いながら踵を返すと出入口に向かい歩き出した。
そんなゼンの唐突な行動に慌てて止める様に出入口に先回りをしたのは、ウルテアだった。
「お待ちくださいゼン様!外には熊がいて危ないのでございますよ!?」
「かもな」
「かもなじゃないでしょ!?今の話聞いてました!?」
「聞いてたよ。だが目撃情報以外、確実な情報がないのでな」
「どいうことです!?」
「まず、バトカンの娘さんとその恋人と友人この3人の遺体が発見され、近くで熊らしきものをみた。今わかってるのは、それだけだと言っているんだ」
ゼンの言葉が上手く飲み込めないのだろう。ウルテアの表情が困惑をより深く刻んでいる。
「つまり、熊じゃない何かかもしれないって事ですか?」
そんなゼンの説明不足を補うかの様にサウラは、のんびりとした声を上げた。
「可能性は、ゼロじゃない。熊なら熊に対する対処をすればいいが、もしそうじゃなかったらどうするってことだよ」
「だとしても、お一人で向かうなんて危険過ぎます!」
「大丈夫だ、壁の周りをグルっと少しだけ見てくるだけだから」
「なりません!!」
やはりセリーナより手強い相手になりそうだな…
ゼンは、そう思いながらどう説得しようかと思案しているとウルテアの後ろにある出入口が開いた。
「おい、ゼン。周りを見に行くならお前さんの刀つったか、あれ新調しといたから持っていくの忘れんなよ」
開いた出入口からひょっこりとバトカンがそう告げるとゼンは苦笑しながら片手を上げた。
「それと、ウルテア、お前さん用にも前に作っておいた新作の手斧用意しておいたから持っていくの忘れんなよ」
「へっ?私に?」
バトカンから続いた言葉にウルテアが困惑の返答すると、バトカンは素っ頓狂な表情をした。
「どうせ、そのバカは行くと決めたらどこまでも行くんだ。それが心配ならお前さんもついて行けばいいだろ?」
それだけ言うとバトカンは、出入口を閉じて消えていった。
「ってこった。ついて行くなら止めない。心配なら着いてこい」
「はーーい」
ゼンのそんな言葉に返事したのは、後ろで呑気な声を上げたサウラだった。
ウルテアもまたそんなサウラを見ながら何かを諦めたのか盛大なため息を漏らすしかなかった。
ゼンはこの1ヶ月、村復興と同時進行で畑の開拓にも精力的に取り掛かっていたのだ。
農作方法と畑の開拓、村の状況を調査し、道具の不備や不足を補い、畑の拡大をした。
村人達は最初は無理だと言っていたが牛を使った耕運機や村人達の作業手順の振り分けなどを行うと畑の量が以前より少し大きくなっていた。
それでも、村人達の作業負担は以前より明らかに減っているとウズロから言われた。
ゼンから見てもそれはそうだろうなと言う感想だった。
以前の村は、村人が個々に自分達の家用の畑しか持っておらず、育てる作物もほぼ同じ。
つまり、食糧が取れる時期が全く同じで取れない時期もほぼ同じという状況だった。
それでは、村の食糧がある時期にある程度の保存食作り、それを食い潰して次の時期まで耐え凌ぐという方法になる。
そうすると必然的に狩猟が盛んになるはずなのだが武器の知識やそれ対する鍛治知識や鉱石知識がかなり低かった。それが導き出しす答えはアシノ領が全体が生活レベルが低いという事だった。
歴史とそしてこのアシノ領という土地柄を考えれば致し方ない事でもある。
アシノ領歴史はジグモ国が収める以前からある程度の曰く付きともいえる土地でもあった。
200年以上前にこの地に根付いていた宗教団体、次に聖霊獣の存在は人の足をこの地から離すには、十分な内容だった。
それとジグモ国の首都であるヤマダルとの距離もまた原因の一つでもある。
大抵の新しい道具や政策やシステムは、首都圏から派生的に広がっていくが末端のあるこの土地柄で広まる事が遅く、文化レベルは低くなってしまうのだ。
ゼンが村人達にガルダンに作らせ広めた農耕具などは特にそれにあたる。
それでもまだ肥料やゼンの持つ技術を使えていないものを考えるとまだまだ飛躍の余地が存分に残され、ナカル村自体にもそれほどの潜在的な力があるのだ。
「とりあえず、その話は私達は受けたいと思いますが、領主様、本当に大丈夫なのでしょうか?」
バトカンが沈黙を割ってい入る。
しかし、その表情はどうも浮かない。
「何がだ?」
「いや、領主様を疑うわけでは無いのですが、正直私達には夢物語を語られている様にしか感じられないのです」
そりゃそうだわなぁ。
ゼンは、そう思いながら頭をひとつ掻きながら少し考えた。
「とりあえず、お試しで1年様子を見てくれ。もしダメっと思ったならそこでやめてもらって構わないし、大丈夫だと思ったら話を進める。そんな形でどうだろうか?」
ゼンがそう言うとバトカンは、どこか申し訳なさそうに頭を下げた。
「んで次の議題が本題だが熊の事だ」
空気を切り替える様にゼンは、一つ手を鳴らした。
「はい、熊は冬の終わりぐらいに出てきました。まだ村の近くにいると思われますが中々その姿を見せないのであります」
「村人の被害はどれぐらいだ?」
バトカンの表情が曇る。
「村の者での被害は女1人に男2人です」
「若いのか?」
バトカンはゆっくりと頷きながら小さなため息を漏らした。
「1人は、私の娘です…そしてもう1人は娘の恋人のダラントと言う若者でした…」
ウルテアがそっと息を飲む。
何か聞きたそうな表情をしているが場の空気を読んでかただ沈黙しながらゼンとバトカンの様子を伺っていた。
「3人とも、亡くなったのか?」
バトカンは頷き、ゼンは少し天を仰いだ。
「遺体はどこで?」
「村を西に少し行ったところに滝壺と実なる木が沢山ある広場があります。そこで見つかりました」
「3人は、同じ時期に?」
「はい、まず私の娘が木の実を取りに出かけ、帰りが遅い事に心配になったダラントが友人のブルムを連れて探しに行って…」
「それ以降は?」
「時折、村人が食糧を取りに行く度に現れる様になって、今の所みんな逃げきれているので被害は無いですが…」
それも時間の問題か…
ゼンは、バトカンの続く言葉を想像しながら聞き。腕を組みながら少し天を仰いだ。
現れたのは冬の終わり春の始まり。恐らく1ヶ月程前だと考えると冬眠から覚めた熊なのだろうが…
「大きさとかは、わからんか?」
ゼンの問いにバトカンは少し視線を空に漂わせた後にポツリと呟いた。
「身の丈は壁より低いですがかなり大きいとの事です」
「バトカンは、実際には」
「見ておりません」
バドカンは、そんなゼンの質問に恥ずかしそうに応えた。
まぁ無理もない、熊の事を話す時にあれだけ鬼気迫る言い方をしておいていざ聞いてみたら見た事ないと言うのだから肩透かしもいいところだ。
ゼンは、ゆっくりと立ち上がった。
「つまり、情報が少ないんだな。外の様子見てくる」
そう言いながら踵を返すと出入口に向かい歩き出した。
そんなゼンの唐突な行動に慌てて止める様に出入口に先回りをしたのは、ウルテアだった。
「お待ちくださいゼン様!外には熊がいて危ないのでございますよ!?」
「かもな」
「かもなじゃないでしょ!?今の話聞いてました!?」
「聞いてたよ。だが目撃情報以外、確実な情報がないのでな」
「どいうことです!?」
「まず、バトカンの娘さんとその恋人と友人この3人の遺体が発見され、近くで熊らしきものをみた。今わかってるのは、それだけだと言っているんだ」
ゼンの言葉が上手く飲み込めないのだろう。ウルテアの表情が困惑をより深く刻んでいる。
「つまり、熊じゃない何かかもしれないって事ですか?」
そんなゼンの説明不足を補うかの様にサウラは、のんびりとした声を上げた。
「可能性は、ゼロじゃない。熊なら熊に対する対処をすればいいが、もしそうじゃなかったらどうするってことだよ」
「だとしても、お一人で向かうなんて危険過ぎます!」
「大丈夫だ、壁の周りをグルっと少しだけ見てくるだけだから」
「なりません!!」
やはりセリーナより手強い相手になりそうだな…
ゼンは、そう思いながらどう説得しようかと思案しているとウルテアの後ろにある出入口が開いた。
「おい、ゼン。周りを見に行くならお前さんの刀つったか、あれ新調しといたから持っていくの忘れんなよ」
開いた出入口からひょっこりとバトカンがそう告げるとゼンは苦笑しながら片手を上げた。
「それと、ウルテア、お前さん用にも前に作っておいた新作の手斧用意しておいたから持っていくの忘れんなよ」
「へっ?私に?」
バトカンから続いた言葉にウルテアが困惑の返答すると、バトカンは素っ頓狂な表情をした。
「どうせ、そのバカは行くと決めたらどこまでも行くんだ。それが心配ならお前さんもついて行けばいいだろ?」
それだけ言うとバトカンは、出入口を閉じて消えていった。
「ってこった。ついて行くなら止めない。心配なら着いてこい」
「はーーい」
ゼンのそんな言葉に返事したのは、後ろで呑気な声を上げたサウラだった。
ウルテアもまたそんなサウラを見ながら何かを諦めたのか盛大なため息を漏らすしかなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる