6 / 17
真夜中の密会(1)
しおりを挟む杏奈が滞在しているグランオリエンタルホテルは、マルベリアの首都ベリル発祥の世界的に有名な高級ホテルである。
ホテルグループの創設者が、マルベリア大学の卒業生ということもあり、事前に大学側へ予約申請を行えば、無料で利用できる宿泊施設となっている。
杏奈が利用している部屋は、50㎡(約30畳)と広々とした空間で、白と濃紺の配色が洗練された雰囲気を醸し出している。
部屋の中央にはキングサイズのベッドがあり、その横には、長方形に伸びた高級感のある化粧台が置かれ、縦に伸びる鏡は90度に動かすことができる。部屋の奥には、L字型のソファとテーブルが配置され、床から天井まで広がる大きな窓からは、50階からの景色を楽しむことができる。
5003号室のドアが開くと、紺色のシルクのキャミソールにショートパンツ姿の杏奈が、ルーカスを迎え入れた。
お風呂上りのせいか、杏奈は石鹸の心地よい香りに包まれ、両頬にはほのかな赤みが広がっている。
バスタオルを肩にかけ、胸下まである長い黒髪が服に水滴を残さないよう気を配りながら、ルーカスが部屋に入った後に、杏奈はドアを施錠した。
部屋は眠る前の静けさが漂い、すでに薄暗くなっている。
「遅くに連絡してごめん。」
「全然大丈夫よ。そんなことより、シャワー災難だったわね。」
「杏奈が起きててくれて助かったよ。」
そう言って、ルーカスはバスルームに入って行った。
杏奈は、待っている間、まだ湿っている髪を束ね、ベッドにうつ伏せになりながら携帯をいじる。
しばらくしてシャワー音が消えると、黒のスウェットパンツに、白の半袖姿でルーカスが出てきた。
「杏奈。シャワーありがとう。」
「どういたしまして。必要だったら、いつでも使いに来て大丈夫よ。」
「助かるよ!さっきコンシェルジュからメッセージが来て、明日の昼過ぎに修理してくれるって。」
「それなら良かったわね。もし明日直らなかったら、遠慮なく連絡してね。」
「ありがとう。助かるよ。」
うつ伏せのまま話す杏奈のそばにルーカスが座ると、
「杏奈の髪、まだ濡れてるな。ドライヤー貸して。」
シャワーのお礼に、と言って、ルーカスはドライヤーを手に取ると、
「ほら、ここに座って。」
そう声をかけ、ドレッサーに取り付けられた動く鏡をベッドに寄せると、うつ伏せの杏奈をベッドの上に座らせた。
鏡には、ベッドに座る杏奈と、その背後に、ルーカスが両膝立ちでドライヤーを手に持つ姿が映っている。
「ふふっ(笑)」
「なに?」
「真剣に私の髪を乾かしてて、その姿が可愛いなと思って。」
鏡越しに杏奈を見て微笑むルーカス。
大きな指で、優しく杏奈の髪を撫でる。
「絹のような綺麗な黒髪だね。」
「えっ?綺麗なのは髪だけ?」
そう言ってわざとらしく杏奈が尋ねると、
「いや、杏奈自身も素敵だよ。実を言うと、今日実際に会う前から、美佳に写真を見せてもらってたんだ。
写真の杏奈も綺麗だと思ったけど、実物はもっと美人で驚いたよ。」
「ふふっ(笑)実は、私も、美佳からあなたの写真を見せてもらっていたの。」
「どう思った?」
「ファッションモデルみたいで、とても魅力的な人だと思ったわ。外見からは、寡黙な印象を受けたけれど、実際に話してみると、優しさや温かさが溢れる人柄が伝わってきたし。あのジョークも面白かったわ!」
「今日の恋人ごっこ、嫌じゃなかった?」
「ううん。とっても楽しかったわ。」
その返事を聞いて微笑を見せるルーカス。
杏奈の肩にかかっていたバスタオルをどかし、艶やかな長い黒髪を左肩にまとめながら、ルーカスが訊いた。
「ねぇ、まだ続けていい?」
「えっ?どういうこ……。あぁっ。」
杏奈が質問の意図を尋ねようとすると、ルーカスはゆっくりと右肩にキスを落とした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる