シンミトロア物語【異世界転生ビルダーの紀行】

山月 春舞《やまづき はるま》

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兆し

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   澄んだ風が頬を撫でる様に吹き抜けて行く。
   ゆるりと昇る太陽が燦々と世界へ降り注いだ。

   ゼンは、そんな朝の風景を見ながらベランダでパイプタバコを吸い、そして大きなあくびをひとつついた。

   暑く寝苦しい夜だったのに妙にスッキリとした気分で目が覚めてしまった。
   それでも体は、汗でベトベトになり気持ちが悪い。
   ゼンは、下に降り、台所に向かうと桶に水を貯めてタオルで体を拭い着替えると部屋から持ってきた2つの袋を並べた。
   臙脂色の豆と黄色い豆をザルに空け、洗うと黄色い豆は、外に置き乾かし、臙脂色の豆は鍋に入れ、そこに水を入れ煮始めた。

   その間に昨日、中庭地下の貯蔵庫に向かい、もち米を取りに行き、その帰りに鍛冶場から作り掛けの底の浅いお椀の様な形をしたフライパンと木のヘラを取ってきた。

   再び台所に戻ると寝間着姿のセリーナが何が起きたのかと目を丸々としながら台所に立っていた。

「おはようございます…どうなさってんですか?まだ朝早いですよ?」

   普段のゼンならまだ夢の中で起きてくるのもあと数時間後、何時もならそうなのだが今日はゼンの方が早く起き居るのだからセリーナからしたらまだ夢を見ているのか疑いそうになるぐらいだろう。

   ゼンは、そんなセリーナを見ながら肩を竦め。

「目が覚めてな、久し振りに料理しようと思ってさ」

「料理ですか?何か手伝いますか?」

「いや、これはお前達が知らないものだし、今はまだ下準備中だから大丈夫だよ、それよりも集会所で村人達の朝飯を作ってやってくれ」

   ゼンがそう告げるとセリーナは、頭を下げると台所を後にした。

   ゼンは、一息つくと煮る臙脂色の鍋をかき混ぜた。

『市販のもので良くない?』

   懐かしい声が耳を通り過ぎ、ゼンは切ない笑顔を浮かべながら首を横に振った。

「確かに美味いけど、自分で作る方が性にあってるんだよ」

   誰に言うでもない、独り言のなのにその言葉は、かつて誰かに告げたそれだった。

   水が沸騰し臙脂色に染まるとその水を捨て再び再び水を入れ再び煮る。
   今度は、かき混ぜることなく水を沸騰させると少しだけ火から鍋を離し、ゆっくりと煮詰め始めた。

   沸騰して水分が飛べば水を足す、その工程を何回か繰り返し、1時間ぐらい経つと、今度は火から離して蓋をして暫く蒸らした。

   その間にもうひとつの鍋に水を入れ、貯蔵庫から持ってきた餅米を布と共に入れるとそのまま煮始める。
    それを終えると次に庭に出て乾かしていた黄色い豆を取りに行き、台所に行くと朝飯が出来たことを告げる鐘が鳴り響いた。

   ゼンは、少し悩んだ。
   今から朝飯を食べに行けば火の加減を見れなくなる。

   煮た豆の方はここから蒸らすタイミングだから良いとしても煮ているもち米の方は、正直不安だ。
   高さを変えて火の調整をしているとは言え、一歩間違えれば焦げてしまう。
   そう考え悩んだ末にゼンは、集会場に向かうと食堂の厨房に居るセリーナに声をかけ、食事を洋館の台所に持ってきて欲しいと頼むと再び台所に戻ってきた。

   もち米を煮る鍋の様子はさほど変わる事無く、少し安堵のため息を漏らすと蒸らしている臙脂色の豆の鍋を覗き、一粒手に取ると手で解した。

   良い感じで柔らかくなってる。
   これならいけるかな。

   そう思いながらもち米の方に目を向けるとセリーナが朝食のサンドイッチと冷たい紅茶を持ってきた。

「ありがとう、あと後でいいから黒糖を持ってきてくれないか?あとサウラに頼んですり鉢も借りてきてくれると助かる」

   セリーナにそう告げるとゆっくりと頭下げて台所を出ていった。
   ゼンは、持ってきて貰ったサンドイッチを頬張る。
   燻製したチキンに葉物系野菜のシンプルなサンドイッチだ、中にはサウラが育てた香草が入っていて良いスパイスになっている。

   もち米を煮る鍋の蓋が揺れ、再び少しだけ覗くと水分が全て飛びツヤツヤとした身が鍋いっぱいに広がっているのを見ると蒸らす為に釜戸から離し木のテーブルの上に置いた。

   その間に、蒸らしていた臙脂色の豆の鍋を持つと豆と煮汁をザルを使い分け、煮汁をボールに入れ、臙脂色の豆は、ザルから鍋へと入れ、少量の水を入れながら再びゆっくりと煮始めた。

   今度は、蓋をすることなくヘラを使いながら豆をかき混ぜながら豆をくたくたにする様にかき混ぜる。

「ゼン様、すり鉢と黒糖持ってきました」

   その作業に入ったタイミングですり鉢を持ってセリーナが静かに台所に入ってきた。

「あれ?サウラは?」

「何か、嫌な予感がするとかで、来ないらしいですよ」

   ゼンの問いにセリーナが苦笑しながら応え、ゼンもまた肩を竦めた。

「相変わらず勘のいい事で、スマンが少しだけ手伝ってくれ」

   ゼンがそう言うとセリーナは、頷き。
   ゼンは、セリーナに黒糖をすり鉢で砕い粉にして欲しいと頼んだ。

   ゼンが臙脂色の豆を煮ながらそう言うとセリーナは、不思議な匂いだと感じたのかをゆっくりとゼンの表情を伺い、ゼンはそれに応える様に首を傾けた。

「いい匂いですけど、何を作ってるんです?」

   そう問われゼンは、少しだけ視線を空中に泳がせながら。

「お菓子かな」

   っと応えた。

   その応えにセリーナは、不思議そうな表情をしながら木のテーブルにすり鉢と黒糖の入った袋を置くと石の塊の様な黒糖の塊を幾つか取り出しすり鉢に入れると砕き始めた。

「砕いた黒糖は、どうすればよろしいですか?」

「半分にしてこっちにくれ」

「もう半分はどの様に??」

「別で使うから、すり鉢から出しておいてくれ。すり鉢ももう1回使うからそのまま置いといてくれ」

「何をなさるんですか?よろしければ手伝いますが?」

   セリーナにそう言われるとゼンは、少しだけゼンの心が揺れた。

   正直、セリーナの手を借りる方がこの後の工程は、かなり楽になるが、セリーナもセリーナで暇では、無いのはわかっている。
   洗濯に昼時の飯の準備も待っている、それに風呂の準備だって彼女がしてくれている。
   こんな事にセリーナの手を煩わせるのは、正直申し訳ないとすら思っていた。

「家事とかなら大丈夫ですよ、他の村の女性方がやってくれますから」

   ゼンの表情から何を考えているのか察したセリーナが口を開いた。

「しかし、それじゃあお前の休む時間が無いだろ?」

   ゼンがそう言うとセリーナは少しだけ肩を竦め。

「正直、ジッとしている方が気が休まらないんですよね。ですから何か手伝える事があるなら手伝いたいですし、それに…」

「それに?」

「これで出来る、お菓子がどんなものか気になります」

   セリーナは、真っ直ぐにゼンを見つめながら応え、ゼンはセリーナが甘い物好きだと言う事を思い出し、気づけば笑ってしまっていた。

「ちょっと、笑わないでください。人の楽しみなんですから…」

   セリーナは、そんなゼンの反応に顔を真っ赤にしながら応え、ゼンは軽く頷いた。

「すまん、すまん、久しぶりにそんな表情を見たんでな、それならこの後の手伝いも頼むよ、セリーナの手伝いなら助かる」

   ゼンがそう言うとセリーナは、笑みを浮かべながらゆっくりと頷いた。
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