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桜島晴人

閑話 桜島晴人の失恋②

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「琴音チャン、……めちゃくちゃ似合ってるじゃん☆やっぱり俺の目に狂いは無かったね!!!……それに、その髪飾り?めっちゃ可愛い☆どーしたのそれ?」

悪夢の事なんて、琴音の顔を見たら吹き飛んだ。桜島が送ったワンピースに身を包んだ琴音は、本当のお姫様の様に可愛い。それに、頭に着けている、品の良い髪飾りがとても良く似合っている。

(緑子チャンか美奈チャンから、貰ったのかな?すっげぇ可愛い♡)

そう思っていたが、琴音の口からは、エヴァの名前が出た。

「ありがとうございます。……これですか?エヴァさんに、頂いたんです」

しかも、愛おしそうに、琴音はそれを優しく撫でた。

(え………。は?エヴァが、なんで……)

いや、別におかしくは無い。仲間同士、たまたま探索で見つけた物を贈っただけ。そうは思うのだが、ムカムカと嫌な感情が沸いてくる。

(んだよ、エヴァの野郎。……昨日、そんな話してねーじゃん。…………ちっ)

似合っていると本気で思った。だけど、それがエヴァからの贈り物だと知った途端に、琴音には、もっと似合う物が有る。俺が探して、プレゼントしよう、エヴァが渡した、アレより、もっと良い物を見つけてやる。そう思う。

「へ……、へー?そうなんだ。……ふーん?……可愛いけど、琴音チャンには、もっと似合うのが他に有ると思うなー俺。……今度探してくる……、アクセサリーとか、……沢山見つけてくるよ」

エヴァに対して、嫉妬心が抑えられない。

(いや、………でも、エヴァは俺の事応援するって言ってたし、……。特に他意は、ねーよな?でも、モヤモヤする。………なんで渡したのか、聞いてみるか?)

「嬉しいです♡ありがとうございます。………桜島君からのプレゼント、楽しみです。……勿論、このワンピースもすっごく嬉しかったですよ」

「へへ………喜んでくれて、俺。嬉しーよ」

(あー、やっぱ琴音チャン可愛い♡……へへへ♡)

エヴァに対してのモヤモヤも、琴音の笑顔で吹き飛んでしまう。

(……………うっし、切り替えるか。折角、晩飯作ってくれるんだし……。そうだよ、今は楽しもう。へへへ♡)


過去の事も、エヴァの事も、仕事の事も、何もかも。今考えても仕方がない事だ。なら、琴音との友達以上恋人未満の、今の関係を長く続けて居たい。

(ずっと、このままが良いな………俺。此処も、そんなに悪くねーし)

アイドルとして売れてから、ずっと働き詰めで、学校にも殆ど行けてなかったし、友達と遊ぶなんて事も無い、グループのメンバーとは仲が良いけど、やっぱり、リーダーで一番人気の桜島と他のメンバーとでは、溝が有る。だから、華やかに見える裏側では、寂しい高校生活を送っていたのだ。

(………此処に来てから、ずっと青春って感じだよな。……なんつーか神様がくれた休暇って感じ?琴音チャンとも出会えたし、……ノアさんとか、エヴァも居るし、探索も思ったより危なくねーし、影の化け物も、そんなに出会わねーしな、……普通に楽しい………。合宿とか、そんな感じ?)

そんな風にまで、考えてしまう。

(………まあ、流石に何年も此処に居るってのは、やべーけど。母さんとか、事務所にも迷惑掛けてる訳だし……、でも……、琴音チャンが居てくれるなら、俺……。なんつーか、時よ止まれって感じ?そうなったら、ずっと此処に居たいな……)



◇◇◇◇◇◇




琴音との夕食は最高だった。桜島の為に、琴音は本気で頑張ってくれたようで、料理は最高に美味しいし、琴音との、むず痒くなる様な、甘いやり取り。

(はぁ♡マジで、最高♡)

普通の高校生が、体験するような甘酸っぱい青春。桜島には一生経験出来ないと思っていたのに、それを今まさに体験中だ。

(……………はあ♡幸せ♡)

「琴音チャン、ご馳走さま。凄く美味しかった!!!俺、毎日食べたい☆なんちゃって………へへへ」

舞い上がって、浮かれて、桜島はそう口にした。勿論、ちょっとした冗談。

『もうっ……、そんな事言われたら、勘違いしちゃいますよ。うぅ……』

そう言って、顔を赤くする琴音。

『ごめん、ごめん。冗談だよ☆でもマジで美味いよ♡へへへ』

『うふふ♡もう、晴人くんってば………うふふ』

あははうふふ♡キャッキャ☆

♡~~so sweet~~♡

また、桜島が自分の妄想の世界に入っていると

「それなら、本当に、毎日作りますよ?………私、桜島君の事が好きですから……。好きです。桜島君……。私を彼女にしてくれませんか?駄目?」

そう、琴音は口にした。

(え?)

琴音からの返答に、桜島は現実に引き戻されて、そして唖然とした。

「え……。……俺を好きなの?……あ、そうなんだ」

そう口にしてから、桜島は激しく動揺した。

(あ…………俺、なんで……)

何故か、琴音から告白される事は無いと思いこんでいた。桜島が言わなければ、ずっとこの甘酸っぱい距離感で居られると思ってしまっていた。

(なんで?俺……。だって俺も、琴音チャンが俺の事……、好きだって思ってたのに、……でも、琴音チャンから告られることは絶対に無いって、思ってた……なんで?)

昨夜エヴァにも言われた。琴音も桜島を好きに見える。二人は両想いに見えると、それにこれだけラブラブイチャイチャしていたのだ。琴音が告白してくるのもおかしくは無い。なのに、桜島は心の底では、琴音が桜島に絶対に、告白して来ないと確信していたのだ。

(あ……やべ、返事……。え、どーしよ)

「あ………。あー、その、めっちゃ嬉しいけど……。でもさ、俺……アイドルだし。……………」

何か言わないと、そう思って口から出たのは、なんとも煮えきらない返答だ。

「っ……あ、そう、ですよね。」

「う、うん。…………」

琴音も困っている様子だ。これじゃ、告白に対する返事とは言えない。

(やべえ……。え?どうしよ……。俺、なんて言えばいいんだよ?)

琴音の事が好きだ。告白だって嬉しい。琴音と付き合いたいと思う。だけど、やっぱり事務所の事とか、過去の事とか、色んな事が頭の中でぐるぐると回る。

(わっかんねー、わかんねぇ。……でも、俺………)

「……………えっと、ごめん。琴音チャン、俺アイドルだし………」

震える声で、そう口にして、サアッと血の気が引く。

これでは、断ったも同然だ。これでは、もう、琴音と過ごすのは無理だ。そんなのは嫌だ。

(どうしよ……、少し、考える時間を貰う?……そうだよ、少し、考えて……、エヴァに相談……)

「あ、……琴音チャン、あのさ、俺……」

とりあえず一旦保留にして貰おう。そこまで考えて、桜島は口を開いたが、琴音が被せるように言った。

「わかりました。ごめんなさい、桜島君。………そうですよね、桜島君はアイドルさんですし。そう言うのは駄目ですよね。………すみません。今、言った事は全部忘れてください。私も忘れます。………あの、でも、……思い出をくれませんか?私、桜島君とエッチしたいです。お願いします。此処から出た後も………絶対に誰にも言いませんから………お願いします。好きです。桜島君………」

(え………?ひ……えっち……え?)

「え………?あ、ごめ………。琴音チャン。それは、無理……。だって……俺…………ごめ、………出来ない。…………勃たないから、むり………」

まさか、琴音の口からそんな言葉が出るとは思わなくて、動揺した状態で、やっと口に出来たのは、それに対して、無理だと言う返事だった。

(あ。やべえ、俺、こんな言い方……、そうじゃなくて、……なんで、……あ……え?琴音チャン……、忘れるってなんで?エッチって……思い出?え?………は?どうしよ……)

このままだと、やばい。琴音と完全に、終わってしまう。

(………っ……それは、嫌だ……。だって俺、俺も好き……琴音チャン……。なんとか、一旦保留に………)

「琴音チャン、俺………」

また口を開いた桜島に、被せるように琴音は言う。

「桜島君、良いんです。桜島君は謝らないでください。謝らないといけないのは、変な事を言った私ですから、ごめんなさい。今のは、全部忘れてください。………これからも、お友達として、仲間として仲良くしましょう?ね?私、全然平気ですから」

「え……………………うん。」



◇◇◇◇◇◇




琴音が立ち去った部屋で、桜島は真っ青な顔で震えていた。

(琴音チャン……。全然平気って、なんで?………なんで、髪飾り、そんな顔で撫でるんだよ……。……なんで、もっと、悲しそうにしてくれねーの?俺の事、好きなんでしょ?なのに、一回断られたくらいで、諦めんの?………………なんで?変な事って……なんだよ。別に変じゃねーよ……)

告白を断ったのは桜島だ。それは分かっている。だけど、琴音の態度はおかしい。あんな、なんでもない顔で、エッチしたいとまで、言っておいて、失恋した筈なのに、サラッと笑って、それを無かった事にした。

(なんで?俺の事………好きなんだよな?………そんな簡単に、忘れたり、無かった事になるの?……つーか、本当に好きだったの?)

ドクドクと嫌な風に心臓が鼓動を早める。

(…………琴音チャン、本当に俺の事、好きだった?………っ……)

先程の違和感。桜島が琴音に告白されないと思い込んでいた事。そして、先程の琴音の態度。それを思い出して、今までの琴音の様子も思い返して、桜島は心臓が押し潰されそうになった。

告白して来た琴音の瞳の中にも、今まで一緒に過ごして来た琴音の瞳の中にも、桜島に対する恋心なんて、微塵も無かった。

(いや、違う違う違う。それは、俺の見間違いで、思い込みだ……、でも………)

浮かれていた時は、分からなかった。だって琴音は何時もニコニコとしていたのだ。だけど、今、冷静になった頭で思い返してみても、やっぱり、琴音の瞳は、桜島を見ていなかった。

(……………そんな筈ねーよ。じゃあ、何だったんだよ。今までの、甘酸っぱい時間は…………)

全くの好意が無かったとは言わないが、琴音の桜島を見る瞳の中には、熱く焦がれるような感情は無い。

それに、その事に、漸く気付いて、桜島は愕然とした。

(嘘だ、…………嘘だ。だって、それなら、さっきの告白は何で……?っ………)

ぶるぶると体が、震える。

(まさか、俺がアイドルだから?だから、好きでもねーのに、近づいて……?エッチしたいってのも、やっぱり後から、なんか言ってくるつもり?…………いや、違う違う違う。琴音チャンがそんな事、する筈ねーし……でも、……それなら何で……)





◇◇◇◇◇◇






コンコンと琴音の部屋の扉をノックしたが、琴音は居なかった。

(っ………居留守?……でも、なんにも聞こえねーな……。寝てる?もしかして、泣き疲れて、寝ちゃってるのかな?)

昨夜は、疑心暗鬼と悪い考えに襲われたが、琴音は桜島を気遣ってくれて、平気なフリをしてくれたのだ、きっとそうだ。そう思って、次の日、琴音の部屋に訪れたのだか、琴音は出て来ない。

(………出直すしか無いか……。はあ………琴音チャン……俺、ちゃんと確かめたい。君の気持ち……)

もう一度、会って見ないとやっぱり分からない。もう一度、琴音の気持ちを聞きたい。

(……………すげぇ会いたい。……こんな風に思うなら、告白オッケーすれば良かった、……その後の事なんて、こっから出られてから、考えれば良かったんだし……)

トボトボと廊下を歩く。

(エヴァに、相談行こうかな……。いや、とりあえず、琴音チャンと、もっかい会ってからかな……)




自室に戻って、桜島は静かに項垂れていた。何もする気が起きない。ソファーに座って、ただ琴音の事を考える。

(…………琴音チャン、……っ……)

頭に浮かぶ、琴音の笑顔。だけどその瞳には、やっぱり桜島への特別な感情なんて、微塵も浮かんでいなかった。

(……………嘘、付いたってこと?なんの為に?…………いや、違う、違う。くそ………、はぁ……、もっかい行こう。結構、時間経ったし、寝てたとしても、もう起きてるっしょ?)

時計を見てから、もう一度部屋を出る。

(……………琴音チャン)





◇◇◇◇◇◇






暫く歩いて、桜島は廊下の先に人影を発見して、バッと柱の陰に隠れた。

(は?エヴァと琴音チャン……。何で、二人で………。なにしてんの?)

エヴァと琴音。二人は近い距離で、何かを話している。よく見ると、琴音の手には、髪飾りが有った。

二人の会話は途切れ途切れにしか、聞こえない。


「……。……………君に似合う………………………嬉しい…………引き取って私が………おくよ。……見ていて、気持ちが………だろう?」

「………え?あー。……その、そんな事は無いですよ?…………頂きますね?………凄く………好き………」

「……そう……………私からの贈り物だ…………………お祝い……本当に……………」

(は?…………好きって、言った?琴音チャン……?え?お祝いって何だよ?は?)

必死に耳に意識を集中させるが、やっぱり遠くて聞こえない。


「なるほど。……わかった。夜に………凄く嬉しいよ。あー、……………………ハルト……?…………気まずくは無い……?」

「………平気です。その、桜島君とも、………………、なんとか……。……皆さん…………これからは仲間として、仲良くしたい…………、かな……」

(は?夜に何?俺の名前?何話してんだよ?くそ………聞こえねぇ……)

盗み聞きしていると、エヴァが琴音の腕を掴んだ。

「え……?」

「あ、……。少し待って、琴音殿………。……その、もし君が、………君さえ良かったら……私と」

「何やってんの?二人共?」

思わず飛び出して、声を掛けていた。

「………ハルト」

「あ、桜島君」

「…………何やってんの?二人で」





◇◇◇◇◇◇




イライラが止まらなくて、部屋の壁を蹴りつける。パラパラと、小さな破片が床へと落ちた。

「は?俺が駄目なら、次はエヴァかよ?…………エヴァの野郎、何が俺を応援するだ……。ふざけんなよ…」

琴音は皆に夕食を振る舞うから、談話室に来て欲しいと言った。桜島の事も誘いにいく途中だったのだと。

「俺の事も……かよ。俺はオマケかよ?……なんで、他の奴にまで作んの?俺の為に頑張ってたって言ってたじゃん。………嘘つき……何が仲間同士だよ………クソ……」

誘いを断らずに、了承したが、それでも、イライラとムカムカが止まらない。

(……………クソクソクソ。あの瞳。本当に、なんにも無かった事にする気かよ?……ふざけんなよ…。俺の事、好きって言った癖に……)

琴音の瞳には、やっぱりなんの感情も無かった。昨夜の言葉通り、忘れたのか、それとも………。

「ううううううっ!!!!!」

ぐしゃぐしゃと頭を掻きむしって蹲る。琴音が立ち去った後、エヴァには何も聞けなかった。そんな意気地無しな自分にも腹が立つ。

(エヴァの野郎……あの野郎……)

琴音の腕を掴んだ、エヴァのあの瞳。それは完全に愛しい女を見る目だった。

(なんで………、なんで、琴音チャン、…………………俺の事好きって言ったじゃん、………なのに、なんで……)




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