異世界転移した俺は大賢者様に食われる運命らしい

蓮見

文字の大きさ
24 / 28

24.偽らざる想い*

しおりを挟む
 もしかして睡眠をちゃんととれていないのでは、と気付いたのは、それから数日後だった。

 家事をこなしたり薪を集めたりご近所の手伝いをしたりと昼間によく動いているせいか、夜はすぐ頭がふわふわとなり気持ちよく眠りに落ちているのに、どうにもすっきりしない。

 目覚めてすぐは眼前のイケメンに心拍数を上げてしまうのだが、ひとりになって落ち着くと、就寝中に何度か目覚めたような、眠りが足りていないような、疲労感を伴う違和感がある。

 けれど、夜中に俺に何かあったら、ヴィルヘルムが気付かないわけがない。

 まだ魔力の何かが不調なのかもしれない、と結論付けて、俺は洗濯をしようとドアを開けた。 

「あれっアンリくん、大丈夫ですか?」
「おはようございます、司祭さん」

 桶を手に外に出たところで、村の祭事を司っている男性に会った。持ち物から、買い出し帰りのようだ。
 反射的に笑顔で挨拶をしてから、首を傾げる。

 大丈夫、とは。

「……なんか、変ですか。俺」
「はい、変ですよ」

 即答。

「アンリくん、塔にいたんですよね。あなたの魔力の、自分で気付かないですか?」
「俺、魔法のこと習ってないんです」

 せっかく、リコが教えてくれようとしてくれてたのにな、と思い出す。

「学ぶ機会はあったんですけど、ヴィルが止めて」
「あ、それ、伴侶の判断なんですか。いや、でも……」

 変わった趣味だなあ、と呟くのを、俺は聞き逃さなかった。

「すみません、教えてください。俺、なんか調子がおかしいなって思ってて……」

 司祭は顎に手をやり、うーん、とうなった。

「個人の嗜好の話なので、他人が口を出すべきではありませんが――……」



「セックスは普通にしたほうがいいですよ、って、言われた……!」

 羞恥に耐えきれずテーブルに突っ伏した俺に、ヴィルヘルムは天井を仰いだようだった。

「司祭……確かに彼は魔力が高いようだったな」

 か。そうひとりごちて、ヴィルヘルムがダイニングテーブルから離れる気配がする。俺が赤い顔を上げると、キッチンの棚の最上段に手を伸ばしているところだった。俺が届かないので何も置かれていないはずのスペースだ。
 そこで何かを手にしたヴィルヘルムは、俺の傍らでおもむろに膝を折った。

「君に、謝罪と提案がある」

 真摯に見上げてくる瞳に、涙目の俺の心がぐらつく。かっこいい。

「君への治療を、独断で無許可のまま行っていた。すまない」

「治療、って……」

 ヴィルヘルムは少しだけ、言葉を選ぶように瞳を揺らした。

「行われた事実だけを言えば、君の性欲処理だ」

「せ……! え、は? なん……!?」

 動揺する俺の前に差し出された手には、白い錠剤が入った小瓶があった。

「夕食後の紅茶に、感覚を麻痺させ酩酊状態になる薬剤を入れていた。そうして君が眠っている間に、少量ずつ魔力を吸い出している」

 確かに、食後の紅茶はヴィルヘルムの担当だ。
 毎晩、頭がふわふわしてたのはそれか……。

「なんで、そんなこと……」

 床にひざまずくヴィルヘルムに、とりあえず立ち上がってもらう。説明を求められた騎士は、ひとつ息をついてから口を開いた。

「塔で日常的に魔力を搾取されていた君は、その繰り返しにより体内に留め置く魔力量が膨れ上がっていた。魔力相性がまるで合わなかったため次席に奪われることはなかったが、あの時に、魔力が流れるための君の身体の経路は損傷を受けた。それ以降、うまく回らない君の魔力は身体に溜まり続け、結果、ひどくこごってしまったんだ」

 その状態の魔力を放置することは、下手をすれば命に関わるらしい。

「……それは、確かに……」

 治療だ。
 たとえその手段が性欲処理になってしまったとしても、純然たる人命救助だ。

 助けてくれてありがとう、と、俺は頭を下げる。が。
 こわくて、下げた頭を戻せない。

「ヴィルは、俺に……」

 何をしたというのだろう。

 ヴィルヘルムは、少し黙った。

「……言葉で説明して誤解を与えるのは本意ではない。君の身体のためにも続けるべき処置だ。できれば理解と許可がほしい。そのためにも、実際にやって見せてもいいだろうか」
「えっ……うん」

 静かな声の中に焦りを感じて、俺は顔を上げる。ヴィルヘルムはどこまでも真剣な目をしていた。
 それが余計に、俺のいまの状態はそれなりに良くないのだろうな、と思わせた。

「じゃあ、お願いします……」

 といっても、俺とヴィルヘルムはこれまで性的な接触をしたことは一切ない。夢の中ではそれはもう大変なことになっていたが、あくまで現実のヴィルヘルムとは、護衛対象と護衛騎士の関係でしかなかった。

 その状態で、いったい何をされるのか。

 ごくりと唾を飲み込んだ俺に、ヴィルヘルムの腕が伸びる。そのまま、長い指が俺のシャツのボタンをひとつずつ外していく。

「え、わ……」

 椅子に座ったまま、思わず後ずさりそうになるのを我慢する。だってこれは治療だ。
 俺の胸をはだけさせると、ヴィルヘルムの手は俺の肌を這う。

「……っ」

 首、鎖骨、胸を、ゆるゆるとなでていく大きな手のひら。その動きにいちいち反応してしまう自分が恥ずかしい。

「感じてくれていい。それが目的だ」

 俺に覆いかぶさるように屈むヴィルヘルムの低い声が、耳をくすぐる。

「や……ぅんんッ!」

 べろり、と首筋を舐められて、高い声が出た。

 な、舐められただけなのにこんな……。

 俺はもうすっかり涙目で、呼吸は浅く、顔が熱くて仕方ない。

 何の薬も盛られていないのに……!

「大丈夫だ。怖くはない。力を抜いて」

 ヴィルヘルムが唇を這わせた場所から、魔力が流れていくのを感じる。

 怖いんじゃない。

「あ、あ……んっ」

 信じられないくらい気持ちがいい。

 びくびくと震える身体はどんどん昂っていく。ヴィルヘルムがくれる刺激すべてに翻弄されていた。
 痛いくらい張りつめている半身に気付かれていないとは、とても思えない。

 恥ずかしい……!
 こんな、こんな……っ――

「そのまま、君を喰わせてくれ。アンリ」

「――――ッ!」

 名を呼ばれて、俺は達した。


 
「こうして少しずつ吸い出した。どうしても性感が伴ってしまうのと、魔法生物に害されたことを思い出す可能性があったのとで、君に記憶が残らないほうが良いと判断した」

「あ、りがとう、ございます……」

 椅子にすがりつき荒い息を繰り返す俺に、ヴィルヘルムは一連の説明を終えたようだ。
 大賢者との夜の記憶を残さないことを選んだ俺だ。そう判断されるのも仕方ないことだろう。
 俺にストレスを与えないように大事に大事に扱われた結果がこれなのだ。

「……あのさ、ヴィル」
「ん? そうだな、湯を使おうか」

「いやあの……いままでも俺、こんなふうに出して……?」
 まさか毎晩ヴィルヘルムに始末をさせていたのだろうか、と青くなる俺。

「いいや。射精は身体に負担だろうと、至らない程度にしていたんだ。そのため処置が足らずに魔力の不自然さを勘付かれてしまったわけだが」

 手心を加えすぎたか、とヴィルヘルムが首をひねる。
 俺は、あっと声を上げた。

「もしかして俺たち、司祭さんに、おかしな焦らしプレイしてるって思われてるのか……?」

「そうなるな」

 ひどい。あんまりだ。

 うなだれる俺の頭を、ヴィルヘルムはぽんぽんと叩いた。

「いまのように上手に吐き出してくれるのならば、これからは問題ないだろう」

 まるでなにかのトレーニングの話をしているかのように、ヴィルヘルムの声は涼やかだ。頭も身体もみっともなくぐちゃぐちゃになっている俺は、余計にみじめになる。

「つらい……」

 ヴィルヘルムはそんな俺を見下ろして、首を傾げていた。




 その夜、久しぶりの夢を見た。

 場所は大賢者のあの部屋ではなかったけど、俺もヴィルヘルムも裸だったので、これはいつもの夢だ。
 塔を出ても、大賢者としなくても見れるのか、と感動した俺は、確かめるように目の前の身体に抱きついた。

「アンリ」

 その逞しい腕で俺を包んで、嬉しそうにキスをくれるヴィルヘルム。髪に、額に、瞼に、そして唇に。
 確定だ。これはいかがわしい夢。

「ん……」

 熱い舌を口内に迎えていっぱいに甘やかしてもらうと、頭がどんどんふわふわしてくる。俺も積極的に舌を絡めた。

「今宵の君はいつにも増して愛らしいな」

 微笑むヴィルヘルムにすり寄って、その熱にしがみつく。
 夢でくらい甘えても、伝えてもいいだろうか。

「ヴィル、俺、ヴィルのことがすごく好きなんだ」

「ああ、私もだ。アンリ」

 なんて、都合のいい夢。
 想い人をどれだけ求めても、ここでだけは許されるんだ。


「――あ、あ、ん、ッあ……」

 剛直が抜き差しされるたびに、ぐずぐずになった後孔からヴィルヘルムの精液が溢れる。以前は恥ずかしくてたまらなかったその感覚も、もはや愛おしくてたまらない。

「もっ、と、たくさん……」

 抽挿に合わせるようにきゅっきゅっとナカを締めると、ヴィルヘルムが甘い息を漏らす。

「ん……ッ」

 その色気だけで俺はイってしまいそうになって、笑う。

「おれ……っそ、の、ヴィルの声、も、好き」

 鍛えられた身体の上で跳ねる俺に、ヴィルヘルムは目を細める。

「な……いっぱい、くれ、よ」

 汗みずくで笑う俺の唇は、すぐに塞がれた。
 背中には、冷えたシーツの感触。

 そして俺の腰に、熱い手のひらが食い込んだ。

「君はいつも、加減などさせてくれないものな」

 目の前の碧が、獰猛に笑った。



 翌朝、俺はヴィルヘルムの胸にしっかりと固定された状態で目を覚ました。

 いつからこんながちがちに抱きしめられていたのだろう。身動ぐと関節や諸々が痛い。うぐぐ、と力を込めて逃れようとしたら、柔らかな笑い声が降りてきた。

「おはよう、アンリ」

 その笑顔を直視するには少し照れくさくて、俺はどうしても赤面してしまう。

「おはよう、ヴィル」


 自分勝手なストレス解消をしたお陰で頭はとてもすっきりしていたけれど、騎士の腕から解放されてからもしばらく俺の全身は痺れたように鈍かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした

444
BL
『醜い顔…汚らしい』 幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。 だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。 その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話 暴力表現があるところには※をつけております

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

過去のやらかしと野営飯

琉斗六
BL
◎あらすじ かつて「指導官ランスロット」は、冒険者見習いだった少年に言った。 「一級になったら、また一緒に冒険しような」 ──その約束を、九年後に本当に果たしに来るやつがいるとは思わなかった。 美形・高スペック・最強格の一級冒険者ユーリイは、かつて教えを受けたランスに執着し、今や完全に「推しのために人生を捧げるモード」突入済み。 それなのに、肝心のランスは四十目前のとほほおっさん。 昔より体力も腰もガタガタで、今は新人指導や野営飯を作る生活に満足していたのに──。 「討伐依頼? サポート指名? 俺、三級なんだが??」 寝床、飯、パンツ、ついでに心まで脱がされる、 執着わんこ攻め × おっさん受けの野営BLファンタジー! ◎その他 この物語は、複数のサイトに投稿されています。

カワウソの僕、異世界を無双する

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
本編完結いたしました♡コツメたん!無双おめでとう㊗️引き続きの番外編も完結しました💕 いつも読んでいただきありがとうございます♡ ほのぼのとワクワク、そしてコツメたんの無双ぶりを楽しんで下さい! お気に入り1200越えました(new)❣️コツメたんの虜になった方がこんなにも!ʕ•ᴥ•ʔキュー♡ ★★★カワウソでもあり、人間でもある『僕』が飼い主を踏み台に、いえ、可愛がられながら、この異世界を無双していく物語。 カワウソは可愛いけどね、自分がそうなるとか思わないでしょ。気づいたらコツメカワウソとして水辺で生きていた僕が、ある日捕まってしまった。僕はチャームポイントの小さなお手てとぽっこりお腹を見せつけながら、この状況を乗り越える!僕は可愛い飼い主のお兄さん気分で、気ままな生活を満喫するつもりだよ?ドキドキワクワクの毎日の始まり! BLランキング最高位16位♡ なろうムーンで日間連載中BLランキング2位♡週間連載中BLランキング5位♡ イラスト*榮木キサ様

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...