オアシスの番人事情

前世が蛍の人

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いざ王宮へ

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ー3日後。
お世話になった人達にお礼を言いアークと共に宮殿へ向かう。白いローブを纏いぎこちない手綱で馬を走らせる事半日。
「お…お尻が…。」

『馬に乗ったことがないなら初めに言えば良かっただろ。
回復ヒール。』

「あれ、痛くない。え…?」
初めての体験に驚きが隠せないトイにアークが笑った。
ちょいふてくされ気味になったトイを必死になだめたのは言うまでもない。
トイは豪華な門の前に立ち緊張した面持ちで門番に話しかける。

「水を司る魔神ジンアークの適任者としてここに来た。門を開けてくれないか。」

「ならばその証を見せよ。」
証?何か紋章みたいなやつを見せろっていう事だよね?

「え-っと…とりあえずアークを呼べば一発か。」

「なっ?!尊き魔神ジンを呼び捨てするとは貴様!!」
あ…しまった。いつもの調子で名前を呼ぶとまずいのか、メモメモ。

『黙れ、俺が許した。問題なかろう、それより早く門を開けろ。』
あ、呼び捨ての許可あったんだ?
それじゃ、いつも通りに呼ぶとしよう。

「申し訳ありません!今すぐに開門しますのでお許し下さいっ。」
怯えた様子で門を開け縮こまる彼らを見て思った。
(頑張れ門番。)
心の中でエールを送りアークの道案内で王の間に到着。
待っている間にアークが中へ入っていく…自分はまだ許可を貰ってないためここから一人で入れということだろうか。

「ムルーク王の許可が下りました、お入り下さいませ。

くれぐれもー」
目元以外を薄い布で覆う小間使いの女性は、トイの素顔を見るや否や呆然と見つめてしまった。
少しいじっているとはいえローブをとったトイの姿は短髪の黒髪、幼さの残る顔、線の細い身体とこの世界では見慣れない美しさを持っていた。
あらかじめローブを着せていたのはこうなる事を予想していたアークの計らいでだがトイは知らない。

「あの、何か?」

「…ー!!い、いいえ。
くれぐれも王の御前にて粗相のありません様、お気をつけ下さいませ。」

「はい。」
中に入ると右も左も豪華すぎる。
流石お金持ちのやることは凡人とは違うな…。金銀財宝に加え、様々な鉱石や色鮮やかで美しい模様の布やカーテンが部屋の内装を更に彩っていた。
部屋には王座と呼ばれる椅子に座る王と、左右に立つ魔神ジン達の姿があった。
アークもそこにいる。
事前に礼儀作法を学んだかいあってか、慌てることなく王の前で跪く。
  
「面をあげよ。」
凛とした声が響く。

「もう一度言う、面をあげよ。」

「はい。」

「貴様が水の守護神アークの適任者か。」

「左様でございます。」
するとおもむろに王は席を立ち、跪くトイの顎を掴むとじっと見つめる。

「これが女であればすぐにでも俺の所有物にしているんだが…誠に惜しいことだ。
しかしこんな細腕で番人が務まるのか?」 

「なら、ご覧にいれましょうか?」
すると王が可笑しそうに笑う。いきなり笑いだした王にトイはアークに助けを求めた。
(王様が急に笑いだしたけど、こんな時どうすればいいんだよっ?)

『ムルークが笑った…?あいつが??』

『おいおい明日槍の雨が降るんじゃないか?』

『馬鹿な例えはともかく、あの様に無邪気に笑われるとは…』
どうやら魔神ジン達も困惑している模様…笑ったことが無いのかこの王様は…。
しかし、王は気にもせず言葉を続ける。

「俺に怖じ気づくどころか堂々としているとは面白い、気に入った。
俺の名はムルーク・マハムダ・サレル、貴様はなんと申す。」

「トイとお呼びください。」

「では、トイ。
貴様は先の女を見ても顔色一つ変えなかったそうだな?お前には姫達のいる後宮ハレムの番人を任せる。」
ん?さっきの女性のことかな??
ま、どっちにしても結構あっさり仕事を貰えたな~、幸先が良いってことだよね。

「はっ、有りがたき幸せ。」

「俺は今機嫌が良い。
何か要望があるならば申されみよ。」

「では、召し使いや小間使いは自分に必要ないので下げてくれますか?」
また王が隠す気もなく笑いだした。…なんでよ。

「やはり貴様は面白いな、わざわざ俺の許可をとらんでも良いではないか。
だが…まぁ、俺から伝えておく」

「ありがとうございます」
やった!!これで周りに気を使わず部屋でのんびり過ごせるし気が楽だな~。
とトイが思っている中、外野は黙ったままトイを凝視し、魔神ジンの一人がおもむろに口を開いた。

『…アーク、お前が選んだ適任者だがよ?
守護する相手が違うだろ?』

『やはりフェルトもそう思いましたか。
どう見ても彼は風の属性、ならば風の守護神であるこの私の適任者ですよね?』

『だよね~、ルーもそう思う!』

『……』

魔神ジンの言葉に王は少し驚いた様子で問いかけた。
「ほう、貴様は風属性の魔法が使えるのか。」

「…ん?どういう事だアーク??」

『ちょっ、アーちゃんを呼び捨てってどんだけ肝が座ってんのこの子?』

『アークお前どこで見つけた、答えろ。』

『言う訳ないだろ、お前らは黙れうるさい。』

『え、何隠すつもり?ルーの目は誤魔化せないけど。』

『黙れ、と言ったはずだ。後で報告する』
あーあ、外野が騒々しくなってきたから早く割り振られた部屋に帰りたい。

「それでは自分は身を清めた後、与えられた職務を全う致します」

「ああ、下がって良い」

『俺も失礼する。』
アークの後ろを着いて行き王の間を出る。
指定された部屋に入ってすぐアークに魔法について問いただす。

「自分が魔法使えるなんて聞いてないんだけど」

『あれこれお前に叩き込んでも混乱を招くだけだと思ったんだ。
気づいていないだろ?今の状態ではまた倒れるぞ。』

「うっ…、痛いとこつかないで」

『なら一刻も早く身体を休めろ、でなきゃ魔法の類いは教えんからな』

「あと数時間もすれば休めるし?そこまで弱くないし」

『そうむくれるな、ちゃんと教えてやるから』
アークはトイの頭をクシャクシャと撫でる。端から見れば微笑ましい一面だろう。特に他者に興味を示さないアークが人に加護を与え世話までするとは誰も想像つかない。
トイは礼儀にならい身を清めた後、持ち場である後宮ハレムへと歩く。
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