シンミトロア物語【異世界転生ビルダーの紀行】

山月 春舞《やまづき はるま》

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  森の中の風のマナが揺らいでいる。
  何が起きている?

  ゼンは、その歩を止める事無く森の中へズンズンと進んでいく。
   枝と葉とそして日差しが作る、木漏れ日のカーテンは、森を何処か神秘的でそして恐ろしい何かに見せていた。

   吹き抜ける風もまたどこか冷たく、動いた事で発する熱すらも吸い取ってい行く様にすら感じていた。

   しばらく進むと森の中に広場が現れ1人の男が木剣を振っているのが見えた。
   幼さがまだ残るが整った顔立ちでよく女にモテていて他の騎士達には、出生の事も含めて妬まれていたのを思い出させる。
   男がゼンの視線に気づくと木剣を振るうのを止めて軽く手を振ってきた。
   ゼンは、その姿を見て、感じたのはこれじゃないと明確に察知しながら、男、クリフの元へ近づいた。

「休みだってのに稽古かい?」

   ゼンがそういうとクリフは、苦笑いしながら服の裾で汗を拭った。

「最近、振れてないからなぁ。お前こそどうした?今日は自室に籠って計画の見直しじゃなかったのか?」

「暑くて頭が回らんからだらけてたら、セリーナに追い出された」

   そういうとクリフは、苦笑いしながら木の近くに向かうとそこに置いてある鞄から漆器の水筒を取り出し勢い良く飲み出した。

「なら、水浴びをすればいいだろ?なんで態々森へ?」

   クリスは、飲み終えるとそう言いながらパイプタバコを咥えると火を灯した。

「俺も最初は、そのつもりだったんだがな…」

   ゼンは、そう言いながら周りに目を配った。
   何かの気配が近い。
   風のマナが揺れている。

   クリフもゼンのそう姿勢に習う様に紫煙を吐きながらゆっくりと木剣を持つ手に力を入れる。

「無粋な呼び方をしたのは謝罪いたしますが…申し訳ありません、そのお方をどうかお離し願えないでしょうか?」

   森に響く声に紫煙を吐きながらクリフがゆっくりと臨戦態勢に入った。
   ゼンは、そんなクリフを片手で制止すると聞き覚えのあるその声に目を配りながら語りかけた。

「コイツなら大丈夫、俺と同じ考えをしている。その声は、ダスティンだろ?出てこいよ」

   ゼンがそう言うと、奥から草を掻き分ける音と共に茶色い短髪の無骨な顔の男、ダスティンがどこか申し訳なさそうに現れた。

「熊の死体の件は聞いた。あれで丸く収められたよ」

   ゼンは、腰に手を当てながら片手を振るとダスティンは、ペコリと頭を下げた。

「おいおい、エルフとはまた珍客を…お前は本当に何なんだ?」

   クリフは、木剣を片手に溜息を漏らしながらゼンを見るがゼンは、肩を竦めるだけだった。

「それで、今回はどうした?」

   ゼンは、クリフから視線をダスティンに変えるとその場に座り込み、ダスティンにも座る様に促した。

「あの…厚かましいのは、重々承知しているのですが、今日は領主様に会いたいという方がいらっしゃいまして…会って頂けないでしょうか?」

   ダスティンは、ゼンの促しに応じること無くその場で立ち尽くしながら言った。

「ゼンでいい、会うのは構わないが、どこに行けばいい?」

「許可を頂けた様ですな」

   ゼンの返答に応えのは、ダスティンの声では、なかった。
   だが、ゼンは、その声も知っている。

   しかし、思い出せない。
   ほんの少しだけ、誰かを呼んでいたと記憶しているが思い出せない。

   声の主は、ダスティンの横から影から浮かび上がる様に現れた。
   こんなに暑い日に季節感を感じさせないローブを被り、その隙間から伸びる長い焦げ茶色の髪には、汗ひとつ搔いてなかった。

   ゼンは、その秘密をすぐに見破ることが出来た。

「コイツは、面白いローブを着てるな、風聖草を編み込んでいるのか、そのローブ?」

   ゼンがそういうとローブの男の肩が揺れ、頷いたのだろう、微かに頭が揺れた。

「噂通りの素晴らしい洞察力と発想力ですな」

   そう言いながら男はローブに手をかけて顔を顕にした。

   壮年の厳格な顔立ちと髭だが眼は、その性格を表しているかの様に優しそうだった。
   ゼンは、その顔を見るなり立ち上がってしまった。
   そうか、この声、すぐに思い出せない筈だ。
   自分の記憶じゃない、これは偶々見せられた記憶だ。

   そうあの夜に、あの台風の様な存在に…

「お初にお目にかかります、私はハリートレイ。この近くの集落の長をさせてもらっているものです」

「ハリートレイ。私はゼン・ヤマダル、このアシノ領の領主を任命された者だ。お前達からしたら認める気は、ないだろうがな」

   ゼンがそう言うとハリートレイは苦笑いをしながら肩を竦め、近づいてきた。

「それは、私達がどうこう言うモノでは、ございません。若き領主様」

   ハリートレイは、そう言うとゆっくりゼンの前に跪いた。

「顔を上げてくれ、領主といえどそんなに畏まる相手では、ないよ俺は」

   ゼンは、そう言いながらハリートレイの肩を上げるとその場に座る様に促し、自分もまた向かい合いながら座った。

「それで、話とは何だ?」

「恐れながら、領主様にこれが何かわかりますでしょうか?」

   そう言うとハリートレイは、腰元にぶら下がってるポーチから3つの皮の袋をゼンの前に差し出した。
   ゼンは、1つ1つ、皮の袋を開けて確認した。

   一つは臙脂色の豆、一つは黄色い豆、最後は、籾殻に包まれた麦の様な物だった。

   ゼンは、その3つを見て目を丸々と広げ驚いた。

「これは、どこで?」

   それを手に取りながら、隅々まで見渡す。しかしその眼は、驚きからの興味とは違い、その瞳には、懐かしさの光が籠っていた。

「これは、我が集落で代々育てている作物でございます」

「なら、これを食しているのか?」

   ゼンがそう問うとハリートレイは、首を横に振った。

「いいえ、これは、あくまである方に捧げる供物でございます」

「なに?なら、これを食べたことは、無いのか?食べられるのに?」

   ゼンがそう言うとハリートレイの目の色が変わった。

「これをご存知なのですね?」

   ゼンはその応えに片眉を上げた。

「これが知っている?それがそんなにおかしい事か?」

「はい、何故ならこれはとある方が200年前に創造し、我々にしかもたらされていない作物なのでございます」

   ハリートレイのその応えにゼンは、言葉を失い、口を真一文字に閉じた。
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