真夜中のロミオに告ぐ

mimomo

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第十話:月明かりの問答

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 夕方の時間帯に雪村は帰宅しているはずもなく、夜八時まで冥は暗澹たる思いで彼の帰りを待った。
 当の本人はいつものように疲れた顔で帰宅して、「今日は疲れてるから飯はこれで勘弁してくれ」とコンビニで購入した二人分の夕食を机の上に置いた。
「配信見たよ。……色々バレちまったみたいだな。ごめん」
「なんでアンタが謝るんだよ」
「そっか。まぁ、そうだよな。藤堂のことはもういいから、あとは俺に任せろ。頼みたかった依頼は全部完了だ。今までありがとう」
 これで、最後。
 突き放すような態度に、冥は泣きたくなった。
 まだ何も終わってないだろ。
抗議しようと口を開くが、雪村の言葉に遮られる。
「お前から軽蔑されるのが怖いんだ」
「俺が、そんなことでセンセを軽蔑するって思ってんの? 俺はアンタの中では、そんなにしょーもない奴なわけ?」
 何だよそれ。
 悲しみと同時に、沸々と怒りが込み上げてくる。
「……違う。お前は、優しいヤツだよ。だから、余計に辛い」
 受け入れ難い言葉に、冥は唇をきつく噛んだ。
 信じていた。だから、信じてほしかった。
 個人的に仕事を与えてもらうだけでなく、自宅に居候して、毎日食卓を囲んで。
 家族のような関係になれたと、思っていたのに。
 所詮、教師と教え子の関係に過ぎなかった。
 口の中がカラカラに乾いている。虚しさで言葉が上手く出てこない。
「もういい」
耐えきれず、わざと乱暴にドアを閉めて、部屋を後にした。
 そして結局、この歓楽街へと吸い寄せられてしまう。古びたテナントビルに忍び込んで、錆びついた非常階段を登る。
 屋上は施錠されていなかった。薄汚れた柵に寄りかかって、煙草を吹かす。
煙を吐き出し、考える。
「なんも分かんねぇ」
 街を見下ろしながら、ぼんやりと煙草を燻らせる。煌びやかで粗雑で、何も変わらない街並み。孤独な人間が集って作り上げた虚像がそこにはあった。
 雪村は、この街に浸り寂しさを埋める彼女達を見て、何を考えたのだろう。
 あの日、何を思って自分に声をかけたのだろう。
 どれだけ考えても答えなど出ない。
 もっとやり方があったんじゃないか。余計なことをしなければ、美優を刺激せずに済んだのでは。
 上手くやれば、雪村も秘密をバラされなかった。
 自分のせいで、傷つけてしまった。
 煙で肺を満たして、頭の中を整理する。
 自分がない。ようやく見つけた居場所。
 それをただ、失いたくなかった。
 憎しみの対象である美優が自身と重なり、冥は言葉に詰まった。
 美優も憎んでも、雪村に失望しても。
 でも、自分だって。
 見ないフリをして、知ろうとしなかった。
 一つ一つ、心を紐解いていく。
 雪村がゲイだということは、確かに衝撃的だった。ゲイだから、というセクシュアル的な側面というよりは、雪村が教師としてではなく、一人の人間として誰かを愛したことがある、という事実が冥の心にもやを残した。
 ほとんど何も知らないくせに。
一緒に暮らしていて、新たに知ったことはほんの少し。
 得意料理とプライベートの服装くらいで、芯の部分のことは、何も知らない。
 雪村だって、誰かと幸福を分かち合ったり傷つけあったり、そんな当たり前のことを経験してきたのだ。
 幻滅なんて、するはずもない。むしろ、悪いのは自分の方だ。
 彼の心から、目を背けてきたのだから。
「もっと知りたい」
 ぽつりと呟く。
 月は知らんぷりして清明に浮かんでいる。苛立ちを吹きかけても届くことはなく、煙はゆっくりと街の中へ落ちていった。

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