夏の日の歌 (完結済)

井中エルカ

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4 新たな客

4-7 宝探し

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 セドリックはすぐにやって来た。ジュリーはまだ眼を閉じて、眠っているようだった。
 ジュリーの長椅子に駆け寄る彼に向かって、アナイスは厳しい口調で言った。すでにエヴァンに聞いて知っていることを、あらためて彼に問い詰めた。
「ジュリーに何があったのですか?」
「少しお酒を召されました」
「少し?」
「あ、いえ、だいぶ……」
 アナイスに睨まれてセドリックはうろたえた。アナイスは容赦しなかった。
「誰かがジュリーにすすめたのですか? 無理に?」
「違います、そんなことはありません。……しかし、結果としてそうなったと言われても、仕方がありません」

 セドリックは弁明した。昼餐に出ていたのは、ジュリーを除いて全員が、旧くからの知り合いだった。特に公爵令嬢、グラモン侯爵、セドリック、エヴァンの四人は幼い頃から親しく、兄姉弟も同然の付き合いだと聞いて、アナイスは驚いた。
 久しぶりの再会とあって、親しい者の内で会話がはずんだが、ジュリーは取り残されたようになってしまった。それで思った以上にワインに手がのびたに違いなかった。

「ジュリーはなかなか話に馴染めないようで、つらい様子がありました。それでこんなことに……せっかく招待したのに、すまないことをしました」
 セドリックはすっかり恐縮していたが、アナイスは手を緩めなかった。
「あなたはジュリーの様子に気づいていたのですか」
「助けになれなかったことを謝ります」
 セドリックはアナイスの前に跪きそうな勢いだった。アナイスは突き放した。
「それは私にではなく、ジュリーに言うことです」
「全くその通りです。これからは全力でお守りすると誓いますから、あなたも私のことを認めてくださいますか」
「認める……?」
 セドリックからまるで懇願されているようで、アナイスは奇妙さを感じた。

 セドリックが真剣にジュリーを思っていることはよく伝わった。今回の件を反省し、今後もしジュリーが窮地に陥ることがあれば、彼は助けの手を差し出すだろう。
 しかし、彼の態度には受け入れられないものを感じた。彼が誠意を尽くし言葉を尽くし、許しを請う相手はまずジュリーであるべきだと思った。
 アナイスはジュリーの気持ちを知らない。ジュリーの代わり何も決めてはいけない、と思った。彼に彼女の意志を聞いてほしい。

 そう思って出て来た言葉は、アナイスの考えを伝えるにはあまりにも素気ないものだった。
「私がなにを言おうとも、認めるも認めないも、それはジュリーが決めることです。私ではありません。あなたからもそうジュリーに言って聞いてみたらいいではありませんか」
 セドリックは顔を曇らせ、押し黙った。彼は彼で、自分が受け入れられなかったことと、アナイスの言い様に、腹を立てた。


 ジュリーが目を開けて身体を動かすのと、それを見たアナイスが部屋を出るのが同時だった。
「あらまあ、私、すっかり夢を見てしまって……」
 ジュリーは何事もなかったかのように目の前の人物を見つめた。
「セドリック?」
「はい」
「あなたがいてくださったの、心配をおかけしてごめんなさいね」
「お加減はいかがですか。お部屋にお戻りになりますか?」
 セドリックはさきほどまでアナイスがいたことには触れなかった。ジュリーも無意識の内にアナイスの名前を呼んだことを忘れてしまっていた。
「いいえ、すっかりよくなりましたので大丈夫です。今、皆様はどちらに?」
「宝探しに行きました」
「宝探し?」
「エリザベットの欲しがっていた、名職人のピアノです。私たちも探しに行きませんか」
「でも、どこにあるのか、見当がつきませんが」
「それについては……たぶん、あの部屋にあるのではないかと」
 旧い大広間の奥。夫人が、故ラグランジュ伯爵ゆかりの品を集めたという小部屋。セドリックの念頭にあったのはその場所だった。

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