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「……さて。これがお二人に関する、最終的な『減損処理報告書』ですわ」
王宮の特別審問室。ポルカは、鉄格子越しではなく、重厚なテーブルを挟んでシリウスとルルに向かい合っていた。
かつての第一王子と、その寵愛を受けた男爵令嬢。
今や二人の手元には、豪華な宝石もなければ、甘い言葉を囁く余裕もない。あるのは、ポルカが突きつけた冷酷なまでに正確な「数字」の羅列だけだ。
「ま、待ってくれポルカ! 私は……私は反省したんだ! モルガン伯爵に利用されていたことも分かった! だから、せめて……せめて爵位だけは残してくれないか!」
シリウスが、縋るような手つきでテーブルに身を乗り出す。
その視線は、ポルカの美しさではなく、彼女が持つ「特赦の推薦権」に向けられていた。
「シリウス様。案件番号28『元王族の再雇用における市場価値の査定』。……結果を申し上げます。貴方の現在のスキルセットで維持できる爵位は……ございませんわ。むしろ、貴方を貴族として維持するためのコストを計算したところ、国家予算に年間で金貨一万枚の『マイナス貢献』を出すことが判明いたしました」
「マ、マイナス一万枚……!?」
「ええ。貴方はただ存在するだけで、国民一人あたり銅貨三枚分の不利益を垂れ流す『歩く経済損失』です。……事務的に見て、このような資産を保持し続ける選択肢は、我が国の会計監査が許しません」
ポルカは、無慈悲にバツ印がつけられた書類をシリウスの目の前に置いた。
「ひどいですわ……ポルカ様。殿下をそんな風に言うなんて、血も涙もない悪役令嬢ですわ!」
隣でルルが、ボロボロになったハンカチで目元を拭いながら叫ぶ。
彼女はまだ、自分が「報われるヒロイン」であるという幻想を捨て切れていないようだった。
「あら、ルル様。貴女についても、もちろん計算は終わっておりますわよ。……貴女の『聖女のような振る舞い』が社会に与えた影響の推計値……。残念ながら、虚偽申告による司法コストの増大により、貴女の信用スコアは現在、王都のドブネズミ以下ですわ」
「ド、ドブネズミ……!?」
「ドブネズミは下水を掃除してくれますが、貴女は真実を汚すだけですもの。……というわけで、お二人には本日、こちらの『最終目的地(デスティネーション)契約書』にサインをいただきます」
ポルカが差し出したのは、二枚の羊皮紙だった。
シリウスには「北方の凍てつく鉱山での労働契約書」。
ルルには「最果ての断崖に立つ、沈黙の修道院への入所届」。
「嫌だ! 北方の鉱山なんて、指が凍りついてペンも持てなくなるじゃないか!」
「あら、ご安心ください。シリウス様にはペンではなく、こちらの『特製・重量計算用つるはし』を持っていただきますわ。一振りごとに、採掘した鉱石の重さを暗算で記録するお仕事です。貴方の苦手な算数の特訓になりますわね」
「ポルカ様ぁ! 沈黙の修道院なんて……! お喋りできないなんて、死ぬより辛いですわ!」
「ルル様。貴女の言葉は常に真実を歪めますから、しばらくの間、無言という名の『データの整合性保持』に努めていただくのが、世界の平和のためですわ」
二人が絶望に打ちひしがれる中、背後で控えていたカイルが、静かに一歩前へ出た。
「……さて。審問の時間は終了です。衛兵、彼らをそれぞれの『職場』へ案内しなさい。……ああ、シリウス君。君の『らぶらぶファンド』の残高は、全額没収の上、君が壊した堤防の再建費用に充てさせていただきましたよ。一円も残っていませんので、あしからず」
「……あああ……私の金が……私のらぶらぶがぁ……!」
シリウスとルルは、魂が抜けたような顔で、引きずられるように部屋を去っていった。
静かになった室内で、ポルカは大きく息をつき、眼鏡を外して目元を指で押さえた。
「……終わりましたわね。これで、この国に溜まっていた『不良在庫』はすべて片付きましたわ」
「お疲れ様です、ポルカ。……完璧な仕事ぶりでしたよ」
カイルが、自然な動作でポルカの肩に手を置き、その耳元で優しく囁いた。
「……ところで。在庫整理が終わったということは、次は『新規事業の立ち上げ』……つまり、我々の結婚生活のロードマップ作成に入ってもよろしいでしょうか?」
「カイル様。……その案件、既に私の頭の中で、今後五十年の『幸福度・キャッシュフロー予測』として計算済みですわ」
ポルカは、再び眼鏡をかけると、カイルを見上げて不敵に微笑んだ。
「……結果は、どうでしたか?」
「ええ。……非常に高い収益性と、予測不能なほどの『ときめき(非定量的利益)』が検出されました。……事務的に見て、これ以上の優良案件は他に存在しませんわ」
「……ふふ。なら、今すぐ契約の儀式を始めましょうか」
カイルがポルカを引き寄せ、二人の影が夕暮れの審問室に重なった。
一円の誤差も許さない監査官と、その彼女を誰よりも理解する有能な右腕。
彼らの未来の決算書は、きっと、どんな宝石よりも輝く「幸せ」という名の数字で埋め尽くされるに違いない。
王宮の特別審問室。ポルカは、鉄格子越しではなく、重厚なテーブルを挟んでシリウスとルルに向かい合っていた。
かつての第一王子と、その寵愛を受けた男爵令嬢。
今や二人の手元には、豪華な宝石もなければ、甘い言葉を囁く余裕もない。あるのは、ポルカが突きつけた冷酷なまでに正確な「数字」の羅列だけだ。
「ま、待ってくれポルカ! 私は……私は反省したんだ! モルガン伯爵に利用されていたことも分かった! だから、せめて……せめて爵位だけは残してくれないか!」
シリウスが、縋るような手つきでテーブルに身を乗り出す。
その視線は、ポルカの美しさではなく、彼女が持つ「特赦の推薦権」に向けられていた。
「シリウス様。案件番号28『元王族の再雇用における市場価値の査定』。……結果を申し上げます。貴方の現在のスキルセットで維持できる爵位は……ございませんわ。むしろ、貴方を貴族として維持するためのコストを計算したところ、国家予算に年間で金貨一万枚の『マイナス貢献』を出すことが判明いたしました」
「マ、マイナス一万枚……!?」
「ええ。貴方はただ存在するだけで、国民一人あたり銅貨三枚分の不利益を垂れ流す『歩く経済損失』です。……事務的に見て、このような資産を保持し続ける選択肢は、我が国の会計監査が許しません」
ポルカは、無慈悲にバツ印がつけられた書類をシリウスの目の前に置いた。
「ひどいですわ……ポルカ様。殿下をそんな風に言うなんて、血も涙もない悪役令嬢ですわ!」
隣でルルが、ボロボロになったハンカチで目元を拭いながら叫ぶ。
彼女はまだ、自分が「報われるヒロイン」であるという幻想を捨て切れていないようだった。
「あら、ルル様。貴女についても、もちろん計算は終わっておりますわよ。……貴女の『聖女のような振る舞い』が社会に与えた影響の推計値……。残念ながら、虚偽申告による司法コストの増大により、貴女の信用スコアは現在、王都のドブネズミ以下ですわ」
「ド、ドブネズミ……!?」
「ドブネズミは下水を掃除してくれますが、貴女は真実を汚すだけですもの。……というわけで、お二人には本日、こちらの『最終目的地(デスティネーション)契約書』にサインをいただきます」
ポルカが差し出したのは、二枚の羊皮紙だった。
シリウスには「北方の凍てつく鉱山での労働契約書」。
ルルには「最果ての断崖に立つ、沈黙の修道院への入所届」。
「嫌だ! 北方の鉱山なんて、指が凍りついてペンも持てなくなるじゃないか!」
「あら、ご安心ください。シリウス様にはペンではなく、こちらの『特製・重量計算用つるはし』を持っていただきますわ。一振りごとに、採掘した鉱石の重さを暗算で記録するお仕事です。貴方の苦手な算数の特訓になりますわね」
「ポルカ様ぁ! 沈黙の修道院なんて……! お喋りできないなんて、死ぬより辛いですわ!」
「ルル様。貴女の言葉は常に真実を歪めますから、しばらくの間、無言という名の『データの整合性保持』に努めていただくのが、世界の平和のためですわ」
二人が絶望に打ちひしがれる中、背後で控えていたカイルが、静かに一歩前へ出た。
「……さて。審問の時間は終了です。衛兵、彼らをそれぞれの『職場』へ案内しなさい。……ああ、シリウス君。君の『らぶらぶファンド』の残高は、全額没収の上、君が壊した堤防の再建費用に充てさせていただきましたよ。一円も残っていませんので、あしからず」
「……あああ……私の金が……私のらぶらぶがぁ……!」
シリウスとルルは、魂が抜けたような顔で、引きずられるように部屋を去っていった。
静かになった室内で、ポルカは大きく息をつき、眼鏡を外して目元を指で押さえた。
「……終わりましたわね。これで、この国に溜まっていた『不良在庫』はすべて片付きましたわ」
「お疲れ様です、ポルカ。……完璧な仕事ぶりでしたよ」
カイルが、自然な動作でポルカの肩に手を置き、その耳元で優しく囁いた。
「……ところで。在庫整理が終わったということは、次は『新規事業の立ち上げ』……つまり、我々の結婚生活のロードマップ作成に入ってもよろしいでしょうか?」
「カイル様。……その案件、既に私の頭の中で、今後五十年の『幸福度・キャッシュフロー予測』として計算済みですわ」
ポルカは、再び眼鏡をかけると、カイルを見上げて不敵に微笑んだ。
「……結果は、どうでしたか?」
「ええ。……非常に高い収益性と、予測不能なほどの『ときめき(非定量的利益)』が検出されました。……事務的に見て、これ以上の優良案件は他に存在しませんわ」
「……ふふ。なら、今すぐ契約の儀式を始めましょうか」
カイルがポルカを引き寄せ、二人の影が夕暮れの審問室に重なった。
一円の誤差も許さない監査官と、その彼女を誰よりも理解する有能な右腕。
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