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月の刻の異変
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風呂場では二人の召し使いが待っていた、いや…待ち構えていたが正しい。
「トイ様、お待ちしておりました。お手伝いさせて頂きます。」
「じ自分で出来る!」
サッと距離をとったはずが服をバババッと脱ぎ捨てられタオルを前をつけられた。
(あ、今男じゃん、下だけ隠しておこ…)
鏡に映る男前な姿にタオルをずらして下を隠す。
「トイ様、お背中お流ししましょう。」
「結構です!」
何とか言いくるめて一人風呂を満喫する。
(兄さん達…きっと心配してんだろうな、
あの時の奴に会ったら今度こそ殴ってやる…!)
チラッと横を見れば龍のような骨董品が飾られていてそこからお湯が出ている。
更に湯船には白い百合の花が沢山浮いている。
「こんなに至れり尽くせりでどうしようか…。」
豪華な湯船に浸かりながら自分しかいない空間に思い耽った。
久しぶりのお風呂で体を綺麗にした後、召し使いの1人が有無を言わせない笑顔を浮かべてタオルを持って待っていた。浴室内で体は拭くのを済ませていたため残念そうな表情を浮かべるも、髪を念入りに拭いてもらった。
後片付けは二人の召し使いに任せて自分は部屋に戻る。
『戻ったか。
先程召し使い達があまりやることないと嘆いていたぞ?』
「…嘆く程なの?」
ここまで言われると諦めるしか無いのか…?と思いつつ出来る限り自分の事は自分で管理しようと思う。
『そろそろ日も暮れ月の刻となる。
まだ聞きたいことが山ほどあるだろうが一旦体を休めろ。これからどうするかを考える前に倒れたら元も子もないからな。』
「月の刻…あぁ、夜になるのか。」
外を眺めると成る程、日が傾き始めていた。
ここは客室だからこのまま部屋を使っていいと言われ横になる。
つい3時間くらい前まで寝ていたはずなのに凄く眠い…疲れた。
気づけばトイは目を閉じ寝息をたてて眠った。
★★
(ごめんなさい、どうか愚かな母を許して――あ…一人に……。)
(この人は誰に謝ってるんだろう。)
(いいですか?貴女は深い眠りにつくのです、そして目を覚ま…ら――もう…。)
「んぅ………んん…。」
異様な喉の渇きに目が覚めた。空には銀色に輝く月が照らす光以外、真っ暗で何も見えない。
(日本だったら夜でも明るいのに。)
トイは水を飲もうと体を動かす…が、思うように動かない。手足は辛うじて動くからベッドの端まで時間をかけて進む。痛みはない。
(喉…渇いた。髪、邪魔だな。)
ずりずりと足から降りた時、重力に沿って体が勢いよくずり落ち床にぶつかった。
物音に気づいた召し使いは、
「トイ様、どうかし―っ?
アーク様大変でございますっ、トイ様が、トイ様のご様子が!!!」
(な、に…)
召し使いがトイの様子を見るや否、慌てて部屋を出て行きアークを呼びに走る。
少しして先程の召し使いとアークが部屋をノックなしで入ると、そこには銀色の髪を無造作に散らして横たわる美女がいた。
今にも消えてしまいそうな儚げな姿に加え、月明かりに反射したその髪は彼女の美しさを引き立たせている、いわば装飾品となっており愁い帯びたその目にアークが揺らいで映る。
アークの心臓が高鳴った。
ふとアークは我に返り慌てて近づく。
『(あれは―…っ!?)ト、トイ…なのか?』
「(ハクハク)…??」
(声が出ない。)
『大丈夫か?トイこれをゆっくり飲め。』
アークが空中に水を出すとそれを口許に近づけ、飲ませてくれた。
水は床に零れることなく今もそこに留まっている。
「から…だ…、うまく…うごか…せ…ない。」
喉の乾きは幾分マシになり少しだけ話せた。
『月の影響で体に異変が生じている。
話すのが辛ければ無理をするな、朝が来るまで目を瞑れ。今は寝ていろ…』
アークはずり落ちたトイを優しく抱きベッドに寝かせると、大きな手が目元を覆った。
そしてトイは夢を見る事なく深い眠りについたのだった。
★★★
―アークside―
寝息が聞こえたのを確認し手を退けた。
「あの…アーク様。
その、トイ様はまさかじょ、―」
『命令だ、今ここで起きた一切の出来事を全て忘れろ。』
「ハ……イ…、カシコマリマシタ。アルジサマノ、オオセノママニ。」
召し使いは抑揚のない機械的な声で答え、ふらふらと自室へ戻っていく。
俺は再びトイの寝顔を見る。
規則正しい寝息が何故か俺の魂をざわつかせた。
『トイが…そうか……。
これも神の思し召し…運命だと言いたいのか。』
ほんのりと赤み帯びた唇にアークはそっと触れ、軽くキスをする。
その目はまるで恋人に向けるような…絡み付く視線だった。
誰もいない静けさの夜に起こった出来事はアークの記憶へとしまわれる。
「トイ様、お待ちしておりました。お手伝いさせて頂きます。」
「じ自分で出来る!」
サッと距離をとったはずが服をバババッと脱ぎ捨てられタオルを前をつけられた。
(あ、今男じゃん、下だけ隠しておこ…)
鏡に映る男前な姿にタオルをずらして下を隠す。
「トイ様、お背中お流ししましょう。」
「結構です!」
何とか言いくるめて一人風呂を満喫する。
(兄さん達…きっと心配してんだろうな、
あの時の奴に会ったら今度こそ殴ってやる…!)
チラッと横を見れば龍のような骨董品が飾られていてそこからお湯が出ている。
更に湯船には白い百合の花が沢山浮いている。
「こんなに至れり尽くせりでどうしようか…。」
豪華な湯船に浸かりながら自分しかいない空間に思い耽った。
久しぶりのお風呂で体を綺麗にした後、召し使いの1人が有無を言わせない笑顔を浮かべてタオルを持って待っていた。浴室内で体は拭くのを済ませていたため残念そうな表情を浮かべるも、髪を念入りに拭いてもらった。
後片付けは二人の召し使いに任せて自分は部屋に戻る。
『戻ったか。
先程召し使い達があまりやることないと嘆いていたぞ?』
「…嘆く程なの?」
ここまで言われると諦めるしか無いのか…?と思いつつ出来る限り自分の事は自分で管理しようと思う。
『そろそろ日も暮れ月の刻となる。
まだ聞きたいことが山ほどあるだろうが一旦体を休めろ。これからどうするかを考える前に倒れたら元も子もないからな。』
「月の刻…あぁ、夜になるのか。」
外を眺めると成る程、日が傾き始めていた。
ここは客室だからこのまま部屋を使っていいと言われ横になる。
つい3時間くらい前まで寝ていたはずなのに凄く眠い…疲れた。
気づけばトイは目を閉じ寝息をたてて眠った。
★★
(ごめんなさい、どうか愚かな母を許して――あ…一人に……。)
(この人は誰に謝ってるんだろう。)
(いいですか?貴女は深い眠りにつくのです、そして目を覚ま…ら――もう…。)
「んぅ………んん…。」
異様な喉の渇きに目が覚めた。空には銀色に輝く月が照らす光以外、真っ暗で何も見えない。
(日本だったら夜でも明るいのに。)
トイは水を飲もうと体を動かす…が、思うように動かない。手足は辛うじて動くからベッドの端まで時間をかけて進む。痛みはない。
(喉…渇いた。髪、邪魔だな。)
ずりずりと足から降りた時、重力に沿って体が勢いよくずり落ち床にぶつかった。
物音に気づいた召し使いは、
「トイ様、どうかし―っ?
アーク様大変でございますっ、トイ様が、トイ様のご様子が!!!」
(な、に…)
召し使いがトイの様子を見るや否、慌てて部屋を出て行きアークを呼びに走る。
少しして先程の召し使いとアークが部屋をノックなしで入ると、そこには銀色の髪を無造作に散らして横たわる美女がいた。
今にも消えてしまいそうな儚げな姿に加え、月明かりに反射したその髪は彼女の美しさを引き立たせている、いわば装飾品となっており愁い帯びたその目にアークが揺らいで映る。
アークの心臓が高鳴った。
ふとアークは我に返り慌てて近づく。
『(あれは―…っ!?)ト、トイ…なのか?』
「(ハクハク)…??」
(声が出ない。)
『大丈夫か?トイこれをゆっくり飲め。』
アークが空中に水を出すとそれを口許に近づけ、飲ませてくれた。
水は床に零れることなく今もそこに留まっている。
「から…だ…、うまく…うごか…せ…ない。」
喉の乾きは幾分マシになり少しだけ話せた。
『月の影響で体に異変が生じている。
話すのが辛ければ無理をするな、朝が来るまで目を瞑れ。今は寝ていろ…』
アークはずり落ちたトイを優しく抱きベッドに寝かせると、大きな手が目元を覆った。
そしてトイは夢を見る事なく深い眠りについたのだった。
★★★
―アークside―
寝息が聞こえたのを確認し手を退けた。
「あの…アーク様。
その、トイ様はまさかじょ、―」
『命令だ、今ここで起きた一切の出来事を全て忘れろ。』
「ハ……イ…、カシコマリマシタ。アルジサマノ、オオセノママニ。」
召し使いは抑揚のない機械的な声で答え、ふらふらと自室へ戻っていく。
俺は再びトイの寝顔を見る。
規則正しい寝息が何故か俺の魂をざわつかせた。
『トイが…そうか……。
これも神の思し召し…運命だと言いたいのか。』
ほんのりと赤み帯びた唇にアークはそっと触れ、軽くキスをする。
その目はまるで恋人に向けるような…絡み付く視線だった。
誰もいない静けさの夜に起こった出来事はアークの記憶へとしまわれる。
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