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「……謹んで、国王陛下のご沙汰を申し伝える。第一王子シグルド・フォン・バルトシュ。貴殿を、本日付をもって王位継承権第一位から除名し、王籍より剥奪する」
王宮の広間に、冷徹な宣告が響き渡りました。
かつて豪華な装飾に包まれていたシグルド様は、今や汚れきった平民の服を纏い、床に膝を突いています。
その左右には、一切の情けを排した表情の騎士たちが立ち並んでいました。
「そ、そんな……! 父上、冗談でしょう!? 俺はバルトシュ家の誇り、太陽の王子ですよ!? 排水溝掃除は終わりました! もう許してくださってもいいはずだ!」
「……やかましい。排水溝を掃除したのはお前の体であって、その腐りきった性根ではない。……シグルド、お前には辺境の地『デス・バレー』への赴任を命じる。任務は、魔物たちの糞尿の片付けと、地味な雑草抜きだ」
「デス・バレー!? あそこは一年中砂嵐が吹き荒れ、魔物が咆哮を上げる地獄ではありませんか! そんなところに、この繊細な俺が行けるわけがない!」
「繊細なのはお前のプライドだけだ。……安心しろ、一人ではない。……おい、連れてこい」
陛下の合図で、これまたボロボロの修道女服を着せられたララ様が引きずられてきました。
「ふえぇん、シグルド様ぁ! 私、修道院で一日十八時間の祈りと、雑巾掛けを命じられましたぁ! お肌がガサガサですぅ! もうヒロイン失格ですぅ!」
「ララ……! お前もか!」
「男爵令嬢ララ。お前には、シグルドの『監視役』兼『清掃助手』として同行を命じる。二人で仲良く、真実の愛(笑)をデス・バレーで育むがいい」
陛下の冷ややかなお言葉に、広間の貴族たちからクスクスと忍び笑いが漏れました。
「真実の愛(笑)」という言葉が、これほどまでに残酷な響きを持つとは思いませんでした。
「嫌ですぅ! 砂嵐なんて、私のおめめに入っちゃいますぅ! シグルド様、なんとかしてくださいぃ!」
「な、なんとかと言われても……。父上! せめて、せめてミューモを! ミューモを事務官として同行させてください! あいつがいれば、魔物の糞尿もエクセル……じゃなくて、完璧な表にまとめて管理してくれるはずです!」
未だに私を「便利な道具」として数えようとするシグルド様に、私は観葉植物の陰から深いため息をつきました。
「……シグルド様。往生際が悪すぎますわ」
私がスッと姿を現すと、シグルド様の瞳に希望の光(のような不気味な輝き)が宿りました。
「ミューモ! ああ、来てくれたのか! やはりお前は俺を見捨てないんだな! さあ、今すぐ陛下に『私がいなければこの王子は生きていけません』と泣きついてくれ!」
「お断りします。……それと、魔物の糞尿の管理なら、ララ様にやらせてあげてください。彼女、ドジっ子ですから、きっと肥溜めに落ちて現場の空気を和ませてくれますよ」
「ひどいですぅ! ミューモ様ぁ、そんなの、そんなの……とっても美味しそうですぅ!」
「……ララ様、今、なんておっしゃいました?」
「あ、間違えましたぁ! 『おぞましい』ですぅ! 頭が回らなくてぇ!」
極限状態のララ様は、語彙力まで自爆しているようです。
「……連れて行け。これ以上、我が国の知性を汚されては堪らん」
陛下の冷徹な一言で、シグルド様とララ様は騎士たちによって引きずられていきました。
「俺はいつか戻ってくるぞー!」「砂嵐は嫌ですぅー!」という叫び声が遠ざかっていくのを、私はただ無心で見送りました。
「……ふぅ。これで、本当の意味で終わったのかしら」
「いいや、ミューモ。……これは『始まり』だ」
背後から、当然のように私の腰を抱き寄せる腕がありました。
カイン閣下です。
彼は、去っていった二人の方を見ることさえせず、私の髪に顔を埋めて深く息を吐きました。
「……閣下。人前ですよ。陛下もいらっしゃいます」
「陛下なら、今、満足げにワインを飲んでおられる。……ミューモ、ついに障害はいなくなった。……さあ、結婚式の招待状のフォントを選ぼう。君の好きな『極めて地味で読みやすいやつ』を特注しておいた」
「……仕事が早すぎます。……あ、でも、デス・バレーの清掃状況、気になりますね。後で報告書が届くように手配していいですか?」
「……君は、あんな奴らのことまで管理したいのか? 嫉妬でデス・バレーを更地にしたくなるから、やめてくれ」
カイン閣下が、本気で拗ねたような顔をしました。
この人は、私の事務処理能力が「関心」から来ているのだと、まだ勘違いしているようです。
私は単に、数字の整合性が取れていないのが気持ち悪いだけなのですが。
「……ミューモ。君はもう、誰の背景でもない。……私の人生の、唯一無二の光なんだ。……デス・バレーなんて地獄の話は忘れて、今夜は何を食べたい?」
「……そうですね。今日は、最高に贅沢な……鯛茶漬けがいいです。カイン様が焼いた鯛を乗せてください」
「……っ! ……承知した。龍を狩ってでも、最高の鱗を用意しよう」
「鯛でいいです! 龍は食べられません!」
王子の没落。
それは、私にとっての「モブ生活の終わり」と、カイン閣下という「制御不能な激愛」との、本格的な共生生活の幕開けを意味していました。
明日からの私の日課は、魔物の糞尿管理ではなく、暴走する公爵様の寵愛管理になりそうです。
……それはそれで、魔物相手より難易度が高い気がするのは、気のせいでしょうか。
王宮の広間に、冷徹な宣告が響き渡りました。
かつて豪華な装飾に包まれていたシグルド様は、今や汚れきった平民の服を纏い、床に膝を突いています。
その左右には、一切の情けを排した表情の騎士たちが立ち並んでいました。
「そ、そんな……! 父上、冗談でしょう!? 俺はバルトシュ家の誇り、太陽の王子ですよ!? 排水溝掃除は終わりました! もう許してくださってもいいはずだ!」
「……やかましい。排水溝を掃除したのはお前の体であって、その腐りきった性根ではない。……シグルド、お前には辺境の地『デス・バレー』への赴任を命じる。任務は、魔物たちの糞尿の片付けと、地味な雑草抜きだ」
「デス・バレー!? あそこは一年中砂嵐が吹き荒れ、魔物が咆哮を上げる地獄ではありませんか! そんなところに、この繊細な俺が行けるわけがない!」
「繊細なのはお前のプライドだけだ。……安心しろ、一人ではない。……おい、連れてこい」
陛下の合図で、これまたボロボロの修道女服を着せられたララ様が引きずられてきました。
「ふえぇん、シグルド様ぁ! 私、修道院で一日十八時間の祈りと、雑巾掛けを命じられましたぁ! お肌がガサガサですぅ! もうヒロイン失格ですぅ!」
「ララ……! お前もか!」
「男爵令嬢ララ。お前には、シグルドの『監視役』兼『清掃助手』として同行を命じる。二人で仲良く、真実の愛(笑)をデス・バレーで育むがいい」
陛下の冷ややかなお言葉に、広間の貴族たちからクスクスと忍び笑いが漏れました。
「真実の愛(笑)」という言葉が、これほどまでに残酷な響きを持つとは思いませんでした。
「嫌ですぅ! 砂嵐なんて、私のおめめに入っちゃいますぅ! シグルド様、なんとかしてくださいぃ!」
「な、なんとかと言われても……。父上! せめて、せめてミューモを! ミューモを事務官として同行させてください! あいつがいれば、魔物の糞尿もエクセル……じゃなくて、完璧な表にまとめて管理してくれるはずです!」
未だに私を「便利な道具」として数えようとするシグルド様に、私は観葉植物の陰から深いため息をつきました。
「……シグルド様。往生際が悪すぎますわ」
私がスッと姿を現すと、シグルド様の瞳に希望の光(のような不気味な輝き)が宿りました。
「ミューモ! ああ、来てくれたのか! やはりお前は俺を見捨てないんだな! さあ、今すぐ陛下に『私がいなければこの王子は生きていけません』と泣きついてくれ!」
「お断りします。……それと、魔物の糞尿の管理なら、ララ様にやらせてあげてください。彼女、ドジっ子ですから、きっと肥溜めに落ちて現場の空気を和ませてくれますよ」
「ひどいですぅ! ミューモ様ぁ、そんなの、そんなの……とっても美味しそうですぅ!」
「……ララ様、今、なんておっしゃいました?」
「あ、間違えましたぁ! 『おぞましい』ですぅ! 頭が回らなくてぇ!」
極限状態のララ様は、語彙力まで自爆しているようです。
「……連れて行け。これ以上、我が国の知性を汚されては堪らん」
陛下の冷徹な一言で、シグルド様とララ様は騎士たちによって引きずられていきました。
「俺はいつか戻ってくるぞー!」「砂嵐は嫌ですぅー!」という叫び声が遠ざかっていくのを、私はただ無心で見送りました。
「……ふぅ。これで、本当の意味で終わったのかしら」
「いいや、ミューモ。……これは『始まり』だ」
背後から、当然のように私の腰を抱き寄せる腕がありました。
カイン閣下です。
彼は、去っていった二人の方を見ることさえせず、私の髪に顔を埋めて深く息を吐きました。
「……閣下。人前ですよ。陛下もいらっしゃいます」
「陛下なら、今、満足げにワインを飲んでおられる。……ミューモ、ついに障害はいなくなった。……さあ、結婚式の招待状のフォントを選ぼう。君の好きな『極めて地味で読みやすいやつ』を特注しておいた」
「……仕事が早すぎます。……あ、でも、デス・バレーの清掃状況、気になりますね。後で報告書が届くように手配していいですか?」
「……君は、あんな奴らのことまで管理したいのか? 嫉妬でデス・バレーを更地にしたくなるから、やめてくれ」
カイン閣下が、本気で拗ねたような顔をしました。
この人は、私の事務処理能力が「関心」から来ているのだと、まだ勘違いしているようです。
私は単に、数字の整合性が取れていないのが気持ち悪いだけなのですが。
「……ミューモ。君はもう、誰の背景でもない。……私の人生の、唯一無二の光なんだ。……デス・バレーなんて地獄の話は忘れて、今夜は何を食べたい?」
「……そうですね。今日は、最高に贅沢な……鯛茶漬けがいいです。カイン様が焼いた鯛を乗せてください」
「……っ! ……承知した。龍を狩ってでも、最高の鱗を用意しよう」
「鯛でいいです! 龍は食べられません!」
王子の没落。
それは、私にとっての「モブ生活の終わり」と、カイン閣下という「制御不能な激愛」との、本格的な共生生活の幕開けを意味していました。
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