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観音坂琴音

9話 エヴァ目撃する☆

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「アノさん、お話しませんか?………駄目ですか?」

「………ナニ?またキタのか?用がナイならおれは行く。毎日毎日コナイデ。おれ困るし……………サヨナラ」

そう言ってアノニマスは立ち去り、しゅんとした琴音だけがその場に佇んでいた。それをこっそりと眺めながら、エヴァは唇を噛んだ。

(……………琴音。君は何を考えているのかな?……私に嫉妬させようとしているのかい?…………ねえ?だって君が好きなのは私だろう?)








◇◇◇◇◇◇




前回、死んだ記憶が無いままに、また繰り返ループし、最初は戸惑ったが、今回は何かが違うとエヴァはすぐに理解した。琴音の様子が明らかに違う。

(…………まさか……、今回は記憶を保ったまま、違う運命に進んだと言うのか?……一体何が有った?……何故そうなった?何も思い出せない………。だけど、琴音の事もアノニマスが化け物だと言う事も今の私は覚えている。それだけで十分だ。………琴音………。)

ドキドキと鼓動を早める胸を抑えて、エヴァは琴音を盗み見していた。此処に来て2日目。琴音は談話室に居て、緑子や美奈と楽しそうに談笑している。相変わらず初日に、探索に行くのは怖いと泣いていたが、その後は部屋に引き籠もる訳では無く、それ以外の時間は結構、皆と過ごしていた。百回近く繰り返したあの時間の琴音とは、全然違う。この琴音はエヴァと結ばれた時の琴音だ。

(……やっぱり今回の琴音の行動は変わっている。……後は緑子が誰かと心を通わせたなら、きっと……何もせずとも、琴音は私を好きになる筈だ。見た所、緑子はカエデと既に仲が良い。きっと二人は結ばれる筈。そうしたら…………琴音、君と私も結ばれる。今度こそ本当に心も体も。……早く君に触れたいよ……。嗚呼、神よ……。やっと哀れな私の願いを聞き届けてくださったのだろうか?諦めなくて良かった………。あの繰り返しも無駄では無かったんだ……。やっと君を救える……)

奇跡の様な出来事に、エヴァは神に感謝した。だが、やっぱり神はクソ野郎だった。

アノニマスと合流した後、琴音は何故か、アノニマスを追い回す。まるでエヴァに可愛いアプローチをしていたあの時の様に。それに、今回はエヴァが琴音と少しでも親しくなろうと近づくと、体が動かなくなった。アノニマスの正体を皆に伝えるのは、無理だとは思っていたが、まさかエヴァから琴音には、一切声を掛けられないとは夢にも思わなかった。琴音から声を掛けてくる事も無かった。

(何故!!!何故!!!何故だっ!!!!………一喜一憂する滑稽な私を見て、嘲笑っているのかっ?!神よっ!!!!)






「どうしてっ!!!!??何故だっ?!琴音は私を好きになる筈だろう?!緑子が誰かを選んだら、琴音は私を愛する筈だ………。そうだろう?………そうだと言ってくれ……誰か……」

自室の壁やクローゼットを斬りつけて、疲れるまで、暴れまわりエヴァは力無く項垂れた。

「琴音………。君はアノニマスを好きなのか?………私じゃなくて?………どうして………」

戻って来てループしてから一週間が経ったが、相変わらず琴音はアノニマスを追い回しては逃げられていた。その度にしゅんとする琴音をこっそりと眺めて、エヴァは、アノニマスに激しい殺意が沸いた。カッと頭に血が上り、何度も斬りかかろうとしては、やはり体が動かなくなる。無駄だと分かっていても酷い言葉で罵った。誰にも聞こえない。意味の無い行為だ。そんな事は百近い繰り返しの日々で分かっていたが、それでもエヴァは、怒りをアノニマスにぶつけないと気が収まらなかった。

(神よ………。琴音を救えたとしても、…………恨まれると言う事か?ふざけるなっ……、何故、何故なのですか…………)

もしも、エヴァの考えが間違っていないのならば、琴音はアノニマスに好意を抱いている。今の段階でアレが化け物だとは誰にも伝えられない。エヴァの記憶が正しければアノニマスが正体を皆の前に現すのは一ヶ月後。それまでは、琴音にも誰にも告げられない様だ。

だが、正体を現すあの瞬間に琴音を廊下から遠ざければ、琴音を救える。その後はエヴァが運命通りにアノニマスの首を刎ねれば良いだけだ。現に2つの記憶のどちらも、エヴァが一ヶ月後のあの日に、アノニマスの首を刎ねて殺していた。だが、琴音がアノニマスを好きなのだとして、考えたくも無いが二人の仲が、今後進展してしまったのなら、きっとエヴァは琴音を救えても、アノニマスを殺した男として恨まれる事になる。

(………どこまでも神は私が嫌いな様だ。例え、化け物だったと分かっても、きっと琴音は愛する男の死を嘆く………。琴音は優しいから、私を恨まないかも知れないけど、だけど私達は恋仲にはなれない……。私を愛していない琴音を私の世界には、連れて帰れない………)

ぎゅうっと手のひらを握りしめて、エヴァは苦しげに息を吐いた。

(………緑子は今回カエデを、選んだ。ゲンキじゃ無い……。それが僅かに影響したのか?)

エヴァの2つ有る記憶の内、琴音がエヴァに毎日健気にアプローチしていた時は、緑子はゲンキを選んでいた。

(……………2つ目の最低な方の記憶。あの中では、緑子は今回と同じでカエデを選んだ。…………あの時の琴音は、私を好きだと言ってはいたが。だが、初めから、線引きした関係だった………)

『………あの、恋人になろうなんて考えてません。ただ割り切って抱いてくれればそれで良いんです。駄目ですか?』

『…………どうせ世界が違うんです。此処を出たらお別れですもん。でも此処にいる間は楽しみたいです♡駄目ですか?』

(…………あの時の琴音は……かなり割り切っていた。琴音はそれ程私を好きでは無い様子だった。緑子が誰かを選べば、琴音は必ず私を選ぶと思っていたが………琴音の選択も……変わってしまうのか?……確定した運命とそうじゃ無い運命が有ると?)

現時点で変えられない確定している運命は、大きく分けて2つ。緑子が誰とも結ばれなければ2週間後に、アノニマスに襲われて全滅。

緑子が誰か一人を選べば一ヶ月後に琴音だけ死ぬが、残りの者は生きてこの洋館を脱出出来る。

(……………いや、琴音の死は確定では無い筈だ。………きっと救える)

希望的観測だが、エヴァはそう信じている。

(……………体が勝手に動く場面は絶対に変えられない運命。………だが、その後の些細な事は毎回僅かに、私の行動で変わっていた。)

例えばだが、ノアとエヴァが喧嘩するのは、けして変えられない決まった運命では無い。あの地獄の繰り返しの中で、八つ当たりして、ノアと喧嘩した事は何度も有る。だが、それは自由に行動出来たエヴァの意思で選択を行った結果だった。これはその時のエヴァの振る舞いで変化した。

そして、それとは違い、最初に皆と出会い、自己紹介をして此処での生活の事を話し合う場面や、緑子との特定の会話では体が勝手に動き、決まった台詞を吐いていた。こちらは確定的な運命だ。絶対に変えられない運命。

(あれだけ繰り返しても………どういう基準で、決まっているのかは分からなかったが……。だが、分かる事は有る)

緑子が誰も選ばない→【ニ週間後に化け物が結界内部に現れる】

緑子が誰かを選ぶ→【一ヶ月後に化け物が緑子の前で(結界内部)正体を現す】

(……………こう考えると緑子が、鍵なのか?全滅する時の最初の犠牲者は必ず緑子。その後は決まった順番で死ぬ。私が死ぬのも必ず最後だった。緑子が死んだから全滅した?緑子が生きていれば、皆死なずに此処から出られる?緑子が生き残る条件が、誰かと結ばれる事?………何故?だが、緑子を基準に考えるのならば……やっぱり琴音が死ぬのは、運が悪かったからだ。………あの瞬間に私と過ごして、廊下にさえ居なければ……必ず助かる。)

もし、琴音の死が確定した運命ならば、エヴァの行動も必ず同じ筈だ。

だが2つ有る記憶のエヴァは、全く違う行動をしていた。

最初のエヴァはノアと探索に行っていた。この時は琴音の死の瞬間は見ていない。
次のエヴァは琴音に謝ろうと廊下を歩いていた。そして琴音が食われるのを目撃した。

(…………………どちらの記憶でも、完全に共通していたのは、緑子達の行動だけ。……地下の探索から戻って来て、そしてアノニマスが緑子の目の前で、正体を現す。その時に私の行動に、制限は無いはずだ。アノニマスをその場で殺す事は無理だろうが、琴音を廊下に近づけない様にする事は出来る筈だ)

ノアと喧嘩をする時としない時が有ったように、エヴァの意思で選べる筈だ。一つ目の記憶の中のあの日、琴音の可愛いおねだりを聞いて、エヴァが琴音と共に過ごして居たら、きっと琴音も部屋の外には出なかった。あの時のエヴァが選択を間違えたのだ。そして琴音は死んだ。

そこまで考えて、エヴァは吐き気がしてくる。

(……………と言う事はやはり、琴音が恋をする相手は明確には決まっていないのか?……そして、それが今回はアノニマスなのか?そんなの嫌だ。君の運命の相手は私の筈だろう?琴音………)






◇◇◇◇◇◇






(琴音…………、君を救いたい。だけど、そうするとこの繰り返しは終わってしまうよね?…………そうしたら、もう私と君が結ばれる事は永遠に無い……。そんなの私は嫌だ。どうすれば良い?私は………救えるのに、君を見殺しにするのか?折角救えるチャンスなのに……、どうせなら、また皆……死ねば……くっ……何故私はいつも……自分勝手な事を考える………)

2週間目に緑子が死に、全滅しなければ、一ヶ月後までは誰も死なないのが確定する。そうなれば、エヴァの考えが真実味を帯びる。

折角琴音を救えても琴音とは、絶対に結ばれない。

(琴音………。)

考えは纏まらない。フラフラと琴音の隣の部屋に向かう。いつも通り、琴音の姿を見て自慰をする為だ。部屋に入るとエヴァは急いで壁の穴を覗き込み、ペニスを取り出した。

(琴音………、琴音、………本当にアノニマスを好きなのかい?………辛いよ………、そんなの、嫌だ…………)

琴音の部屋を覗き、シコシコとペニスを扱いて、熱い息を吐く。こうしている時は嫌な事を忘れられる。琴音はベッドでゴロゴロとしていて、何故かナスを手に持ち眺めている。

(……何故ナス?…………琴音、お腹が、空いていても生で食べるのは余り良くないよ?……かわりに私のペニスを食べさせてあげたいよ………。お腹が膨れるくらい精液も沢山出るよ………)

そんな事を考えながら、ぬちゅぬちゅと先走り汁を塗りたくり、亀頭をちゅこちゅこと扱いていると、驚く事が起きた。琴音がナスを使い自慰を始めたのだ。始めは指でクリトリスを刺激して、軽く絶頂した後、ナスを自身で膣に挿し込み、血を流して痛みに呻いていた。

(琴音っ!!!何故ナスで?!)

ぎょっとしたが、その光景から目が離せ無かった。久しぶりに見た、琴音の痴態。それからほんの僅かにアノニマスに優越感を抱いた。これで、もしアノニマスと琴音が結ばれてもアノニマスは琴音の処女膜を貫く事は出来ない。エヴァとは違って。

(…………私には2回とも処女を捧げてくれたよね?……なら、そこまでアノニマスを好きでは、ないのかい?…………ナスで破るくらいだ、…そうなのかい?琴音?)

だが優越感を感じられたのは、2日程で、その後はアノニマスに対しての激しい嫉妬心がエヴァを襲った。琴音がアノニマスを好きなら、アノニマスを想って琴音はナスを使って自慰をしているのだ。あのナスは、琴音の中では、アノニマスのペニスなのだ。琴音はアノニマスのペニスを欲しがっている。二人が今後仲を深めれば、間違い無くセックスするだろう。琴音はきっとアノニマスに、抱いて欲しいと迫る筈だ。エヴァにした様に。

(嫌だ………やめてくれ……。お願いだ………。琴音………)

アノニマスが琴音を抱く事を想像すると、耐えられないほどに辛い。



なのに、エヴァは琴音の部屋に通うのをやめられない。そして、アノニマスを想って自慰をする琴音を見ながら自慰をして、壁に精液を吐き出す己の惨めさに涙した。

(琴音っ………、琴音っ……)

今日も琴音はナスを手にして、自身で濡らしたおまんこへと突き立てた。

「んっ………っ……いったぁ……ふぅ…」

琴音は微かに呻いている。まだおまんこは完全には慣れていない様子だ。

だがナスを抜き差しするのを止めない。眉を顰めて、額に玉の汗をかいている。

(そんなに、辛いなら………、やめれば良いのに……。それ程、アノニマスとセックスがしたいのかい?)

胸がぎゅうっと押し潰された。そんな時、琴音が微かにエヴァの名を呼んだ。

思わず体がビクリと震える。まさか覗いているのがバレたのかと思った。だが、琴音はナスを抜き差ししながら、固く目を瞑り、エヴァの名を呼んでいた。










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