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熱い夜までの記憶(3)
しおりを挟むダンスミュージックの轟音と共に、色鮮やかな蛍光ライトがリズムに合わせて揺れ動く。
音楽の盛り上がりが頂点に達すると、力強くスモークが噴出し、DJブースの近くにいる参加者たちは、踊りながら楽しんでいる。
会場は多くの人で賑わっていた。
5分くらい歩き回ったところで、目印の大きな柱を見つけ、そのそばには美佳が座っていた。
美佳の前にあるテーブルに目をやると、トランプが乱雑に散らばっており、もうすぐなくなりそうな、ウィスキーやテキーラのボトルと、空のショットグラスが5つ置いてある。
奥の方には、ソーダや水があるが、数本しか空いていない。
(うわっ、、みんな、お酒強いな。笑)
楽しそうに笑っている美佳は、まぁまぁ酔っているようだ。
美佳の他に、周りには男女6人がおり、相当に酔っているのがわかる。
動き回るカラフルなライトが美佳のグループを軽く照らした時、見覚えのある男性の姿が、一瞬現れた。
美佳が写真で見せてくれた同じ顔。
(あっ、、ルーカスだ。)
ルーカスと認識した途端、杏奈は、不思議な感覚に陥った。
時間が止まったかのように感じ、大音量のミュージックが消え去り、ルーカスだけが目に入っていた。
……ドサッッ!
誰かと体がぶつかり、我に返ると、
「杏奈ぁ~~!!やっと来たぁ~!もう、待ちくたびれちゃったよ。」
美佳が杏奈のそばに来てハグをする。
そして、一緒に飲んでいた友人たちを紹介してくれた。
ティナ、ケイト、マイク、ジョン、ジョシュア、
そしてルーカス。
ティナとマイク、ケイトとジョン、そして美佳とジョシュアは恋人同士だ。
紹介が終わった直後、ルーカスが杏奈の近くに歩み寄り、一度、軽く咳払いをして、美佳たちの注目を集める。
「やっと来てくれた。みんな、紹介するよ。ガールフレンドの杏奈だ。」
ルーカス以外はみんな恋人同士のため、杏奈のことをガールフレンドだと言って彼氏のフリをし始めるルーカスに、みんなが笑い声を上げる。
「知らなかったわ!いつから付き合っているのよ?」
「出会いのきっかけを教えて!」
「最初に一緒に旅行した国はどこ?」
みんなも嘘だと知っていながら、あれこれと質問を投げかけるが、ルーカスは、何も答えずに、
「プリンセス、お手をどうぞ。」
そう言って手のひらを上にし、優しくエスコートをする。
その後も、この恋人ごっこは続き、杏奈が来てからずっと隣に座り、事あるごとに彼氏のフリをして、みんなの笑いを誘った。
それから3時間。
楽しい時間は瞬く間に過ぎていった。
午前1時半を過ぎたところで、そろそろ帰ろうか、との話になり、最後にみんなで写真を撮った。
酔った8人全員が良い顔で撮れるまで、6回のやり直しがあったが、そのおかげもあって、素敵な笑顔の写真になっていた。
ティナが代表してインスタグラムに投稿することになり、杏奈も、自分のユーザー名を入力し、ティナに携帯を返す。
また、そのタイミングで、全員とインスタをフォローし合った。
ストーリーに投稿された写真は、映る全員が酔っぱらっているが、すごく楽しそうに笑っている。
その写真を眺めていると、
「杏奈、ホテルはどこ?心配だから送っていくよ。」
「ありがとう、ルーカス。グランオリエンタルホテルってところ。ローズ公園があるところの上よ。」
「えっ!!?!本当に?!」
ルーカスがなぜ驚いているのか、全く理解ができない杏奈。
ルーカスの話によると、杏奈が宿泊しているホテルは、15階~30階までは、ホテル利用者用の客室ではなく、サービスアパートメントになっていて、ルーカスはそこに住んでいるとのこと。
すごい偶然だねと笑い合った後、タクシーの手配ができたとアプリの画面を見せてくれた。
仲良くなったみんなと、次はマルベリアで再会することを約束し、お別れのハグをして、ルーカスと2人でタクシーに乗り込む。
他愛もない話をしていると、10分もしないうちにホテルに着いた。
ルーカスはトイレに行くと言って、ホテルの広々としたロビーで軽いハグとお別れの挨拶をし、早々に立ち去っていった。
恋人ごっこを楽しんでいた杏奈は、別れの呆気なさに少し寂しさを覚えつつ、ホテルの部屋に戻ると、すぐにお風呂に向かった。
(楽しかったなぁ~~!)
バスタブに浸かりながら、美佳にホテルに着いたことの報告と、飲み会に誘ってくれたことへのお礼のメッセージを送った。
その後、インスタグラムで投稿された、8人での写真を再び見ていると、メッセージ通知が届く。
(…??ルーカスから?なんだろう?)
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Hi, Anna!
It was so nice to be able to meet you!
Well, sorry to disturb you, but...
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ルーカスのメッセージには、シャワーが壊れているのか、水しか出ない状況で困っており、杏奈の部屋のシャワーを借りたいと書かれていた。
返事を打っている最中に、突然、携帯の画面が切り替わり、電話が鳴った。
「メッセージ見たわ。大変ね。シャワー使いに部屋に来て!部屋番号は、5003よ。」
「ありがとう!助かるよ。今から行っても大丈夫?」
「えぇ。問題ないわ。たった今お風呂から出たところよ。」
数分もしないうちに部屋のベルが鳴り、ドアを開けると、ルーカスが立っていた。
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