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37話 シエルと魅了前戯

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 夜明けの香りが漂ってきた。
 散々犯した比嘉はぐったりしていて、おそらく今日は寝たきりになるんじゃないだろうか。同じく散々犯されておきながら、何故かぴんぴんしている石戸に比嘉を任せて、朝日が昇る前に一仕事終わらせてくることにした。

 仕事の内容は簡単だ。
 比嘉の記憶をもとに自宅を特定し、彼女の両親に催眠をかけるだけ。内容は【殺してしまった娘の事を誰にも悟られてはならない】だ。
 幸か不幸か。
 暴力ばかりを振るっていた両親だ。仮にどのように、どうして殺したかに疑問を持ってもソレが原因だと解釈するだろう。こういった時、本当に催眠は強力だ。

「奏夜、どうしてそこまでするんだい?」
「どうしてって?」
「彼女一人に掛ける労力としては割に合わなくないかい?」

 道中、アスモデウスが話しかけてきた。
 内容は比嘉の事で、そのまま話を続けていく。

「彼女は誰からも愛されていない。親からは暴力を、客からは性欲をぶつけられるばかりじゃないか。得られる経験値なんて微々たるものだろう? どうしてそこまで世話を焼くのさ」
「あぁ、やっぱり風俗嬢の経験値効率は悪いんだな。まあ、予想はしてたけどな」

 仮に良かったとしても、経験値が入るのは堕としたタイミングだ。比嘉の場合で言うと、出会って魅了をかけた時。それ以降は完全に蛇足で、効率面から言えばすごく悪い。

 中には経験値効率がいいやつもいるのだろう。
 だが、こと比嘉に限っては至って効率が悪い。
 そのことを考えているんだろう。

「お前に落とされるとして、俺がどれだけ愛されてるかは大事な点なんだろ?」
「……それだけの為に?」
「ははっ、お前はそういうよな、アスモデウス。でもよ、俺にとっては大事なことなんだぜ? お前との契約はさ」

 気恥ずかしくなって、俺は曖昧に笑った。

「まったく、君はさ」

 そこから先は、何も言わなかった。
 アスモデウスは狡猾な悪魔だからな。目の前に悪例があるのに、同じ轍を踏むような真似はしないか。俺が一人、恥ずかしいだけじゃねえか。

「行こうぜ、アスモデウス」
「ふふっ、そうだね」

 そうして、比嘉の両親に催眠をかけてきた。
 比嘉は俺が貰った。もうお前らには返さねえよ。


 第二回、レベリング効率会議を開始する。

 学校には分身を向かわせておいたから、時間は無制限にある。最近いっつも分身に頼ってるな。この技、思った以上に便利だ。また折を見て、雪女に他の妖術でも教えてもらおう。「あびらうんけんそわか」とか使えないかな?

「議論の中心はそこじゃないよね、奏夜」
「おっと、そうだった。レベリングをしようぜって話よ」

 あれから色々風俗店を回ったが、結局非効率という結果が得られただけだった。安い店は言わずもがな。高い店は成功者しか来ないから、恋愛が成立するパターンが少ないというのが考察結果だ。合ってるかどうかは知らないが、効率が悪いのは確かだ。

「いや、さ。そっちも答え出てると思うんだよね。素直に【魅了】を育てなよ」
「あれ? そういえばなんで魅了はレベルIのままなんだっけ?」
「えぇ……、奏夜が魅了を上げる前に自衛手段が欲しいって言ったんじゃないか。【結界】に加えて【時間停止】や【記憶改竄】まで習得したんだ。流石に過剰戦力だと思うよ?」
「ふむ、確かになぁ」

 そうだそうだ、思い出した。
 無差別に女性を堕としたりなんかしたら、その女性の好意が俺に向いてることに気付く輩がいるかもしれないからと言って躊躇してたんだった。確かに、志波姫を撃退できた今なら魅了のレベルを上げてもいいかもしれない。
 ただ、なぁ。

「【魅了】の範囲内に野郎がいたらどうすんだ?」
「あれ? 説明してなかったっけ? 魅了は発動する際に、対象を意識する必要があるからね。魅了する相手としない相手は意識的に切り替えられるよ?」
「……聞いて無くないか?」
「そうだっけ?」

 確か、『範囲内で【魅了】を使おうとするだけ』としか説明されてないはず。いや、眼光紙背に徹すれば読み解けるけど、けど。読み取れるかッ!

「良かったね、今のうちに気付けて」
「……そうだな。もう一つ質問だ。こっちが一方的に認識している状態で【魅了】を使うと相手はどうなる?」

 例えばの話だ。
 喫茶店の外から、喫茶店の中にいる他人に【魅了】をかけて、すぐ物陰に隠れる。この時相手は知覚できない相手に惚れるのか、それとも単に失敗に終わるのかという話だ。

「その場合は保留だね。【魅了】の効果が表れるのは、相手が奏夜を知覚したタイミングだね。次に会ったときに一目惚れされると考えてもらえばだいたい合ってるんじゃないかな?」
「ふーん、なるほどね」

 随分使い勝手がいいな。
 流石、精神に作用する、淫魔の得意分野ってところか。

「おし、【魅了】のレベルを上げるか」


 それから、町に出た。
 平日の昼間というだけあって、人通りは少ない。人が少ないということは出会いが少ないということだ。今日は【魅了】の恩恵を受けることは少ないかもしれない。
 そう考えていた。

「LA~LA~♪」

 考えを改めるきっかけになったのは、路上ライブだ。
 おそらく大学のサークルか何かだろう。何人かが集まって、道の一部を占領してよく分からない歌を歌っている。人気は全くないわけではなさそうで、こんな時間なのに立ち聞きしている人もちまちまいる。まあ彼らの友達なんじゃないですか?

 問題は、そのベース担当の子だ。
 青緑色のボブカットで、向かって右側にはピンクと水色のメッシュが入っている。肌色は白く、日本人離れした容姿をしている。というかどう見ても日本人じゃない。

 観客の一人が「シエルちゃーん」と声援を送ると、にこやかな笑顔を返していた。名前が分かったのは良いが、正直それどころじゃなかった。彼女が他人に向けた時、俺の中でもやもやした何かが渦巻いた。いや、何かなんて言い方はよそうか。

 ――あの笑顔を、俺だけのものにしたい。

 つまり、欲望だった。
 欲望に駆られるままに、よろよろと歩き出す。オーディエンスの集団に紛れ込む。ここまで来れば圏内だ。シエルと呼ばれた彼女が他の人を見ている間に【魅了】を発動する。

 その時、俺の隣の奴が「シエルちゃーん!」と声をかけた。彼女が声の主を探して顔をきょろきょろさせる。その時、横にいる俺を確かに彼女は視認した。

「っ♥ っ!?」

 一瞬、音楽が崩れた。
 もともと綺麗なハーモニーを生み出していたかと言われれば微妙だが、明らかに足並みがズレた。まあ、それも短い時間のことで、すぐさま立て直したみたいだったが。

「あはぁ♥」

 シエルの笑みは、明朗な笑顔でもなく、まして声をかけた人物に向けられるでもなく。

 妖艶な笑みをこちらに向けられていた。

 隣にいたオーディエンスは「シ、シエルちゃん……?」と衝撃を受けている。悪いね、彼女の笑顔は俺が貰ったわ。と、考えているのだが、状況を把握できていないそいつはしつこく「シエルちゃん! シエルちゃん!」と呼び掛けている。

 やがて、音楽が中断された。
 リーダーと思われるボーカルの男が、マイクを持って「うるせぇ! タイミングぐらい考えろ!」と、隣の奴を咎め始めた。隣の男はだってだってと不平不満を口にするが、ボーカル担当は取り合わず、水を差されたことにお冠だ。

 その間もシエルは、恍惚に俺を見ていた。
 うっとりとした表情で、熱っぽい眼差しで。

 俺は彼女に向けて微笑んだ。
 彼女の口元がへにゃぁっとして、締りの無い顔になる。それでもかわいいから反則だ。ハンドサインで近場のスーパーを指定すると、シエルはウインクしてベースを片付けだした。その様子を尻目に、俺はその場を後にする。

「もうイイ、帰るから」
「ま、待ってくれ、ください、シエルさん!」
「ヤダ、じゃあね」

 そんな会話が、聞こえた。
 どうやらボーカルはリーダーらしいが、シエルと恋仲とかではないらしい。おおよそ、ようやっとサークルメンバーに誘えたのに変な奴のせいで台無しになったってところだろ。変な奴が誰かは置いといてな。

 スーパーの雑誌売り場で、雑誌をバラ読みする。
 俺は速読なんてできないから、全然頭に入ってこない。まあどうせシエルが来るまでの間だ。挿絵だけ見て楽しもう。

「おまたせっ♥」
「来てくれたんだね! 嬉しいよ、すごく!」
「当たり前だよ! 君を見た時、ドキドキがすごかったんだ! ね、私シエル」
「ありがとう。俺は新里。俺も君の笑顔に惚れたんだ」
「やぁんっ♥息ぴったりねっ♥」

 ピタリと俺に寄りかかって、シエルはいそいそ微笑んだ。
 先ほどのような、妖艶な笑みではない。初めて見た時と同じ、楽しそうな笑顔だ。ようやっと、彼女の清廉なそれが俺に向けられた。
 股間にグッと来るものがある。

「ねっ♥この時間にいるってことは大学生だよね? この後どこか行かない?」
「もちろん。嫌だって言ったって返さないぜ」
「アハ♥じゃあいこっか」

 そんな感じで、スーパーを後にした。
 特に何も買わなかったけど。

 それから、二人、並んで歩く。
 最初の内は、「どこ行く?」なんて話せていたのだが、すぐにシエルから余裕がなくなった。白っぽかった顔は熱によって朱を帯びて、力無く呼気を荒げている。歩くのもやっとという様子で、俺の腕に腕を絡ませ、体をこちらに預けるようにしている。

「ハァ……♥ハァ……♥」
「シエル、大丈夫か?」
「はぁぁぁっ♥ダイ、ジョーブ♥あっ♥」

 シエルの俺を掴む手に、ぎゅっと力が入る。
 イったっぽい。

「無理するな、ちょっとそこのベンチで休憩しよう」
「あぁ♥ゴメンね新里クン」

 あたりを見渡せば、大きな木と、それを囲う様に置かれたベンチが目についた。木陰になっていないところに座らせて、俺もその横に並んで座る。夏場はどうか知らないが、冬という事と、時間帯もあってか、他に使用客はいなかった。

「シエル」
「あっ♥新里クン♥んっ……ちゅぅ♥」

 シエルの顔を正面から覗き込む。
 彼女はとろんとした瞳で俺を見て、目を閉じて唇を差し出した。その上に置くように、俺の唇を重ね合わせる。
 シエルは優しく食んでから、恐るおそると言ったように吸った。引っ張られる感覚が、彼女に必要とされているようで、独占欲が満たされていく。満タンになることは無いだろうけどな。

「んぢゅ、んふぅ……あぁん……はぁぁんっ♥んっ♥」

 あっという間に、キスは熱を帯びていく。
 とはいっても、興奮の上昇幅は微々たるもののように思える。どちらかというと、理性が蕩けていくような、そんな感じだ。舌をねじ込んで、絡めあう。

「んふぅっ……んぅっ……っ♥んんーーっ♥♥」

 シエルが、またイった。
 声だけでもイっていたからな、キスをしてイクのも自然の道理というものだ。俺を抱きしめる手に、力が入る。

「はぁぁぁっ♥新里クン……カラダおかしいの♥冬なのに、芯からアツくなってキちゃうの♥」
「シエルはえっちだなぁ」
「あんっ♥新里クンは、エッチな子はキライ?」
「全然そんなことないよ。大好きなくらいさ」
「っ♥♥」

 彼女の耳に、フッと息を吹きかけてやる。
 力無く体をよじり、逃げ出そうとする姿は小動物のようで、ますます可愛らしい。

「あんっ♥外だからそんなトコ触らないでぇ♥♥」
「大丈夫、すぐ体調も良くなるから頑張って。『シエルちゃーん!』」
「んんーっ♥♥あへへぇ♥」

 オーディエンスの真似をして、シエルを呼ぶと、シエルは頑張って微笑んだ。が、それもほんのわずかな時間のことで、すぐにアへ顔に塗り替えられる。

「我慢するからいつまで経っても体が苦しいんだよ。ほら、一度思いっきりイってごらん?」
「ハァ♥ハァ♥でもでもぉ……ここ、外だしぃ……」
「大丈夫、周りに人は誰もいない。それに、イけないとずっと苦しいままだよ?」
「ハァ……♥ハァ……♥っ♥場所を移すためだからぁ♥一回……一回だけぇ♥♥」

 スカートの中に手を入れて、ショーツの上から秘部を捏ね来る。まんすじにそって手を這わせたり、クリトリスを抓んだり。最初は抵抗したシエルだったが、ディープキスによってほぐされた理性の糸はあっさりと千切れ、いとも簡単に絶頂をねだった。

「あっ♥あっ♥イくっ♥青空の下で思いっきりイっちゃうぅぅ♥♥」

 ぶしゃぶしゃぶしゃと。
 ガチ恋汁がショーツの抑えを押しのけて噴き零れる。一部は彼女のスカートに、また一部はベンチや地面に引き取られ、あたりに潤いを施した。

「あっ♥あんっ♥に、新里クン……ッ♥だめ、ダメなのぉ♥♥疼きはマシになったけどぉ♥今度は子宮が切なくってしかたないのぉ♥♥」
「シエル……」

 シエルは本当に苦しそうだった。
 ここまでの感じからして、シエルは相当感じやすそうだ。魅了によって火照った体は、まさしく彼女にとって毒だろう。一刻も早い解毒を、彼女は心の底から望んでいる。

「オネガイぃぃっ♥今から、エッチなシエルのオマンコじゅぼじゅぼしてぇ♥♥」
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