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山月 春舞《やまづき はるま》

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才田晴人っという男

怨嗟の終着点

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「助けてよ」

 その言葉だけで良かった。
 それは比奈の見せた本当の願いだとわかったから。
 その刀を振り抜くのに何の迷いはなかった。
 白銀の刀身が赤黒い鎖を斬り裂き砂粒に変えて消し去った。
 それと同時に部屋の中に張り巡らませていた結界もまた同時に消え去った。

「何が…起きた…?」

 目の前の出来事に岩屋は、戸惑いながら周囲を見渡すがそんな彼に応える者は誰もいなかった。
 唯一岩屋側で説明できるであろう臣雁もまた理解が出来ていないのか突然の出来事に辺りを見渡しているだけだった。
 晴人は、そんな岩屋に向かい燻らせていた煙草を投げつけると岩屋の視線が漸く晴人に向いた。

「さぁ終わりにしようか」

 晴人がそう言うと岩屋の表情が歪み、鬼面の口を向けてきた。
 再び赤黒い靄が溢れ出すと同時に鎖が作られて晴人に迫る。
 だが、それは晴人にとって何の脅威でもなかった。
 呼吸を整え、そこに刃を通す、ただそれだけを頭に置いて動く。あとは体が覚えている。
 晴人は、舞踊の様に優雅に動作で鎖を斬り裂き、目の前の出来事に岩屋は、唖然としながら後退りした。

「なん…なんだ、お前…」

 絞り出す様な声で岩屋が呟き、全てを斬り終えた晴人は、呼吸を整えて、首を横に傾げた。

「さぁなんなんだろうな?」

 晴人は、笑みを浮かべながらゆっくりと岩屋に近づいた。

「待て!!今私に手を出せば、三本がお前を許さない!それを踏まえてこんな馬鹿な真似をしているんだろうな!」

 岩屋は、尻餅をつきながらも言葉を放つ。

「知ってるよ、それもこれも覚悟の上だ、それにお前にこうするのは、初めてじゃない」

「なに?」

「言ってなかったけど、俺も見識者だ、お前、見識者がなんでこっちに帰ってきたか知っているか?」

 晴人の思わぬ問に岩屋は、大きく首を横に振った。

「接続者で最後の日に生きていたからだ、今のお前もかつてのお前もそれを使って接続者になっていた、なのにお前は見識者じゃない、それは何故か?」

 晴人の問いの答えがわかったのか、岩屋の顔が青ざめる。

「お前は、殺された。厳密に言うなら自爆だけどな」

「自爆?」

「お前は、宵比礼を使って、自分に掛かる負荷を比奈ちゃんに擦りつけた、なら、その宵比礼が無くなったらお前はどうなると思う?」

 岩屋は口をパクパクとさせたかと思うと慌てて両手で宵比礼を庇う様に覆い隠した。

「無駄だよ、俺は斬りたいものは、ちゃんと斬れるんでな」

 晴人は、そう告げると岩屋の首に一の文字を走らせた。

「さぁてどんな風になるんだろうな、答え合わせといこうか」

 晴人のその言葉がきっかけだった様に鬼面の口から赤黒い鎖が何本も飛び出すと岩屋の手足を突き刺さり、体内へと入っていく。
 岩屋は、獣の様な悲鳴を上げながら体を仰け反らせる。
 恐らく、全身を激痛が走り抜けているのだろう。鬼面の口も今まで抑え込まれていた、邪念を濁流の様に放出し続けている。

「静寂の林、せせらぎの清流、それは聖域であり、心を洗礼する領域」

 何処か歌の様に聞こえる、祝詞を詠みながら晴人の横を泰野が駆け抜けた。
 その独特な文言から察するに相当焦っているのだけは、わかった。

「彼の者は、流し、祓い、祈った、その地は今も尚、清き風で満たされる、禊池の睡蓮」

 そう唱えたっと同時に靄が水の形を形成すると岩屋の体内に入り赤黒い鎖を体外へと排出させた。

「相変わらず、変な祝詞を使うな」

 晴人はその光景を眺めながら呑気に言うと泰野は溜息交じりに応えた。

「お前の怒りはわかったから、それ渡してもらえるか?」

 抜け目ない男だ事、晴人はそう思いながらポケットから木札の首飾りを取り出すと泰野に投げ渡した。
 泰野は、それを岩屋の胸元に置いて再び別の祝詞を呟くと岩屋を白い靄が包み、岩屋の目が開いた。

「なっ…泰野…くん?」

 岩屋は、顔青くしながら泰野を見るとその後ろにいる晴人を指差しわめき出した。

「そいつだ!そいつを殺せ!!」

 その言葉に泰野は、大きな溜息を漏らしながら振り向いた。

「アイヤー、お客さん、私コロス怖い事言う人ねー、良いのかい?今お客さん使ってるそれ、私死んだらもう誰も作れないよー」

 晴人は、ケラケラと笑いながらエセ商人の様な口振りで応え、その言葉に岩屋の視線は晴人から泰野へと変わった。

「本当です、これはコイツの力、破の力で祓っている状態です、もしこれを無くせば貴方はまたあれに苦しめられます」

 その事実に岩屋の顔が絶望へと変化する。

「そういう事なんでお客さん、これから大金納めて、大人しくしておいてネー、じゃねぇと次は無いからな」

 晴人は、その言葉に岩屋は何も返す事なく、虚ろな視線を地面へと落とすだけだった。
 こうして、比奈の怨嗟の因果は、絶たれた。
 しかし、話はこれで終わらない。
 後日、今回の1件で晴人は、都内の高級ホテルへと呼び出された。
 呼び出した相手は泰野だ。
 しかし、その裏にはもっと厄介な人物達がいた。
 豪華な飾りに場違い感を抱きながらフロントで名前を告げると直ぐに部屋に案内される。
 ホテルマンにドアを開けられて中に入るとそこには、4人の老人と老婆がソファーで寛ぎ、使用人の様に泰野が立っていた。
 どれもこれも見知った顔で出来れば会いたくもなかった顔ばかりで気を抜くと溜息が漏れそうだった。

「久しいね、才田君」

 老紳士がゆったりと声をかけてくる。

「お久しぶりです、東野宮あずまのみやさん、西園寺さいおんじさん、北杜ほくとさん、南方院なんほういんさん」

 それに応える様にそれぞれの名前を呼びながら晴人は、恭しく頭を下げると老紳士な東野宮は、そんな晴人の態度を見透かした様に苦笑を漏らした。

「泰野君から聞いたよ、どうやら宵比礼を壊した様だね」

 前置き無しでの東野宮の問いに、晴人は小さく方を竦めながら頷いた。

「えぇ、ろくでもない奴の手元にあるよりマシだと思って」

 その答えに、壮年の女性の西園寺と岩の様な輪郭の南方院が一瞬その表情をザワつかせた。

「しかし、あれは歴史的な観点から見てもかなりの貴重品だったのだがね 」


「それは、人の命より価値があると?」

「時としては、ね」

「大事の前の小事ってことっすか?」

「好きに捉えてもらって構わない」

 無駄な問答か、晴人は鼻をひとつ鳴らすと恭しく振る舞うのがアホらしく感じてくるが一応、崩さないでいる。

「それで、責任は、どの様に?」

 話をさっさと終わらせて貰おう、少なくともこれ以上話していてもロクな結果は生まないの、わかっている。
 晴人のその考えを読んでいるのか東野宮は、片眉を上げる。

「君に選択肢を与えよう」

「選択肢ですか?どの様な?」

「弁償金6000万を払うか、道具屋を開店するかどちらがいい?」

「はっ?」

 予想だにしない申し出に晴人は素っ頓狂な声を上げてしまった。

「無論、開業資金等はこちらが持とう、むこう5年間、店を継続してくれたら6000万もなかった事にしよう」

「ちょっと待ってください」

「何かな?」

「どういうつもりです?貴重な道具なんですよね?」

「あぁ、無論だ」

「人の命よりも、価値が高いんですよね?」

「あぁ、だが、それはあくまでも政や国防、国益に関わる人間の話だ、民間人は違う、それにあれはあくまでも道具だ、幾ら概念装飾していたところで形あるものだ、壊れてしまうのは、世の常だろ?」

 東野宮の言葉に晴人は、泰野の顔を凝視してしまった。

「もし、その選択肢どちらも断ると言ったらどうなります?」

 念の為に聞いてみると予想を越えた答えが帰ってきた。

「無論、今現在の保護者である、叔父上に代わりに払ってもらうだけだが?」

 叔父に請求する、それは晴人にとって一番避けたい事がらだった。
 こうなると晴人の取れる選択肢は、自然と道具屋を開くという選択肢しか無くなってしまった。

「わかりました。道具屋を開く方向でお受けします」

 晴人がそう言うと東野宮は、笑みを浮かべた。

「そうか、それは良かった、こちらとしてもそっちの方が有難いからね」

 左様でございますか、そんな言葉を吐きたくなったがグッと堪えて会釈だけで済ませるがそんな晴人の態度を東野宮は、見逃さなかった。

「察するに、才田君は追放や敵対すると思っていたのかね?」

 東野宮の指摘に晴人は、一瞬口をつぐんだが、無駄だと悟ると小さな溜息を漏らした。

「じぃさんの1件もあるし、その可能性も否定しきれないでしょ?」

 晴人の忌憚のない言葉に東野宮は、少しだけ困惑した表情を見せたかと思うと何とも渋い苦笑いを浮かべた。

「そうだね、あの時は、あぁするしかなかったっと言えば、単なる言い訳だが、そう捉えられても仕方ないのかな、だが知っていて欲しい、私達は君達の味方であり、そう簡単に追放や敵対は、しないよ」

 東野宮は、それだけつげると泰野以外の皆に合図をして部屋を後にした。

「テメェ、かつぎやがったな」

 東野宮達の姿が消え、ドアがしっかりと閉まるのを確認してから晴人が口を開くと泰野は、口を尖らせながら首を横に傾けた。
 その顔を見て、自然と晴人の平手が泰野をひっぱたいていた。

「いったぁ!暴力は、よくねぇぞ!」

「うっせ!それより、店だ!どうすんだよ!」

「どうするって、やるしかねぇだろ?」

「店を出すって事は、お前、開業届しねぇとだろ、責任者とかどうすんだよ!?」

 晴人の問いに、泰野は口をぱっくりと開けながら天井を見上げてしまった。
 その姿に晴人は、大きな溜息を漏らしてしまった。
 この案件は、暫く晴人の頭を悩ませた。
 東野宮に開くと言った手前、そう時間も掛けてられない。
 しかし、正直、道具を作るにも店を作るにも人手が足りない。
 そもそも、高校生である、晴人が店を開くというのは、開業届を出したところで受理されるかどうかも怪しいがそれよりも、それによって扶養を抜けるとなれば本家の叔父がどういう事だと話を聞きに来る可能性が高い。
 晴人にとって、叔父は会いたくもなければ顔も見たくない程に大っ嫌いだ。
 才田の祖父の計らいで現在の家に住まわせてもらっているが叔父は、それすらも気に入らず、高校を卒業したら早々に出て行く様に念を押されていた。
 無論、高校を卒業したら出ていくつもりだ、なんならかつてもそうやって直ぐに出ていった。
 だが、今回の案件がバレればそれが早まる可能性が高い、何より店を切り盛りしながら高校生として過ごすのは、かなりハードルが高い。
 いっその事、高校を辞めるかっとまで考えたがそれは、それで別な所が騒ぎそうなので控えたい。
 悩みに悩んで1週間が経ち、定期検診に来た、比奈と明穂、そして何故か付き添いに来ていた縁を見つけて晴人は、思い切って言ってみた。

「お前、店主にならない?」

 晴人の申し出に、縁は案の定、頭の上に?を大量に浮かべながら眉間に皺を寄せた。
 クリニックの待合室は、田臥の心遣いか幸いにも晴人と縁しかおらず、縁の脅迫めいた顔で悲鳴をあげるものは、居なかった。

「なんの話しをしているか知らんが、とりあえずお前が間違えた人間に声をかけているのは、わかる」

 何とも端的で真っ当な一言に晴人は、同意を返す様に溜息を漏らして天井を見上げた。

「今切羽詰ってんだよ、上司から店を開けと言われちゃいるが、そもそも、高校生の俺に店主は、務まらないし、オマケにある一定数で道具を仕上げにゃならん」

「なら、やっぱり無しでって言えないのか?」

「言えたら悩んでねぇ、この前のあれを壊した事が原因で弁償迫られてるからな」

 晴人の返しに縁は、少し呆れた表情をしながら視線を診察室へと向けた。

「なら、明穂さんは?」

「はっ?関係ないだろ?」

「それが、そうでもない、あの人の借金いくらか知ってるか?」

「知るわけが無い」

「ザッと200万、それに明奈さんスナック手伝ってるとは、いえ返済が間に合ってないのも現状だ、少しあるだけでもだいぶ変わるっと思うが?」

 縁の言葉に社会情勢も鑑みるとその提案には、一理あった。
 そんな話をしていると田臥が明穂と比奈を連れて診察室を後にした。

「ここまで順調ならもう医者に通う必要は、ないかもね」

 そんな田臥と明穂の世間話が聞こえ、その言葉に比奈は、嬉しそうにしながらも何処か気まずい表情を浮かべていた。

「なぁ、田臥さん」

 晴人は、ふとある事が気になり上の階を指差しながら田臥に声をかけると田臥は、笑顔で首を横に傾ける。

「上の階ってまだ空いてるんだっけ?」

「あぁ、確か3ヶ月前に事務所畳んでから空いていると思うよ」

 そして、この雑居ビルは、三本が抱える物件だ。
 晴人は、少しだけ天井を見上げたかと思うと次に明穂へと視線を向けた。

「ねぇ、明穂さん、少しお願いがあるんだけど訊いてくれない?」

 晴人のその言葉に明穂は、笑顔で首を傾けた。
 この後、その表情は困惑なモノへと変わるがそんな明穂を説得したのは、他の誰でもない比奈だった。
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