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準備
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ほとんど脅迫されているような状態で、後輩の斉藤のLINEのアドレスへフレンド申請を送ると、その晩斉藤はまるでなにごともなかったかのように連絡して来た。
仕事関係の軽い確認事項をやりとりしていると話題はいつの間にか最近の世間や会社のできごとなんかにうつり、言葉尻を捉えたちょっとした冗談なんかを交わしつつ面白スタンプを打ち合ったりしているうち、気がつけばその日のうちに、今週末にはふたりでリモートで飲み会をしようという話が決定していた。
そんなつもりはまったくなかったのに。
なるほど、斉藤はこうやって新しい案件を取り付けてくるのか。あの甘いマスクと低音爽やかボイスなしでも、話運びのうまさというだけでも十分以上に優秀な営業なんだな、と。実家で飼っているという大小三匹の犬に囲まれている斉藤のアイコンを見ながら、俺は心底感心した。
正直、連絡した時には、少し怯えてすらいたのに。
脅迫といっても、思えば、リモート会議中に俺がうっかり着替えている最中の姿を斉藤が保存していて、皆に見せていいか、と訊かれたというだけのことだ。斉藤からしたら、俺が会議中にいきなり着替え始めたというのが面白かったから会社の皆にちょっと言ってみたかっただけなのかもしれなくて。それを俺が大げさに受け取ってしまっただけなのかもしれない。もし斉藤が本当に俺を脅迫する気だったのなら、その会議中に俺が下半身を露出した時のキャプチャを送ってくるだろうし。それをしなかったということは、あれは悪意のない冗談だったのだ。うん、そうだ。そうに違いない。
まあ、なぜLINEの連絡先を知りたがったのかはわからないが。以前に比べてあまりに人と会うことが少ない生活に、斉藤も飽き飽きしていたのだろう。それは俺も同じだから、わからないでもない。
しかし俺は、思えばなぜあんなことをやってしまったのだろう。斉藤と話をしているうちに、妙な気分になって、仕事中に勃起してしまった。それだけに飽き足らず、それをカメラに映してしまうなんて。斉藤がそう言ったからという理由はあるが、多分あれも冗談だったのに。真に受けた俺がおかしい。リモート会議中に俺が生のチンコを斉藤に見せつけた、ということを斉藤が会社に訴えていたら、クビになっていたことは間違いない。先輩である俺のアホな行動をスルーしてくれた斉藤に心底感謝だ。
そんなことを考えながらも、週末日の業務を終えてパソコンを切った俺は、斉藤との飲み会の約束の時間までに、自分で一発抜いておくことにした。
リモート会議でのあれは、欲求不満がたまっていたのよくなかったのだ。以前痴漢に遭ってあやうくケツまでやられそうになったのも――その相手が斉藤だったのも、思えばちょっとばかりムラムラした気分だったことが原因だろう。スッキリしておけば大丈夫。そう考えてのことだ。
抜くのは一発だけのつもりだったのだが、結局三発抜いた。俺も意外にまだ若い、と自分で自分に驚いた。とはいえさほど積極的な三発ではなかったが。一発目のオカズに選んだのが最近お気に入りのAV女優の最新作だったのだが、お相手の男優がオッサンではなくなかなかのイケメンで、クライマックスでの腰使いに「斉藤もこんなふうにするのかな」と思った瞬間にイってしまったことが屈辱で再戦。二発目のオカズはプライベートのPCにしこたまコレクションしているエロ画像フォルダから選ぶことにしたのだが、「着衣エロ」というカテゴリをスライドショーで見ていたら、薄暗がりで四つん這いになって下に指を入れられている画像に「俺もこんな状態だったのかな」と思った直後にイってしまったことで微妙な気分になり再々戦。約束の時間が迫っていることに慌て、三戦目は汗をかいた体をシャワーで流しつつ、シャワーの水流と自分の右手の動きという物理的な力だけで、心を無にして発射して終了。
スッキリはしたものの、クタクタだ。少し横になりたい気分だったが、約束の時間のきっかり五分前に、斉藤から「そろそろはじめますか?」というメッセージが来て、俺は冷蔵庫から、買い置きのストロング酎ハイとビーフジャーキー、それにツマミ兼夕食として昼飯の買い出しの時に一緒に用意しておいた炊き込みご飯のおにぎりセットを取り出すと、斉藤に了解の旨のスタンプを送る。そのままビデオ通話をかけようと思ったが、斉藤からの着信のほうが一瞬早かった。
「よっ」
「こんばんは」
スマホの画面で見る斉藤は、仕事の時のミーティングと同じ部屋で、同じ服装をしているのに、なんだか雰囲気が違って見える。
「先輩、もしかしてお風呂入ってました?」
「シャワー浴びてた」
「髪が濡れてる感じが」
「あーそういや乾かしてないか。さっき出たばっかりで時間がなかったからなぁ」
「ふぅん」
斉藤の、ふぅん、に、俺は妙にドキッとした。思えばリモート会議の時にも、こんな感じの会話がきっかけでおかしくなった気がする。しかし今日は大丈夫。なんといってもこちらは、年甲斐もなく三発も抜いたばかりのスーパー賢者タイムなのだ。
「さ、それはともかく始めよーぜ。今週も一週間お仕事お疲れ様でしたーっと。カンパーイ!」
「乾杯……あれ?」
スマホの向こうで背の高いグラスを掲げていた斉藤が、首を傾げた。
仕事関係の軽い確認事項をやりとりしていると話題はいつの間にか最近の世間や会社のできごとなんかにうつり、言葉尻を捉えたちょっとした冗談なんかを交わしつつ面白スタンプを打ち合ったりしているうち、気がつけばその日のうちに、今週末にはふたりでリモートで飲み会をしようという話が決定していた。
そんなつもりはまったくなかったのに。
なるほど、斉藤はこうやって新しい案件を取り付けてくるのか。あの甘いマスクと低音爽やかボイスなしでも、話運びのうまさというだけでも十分以上に優秀な営業なんだな、と。実家で飼っているという大小三匹の犬に囲まれている斉藤のアイコンを見ながら、俺は心底感心した。
正直、連絡した時には、少し怯えてすらいたのに。
脅迫といっても、思えば、リモート会議中に俺がうっかり着替えている最中の姿を斉藤が保存していて、皆に見せていいか、と訊かれたというだけのことだ。斉藤からしたら、俺が会議中にいきなり着替え始めたというのが面白かったから会社の皆にちょっと言ってみたかっただけなのかもしれなくて。それを俺が大げさに受け取ってしまっただけなのかもしれない。もし斉藤が本当に俺を脅迫する気だったのなら、その会議中に俺が下半身を露出した時のキャプチャを送ってくるだろうし。それをしなかったということは、あれは悪意のない冗談だったのだ。うん、そうだ。そうに違いない。
まあ、なぜLINEの連絡先を知りたがったのかはわからないが。以前に比べてあまりに人と会うことが少ない生活に、斉藤も飽き飽きしていたのだろう。それは俺も同じだから、わからないでもない。
しかし俺は、思えばなぜあんなことをやってしまったのだろう。斉藤と話をしているうちに、妙な気分になって、仕事中に勃起してしまった。それだけに飽き足らず、それをカメラに映してしまうなんて。斉藤がそう言ったからという理由はあるが、多分あれも冗談だったのに。真に受けた俺がおかしい。リモート会議中に俺が生のチンコを斉藤に見せつけた、ということを斉藤が会社に訴えていたら、クビになっていたことは間違いない。先輩である俺のアホな行動をスルーしてくれた斉藤に心底感謝だ。
そんなことを考えながらも、週末日の業務を終えてパソコンを切った俺は、斉藤との飲み会の約束の時間までに、自分で一発抜いておくことにした。
リモート会議でのあれは、欲求不満がたまっていたのよくなかったのだ。以前痴漢に遭ってあやうくケツまでやられそうになったのも――その相手が斉藤だったのも、思えばちょっとばかりムラムラした気分だったことが原因だろう。スッキリしておけば大丈夫。そう考えてのことだ。
抜くのは一発だけのつもりだったのだが、結局三発抜いた。俺も意外にまだ若い、と自分で自分に驚いた。とはいえさほど積極的な三発ではなかったが。一発目のオカズに選んだのが最近お気に入りのAV女優の最新作だったのだが、お相手の男優がオッサンではなくなかなかのイケメンで、クライマックスでの腰使いに「斉藤もこんなふうにするのかな」と思った瞬間にイってしまったことが屈辱で再戦。二発目のオカズはプライベートのPCにしこたまコレクションしているエロ画像フォルダから選ぶことにしたのだが、「着衣エロ」というカテゴリをスライドショーで見ていたら、薄暗がりで四つん這いになって下に指を入れられている画像に「俺もこんな状態だったのかな」と思った直後にイってしまったことで微妙な気分になり再々戦。約束の時間が迫っていることに慌て、三戦目は汗をかいた体をシャワーで流しつつ、シャワーの水流と自分の右手の動きという物理的な力だけで、心を無にして発射して終了。
スッキリはしたものの、クタクタだ。少し横になりたい気分だったが、約束の時間のきっかり五分前に、斉藤から「そろそろはじめますか?」というメッセージが来て、俺は冷蔵庫から、買い置きのストロング酎ハイとビーフジャーキー、それにツマミ兼夕食として昼飯の買い出しの時に一緒に用意しておいた炊き込みご飯のおにぎりセットを取り出すと、斉藤に了解の旨のスタンプを送る。そのままビデオ通話をかけようと思ったが、斉藤からの着信のほうが一瞬早かった。
「よっ」
「こんばんは」
スマホの画面で見る斉藤は、仕事の時のミーティングと同じ部屋で、同じ服装をしているのに、なんだか雰囲気が違って見える。
「先輩、もしかしてお風呂入ってました?」
「シャワー浴びてた」
「髪が濡れてる感じが」
「あーそういや乾かしてないか。さっき出たばっかりで時間がなかったからなぁ」
「ふぅん」
斉藤の、ふぅん、に、俺は妙にドキッとした。思えばリモート会議の時にも、こんな感じの会話がきっかけでおかしくなった気がする。しかし今日は大丈夫。なんといってもこちらは、年甲斐もなく三発も抜いたばかりのスーパー賢者タイムなのだ。
「さ、それはともかく始めよーぜ。今週も一週間お仕事お疲れ様でしたーっと。カンパーイ!」
「乾杯……あれ?」
スマホの向こうで背の高いグラスを掲げていた斉藤が、首を傾げた。
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