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「いやいや、こんな豆。テンロンの市場で売ってるだろ?」
その様子を警戒しながら眺めていたクリフがそっと口を挟むんだ。
「確かに似ている物は、ございますが、それとこれは、別の物でございます。試しに食して見ますか?」
そう言いながらハリートレイは、黄色い豆をクリフに差し出し、クリフはそれを一つ口に放り込んだ。
「ん~確かに…これは…味がないな」
多分クリフが見た黄色い豆は、アルフルの豆だろう。見た目は、確かにこれに似ているがあれはスパイスの一種に入る物で味はこれとは、全く違うのだ。
クリフはそう言いながらゼンにも食べる様に催促し、ゼンはそれを一つ放り込んだ。
微かに香る香ばしさにゼンは感動しながら数度頷き。
「そうだな、これは…知らぬ味だな、すまんなハリートレイ殿、どうやら私は勘違いをしていた様だ」
そう言いながら再び3つの袋の中身を見つめた。
「そうですか…勘違いでございましたか」
そう言いながらハリートレイは、少しだけ残念そうに俯きながら3つの袋を眺めた。
「これは、毎年ある方に捧げる供物でございますが、その方の話だとこれはあくまで材料であり、これを使った料理が大好物なのだと言う事でございます」
これを使った料理が大好物…その応えにゼンの頭の中に1人の女性の面影が横切った。
美味しいそうに放ばりながら淡いピンク色の花を眺めてお茶を啜る。
喉の奥が閉まる。
ゼンは、その面影を振り払う様に少しだけ首を横に振りながらゆっくりとハリートレイを見た。
「つまり、ハリートレイ殿はその料理を私に作ってくれと言いたいのか?」
ゼンがそう言うとハリートレイは、慌てて首を横に振った。
「まさか、そういう事ではございません。ただ何かのヒントを貰えないかと…」
ヒント、ゼンはハリートレイの目を見た。
そして、そこに流れるルンとマナを一緒に。
嘘をついていない、本当に何かを知りたいのだろう…
ゼンは再び布の袋に入っている、作物に目を向けた。
ゼンは、それが何かを知っている。
それは、この世界のモノでは、無い記憶に残るものだった。
「少し時間をくれないか?」
ゼンはゆっくりとハリートレイの顔を見ながら言うとその目を見ながらハリートレイはゆっくりと頷いた。
「何かヒントを貰えるならいくらでも」
そう応え、ゼンはその応えに少し困った様に頭を搔いた。
「そう期待されると少し困るが…そうさな、頑張って見るよ、それでもし何かわかった場合どう伝えればいい?」
「それならば、ひと風吹いて頂ければ此方から参上いたしましょう」
その言葉にゼンが頷くとハリートレイは、立ち上がり、会釈をしてダスティンと共に森の中へと消えていった。
「安請け合いして大丈夫か?」
ハリートレイの姿と気配が無くなったのを確認するとユラリと紫煙を吐きながらクリフが近づいてきた。
「多分な…」
ゼンは、3つの袋を眺め、そしてその3つの中身を手に取ると苦笑いをこぼして袋を閉じ立ち上がった。
「とりあえず、準備からだな…」
ゼンは、3つの袋を持つと踵を返して洋館へと向かい、そんなゼンの背中をクリフは、ただ静かに見つめていた。
ゼンは、洋館に戻ると先ず3つの袋を机に並べて再び中身を覗いた。
臙脂色の豆、黄色い豆、籾殻に包まれた麦の様な粒。
間違いない、この世界で見た事のない品種だったがゼンは、それをよく知っていた。
あの方…誰かへの供物だと言っていたがそのあの方と言うは…
そう考えるとゼンの頭にあの神々しい白狼の顔が過ぎった。
何故これを白狼が知っているのか。
それよりも、これをハリートレイが言うには白狼が生んだものだとも言っていた。
そして、この200年以上ハリートレイのエルフ達しかその存在を知らなかったと言うのが本当に事実なのか?
色んな疑問がゼンの頭の中を駆け巡ったが目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をすると再び目を開けて今ある事に集中する事にした。
まずは、麦の様な物の籾殻からだ。
小麦用の籾殻機がある。
元々は丸太を合わせた機材を使っていたらしいのだが、力仕事が何よりも大変で女子供でも容易に扱う事は、出来ず、村の男達しか扱うことが出来なかったのだが、それでは色々不便だと思いゼンが誰でも使える様に回転レバー式の籾殻機を作ったのだ。
ゼンは、麦の様な物の袋を持つと洋館の中庭の鍛冶場へと向かった。
中庭に出て左奥にある木の骨組みと腰ぐらいの高さに積み上げられた積み石の塀に囲まれた、そこには、ゼンが村の為に使うだろうと思い試作していた機械が並んでいる。
籾殻機の試作品もその部屋に置いてあった。
木箱にレバーとすり鉢状の入口が付けられた手動の籾殻機に麦の様な物を入れ回転させると一番下から白い粒が次々と吐き出され、それを設置した升の型の木箱に落ちていく。
正直手間の掛かる作業だったが白い粒が落ちる度に懐かしさが込み上げてきた。
特別探していたわけではない。
だが、これを無性に食べくなる時がなかった訳では無い。
その度に自分がどれだけ恵まれていたのかと改めて実感していた昔を思い出し、気づくとゼンは苦笑いを零しながら白い粒を眺めていた。
麦の様な物の籾殻の山から出てきた白い粒の山を持つとそのまま台所へ向かった。
洋館の壁と同じ様に漆喰と細かい石で作られた部屋には、3つならんだ釜戸に貯水タンクから直接水道管を繋げた、蛇口の着いた真新しい石のシンクがあった。
ゼンは、シンクの前に立つと木のザルを取り出すとそのザルに白い粒を乗せて蛇口を捻り白い粒を洗い始めた。
ある程度洗い終えるとゼンはそれをザルに置いたままそれを観察し、暫くそれを眺めたままどうするか悩んでいた。
「台所においでになるなんて珍しい、何をなさっているんです?」
そんなゼンの背後から声をかけてきたのは、セリーナだった。
「いや、これをあとはどうしようか悩んでいてな」
ゼンはそう言いながら肩を竦めながら応えるとセリーナは、ゼンの横に立ちザルの中身を覗いて怪訝な表情を浮かべた。
「この白いのはなんでございますか?」
「食べ物」
「いや、そうではなくて…食べ物なんですか?」
ゼンのアッサリとした応えにセリーナは驚きながら返し、ゼンは鼻をひとつ鳴らした。
その様子を警戒しながら眺めていたクリフがそっと口を挟むんだ。
「確かに似ている物は、ございますが、それとこれは、別の物でございます。試しに食して見ますか?」
そう言いながらハリートレイは、黄色い豆をクリフに差し出し、クリフはそれを一つ口に放り込んだ。
「ん~確かに…これは…味がないな」
多分クリフが見た黄色い豆は、アルフルの豆だろう。見た目は、確かにこれに似ているがあれはスパイスの一種に入る物で味はこれとは、全く違うのだ。
クリフはそう言いながらゼンにも食べる様に催促し、ゼンはそれを一つ放り込んだ。
微かに香る香ばしさにゼンは感動しながら数度頷き。
「そうだな、これは…知らぬ味だな、すまんなハリートレイ殿、どうやら私は勘違いをしていた様だ」
そう言いながら再び3つの袋の中身を見つめた。
「そうですか…勘違いでございましたか」
そう言いながらハリートレイは、少しだけ残念そうに俯きながら3つの袋を眺めた。
「これは、毎年ある方に捧げる供物でございますが、その方の話だとこれはあくまで材料であり、これを使った料理が大好物なのだと言う事でございます」
これを使った料理が大好物…その応えにゼンの頭の中に1人の女性の面影が横切った。
美味しいそうに放ばりながら淡いピンク色の花を眺めてお茶を啜る。
喉の奥が閉まる。
ゼンは、その面影を振り払う様に少しだけ首を横に振りながらゆっくりとハリートレイを見た。
「つまり、ハリートレイ殿はその料理を私に作ってくれと言いたいのか?」
ゼンがそう言うとハリートレイは、慌てて首を横に振った。
「まさか、そういう事ではございません。ただ何かのヒントを貰えないかと…」
ヒント、ゼンはハリートレイの目を見た。
そして、そこに流れるルンとマナを一緒に。
嘘をついていない、本当に何かを知りたいのだろう…
ゼンは再び布の袋に入っている、作物に目を向けた。
ゼンは、それが何かを知っている。
それは、この世界のモノでは、無い記憶に残るものだった。
「少し時間をくれないか?」
ゼンはゆっくりとハリートレイの顔を見ながら言うとその目を見ながらハリートレイはゆっくりと頷いた。
「何かヒントを貰えるならいくらでも」
そう応え、ゼンはその応えに少し困った様に頭を搔いた。
「そう期待されると少し困るが…そうさな、頑張って見るよ、それでもし何かわかった場合どう伝えればいい?」
「それならば、ひと風吹いて頂ければ此方から参上いたしましょう」
その言葉にゼンが頷くとハリートレイは、立ち上がり、会釈をしてダスティンと共に森の中へと消えていった。
「安請け合いして大丈夫か?」
ハリートレイの姿と気配が無くなったのを確認するとユラリと紫煙を吐きながらクリフが近づいてきた。
「多分な…」
ゼンは、3つの袋を眺め、そしてその3つの中身を手に取ると苦笑いをこぼして袋を閉じ立ち上がった。
「とりあえず、準備からだな…」
ゼンは、3つの袋を持つと踵を返して洋館へと向かい、そんなゼンの背中をクリフは、ただ静かに見つめていた。
ゼンは、洋館に戻ると先ず3つの袋を机に並べて再び中身を覗いた。
臙脂色の豆、黄色い豆、籾殻に包まれた麦の様な粒。
間違いない、この世界で見た事のない品種だったがゼンは、それをよく知っていた。
あの方…誰かへの供物だと言っていたがそのあの方と言うは…
そう考えるとゼンの頭にあの神々しい白狼の顔が過ぎった。
何故これを白狼が知っているのか。
それよりも、これをハリートレイが言うには白狼が生んだものだとも言っていた。
そして、この200年以上ハリートレイのエルフ達しかその存在を知らなかったと言うのが本当に事実なのか?
色んな疑問がゼンの頭の中を駆け巡ったが目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をすると再び目を開けて今ある事に集中する事にした。
まずは、麦の様な物の籾殻からだ。
小麦用の籾殻機がある。
元々は丸太を合わせた機材を使っていたらしいのだが、力仕事が何よりも大変で女子供でも容易に扱う事は、出来ず、村の男達しか扱うことが出来なかったのだが、それでは色々不便だと思いゼンが誰でも使える様に回転レバー式の籾殻機を作ったのだ。
ゼンは、麦の様な物の袋を持つと洋館の中庭の鍛冶場へと向かった。
中庭に出て左奥にある木の骨組みと腰ぐらいの高さに積み上げられた積み石の塀に囲まれた、そこには、ゼンが村の為に使うだろうと思い試作していた機械が並んでいる。
籾殻機の試作品もその部屋に置いてあった。
木箱にレバーとすり鉢状の入口が付けられた手動の籾殻機に麦の様な物を入れ回転させると一番下から白い粒が次々と吐き出され、それを設置した升の型の木箱に落ちていく。
正直手間の掛かる作業だったが白い粒が落ちる度に懐かしさが込み上げてきた。
特別探していたわけではない。
だが、これを無性に食べくなる時がなかった訳では無い。
その度に自分がどれだけ恵まれていたのかと改めて実感していた昔を思い出し、気づくとゼンは苦笑いを零しながら白い粒を眺めていた。
麦の様な物の籾殻の山から出てきた白い粒の山を持つとそのまま台所へ向かった。
洋館の壁と同じ様に漆喰と細かい石で作られた部屋には、3つならんだ釜戸に貯水タンクから直接水道管を繋げた、蛇口の着いた真新しい石のシンクがあった。
ゼンは、シンクの前に立つと木のザルを取り出すとそのザルに白い粒を乗せて蛇口を捻り白い粒を洗い始めた。
ある程度洗い終えるとゼンはそれをザルに置いたままそれを観察し、暫くそれを眺めたままどうするか悩んでいた。
「台所においでになるなんて珍しい、何をなさっているんです?」
そんなゼンの背後から声をかけてきたのは、セリーナだった。
「いや、これをあとはどうしようか悩んでいてな」
ゼンはそう言いながら肩を竦めながら応えるとセリーナは、ゼンの横に立ちザルの中身を覗いて怪訝な表情を浮かべた。
「この白いのはなんでございますか?」
「食べ物」
「いや、そうではなくて…食べ物なんですか?」
ゼンのアッサリとした応えにセリーナは驚きながら返し、ゼンは鼻をひとつ鳴らした。
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