鬼の騎士団長が淫紋をつけられて発情しまくりで困っているようなので、僕でよければ助けてあげますね?

狩野

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遭遇の経緯(2)

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 言われたカルナスは、シルヴァリエの横をすり抜けながら「後悔するなよ」と小声で言った。


 もちろん、シルヴァリエは直後から後悔することになった。

 剣や槍の素振り、あるいは走り込みなどは、ほうほうのていながらもどうにかこなした。

 しかしその後の模擬剣模擬槍を使った乱取り稽古では、カルナスがじきじきに相手を務めることになり、カルナスはその場から一切動かず、しかも右手しか使わない、というハンデまでつけられたにも関わらず、シルヴァリエは無残にボコボコにされ、しまいに気絶。

 カルナスは周囲に命じてバケツに水を汲んでこさせると、その水をシルヴァリエの顔にぶっかけて叩き起こし、「準備運動にもならん」と、吐き捨てた。

「お気になさらないでください、シルヴァリエ様。カルナス団長はいつも、誰にでもああなんですよ。まったく、大アンドリアーノの未来を背負うかたをこのような目に遭わせるとは、彼には大局観というものが欠けている。いかに強くても、騎士団を率いる長としては少々適性に欠けていると言わざるを得ませんね」

 カルナスに命じられシルヴァリエを医務室まで連れてきた騎士たちが、打たれて赤くなっているシルヴァリエの上半身の各所に傷薬を塗りながら、そう言った。

「史上最年少の騎士団長といえば聞こえはいいが、前騎士団長のえこひいきがなければ、騎士団長になんて到底なれるような器量の人じゃないんですよ。えこひいきがね……」

 騎士は、いかにも思わせぶりに、えこひいき、と何度も繰り返した。

「……お前は?」

 シルヴァリエが尋ねると、シルヴァリエよりも十は年上だろうと思われる騎士はいかにもうやうやしい礼をとり答えた。

「第三小隊の隊長を務めております、モーラン・ザハスと申します。アンドリアーノ公爵家にはひとかたならぬお世話になったと以前より祖父から聞き及んでおりまして。シルヴァリエ様が騎士団の副団長に就任されるとの話を耳にし、恩を返す良い機会であるからシルヴァリエ様にはよく仕えるように、と、祖父からも父からも厳しく申しつかっております」
「ザハス家……? 知らないな」
「ええ、ええ。大アンドリアーノからしたらザハスなど吹けば飛ぶような存在でしょうから。ですが、これを機会に是非、このモーラン・ザハスのことだけでもお見知り置きいただければ」
「ふっ……わかった、覚えておくよ」

 宮廷では聞き慣れた阿諛追従を耳にしながら、シルヴァリエは自分の中に生まれたカルナスへの対抗心が急速にしぼんで行くのを感じていた。


 ――所詮はここも、宮廷の延長線上にある、ということだ。


 結局、シルヴァリエが訓練場に姿を現したのはその日だけとなった。その後は周囲が訓練中であろうがなんであろうが、騎士団の宿舎を正門から堂々と出入りしては、入団前と同じように宮廷に入り浸るだけ。形だけとはいえ騎士団の鎧姿のシルヴァリエのいつもと違う姿に周囲はますます色めき立ち、シルヴァリエもまた騎士団のなかでのありもしない苦労話などして有閑貴族たちを沸かせたりした。

 とはいえ騎士団の寄宿舎は王城の一角にあるため、さすがに王城から勝手に出て行くことはできない。アンドリアーノ家での何不自由ない生活を思いながら、宮廷の女を騎士団の宿舎にこっそり引き入れ逢瀬を楽しむのもいつもと気分が変わって悪いものではない、と思うのがせいぜいの慰めだった。

 いっぽう、シルヴァリエがそうしていることをカルナスが知らないはずはなかったが、カルナスはもはや何も言ってこない。宿舎のなかで時折すれ違うことがあっても、シルヴァリエのことを一瞥すらしない。シルヴァリエもカルナスのことはもはや存在しないものとして考えることにしていた。


 カルナスが、王都の近隣の村で出た魔物の調査と討伐のため数名の部下だけ連れて出兵することになった、というのも――なにかと騎士団内のことをシルヴァリエに報告したがるモーランがいなければ知らないまま過ごしていたかもしれない。


 その、カルナス率いる魔物討伐隊がいつ出発していつ帰ってきたのかも知らずにいたある日。

 朝というには少し遅い時間に、シルヴァリエは宿舎の部屋扉をノックする音で起こされた。
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