地味でさえない会社の先輩にうっかりはまってしまった話

狩野

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屈辱

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 とはいえ油断は禁物だ。

 外出を控えるよう呼びかけられている昨今、つまりは先輩も相手に飢えているのに違いない。冷静になれば、やはり僕のことは守備範囲外だと急に冷たい態度をとってくる可能性はある。

 そうはさせない。

 先輩とのプレイには、あくまで飲み会という名目をつけることにし、先輩の変態趣味にあわせ、さまざまなアダルトグッズを用意した。

 案の定、先輩は乗ってきた。

 幸い時間はある。ゆっくりじっくり調教して、僕に命じられれば犬にだって尻を振るような淫乱に仕立て上げてから僕の前に跪かせ、どうか犯してください、と懇願させてやる。

 リモート越しに見る限り、アナルは綺麗な状態であまり遊んでいるようには見えなかった。思えば一度指を入れた時もなかなかきつかったし、意外と経験は少ないのだろうか。経験がないあまり妄想をこじらせて変態化したタイプかな。経験がないから、僕のを入れるのが怖くて逃げたのかもしれない。うん、十分ありえる。

 いつの間にかそんなことをもやもやと考えてほくそ笑み、いわゆる処女厨的な発想をしている自分にうんざりしたこともある。しかし、大きめのバイブを入れるよう命じると、大きい、怖い、痛い、を連呼する先輩を見ていると、あながち妄想だけでもないような気もしてきた。

 毎週末のリモート越しの調教は数ヶ月に及び、僕は、もう大丈夫だ、と確信を抱くようになった。ちょうど会社がオフィスの移転を考えているとのことで荷物整理のために出社を要請され、先輩はわざわざ他に出社する人の少ない日で申告し、リモート越しに僕にちらりと目配せしてきた。なるほど。この日に会おうってことか。とはいえ先輩のさまざまな態度について多少疑心暗鬼になっていた僕は、出社日直前の週末に、先輩がお気に入りのアダルトグッズを会社に持ってくるよう命じた。これで従わなければ僕の勘違いということになるが、先輩は素直に従った。

 間違いない。

 久しぶりに会う先輩は、リモート越しに見るよりも可愛く見えた。パソコン越しの通話で聞こえる声は本人の声に似せた合成音声だと菊が、直接会話した時の先輩の声はリモートの時にはない微妙な震えがあってリモートのそれよりはるかに心地よい。生の喘ぎ声を聞くのが楽しみだ。

 しかし、持って来させたアダルトグッズについて話を振ると、先輩は知らないふりをしてトイレに逃げてしまった。先輩がチラチラ見ていたカバンの中身を確認すると、命じた通り、ちゃんと入っている。そういうプレイをお望みなのか、やっぱり腰が引けたのか。ともあれ僕はそれを持ってトイレに行くと、そこで待ち受けていた先輩を襲い、衝動的にキスをした。同じ粘膜だからか、セックスの相性がいい相手はキスの相性もいいというのが僕の経験則で、そして先輩とのキスは思っていたよりも良かった。

 絶対に逃がすものか。

 僕の手の内にいるうちは可愛いのだが、少しでも先輩を冷静にさせると面倒なことを言い始めるということは、よくわかった。いやというほどに。すぐにどこかへ連れ込みたい気分だったが、いちおうは仕事がある。片時も傍から放さず最低限の業務を終え、どうしても離れなければならないときには、アダルトグッズが与える快楽で考える余裕を無くさせた。

 念のため車で来て正解だった。僕とのプライベート空間に隔離されれば、往生際の悪い先輩もさすがに諦めるだろう。快楽によろめく先輩を支えながら駐車場へ案内していると、運悪く他の社員と遭遇した。先輩が僕からさっと距離をとる。やはり周囲には断固としてゲイであることを隠しておきたいタイプのようだ。それは僕も同じで、そこからは見られても疑われないよう、少し距離をとって歩くことにした。先輩はふらふらと僕の誘導に従ったが、しかし僕は悪い予感がじわじわとつのりはじめた。

 予感は的中し、先輩がやっぱりいやだとか言い始めた。距離をとったのがまずかったか。しかし、僕を焦らすのもいい加減にしてほしい。僕は先輩を強引に車内へ連れ込み、服を脱がせた。ここまでくればこちらのものだ。快楽漬けにして、僕を拒否することなど金輪際考えられないようにしてやろう。先輩の体はあっさり陥落し、またひいひいとよがり始めた。これでいい、いつも通りの、可愛い先輩に戻った。そう思ったのだが、しかし、今度ばかりは様子が違った。快楽を与えても、与えても、下半身をびくびくさせながら、僕を拒否してくる。

 彼女が欲しいそうだ。

 それは、どういう意味ですか、と訊きたかったが、訊けなかった。

 僕が好みじゃないってこと?

 そもそも先輩はゲイではなかった?

 どちらにしても、僕は失敗したようだ。先輩はすでにその気じゃないのに、僕だけ鼻息を荒くしている。

 せめてものプライドとして、僕はそのまま先輩を家まで送った。途中、進路変更してどこか山奥に連れ込んみ、めちゃくちゃに犯して捨ててきてやりたい衝動にかられたが、こらえた。レイプ犯に身を落とすのが嫌だったというより、そこまでやっても、先輩が僕のものにならない可能性に怯えていたからだ。散々に犯した翌朝、まるで何ごともなかったかのようにリモート越しに挨拶されたら? 僕が先輩にとってその程度の存在であると思い知らされることに、耐えられる気がしなかった。

 ならば、せめて、分をわきまえたいい後輩でいたい。そこのポジションに戻ろう、と思った。先輩は別れ際、ありがとう、とお礼なんか言って来た。僕は、どういたしまして、と返すしかなかった。
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