上 下
8 / 8
第1章

7.

しおりを挟む
お茶会が無事に終わりエンタナナバルまで直行する。演奏者には個室が設けられているから早く会場入りをしても問題ない。
私はシェソが淹れたダージリンティーで緊張をほぐしその時が来るのを静かに待つ。

★★★

ヴゥーーーーン…

幕が上がり、オーケストラの指揮者が指揮棒を天高く振り下ろすと一斉に楽器が音々を奏で合わせていく。
天幕の裏より様子を見ていれば閲覧席でラウラスがつまらなそうに眺めていた。
ラウラスの気持ちが分からなくもない。けれども表情に出し過ぎなのでは…?と思う。

『一度音色を紡げば忘れられない奇跡をあなたにー。
レイティア・フィ・ザイシェル様のご登場です!!!』
舞台上へと足を進めるレイティアに割れんばかりの拍手が鳴り響く。しかし、彼女の心はそれとは裏腹に気持ち悪さに耐えていた。

ー観客の顔など見えない。全部が黒く塗りつぶされているように、まるで蝋人形のようで気持ち悪い。
だから私は、演奏するまでにかかる時間がとても嫌い。大嫌い。
けれどそうも言っていられない。
誰に言うわけでもない言い訳染みた言葉を飲み込んで私は淑女の礼をし、ハープを抱き込む。


~♪~~♪~♪~~~♪~♪♪♪~~♪~
~~♪♪♪♪~~♪~~♪~♪~♪♪♪~~~♪……

その後はあっという間の出来事で無事に終わりを迎えた。
沢山の人に囲まれる前に早々と馬車へ乗り、屋敷に戻る道中は両親に誉められちぎられ、ラウラスは私を抱き込んだまま離れず…とても濃い1日となった終わりを告げた。
時刻は既に0時を過ぎており早々と寝る準備を済ませばシェソは静かに退室した。

「終わった…やっと、一日が、終わった。」
(ラウラスは一仕事終えてからって言っていたけれど…終わるのかしら。)
No.6の鍵をクローゼットに差し込み暗闇が彼女を招き入れる。
急いでドールを待たせている自室に直行し、入室すると何故か幹部らが2名…いえ、1名を除き部屋にいた。
その中でドールが小さく埋もれていた。

「え…な、何?何かあるの?」

「いやー、ドールがアラクネに用があるって言うからそれに便乗したらさーこんな状態になってたわアハハハッ!」

オネエサマ、オヒサシブリデスワお姉さま、お久しぶりですわ♪」
蔓が私の手を掴む。

「あら、ディーバ久しいわね!長期任務お疲れ様。」

「うちらも任務から」

「戻ってきたよ?」

「「誉めて誉めて♪」」

「リバにヴァシーもお帰りなさい!
貴女達の活躍は噂でだけど聞いていたわ、今度ゆっくりお茶しながら聞かせて頂戴。」

「「お菓子もあるよねっ!」」

「とびきりのを用意しておくわ。」

「やったね!」「最高だね!」

オマエタチバカリズルイワッお前達ばかり狡いわっ!!オネエサマヲヒトリジメお姉様を独り占めダメヨゼッタイ駄目よ絶対!!!」

「ふふっディーバ、貴女の活躍も是非聞きたいわ?」

オネエサマダイスキッッお姉様大好きっっ
長期出張を終えた彼女達は思い切りレイティアに甘え、それを拒むことなく受け入れる。
しばらく戯れた後、ドールから荷物を受けとってすぐに分身と入れ替えれば本物と区別がつかない程の作りに驚きが隠せなかった。

「本当に凄いわ…ありがとうビクス。
確かに受け取ったわ、これは定期的に整備が必要なの?」

「いえ、問題がなければ整備は必要ないです。それと…その、アラクネ様の糸、また貰っても良いですか…?」

「いくらでもあげるわ。……はい。」

「あっありがとうございます!
はぁ…、いつ見ても素敵……。」
こんなに気に入ってもらえたなら今度から毎日ドールに糸を送ろうかしら。
それからはたわいもない話をして疲れを解しているとレイヴィンが部屋に入ってきた。
入ってくるなり私に抱きつき、

「ぁあ…癒される。。
僕のアラクネ、今日も可愛いね?僕がいなくて寂しかった??
僕らの愛を邪魔する奴らは根こそぎ殺していくからアラクネは心配しないで、僕を癒してくれればいいから。」

「やっぱり、疲れていたのね…?ほら少しお休みなさい。」
膝枕をしてあげるとそのまま彼は寝てしまった。

「アラクネはお前のもんじゃねぇーし。
つーか眠いなら自分の部屋で寝てこいよ、邪魔だろーが!」

「アーネちゃん疲れたら交代するわよ~?
あ、そう言えば…ね?
そろそろ哀れな犬達が動き出すって噂よ♪
何でも邪黒神様の信者の摘発に力を注いでいるって噂が出回っているし…後、このアジトを聞き出すって話しらしいわよ♪

お姉さんゾクゾクするわぁ❤︎」

バカナヒトタチ馬鹿な人たちカレラハタダノシンジャデ彼らはただの信者でノゾミヲカナエタダイショウニイノリヲササゲテイル望みを叶えた代償に祈りを捧げているダケノコモノだけの小者…」

「じゃぁさー?」

「馬鹿な犬ころに」

「「躾をしてこよっか!!」」「名案だね!」
「良いとおもうでしょ?」

「今は止めておいた方がいいと思うよ?出方によっては相手の思惑通り、それこそ相手の思うつぼだからね?」
横になっていたレイヴィンが突然呟いた。

「あら、貴方聞いてたの?」
私の問いにレイヴィンは頷き他のメンバーに意見を仰ぐ。

「レイヴィン様の仰る通りかと…。ならばこちらは彼らの戦力を減らす為に真偽の不明な状態を拡散してみてはいかがでしょう?」

「ただ噂を流すだけで終わりな訳ねぇよな?」

「クフフフ…真実に気づき、後一歩のところでお預けされる哀れな犬を見るのもたまには良いのでは?」
ネルファの提案に皆目を光らせる。
ふふっ面白いじゃない。そういうの、私結構好きよ?

「ネルファ冴えてるわ~お姉さんもその提案にのるわよ♪

ー貴方もそう思うでしょ、ねぇ?オリオン??」
物陰に隠れていた鼠がビクッと体を震わせ慌てて変身する 。薄汚い灰色のコートをまといボロボロの帽子を深めに被る男ーオリオンは、

「気づいていたんでしたら声くらいかけてくだせぇ…あっしの心臓が持ちやせん。」

「初めっから堂々と入ってりゃ普通に声かけるわ。
つーかネズミのまんまで来んな、人型とればいいだろ?」

「あ、あっしはあっちの方が落ち着くんですよっ!(餓鬼のクセに…)」

「あ?何か言ったか?」

「な、何もっ言ってやせんぜ旦那!」

「そこまでよティント、オリオンを虐めないであげて?
オリオンも邪黒神様に仕える立派な幹部なのだから堂々と胸を張ったらどうなの。」

「すいやせんアラクネ様…努力しやす。」
険悪ムードが落ち着いたのを見計らい、ネルファが話を再開する。

「ではこれから詳しい説明をしましょうか…」

★★★

まず、相手にいくつか情報を拡散し戦力を分散させ聖剣を破壊する…もしくは聖剣士を殺すという実にシンプルな作戦。
ただし情報を拡散する際、それが真実であるように見せかけてそれぞれが行動しなければいけない。

「こちらとしても固めた戦力を相手にするのは無謀ですし、どうせならば重役を一人くらい始末したいではありませんか。
聖剣さえなければ彼らなど、取るに足らない赤子同然なのですから…クフフフフッ」

マルデまるでテノヒラデオドルドウケノヨウネ手の平で踊る道化のようね…」

「なら僕は踊らされている道化を演じてみようかな。」

「楽しそうじゃねぇーか、俺と組もうぜレイヴィン!お前の道化とやらに付き合ってやるぜ?俺の部屋に来いよ」

「よし行こう、ティントには僕の迫真の演技に合わせてくれないと困るからね。」
二人はガシッと手を組み意気揚々とティントの部屋に行ってしまったわ。

「なら私は沢山情報を売って色んな男と楽しんで来るわ♪」

「「私らも頑張るぞー!」」「ディーバっ!」
「どっちが先に」「犬を騙せられるか」

「「勝負しようよ」」

フンふんカツノハワタシヨ勝つのは私よ!」
リバとヴァシーはディーバと組むのね。

「私は皆様のサポートにまわりましょう。」

「私は…オリオン、貴方とペアを組むわ。
エスコートを頼むわよ。」

「あっしとアラクネ様が…ペアで……え、ああありっしでいいんですかい?!新入りと組むもんかと……っ」
歯をガタガタさせて慌てふためくオリオンに首を傾げる…私では不服なのかしら。

「あら…私とは嫌なの?」

「めめ滅相もありやせんっアラクネ様っ!」

「そう、ならいいわ。次に作戦を決めるのだけどー…」




このやり取りをネルファとビクスが静かに見つめていた。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...