30 / 42
4 新たな客
4-7 宝探し
しおりを挟む
セドリックはすぐにやって来た。ジュリーはまだ眼を閉じて、眠っているようだった。
ジュリーの長椅子に駆け寄る彼に向かって、アナイスは厳しい口調で言った。すでにエヴァンに聞いて知っていることを、あらためて彼に問い詰めた。
「ジュリーに何があったのですか?」
「少しお酒を召されました」
「少し?」
「あ、いえ、だいぶ……」
アナイスに睨まれてセドリックはうろたえた。アナイスは容赦しなかった。
「誰かがジュリーにすすめたのですか? 無理に?」
「違います、そんなことはありません。……しかし、結果としてそうなったと言われても、仕方がありません」
セドリックは弁明した。昼餐に出ていたのは、ジュリーを除いて全員が、旧くからの知り合いだった。特に公爵令嬢、グラモン侯爵、セドリック、エヴァンの四人は幼い頃から親しく、兄姉弟も同然の付き合いだと聞いて、アナイスは驚いた。
久しぶりの再会とあって、親しい者の内で会話がはずんだが、ジュリーは取り残されたようになってしまった。それで思った以上にワインに手がのびたに違いなかった。
「ジュリーはなかなか話に馴染めないようで、つらい様子がありました。それでこんなことに……せっかく招待したのに、すまないことをしました」
セドリックはすっかり恐縮していたが、アナイスは手を緩めなかった。
「あなたはジュリーの様子に気づいていたのですか」
「助けになれなかったことを謝ります」
セドリックはアナイスの前に跪きそうな勢いだった。アナイスは突き放した。
「それは私にではなく、ジュリーに言うことです」
「全くその通りです。これからは全力でお守りすると誓いますから、あなたも私のことを認めてくださいますか」
「認める……?」
セドリックからまるで懇願されているようで、アナイスは奇妙さを感じた。
セドリックが真剣にジュリーを思っていることはよく伝わった。今回の件を反省し、今後もしジュリーが窮地に陥ることがあれば、彼は助けの手を差し出すだろう。
しかし、彼の態度には受け入れられないものを感じた。彼が誠意を尽くし言葉を尽くし、許しを請う相手はまずジュリーであるべきだと思った。
アナイスはジュリーの気持ちを知らない。ジュリーの代わり何も決めてはいけない、と思った。彼に彼女の意志を聞いてほしい。
そう思って出て来た言葉は、アナイスの考えを伝えるにはあまりにも素気ないものだった。
「私がなにを言おうとも、認めるも認めないも、それはジュリーが決めることです。私ではありません。あなたからもそうジュリーに言って聞いてみたらいいではありませんか」
セドリックは顔を曇らせ、押し黙った。彼は彼で、自分が受け入れられなかったことと、アナイスの言い様に、腹を立てた。
ジュリーが目を開けて身体を動かすのと、それを見たアナイスが部屋を出るのが同時だった。
「あらまあ、私、すっかり夢を見てしまって……」
ジュリーは何事もなかったかのように目の前の人物を見つめた。
「セドリック?」
「はい」
「あなたがいてくださったの、心配をおかけしてごめんなさいね」
「お加減はいかがですか。お部屋にお戻りになりますか?」
セドリックはさきほどまでアナイスがいたことには触れなかった。ジュリーも無意識の内にアナイスの名前を呼んだことを忘れてしまっていた。
「いいえ、すっかりよくなりましたので大丈夫です。今、皆様はどちらに?」
「宝探しに行きました」
「宝探し?」
「エリザベットの欲しがっていた、名職人のピアノです。私たちも探しに行きませんか」
「でも、どこにあるのか、見当がつきませんが」
「それについては……たぶん、あの部屋にあるのではないかと」
旧い大広間の奥。夫人が、故ラグランジュ伯爵ゆかりの品を集めたという小部屋。セドリックの念頭にあったのはその場所だった。
ジュリーの長椅子に駆け寄る彼に向かって、アナイスは厳しい口調で言った。すでにエヴァンに聞いて知っていることを、あらためて彼に問い詰めた。
「ジュリーに何があったのですか?」
「少しお酒を召されました」
「少し?」
「あ、いえ、だいぶ……」
アナイスに睨まれてセドリックはうろたえた。アナイスは容赦しなかった。
「誰かがジュリーにすすめたのですか? 無理に?」
「違います、そんなことはありません。……しかし、結果としてそうなったと言われても、仕方がありません」
セドリックは弁明した。昼餐に出ていたのは、ジュリーを除いて全員が、旧くからの知り合いだった。特に公爵令嬢、グラモン侯爵、セドリック、エヴァンの四人は幼い頃から親しく、兄姉弟も同然の付き合いだと聞いて、アナイスは驚いた。
久しぶりの再会とあって、親しい者の内で会話がはずんだが、ジュリーは取り残されたようになってしまった。それで思った以上にワインに手がのびたに違いなかった。
「ジュリーはなかなか話に馴染めないようで、つらい様子がありました。それでこんなことに……せっかく招待したのに、すまないことをしました」
セドリックはすっかり恐縮していたが、アナイスは手を緩めなかった。
「あなたはジュリーの様子に気づいていたのですか」
「助けになれなかったことを謝ります」
セドリックはアナイスの前に跪きそうな勢いだった。アナイスは突き放した。
「それは私にではなく、ジュリーに言うことです」
「全くその通りです。これからは全力でお守りすると誓いますから、あなたも私のことを認めてくださいますか」
「認める……?」
セドリックからまるで懇願されているようで、アナイスは奇妙さを感じた。
セドリックが真剣にジュリーを思っていることはよく伝わった。今回の件を反省し、今後もしジュリーが窮地に陥ることがあれば、彼は助けの手を差し出すだろう。
しかし、彼の態度には受け入れられないものを感じた。彼が誠意を尽くし言葉を尽くし、許しを請う相手はまずジュリーであるべきだと思った。
アナイスはジュリーの気持ちを知らない。ジュリーの代わり何も決めてはいけない、と思った。彼に彼女の意志を聞いてほしい。
そう思って出て来た言葉は、アナイスの考えを伝えるにはあまりにも素気ないものだった。
「私がなにを言おうとも、認めるも認めないも、それはジュリーが決めることです。私ではありません。あなたからもそうジュリーに言って聞いてみたらいいではありませんか」
セドリックは顔を曇らせ、押し黙った。彼は彼で、自分が受け入れられなかったことと、アナイスの言い様に、腹を立てた。
ジュリーが目を開けて身体を動かすのと、それを見たアナイスが部屋を出るのが同時だった。
「あらまあ、私、すっかり夢を見てしまって……」
ジュリーは何事もなかったかのように目の前の人物を見つめた。
「セドリック?」
「はい」
「あなたがいてくださったの、心配をおかけしてごめんなさいね」
「お加減はいかがですか。お部屋にお戻りになりますか?」
セドリックはさきほどまでアナイスがいたことには触れなかった。ジュリーも無意識の内にアナイスの名前を呼んだことを忘れてしまっていた。
「いいえ、すっかりよくなりましたので大丈夫です。今、皆様はどちらに?」
「宝探しに行きました」
「宝探し?」
「エリザベットの欲しがっていた、名職人のピアノです。私たちも探しに行きませんか」
「でも、どこにあるのか、見当がつきませんが」
「それについては……たぶん、あの部屋にあるのではないかと」
旧い大広間の奥。夫人が、故ラグランジュ伯爵ゆかりの品を集めたという小部屋。セドリックの念頭にあったのはその場所だった。
0
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる