8 / 13
第八話:そわそわシュークリーム
しおりを挟む
夜八時の、繁華街の中心の大きなショッピングビル。その裏側は、『ビル裏』と呼ばれ、行き場のない未成年達がたむろする、特に治安の悪い一帯だ。
藤堂美優。動画配信に入れ込み、家に帰らなくなった最後の問題児はそこにいる。
そう言われて、冥は勝手知ったる街に赴いた。
いつ来ても、ビル裏は異様だ。
薄汚い地面に座り込んだ少女達の目は淀んでいた。きっと、何日も家に帰っていないのであろう。リストカットの跡が痛々しい。散らばった薬のシート。ポイ捨てされた吸い殻。
全体的に負に沈んだ空気の中、コンビニ前の一角だけが騒がしい。一人の少女がスマートフォンに向かって甲高い声でネット配信をしている。
おそらくあれが、ターゲットだろう。
一応本人確認しておくか。
しかし、明らかに配信中なので、割って入るのに躊躇う。しばらくコンビニの中から見守るが、中々終わらない。一時間。そして更に一時間。少しずつ場所を移動しながら、美優は画面に向かって喋り続ける。
仕方ない。日を改めるか。
何なら雪村に報告して、本人確認も任せてしまおう。
そのまま雪村の家に戻ると、彼はまだ帰宅していなかった。今の電気をつけ、長居するのに気まずくなって買ったコンビニスイーツを冷蔵庫に入れる。
炬燵机の上に、写真が一枚落ちていた。
そこには二人の男性が、居酒屋のような場所で鍋を囲み、笑顔でピースをしていた。一人はきっと、若き日の雪村だろう。今よりも血色が良く、表情も生き生きとしている。
もう一人は背が高く、日に焼けた肌と爽やかな風貌。まるで体育教師のような雰囲気だ。
ただ、友人同士で映った普通の写真。そのはずなのに、見てはいけないものを、見てしまった気がする。
見なかったことにしよう。
冥はそっと、その写真を側にあった書類の山に紛れ込ませた。
その後、ガチャ、と玄関で鍵の音がした。後ろめたくなって、背中がびくりと震える。
「ただいま」
何も知らない家主が疲れた表情で現れた。
「お、おかえり。冷蔵庫にシュークリーム入ってるから、良かったら食って」
「おー、ありがとう。夕飯はどうする?」
「食ってきた」
そっか、と雪村はガサゴソとカップ麺を出して、湯を沸かし始めた。
写真を見てしまったことは、当然バレていない。
あくまで自然体を装いながら、冥は話を切り出した。
「藤堂美優。普通にビル裏にいた」
「ずっと配信してただろ」
「三時間ずっと。だから、諦めて帰ってきた」
「おつかれさん。しかし困ったな。校長の意向で、高校名がバレるから教師は絶対に映るな、と言われてるんだ。常に配信に張り付いて見てる訳にもいかないし……」
参ったな、と雪村は腕を組んだ。
本来ならバトンタッチしてもいいが、せっかく三時間粘ったのだから、なんとかして成果を上げたい。
「分かった。どうせ暇だし、明日もう少し張ってみて、撮影が途切れる時間帯を探ってみる」
どうせと言いつつも、やはり心のどこかで申し訳なさを感じ、雪村にそう申し出た。
藤堂美優。動画配信に入れ込み、家に帰らなくなった最後の問題児はそこにいる。
そう言われて、冥は勝手知ったる街に赴いた。
いつ来ても、ビル裏は異様だ。
薄汚い地面に座り込んだ少女達の目は淀んでいた。きっと、何日も家に帰っていないのであろう。リストカットの跡が痛々しい。散らばった薬のシート。ポイ捨てされた吸い殻。
全体的に負に沈んだ空気の中、コンビニ前の一角だけが騒がしい。一人の少女がスマートフォンに向かって甲高い声でネット配信をしている。
おそらくあれが、ターゲットだろう。
一応本人確認しておくか。
しかし、明らかに配信中なので、割って入るのに躊躇う。しばらくコンビニの中から見守るが、中々終わらない。一時間。そして更に一時間。少しずつ場所を移動しながら、美優は画面に向かって喋り続ける。
仕方ない。日を改めるか。
何なら雪村に報告して、本人確認も任せてしまおう。
そのまま雪村の家に戻ると、彼はまだ帰宅していなかった。今の電気をつけ、長居するのに気まずくなって買ったコンビニスイーツを冷蔵庫に入れる。
炬燵机の上に、写真が一枚落ちていた。
そこには二人の男性が、居酒屋のような場所で鍋を囲み、笑顔でピースをしていた。一人はきっと、若き日の雪村だろう。今よりも血色が良く、表情も生き生きとしている。
もう一人は背が高く、日に焼けた肌と爽やかな風貌。まるで体育教師のような雰囲気だ。
ただ、友人同士で映った普通の写真。そのはずなのに、見てはいけないものを、見てしまった気がする。
見なかったことにしよう。
冥はそっと、その写真を側にあった書類の山に紛れ込ませた。
その後、ガチャ、と玄関で鍵の音がした。後ろめたくなって、背中がびくりと震える。
「ただいま」
何も知らない家主が疲れた表情で現れた。
「お、おかえり。冷蔵庫にシュークリーム入ってるから、良かったら食って」
「おー、ありがとう。夕飯はどうする?」
「食ってきた」
そっか、と雪村はガサゴソとカップ麺を出して、湯を沸かし始めた。
写真を見てしまったことは、当然バレていない。
あくまで自然体を装いながら、冥は話を切り出した。
「藤堂美優。普通にビル裏にいた」
「ずっと配信してただろ」
「三時間ずっと。だから、諦めて帰ってきた」
「おつかれさん。しかし困ったな。校長の意向で、高校名がバレるから教師は絶対に映るな、と言われてるんだ。常に配信に張り付いて見てる訳にもいかないし……」
参ったな、と雪村は腕を組んだ。
本来ならバトンタッチしてもいいが、せっかく三時間粘ったのだから、なんとかして成果を上げたい。
「分かった。どうせ暇だし、明日もう少し張ってみて、撮影が途切れる時間帯を探ってみる」
どうせと言いつつも、やはり心のどこかで申し訳なさを感じ、雪村にそう申し出た。
0
あなたにおすすめの小説
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
すみっこぼっちとお日さま後輩のベタ褒め愛
虎ノ威きよひ
BL
「満点とっても、どうせ誰も褒めてくれない」
高校2年生の杉菜幸哉《すぎなゆきや》は、いつも一人で黙々と勉強している。
友だちゼロのすみっこぼっちだ。
どうせ自分なんて、と諦めて、鬱々とした日々を送っていた。
そんなある日、イケメンの後輩・椿海斗《つばきかいと》がいきなり声をかけてくる。
「幸哉先輩、いつも満点ですごいです!」
「努力してる幸哉先輩、かっこいいです!」
「俺、頑張りました! 褒めてください!」
笑顔で名前を呼ばれ、思いっきり抱きつかれ、褒められ、褒めさせられ。
最初は「何だこいつ……」としか思ってなかった幸哉だったが。
「頑張ってるね」「えらいね」と真正面から言われるたびに、心の奥がじんわり熱くなっていく。
――椿は、太陽みたいなやつだ。
お日さま後輩×すみっこぼっち先輩
褒め合いながら、恋をしていくお話です。
【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ②
人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。
そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。
そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。
友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。
人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
泣き虫で小柄だった幼馴染が、メンタルつよめの大型犬になっていた話。
雪 いつき
BL
凰太朗と理央は、家が隣同士の幼馴染だった。
二つ年下で小柄で泣き虫だった理央を、凰太朗は、本当の弟のように可愛がっていた。だが凰太朗が中学に上がった頃、理央は親の都合で引っ越してしまう。
それから五年が経った頃、理央から同じ高校に入学するという連絡を受ける。変わらず可愛い姿を想像していたものの、再会した理央は、モデルのように背の高いイケメンに成長していた。
「凰ちゃんのこと大好きな俺も、他の奴らはどうでもいい俺も、どっちも本当の俺だから」
人前でそんな発言をして爽やかに笑う。
発言はともかく、今も変わらず懐いてくれて嬉しい。そのはずなのに、昔とは違う成長した理央に、だんだんとドキドキし始めて……。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる