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第五話:追憶のおとぎ話
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ホストに貢ぐ女は星の数ほどいる。彼女達はホス狂と呼ばれ、社会現象にもなっている。
ホストの知り合い数人に声をかけてみたが、手がかりは掴めず、人探しは難航していた。
「おにーさん、イケメンだね。ホストとか興味ない?」
安っぽいスーツを着たホスト崩れの客引きがヘラヘラと笑いかけてきた。
ある意味、興味はある。が、なりたいわけではない。
立ち止まって、考える。外側から探してもダメなら、内側から探してみるのもありかもしれない。
「お試しで体験入店とかも全然アリ! ねぇ、どう?」
話だけでも聞いてみるか。
しつこい客引きに負けて、冥は彼についていくことにした。
その一時間後、冥はド派手なグレーのスーツに身を包むことも知らずに。
「そこまでしてくれなくても……」
「いや、なんかなりゆきっつーか。まぁ、金も稼げるし。それに、一週間だけって話だし」
ホストのスカウトにノコノコついていくと、うまいこと乗せられて体験入店する羽目になった。スーツを渡され、即戦力としてしこたま酒を飲まされ、ようやく解放されて、今に至る。
「でも、佐良は笑顔も硬いし無口だし、ホストなんて一番向いてないだろ」
明け方になって訪れた冥に驚きつつも、雪村はそのまま受け入れた。
泥酔しているので、軽口を返せるほどの余裕はない。グロッキーになっている冥を見て、雪村はなるほど、と納得の表情を浮かべた。
「ひょっとして、酒はあんまりか?」
うーん、という酒臭い呻き声を返し、机に突っ伏す。
「大丈夫?帰れそうか?」
「無理、かも」
「二階の部屋。空いてるから今日は泊まっていけ」
今の冥にはありがた過ぎる提案だ。
「……ごめん」
冥がぺこりと頭を下げると、雪村は更に深く頭を下げた。
「いや、こちらこそ申し訳ない。この家のものは自由に使っていいし、飯だって適当に食ってけ」
申し訳なさそうに、雪村は合鍵を机の上に置いた。
むかむかとする胃から何かがこみあげようとするのを、生唾を飲み込んで抑え込む。
「大丈夫か? これ、飲めるか?」
差し出されたコップ一杯の水を、冥は一気に飲み干した。
案内された二階の部屋は、六畳程の和室だった。大きな本棚には、大量の本がぎっしりと並んでいる。
「寝るのはここを使え。今布団持ってくるから」
その本棚をじっと見る。
枕草子。坊ちゃん。走れメロス。銀河鉄道の夜。
さすが国語教師。国内外問わず、名作がずらりと並んでいる。作者順に並べられたそれをゆっくりと目で追っていくと、一番最後はシェイクスピアだった。
ハムレット。マクベス。リア王。
そして、ロミオとジュリエット。
作品名を見た瞬間、忘れていた記憶が蘇った。
真夏日の、冷房の良く効いた図書館。そこには、中学生の冥と、若き日の雪村の二人しかいない。向かい合わせに座って、二人は会話をしている。
机の上には一冊の本があった。
『そんなにつまらなかったか?』
『うん。なんか辛気臭くて無理だった。どいつもこいつも思い込み激しくて、全然共感できないし』
『そうか。じゃあ、どうしたら共感できると思う?』
『俺なら、まず話し合う。んで、お互いの考えをしっかり確認する。そうしたら、ロミオは死ななくて済んだだろ』
『面白い観点だ』
『ほんと、言ってやりたいよ。お前、死ななくて良かったんだぞ、って』
冥がそう言うと、雪村は困ったように眉を下げ、どこか寂しそうに笑った。
ホストの知り合い数人に声をかけてみたが、手がかりは掴めず、人探しは難航していた。
「おにーさん、イケメンだね。ホストとか興味ない?」
安っぽいスーツを着たホスト崩れの客引きがヘラヘラと笑いかけてきた。
ある意味、興味はある。が、なりたいわけではない。
立ち止まって、考える。外側から探してもダメなら、内側から探してみるのもありかもしれない。
「お試しで体験入店とかも全然アリ! ねぇ、どう?」
話だけでも聞いてみるか。
しつこい客引きに負けて、冥は彼についていくことにした。
その一時間後、冥はド派手なグレーのスーツに身を包むことも知らずに。
「そこまでしてくれなくても……」
「いや、なんかなりゆきっつーか。まぁ、金も稼げるし。それに、一週間だけって話だし」
ホストのスカウトにノコノコついていくと、うまいこと乗せられて体験入店する羽目になった。スーツを渡され、即戦力としてしこたま酒を飲まされ、ようやく解放されて、今に至る。
「でも、佐良は笑顔も硬いし無口だし、ホストなんて一番向いてないだろ」
明け方になって訪れた冥に驚きつつも、雪村はそのまま受け入れた。
泥酔しているので、軽口を返せるほどの余裕はない。グロッキーになっている冥を見て、雪村はなるほど、と納得の表情を浮かべた。
「ひょっとして、酒はあんまりか?」
うーん、という酒臭い呻き声を返し、机に突っ伏す。
「大丈夫?帰れそうか?」
「無理、かも」
「二階の部屋。空いてるから今日は泊まっていけ」
今の冥にはありがた過ぎる提案だ。
「……ごめん」
冥がぺこりと頭を下げると、雪村は更に深く頭を下げた。
「いや、こちらこそ申し訳ない。この家のものは自由に使っていいし、飯だって適当に食ってけ」
申し訳なさそうに、雪村は合鍵を机の上に置いた。
むかむかとする胃から何かがこみあげようとするのを、生唾を飲み込んで抑え込む。
「大丈夫か? これ、飲めるか?」
差し出されたコップ一杯の水を、冥は一気に飲み干した。
案内された二階の部屋は、六畳程の和室だった。大きな本棚には、大量の本がぎっしりと並んでいる。
「寝るのはここを使え。今布団持ってくるから」
その本棚をじっと見る。
枕草子。坊ちゃん。走れメロス。銀河鉄道の夜。
さすが国語教師。国内外問わず、名作がずらりと並んでいる。作者順に並べられたそれをゆっくりと目で追っていくと、一番最後はシェイクスピアだった。
ハムレット。マクベス。リア王。
そして、ロミオとジュリエット。
作品名を見た瞬間、忘れていた記憶が蘇った。
真夏日の、冷房の良く効いた図書館。そこには、中学生の冥と、若き日の雪村の二人しかいない。向かい合わせに座って、二人は会話をしている。
机の上には一冊の本があった。
『そんなにつまらなかったか?』
『うん。なんか辛気臭くて無理だった。どいつもこいつも思い込み激しくて、全然共感できないし』
『そうか。じゃあ、どうしたら共感できると思う?』
『俺なら、まず話し合う。んで、お互いの考えをしっかり確認する。そうしたら、ロミオは死ななくて済んだだろ』
『面白い観点だ』
『ほんと、言ってやりたいよ。お前、死ななくて良かったんだぞ、って』
冥がそう言うと、雪村は困ったように眉を下げ、どこか寂しそうに笑った。
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